第6回 魚の希少種・外来種

シリーズ講座 北海道の生物多様性と私たちの暮らし
~ 害獣・希少種・外来種とのつきあいかた
いてほしい魚、いてほしくない魚-淡水魚の勢力図が変わる?-

2010年10月14日(木)
水産研究本部 さけます・内水面水産試験場杉若圭一(すぎわか けいいち)
水産研究本部 さけます・内水面水産試験場川村洋司(かわむら  ひろし)

こんなお話をしました

(杉若より)
  DSC_0292.JPG   外来サケ科魚類であるブラウントラウトが北海道で最初に確認されたのは1980年で、その後30年間で70以上の河川に分布を拡げています。成長が早くて数年で40cm以上に達し、時には90cm以上に成長することもあって釣りの対象として人気があります。しかし、ブラウントラウトは魚食性が強く、在来生態系への影響が大きいことから、外来生物法では「要注意外来生物」、北海道の外来種リストでは緊急に防除対策が必要とされる「カテゴリーA1」に指定されています。また、北海道内水面漁業調整規則によって放流が禁止されています。

サケマス増殖事業に対する影響では、大きな河川では、食べられていた放流サケ稚魚の数はそれほど多くはありませんでしたが、小さな川で、大きなブラウントラウトが数多く生息している場合にサケ稚魚が食べられた例が確認されています。

小さいブラウントラウトは昆虫類を主食としていますが、体長15cmを超えると魚を食べるようになり、25cm以上に成長するとその性質が強くなってサクラマス幼魚(ヤマベ)やウグイ、フクドジョウ、カジカ類などを捕食します。実は、魚食性に関して言えばブラウントラウトだけが飛び抜けて強いのではなく、他のサケ科魚類も同様に強い魚食性を持っています。ただし、北海道に生息するサケ科魚類で、ブラウントラウトほど大きく成長し、長く川で生活し、しかも生息数が多い魚種はいません。「大きく成長する」という特徴は、効率的に体を維持するために、餌を魚類に依存するということを意味します。

また、「長い期間、川で生活する」「生息数が多い」という特徴は、他の魚をたくさん食べるということを意味します。北海道の河川生態系の最上位に君臨していたイトウに替わってブラウントラウトがその地位を占めようとしています。問題なのは、かつてのイトウの比ではないほどの数の多さであり、その数の多さによって在来生態系が崩れる恐れがあることです。さらには食害だけではなく、アメマスとの交雑も問題になりつつあります。

ブラウントラウトが道内各地の河川に拡がって繁殖している現状を考えると、完全な駆除は難しいかも知れません。しかし、在来生態系に及ぼす影響を最小限にとどめるために、河川毎のブラウントラウトの生息状況や影響を正確に評価し、優先的に駆除する川や在来魚と共存させる川などといった「区分け」をして、生息数を抑制する必要があります。


(川村より)
  DSC_0309.JPG  イトウ(Hucho perryi)はサケ科イトウ属の巨大淡水魚で、魚食性の強い河川生態系のライオン的存在です。 昭和40年代に多くの河川から姿を消し、現在では全道で大きな集団は6河川集団が存在するのみで、北海道版のレッドデータブックではもっとも絶滅の危険性の高い「絶滅危機種」に指定されました。

イトウの寿命は15年~20年ほどで、成熟後は生涯産卵を繰り返す「多回産卵魚」です。普段は中下流の湿原に生息し、産卵期は小支流や本流上流に遡上産卵しますので、上流と下流を何度も行き来します。浮上稚魚は流下昆虫などを食べて成長し、草や木の根などのカバーの下に隠れて生活するため生息場所が限られます。イトウ資源の維持には河川の上下流の連続性や礫床の存在、河畔林などとともに、長生きも重要な要素です。

イトウ資源に影響を及ぼす最大要因は、再生産環境の悪化です。産卵場所である支流や上流域が堰堤設置や河川改修によって遡上不能になり、稚魚の生息に必要な河岸の多様性が失われています。イトウ資源の回復のために、魚道の設置や河畔林再生など再生産環境の修復をいっそう進める必要があります。

イトウは重要な遊魚対象種ですが最近はキャッチアンドリリースが主流です。リリースによって同じ魚が何度も釣られ、釣りによる斃死も少ないと考えられることから、ゲームフィッシングの優等生的存在ですが、扱いが悪いと斃死することがあります。釣り人はイトウと積極的に関わる唯一の存在で、イトウ保護を進める主体者としての意識を持つとともに、釣りに際して殺さない工夫と努力が必要でしょう。

外来魚であるニジマスは、イトウとは産卵期が一致することから産卵床の掘り返しなどが報告されています。また、イトウは、ブラウントラウトと食性が似ていることからその影響が懸念されています。影響がはっきりしてからの対処では手遅れのことが多く、将来を見据えた注意深い観察が必要です。

イトウは魚食性で、河川生態系の頂点に君臨し、アフリカ・サバンナの百獣の王「ライオン」と同じ存在です。もしサバンナからライオンがいなくなったらと想像を逞しくしてみてください。イトウの消えた湿原の侘びしさがわかるはずです。皆さんの意識の中にイトウという魚を取り戻しましょう。

質問にお答えします

 

質    問

回    答

ブラウントラウトは、美味しいのですか

フランス料理でよく扱われる食材なのでそれなりに美味しいと思うのですが、実際に食べた方にお聞きすると、評価は「美味しい」と「不味い」に分かれます。
私自身はムニエルにして食べたことがあるのですが「あまり美味しくなかった」という感想を持っています。
フランス料理などの手の込んだ調理法で料理すると美味しくなるのかも知れません。なお、海で獲れたブラウントラウトは身も赤く、脂も乗っていて美味です。

 

本州では、早くからブラウントラウトが移植されていますが、道内で起きているような問題はないのですか

本州では、ほとんどが管理釣り場(川を仕切った釣り堀のようなもの)での釣りの対象魚として定着していますし、湖などで漁業権魚種とされているところもあります。北海道と違って、川に釣りの対象となるサケマス類が少ないためであると思われます。
このため、影響が顕著に現れておらず、外来生物法でも「要注意外来生物」としての指定にとどまっています。
ただ、最近になって、釣り対象魚を含めた在来魚に対する影響を懸念する県がいくつか出てきています。

イトウの保護に係る道内の取組みを教えてください

現在、道では北海道希少野生動植物の保護に関する条例(北海他道希少種条例)で、採捕等が規制される指定希少野生動植物への指定が検討されています。
また、市町村では南富良野町がイトウ保護管理条例を町独自に制定し、イトウの保護を進めているほか、猿払村では猿払川流域の森林を所有している王子製紙と連携し、地元「猿払イトウの会」や研究者とともに「猿払イトウ保全協議会」を設立し、イトウの生息環境の保全に取り組んでいます。

さらに詳しく知りたい方は・・・

  動画北海道公式チャンネル

  当日の資料幻の魚イトウ.zip

※デスクトップなどにzipファイルを保存し、作成されたzipフォルダーからスライドファイルをデスクトップ等に移動して、ご覧ください。

  案内チラシ

表[生物多様性].jpg  裏[生物多様性].jpg 

ご協力いただきました

北海道水産林務部漁業管理課

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