No.2 1988.3.31

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

次つぎに実用化される受精卵移植技術

人工授精による双子の黒毛和種  牛の受精卵移植は、過排卵・採卵技術と採取した受精卵を複数の牛(借腹牛)の子宮内に移植し、受胎させる技術からなっています。
 これまで雄牛に頼っていた牛の改良は、雌牛の優良因子をも考慮し、しかも、1頭からの受精卵を多数の借腹牛に移植すること(高能力雌牛の準コピーの大量作成)や、1頭の借腹牛に複数個の受精卵を移植し、分娩1回当たりの産子数を増やすことで、効率が著しく高められます。
 この技術を応用して、飼養頭数が多い乳牛を借腹牛とし、緊急に増殖が必要とされる肉牛の双子生産などに利用され始めています。牛ではほぽ実用化技術となった受精卵移植技術は、目的は異なりますが、豚、ニワトリ、馬でも研究され始めました。
 この分野の発展技術は、まさに、畜産の大革命をもたらすでしょう。

(新得畜産試験場)

研究の展望

畜産分野のバイオテクノロジー
その現状と方向

今、何故バイオテクノロジーか

 最近、消費者は農畜産物に対して、「おいしさ」と「安定供給」に加えて、「安全性」と「低価格」を強く要望しています。このような要求を満たすために期待される技術がバイオテクノロジーです。

家畜疾病の診断に威力を発揮
モノクローナル抗体の作業とその利用技術

 この技術は病原体やホルモンなどの特定の微量な物質を安価、大量、迅速に測定、あるいは、精製を可能にする、バイオテクノロジー最先端技術のひとつで、医学、獣医学をはじめ多方面で活用されています。

無公害、生態系の調和を保ちつつ、
未利用資源の有効活用技術

稲わらやおが屑、雑木などの未利用資源を微生物などによって栄養価値を高めて、家畜のえさにしたり、また家畜の糞尿からメタンガスを生成します。これらの未利用資源変換技術は急速に発展しています。

基礎生物学あっての
バイオテクノロジーの利用

 道立農業試験場では、バイオテクノロジーの利用に向けて、家畜の生理学を基礎としたたくさんの実用化技術の研究に取り組んでいます。例えば、めん羊でこれまでの1年で1産を2年で3産にする「めん羊の季節外繁殖」(滝川畜試)、草主体のえさで1頭当たりの牛乳や肉の生産量を飛躍的に高める「バイパス蛋白技術」(根釧農試)などです。
 さらに、受精卵移植技術や微生物の遺伝子操作技術(新得畜試)も研究されています。

(新得畜産試験場)

研究室Now

根釧農業試験場馬鈴しょ科

 ばれいしょは北海道の畑作農業の基幹作物として、合理的な輪作体系確立の上でも重要な役割を果たしています。近年、ばれいしょの需要は緩和基調にあり、でん粉原料用、生食用は横ばい、急増傾向にあった加工食品用は伸び率が鈍化しております。
 このため、利用者からは需要目的に合った良品質ばれいしょの供給が、生産者では良品質ばれいしょの安定生産、生産性向上、生産技術の改善、低コスト栽培などが求められています。
 当科では、北海道特に道東に適する多収、高でん粉価、病害虫抵抗性などの特性をもつ栽培容易なでん粉原料用、加工食品用新品種の育種を目標にしています。
 このため、新らたな交配母本材料の探索および加工適正の検定など幅広い試験と選抜効率の向上を図りながら育種をすすめているところです。
 最近、従来の加工食品用品種を改良した優れた品種の育成が強く要望されており、当科では、共同研究を62年から「加工向け良質風味ばれいしょの品種選定および加工法に関する試験」、更に63年から「加工食品用ばれいしょの新品種育成」を民間と始めました。これらはいずれもばれいしょの消費拡大と加工適性の優れた新品種の早期育成を目的としています。
 このところのジャガイモシストセンチュウ汚染地域の拡大およびでん粉の自由化の動きは、育種事業にも大きなインパクトを与えております。選抜過程においては、用途別に多収、高品質はもとより、ジャガイモシストセンチュウ、疫病、土壌病害およびウイルス病抵抗性に対して、選抜を厳しくしています。
 さらに、一村一品として特定地域のみを対象とした品種、あるいは菓子用小粒いも品種などユニークな特性をもった品種が数多く普及してもよいと思っております。このような視点から育種事業に取り組んでいるところです。

ハーグレス

道南農業試験場

 道南農業試験場は、園芸部門を担当する試験場として施設野菜の高生産性栽培技術の開発に関する試験研究を行うとともに、道内の野菜農家や農協の技術員を対象にした施設園芸技術研修生の受け入れを実施しています。
 また、北海道が昭和52年度から実施している海外技術協力の一環として、技術研修生の受け入れも行われるようになり、野菜栽培の技術普及は道内のみにとどまらず国際化が進みつつあります。
 道内からの施設園芸研修生は、水田の転作が進められたことから各地で野菜の栽培が盛んになり、1カ年の長期研修や農閑期を利用した1カ月程度の短期研修などに十数名の研修生が来場しています。
 長期研修生は温室や研修ハウスを利用して育苗、ならびに実験栽培を実施するなどして栽培技術を修得し、研修の終了時には、成果を取りまとめて報告会を行っています。 また、短期研修生の場合は、研修ハウスにおいて各野菜の生育診断の研修を行うとともに、栽培技術、土壌管理、施肥技術及び病害虫防除技術などについて10日程度の集中講義を行っています。
 海外からの技術研修生は、昭和59年と62年にマレーシアから来場して、日本語を修得しながら現地及び場内において野菜の栽培、土壌肥料、病害虫などの研修を受けています。また、昭和60年には中国北京市の農業試験場からイチゴの周年栽培技術研修に2名来場し、研修を終えました。
 海外から来日した研修生は日本語が不十分であったり、食事も日本と異なるため苦労していたようですが、道南農試で修得した野菜栽培技術がそれぞれの国の農業発展に役立つことを願っています。

(亀田郡大野町本町680)


研究の成果

ハダニの生物的防除

ナミハダニを食べるチリカブリダニ  ハダニ類は多くの作物に被害を与える重要害虫ですが、ハダニ類に対して安全で効果の高い農薬は少なく、また、農薬に対しても抵抗性がつきやすいため、防除が難しい害虫の1つです。そこで「ハダニ類を天敵で防除する」いわゆる生物的防除が期待されてきました。
 わが国では、1966年にアメリカからハダニ類を好んで食べるチリカブリダニ(UCR系統)が導入され、イチゴ、キュウリ、ナスなどにつくハダニ類の防除に効果の高いことが明らかにされました。
 ところが、このUCR系統は農家がハダニ以外の病害虫防除に使用する一般農薬に対して弱いため、農薬が全く使用出来ないという大きな欠点があり実用化出来ませんでした。
 そこで、西ドイツDarmstadtから導入された薬剤抵抗性チリカブリダニ(DAS系統)を用いて、ハウス栽培のキュウリでのハダニの生物的防除試験を北海道大学との共同研究で行いました。
 まずはじめに、ハダニ以外の病害虫防除に用いられる農薬に対してDAS系統がどの程度強いかを調べた結果、7種類の殺菌剤と2種の殺虫剤に対して強いことがわかりました。これらの農薬を組み合わせることによってハダニ以外の病害虫防除は可能です。 そこで、これらの農薬を散布したハウス栽培のキュウリを用いてナミハダニに対する防除効果を確認する試験を行いました。その結果ナミハダニ雌10頭に対してDAS系統の雌を1頭の割合で放せばハダニを防除出来ることが明らかになりました。
 次に、ハダニの数がどの程度になったときにDAS系統を放せば良いのかを検討しました。しかし、ハダニ類は小さいためその数を調べることはかなりの時間と熟練を要します。そこで、ハダニによる葉の被害が葉面積に対してどの程度になったかをDAS系統を放す時期の目安にしました。
 葉の被害面積が全体の約2/5までは収量減にならず、1/2では約40%、2/3では約80%の収量減になることが知られています。したがって、葉の被害面積が2/5以上になるようにハダニを防除する必要があります。
 そこで、いろいろな時期にDAS系統を放す試験を行った結果、葉の被害面積が全体で1/5までの時期にナミハダニ雌:DAS系統雌10:1の比率(株当り50~100頭)で放せば充分な防除効果が得られ、収量もDAS系統を放さなかった区の約2倍にもなることが明かになりました。
 パーソナルコンピューターを用いて試験結果に適合するシミュレーションモデルを作成したところ、ダニの数の変動とキュウリの葉の被害の推移とよく一致しました。このモデルを利用することによって、現地でハダニの数を予測したり、DAS系統を放す時期や数を予測することが可能になると考えられます。
 しかしながら、現地でこのDAS系統を実際に利用するためには、残された問題も多く、なかでもDAS系統の効率的な大量増殖方法や配布方法を早急に検討する必要があります。

(中央農業試験場病虫部)





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