法人本部

マツカワ

第9話   甦った幻の鰈「マツカワ(王鰈)」            

道総研 栽培水産試験場 村上 修

マツカワ表_HP1.jpg 

 

刺身、寿司だねで白身の高級魚といえば、皆さん、思い浮かべるのはヒラメでしょう。しかし、そのヒラメの食味に勝るとも劣らない鰈(カレイ)があるのをご存知でしょうか?

それは、「マツカワ」という名前の全長60~80cmにも達する大型の鰈で、主に北海道太平洋沿岸に分布しています。ウロコがマツの樹皮のようにざらざらしていることから、その名がついたとされており、ヒレの縞模様が鷹の羽に似ていることから「タカノハ」、アイヌ語でカレイ類を意味する「タンタカ」とも呼ばれています。「マツカワ」は、鰈の中でも味は最上とされ、大型になることから、まさに鰈の中の王様にふさわしく、えりも以西太平洋海域(えりも町から函館市までの太平洋沿岸海域)で水揚げされた35 cm以上のものは、「王鰈(おうちょう)」というブランドネームが付けられています。

 

刺身_日高振興局.jpg  「マツカワ」の身は、厚くて歯ごたえがあってほどよく脂ものっており、刺身や寿司で食べると最高の味わいとされています。科学的に分析すると、刺身の歯ごたえはヒラメの約2倍あり、特に秋から冬に歯ごたえがあります。「マツカワ」には可哀想ですが、活き締めすると、身に血液が混ざらないので、色も美しく臭みもなくなり、一層おいしく頂けます。また、甘味を持つ遊離アミノ酸のグリシン、アラニンをヒラメと違って多く含んでおり、死後48時間で旨味成分が最大となるので、水揚げ直後より1~2日間貯蔵した方が食べ頃です。

(※北海道日高振興局産業振興部水産課撮影)

 

「マツカワ」は、かつて北海道沿岸で数10トンの水揚げがありましたが、1980年代から絶滅状態となり、幻の鰈と呼ばれていました。1990年頃から資源を増やそうと種苗生産が始まり、北海道立栽培漁業総合センター(現道総研栽培水産試験場)をはじめとする研究者達の尽力によって、親魚のウィルス病の発生抑制や仔魚の飼育の技術等が確立していきました。そして近年、栽培魚種のホープとして、北海道の太平洋側で放流事業が進んでいるところです。

  特に、えりも以西太平洋海域では、えりも以西栽培漁業振興推進協議会(関係漁協、市町村)が主体となり、2006年から100万尾の大量放流が開始されました。その放流効果は早くも2008年頃から顕著に現れ出し、2010年度には全道で約180トンにまで漁獲量が急増しています。ついに、幻の鰈と言われていた「マツカワ」が、絶滅の危機から人間の手によって甦ってきたのです。

0歳の秋に全長約8cmで放流された「マツカワ」は、放流後1年で全長約25cm、2年で約35cm(体重0.6kg)、3年で雌なら約45cm以上(体重1.4kg)にも達する成長の早い魚です。海区委員会指示により、2006年からえりも以西太平洋海域では、漁業者、遊漁者ともに、「全長35cm未満のマツカワ」は、海に戻すことになっています。1~2年後にさらに大きくなった魚に期待しましょう。

 

今後、水産試験場では、放流効果をさらに高めるため、種苗生産技術や放流技術開発などの取り組みを進めていきます。また、放流魚を回収するだけではなく、放流魚の自然繁殖による再生効果も期待されていることから、「産ませて獲る」を実現する栽培漁業の確立を目指していきます。

近年の漁獲量の増大に伴い、皆様がお目にかかる機会も増えてきました。北海道の太平洋で甦った幻の鰈「マツカワ(王鰈)」を、ぜひ、ご賞味ください。

 

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北海道お魚図鑑「マツカワ」

 

次回は12月の予定です。