第48回 サケ・マス

ひとくちにサケマスというけれど…
~サケマスという言葉の歴史と多様性~

 
2015年8月28日
水産研究本部 さけます・内水面水産試験場 内水面資源部 内水面研究グループ 主査 内藤 一明

こんなお話をしました

  • ケマスという言葉の歴史的変化

  現在、日本ではサケマスという言葉は狭い意味から広い意味までさまざまに使われていますが、これに至るまでには歴史的変化があったと考えられます。

  日本では古来、サケは現在の和名でいうサケ、マスは和名サクラマスそれぞれ1種類を指していたと思われます。本州以南の日本に分布するサケマスは上記の2種のみでありそれ以外のサケマスは恐らく日本人には知られていなかったと考えられます。鮭(サケ)、麻須(マス:その後鱒の字があてられる)という言葉はすでに奈良時代の各地の風土記に見られます。その時代からサケマスは漁獲の対象とされ、地域の特産物として多くの人たちに利用されてきました。後年江戸時代に至るまでサケマスという言葉の意味は変化していないと考えられます。

  一方、明治時代以降サケマスという言葉の意味は大きく変化していきます。まず北海道の開拓によってより多くの種類が人々に知られるようになりました。本州以南ではサケマスは2種しか分布していないのに対し、北海道ではこれに加えてカラフトマス・ベニザケ(ヒメマス)・マスノスケ・ギンザケが分布しており、これら6種がサケマスとして一般に知られるようになりました。明治時代、開拓使は官営工場で北海道産のサケマスによる缶詰の生産を行い、これによってそれまで地域の特産物であったサケマスは全国的に知られるようになったと思われます。

  その後さらに大正時代に北洋漁業が盛んになるとサケ・カラフトマス・ベニザケ・ギンザケ・マスノスケの5種が大量に漁獲され、これらは「北洋5種」と呼ばれるようになりました。この時期のサケマスとは北洋5種にサクラマスを加えた6種類を指していたと考えられます。

  なお、明治~大正期にかけては生物分類学の普及により、これらが別の種類であるということも広く認識されるようになりました。

  その後1960年代ごろから、サケマスの意味はさらに拡大していきます。その理由として次のような要因が考えられます。外来種が移入され日本に定着したこと、輸入水産物が増加し一般に売られるようになったこと、海外でのスポーツフィッシングの流行により日本に生息していないサケマスに直接触れるようになったこと、これらによって本来日本に分布していないブラウントラウト、タイセイヨウサケ、ホッキョクイワナなどの外国産の種類が一般に知られるようになり、サケマスという言葉はこれらを含めて使用されるようになります。

  このような変遷を経て、現在、サケマスという言葉は最も広い意味では「サケ科魚類すべての総称」であり、最も狭い意味では「サケ科サケ属の魚の総称」として使用されています。例えば税関で使われるサケマスは最も広い意味であり、水産庁が使うサケマスは最も狭い意味で、それぞれ使用する立場によって異なっています。サケマスという言葉の使用には注意が必要ですが、どのような背景でサケマスという言葉が使われているのか、その違いを知ることによって、サケマスというものが多角的に理解されるのではないかと思います。

  • 北海道で見られるサケマス

  北海道では7種のサケマス(ここでは最も狭い意味のサケ科サケ属の魚の総称)を見ることが出来ます。 以下に各種の特徴を述べます。

  次の3種は北海道における主要な漁業対象種です。現在では北洋漁業の衰退によりサケマスの漁獲は沿岸が主体となっています。そのため積極的な増殖事業が行われており生産安定のための研究も行われています。

  サケは北海道の河川に産卵のため遡上し、主に定置網で漁獲されています。平成25年は道内で13万6千トンの漁獲がありした。最近では海での遊漁にも利用されています。

  カラフトマスは北海道の河川に遡上し、平成25年は4800トンの漁獲がありました。本種は加工品として利用される場合が多く日本で生産されるサケ缶のほとんどはカラフトマスを使用しています。

  サクラマスは北海道の河川に産卵のため遡上し、雄の一部は成長しても海に下らず河川で一生を過ごします。主に一本釣りで漁獲され、平成24年は55トン漁獲されました。河川に残ったものはヤマベと言われ渓流釣りの対象として人気があります。

  次の3種は北海道の貴重な地域資源として重要です。

  ベニザケは本来北海道には遡上しませんが、現在では試験的に放流が行われたものが遡上します。北海道沿岸では少数しか漁獲されませんが高値で取引されます。また北海道内の湖沼には陸封型のヒメマスが分布しており、平成25年は25トンの漁獲がありました。

  ギンザケ、マスノスケは北海道では再生産していませんが、ベニザケ同様に少数が漁獲され高値で取引されます。

  ニジマスは外来種ですが、現在では本道124の自然水域で確認されています。また、北海道では最も生産量の多い内水面養殖魚であり、以前より生産は減少していますが平成25年は219トンが生産されました。

  このように北海道はサケマスの種類が豊富であり、北海道に住む私たちは地域の食文化伝承の立場からこれらを守り育てていくことが重要です。

質問にお答えします

質    問

回    答

・サケとシャケの違いを教えてください

・サケとマスの大きな違いはありますか。

・ヤマベとヤマメの違いは何ですか。

・「鮭」の読み方の違いで、同じ意味です。語源についてはアイヌ語由来の「シャケ」が「サケ」になったとする説と、逆に日本語由来の「サケ」が「シャケ」になったとする説があり、正確には不明です。一般的な名称としては「サケ」が使われます。

・分類学では生物はそれぞれ「種」という単位からなっており、類縁の近いものを集めて「科」という大きなグループにまとめられます。○○サケ、××マスと呼ばれる魚はすべて「サケ科」というにグループに属していますが、必ずしも○○サケと□□サケと呼ばれるもの同士、 △△マス、××マスと呼ばれるもの同士の類縁が近いというわけではありません。したがって、サケ・マスという言葉によって違いがあるのではなく、サケ科に属する○○サケという種類と□□サケという種類はここが違う、○○サケと××マスはここが違うと理解するのがよいと思います。

・サクラマスの幼魚、または海に下らず川に残った魚のことを北海道ではヤマベ、本州以南ではヤマメといいます。なお、本州の関東近辺ではオイカワのことをヤマベといいます。


・サケ(シロザケ)では回帰までに1年半とのことでしたが、サケの方が生性熟にかかる時間が長いということでしょうか。

・ベニザケ陸封型のヒメマスに対して、人工的にエサを与えて、降海型くらいのサイズまで大きく成長させることは可能なのでしょうか。

・北海道で産卵するサケ・マス3種の成熟期間は次のとおりです。
  カラフトマス:ふ化後2年ですべて成熟(海に降りて1年半後)
  サクラマス:ふ化後3年でほとんどが成熟(海に降りて1年後)
  サケ:ふ化後2年~7年で成熟するが4年~5年が最も多い(海に降りて3年半~4年半後)
  この3種を比べるとサケは多種に比べて成熟が遅い傾向にあるといえます

・自然下の湖沼では、栄養条件により陸封型のベニザケが降海型くらいのサイズまでになる例が知られています。 したがって人工飼育下で大型化させることは理論的には可能ですが、ヒメマスの場合1歳以上になるとストレスに弱くなり病気にかかりやすいなど飼育に大変な手間を要するため、コストや労力の面から実際に大きく成長させることは非常に難しいと思われます。

カラフトマスについて、ばらつきなく2年で回帰の場合、①年級によって性的隔離 ②漁獲や適応度に影響 ということは考えられますか。

・年級群間に生殖的隔離があると考えられます。
・漁獲については隔年ごとに豊漁・不漁を繰り返していますが、それぞれの年級による適応度には大きな差はないと考えられています。

ヤマベの雌の大部分が川に残らないということは、他のサケマスと比べて繁殖しづらいということですか。

ヤマベ(サクラマス)の雌は海に降りて1年後に大型のサクラマスとなって大量の卵を抱えて遡上し、産卵します。したがって他のサケマスと比べて繁殖しづらいということはありません。産卵には遡上した雄と川に残った雄の両者が参加します。サケ科の魚は元来淡水域で一生を過ごす生活が基本ですが、進化に伴って降海する生活を獲得したとされ、サクラマスは古い生活史を一部残しているものと考えられています。

・サケとベニザケ、ギンザケの違いは何ですか。

・サケの捕獲方法が変わり、値段が高騰しそうですが、サケは日本食の文化に欠かせない存在であり、安定供給のための対策はありますか。(養殖は可能ですか。)

・遊漁とはなんですか。

・サケという言葉は広い意味ではサケ科魚類全般の総称として使われ、狭い意味では和名のサケ1種類のみをさします。和名のサケ、ベニザケ、ギンザケはそれぞれ別の種類であり、以下にその違いを記します。サケは北海道の河川に産卵のため遡上し沿岸で大量に漁獲されます。ベニザケはエトロフ島以北の河川に遡上し、北海道には本来遡上しませんが試験的に放流が行われたものが遡上します。北海道沿岸では少数しか漁獲されませんが高値で取引されます。また北海道内では陸封型のヒメマスが分布しており支笏湖や阿寒湖で漁獲されます。ギンザケはサハリン以北の河川に遡上し、ベニザケ同様に少数が漁獲され高値で取引されます。また本州で養殖されるギンザケの幼魚が北海道で養殖されています。これら3種は海で漁獲された場合、外見がよく似ており区別するには専門的知識が必要です。しかし河川に遡上する時期には、サケは体色が褐色と暗い赤色のまだらになること、ベニザケは体全体が鮮やかな赤色になり背中が張り出すこと、ギンザケは体の大部分が暗い赤色になることで区別することができます。

・北海道で多数が漁獲されるサケ、カラフトマス、サクラマスについては人工孵化放流を進めるとともに放流技術の向上の研究や沿岸環境の調査、来遊数の予測などを行って、これらの魚が安定的に供給できるよう努めています。また自然環境を保全して天然繁殖を助長させるための研究にも取り組んでいます。3種の養殖に関しては、サケは本州で試験的に取り組まれており、、ベニザケはヒメマスとして道内で少数が淡水養殖され、ギンザケは本州で海面養殖が行われています。

・漁業を職業としていない人がレジャーなどの営利目的以外で魚介類を採集することを遊漁といいます。

 

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