法人本部

ニシン

第10話   ニシン~春告魚と春去魚             

道総研 中央水産試験場 山口 幹人

 昔、ニシンは春になると産卵のため大量に浜へ押し寄せることから、“春告魚”と呼ばれていました。その姿が消えてからおよそ半世紀が経ちましたが、ここ何年か「ニシンふたたび!」、「資源の復活か?!」といった文字や言葉を見聞きするようになってきました。

しかし、近年の漁獲の盛期は冬で、春になるとニシンは姿を消してしまいます。なぜ、“春告魚”が“春去魚”となったのでしょうか?

それは、昔のニシンは「北海道サハリン系群」と呼ばれるグループであったのに対して、近年になって獲られるようになったのは「石狩湾系群」というグループであるためです。(系群とは、それぞれ異なった生態を持つグループで、別々に増減します)

つまり、この2つのグループは、産卵のために沿岸へ来遊する時期が異なるのです。

4~5月に沿岸にやってくる北海道サハリン系群は、回遊の範囲がとても広く、その分大きな資源になることが出来ます。

これに対して、2~3月に沿岸にやってくる石狩湾系群は、回遊の範囲が宗谷湾から岩内湾に限られているため、それほど増えることができません。近年の漁獲量は2千トン前後ですから、残念なことに、今回の“復活”では、昔ほどの大豊漁(最高で97万トン)となることは難しいようです。

石狩湾系群は小振りなグループですが、回遊範囲が限られることから、資源の管理に向けて地域みんなで協力できるという良い点があります。

現在、日本海沿岸のニシン資源を増やすため、漁師の皆さんが立ち上げた日本海北部ニシン栽培漁業推進委員会は、道、社団法人北海道栽培漁業振興公社、道総研の関係水産試験場とともに、稚魚を放流する、漁網の目を大きくする(小さなニシンを獲らないようにするためです)、また漁を早めに打ち切る(小さなニシンは遅めに来遊します)といった、資源管理に向けた各種取り組みを実施しています。

  これらの取り組みの効果によって、型が良くて美味しいニシンが皆さんの食卓に安定して届くようになりつつあります。さらに、ニシンの数を増やしていくためには、親となる成魚をある程度残し、漁獲されなかった放流魚が天然魚とともに産卵に参加することが必要となります。

(※北海道石狩振興局石狩地区水産技術普及指導所提供)

ニシンは北海道を代表する魚の一つで、明治の開拓を支えた柱でした。同時に、大きな資源変動をすることが知られており、その資源については、人の手で維持管理するというより、上手に利用するといった方策が基本となります。

 

しかし、今、小さな資源とはいえ、本格化しているニシン石狩湾系群の維持管理の取り組みは、人の手で資源の維持を図っていくものです。

道総研の関係水産試験場では、今後もこの取り組みを継続させていくため、漁師の皆さんを支援していきたいと考えています。

 

道総研中央水産試験場ホームページはこちらから

 

<関連資料>

豊かな海 第19号 2009年11月15日

「日本海ニシン増大推進プロジェクトの成果」

北海道水産試験場研究報告

第77号 2010年3月発行「石狩湾系ニシンのVPAに基づく種苗放流および漁業管理効果の試算」

 

次回は1月の予定です。