No.15 1992.12.1

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

馬鈴しょ加工食品用新品種「ムサマル」

馬鈴しょ新品種「ムサマル」の塊茎  北海道における加工食品向け馬鈴しょの生産は、今後さらに増大することが期待されています。「ムサマル」(由来、育成地、中標津町にそびえる武佐岳と丸みを帯びたいもの形を表す)は、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性で、油加工適性の高い品種の育成を目標に、昭和55年根釧農業試験場が「ツニカ」を母「根育20号」を父として人工交配し、以降選抜を繰り返し、「根育22号」の系統名で道内各地の関係機関の試験に供し、平成4年7月農林水産省の新品種(ムサマル、ぱれいしょ農林32号)として登録された。
 「ムサマル」はジャガイモシストセンチュウに抵抗性があり、フレンチフライ加工適性が高く、大粒、多収という特徴を有し、既存品種の欠点を補うぱかりでなく、従来からの品種の良点も兼ね備えた品種です。 今後、「ムサマル」を「農林1号」、「トヨシロ」および「ホッカイコガネ」の大部分に置き替え、さらに、これらの品種が導入できないジャガイモシストセンチュウ発生地帯を含め、北海道全域に導入することにより、加工食品用,馬鈴しょの生産振興に役立つことが期侍されています。北海道の奨励品種です。

(根釧農業試験場研究部馬鈴しょ科)

研究の展望

クリーン農業

~北海道農業の新たな旅立ちによせて~

1.はじめに、クリーン農業とは、

 三つの優しさを求めたクリーン農業を支える調査・研究がスタートして、 早や二年目の半ばを過ぎた。それは決して平坦な船出ではなかった。多くの危惧、批判、冷笑、無理解の中で、従来の研究を否定するかのようにとられたり、行政に迎合する金取り主義と言われたりしながら、荒波へ漕ぎ出した。
 地球に、人に、作物と家畜に優しい北海道農業を標榜するクリーン農業は、技術者・研究員にとっては、新たな技術論であると共に、人と地球の関係を見直す文明論であり自らの理念を賭けた運動である。このことを忘れてはならないと思う。
 実は、欧米における低投入持統的農業(リサ)や環境保全型農業、有機農業自体も、単なる技術論ではなく、人の生き方を問う文明論であり、政治理念であった。そして、運動の担い手も、農民、農業関係者以上に、政治家であり、知識人であり、多くの一般市民であった。
 クリーン農業も、北海道における農業と自然環境、人と自然環境、豊かな生と豊かな食、それを支える豊かな農の関係を見つめ直す文明論であり、理念であるべきだと、私は思う。言葉を換えて言うならぱ、北海道農業を支える明日の試験研究を企画し担い遂行する研究員は、北海道農業に対するビジョンをもち、理念を持てと言いたい。今、クリーン農業研究の推進を図るに当たって、「その日暮しの研究をするな。何も堤言せずに評論するだけの若い老成した研究員よりも、夢の実現に向けて猛進する老人の熱意が欲しい」と、付け加えたい。

2.クリーン農業の目的・目標と手段

 北海道の目指すクリーン農業は、一切の化学肥科・農薬を否定した有機農業ではない。1)国際化時代に生き残れる持統可能な農業を確立すること、 2)地球規模での環境破壊が人類の存在をすら脅かす状況になってきた今、環境に与える負荷を如何に低下させ、そして環境容量内での生産技術を再構築する事、が目的である。
 この目的を達成するために、自然生態系との調和を前提に、1)北海道のクリーンな生産環境を保全し、それを基に、 2)クリーンな北海道農業の存在をアピールし、一般市民の理解と支援を得、そして 3)北海道農産物の競争力強化を図る事を、目標にしている。
この目標を実現する手段として、設定された研究の柱は、1)環境保全機能の把握と活用、・減農薬技術の開発、 2)減化学肥科技術の開発と品質評価技術の確立、 3)家畜糞尿処理技術の確立、 4)クリーン農業の総合評価、の五本である。
 これらの研究は、北海道の立地特性(生態系)の活用を前堤に、自然生態系に不可逆的変化を与えない範囲と言う意味での、「環境容量」と言うコンセプトを導入し、環境への負荷を出来るだけかけない生産技術、すなわち、環境容量内での生産技術の再構築を進めている。
 具体的な方法として、1)中間投入資材としての農薬・肥科の3割削減を可能にする技術開発を行っている。また、 2)有機農業を含めたクリーン農産物の品質評価・検証技術の開発を行い、今後、流通段階における科学的認証制度導入の礎を築きつつある。さらに、 3)有機農業を含めたクリーン農業の生産面における経営的評価と、流通面における価格形成評価等を検討中である。
 蛇足ながら、付け加えておくと、クリーン農業研究が目指す方向は、決して農薬・化学肥科を否定するものではなく、従来の農業技術をマクロな視点から、捉え直し、北海道農業の持続的発展を支える技術として、再編する事である。

3.研究推進体制

 この研究を遂行する組織体制は、7試験場・24研究室にまたがり、場の壁、部門の壁、を超えて、組織化されている。全体的にはクリーン農業研究班を形成し、独自に毎年3月、研究担当者が集まり、成績検討・設計会議が行政サイドを含めて、行われている。また、夏場、現地研修会が各場持回りで開催され、担当研究員の意識の統一、問題の摘出に役立っている。
 各場における研究班の活動は若干強弱があるが、中央農試の研究班(幹事会)では、月一回の定例会議を開き、部門間の調整、各部門の調査・研究の取り組み状況の報告や諸々の問題への対処を協議している。幹事会は経営部の山本主任研究員を事務局長に、病虫部の兼平科長、環境化学部の鎌田科長等、各部門の実務者で構成されている。
 研究班で協議した問題対処の一例として、今年、特記すべきことは、一般市民の参観希望が多く、かつ、土・日曜日にバスを連ねて来たことである。これらも、研究班で超勤を求めることもなく対応した。

4.農業研究の推進に当たって考えること

 研究員には、3つの時代がある、と私は思っている。まず、20代はアリの時代である。圃場で、実験室で、コツコツと数字を作り、事実を拾い上げ、アリの目で集める時代である。次に、魚の時代がくる。魚眼レンズさながらに、隣の研究員、隣の研究室、隣の隣の部の仕事を理解し、自分の研究に活かす時代である。
 アリの時代の研究員は、自分のテリトリーの中で研究を進めていれば事足れりであるが、30代に入った研究員はそうはいかない。研究の真の深化を図るためには、異分野の先端情報も必要となる。魚の目で幅広い情報収集を行い、幅広い見識が求められる。
 40代に入ると、鳥の時代を迎えるべきだ。烏瞰図よろしく、烏の目で、空間的にも時系列的にも全体を眺め、独自の技術論を養う時である。北海道農業の発展に如何に農業試験場が貢献するか、その具体的目標と方法、研究手法を、中堅・若年研究員に示せなけれぱならないと、私は思っている。
 そして、50の声を聞く頃には、研究員は哲学を持つべきであろう。人と自然環境、環境と農業、豊かな生と豊かな食・農の関係、それは農業論であり、文明論である。今、クリーン農業研究は、スタートしたぱかりで、いわばアリの時代である。しかしクリーン農業研究は21世紀を見つめた研究であらねぱならない。そのためには、アリの目に魚の目を足し、さらに、リーダーである科長達は鳥の目を持って欲しいと、切望する。とかく、研究員の意識の古さ・保守性が指摘され、既得権意識の強さが目につく外様では、農試はどうなるのか。出来上がった古巣の居心地の良さに浸り、外界の変動に首をすくめるだけでは、この激変期の農業を支える研究にはならない。どうか、明日を見つめ、21世紀に飛翔する北海道立農試であって欲しいし、変革を厭わないチャレンジ精神に溢れる研究員魂を養って欲しい。

(中央農業試験場企画情報室長)


ハーグレス

研究開発調査(初動研究)事業について

 研究開発調査は、昭和61年度から“初動研究”の事業名で予算化され、昭和63年以降は、研究開発調査の事業名で引き継がれています。この事業の趣旨は、多様化・迅速化する研究ニ一ズに対応するため、本来の課題設定よりもさらに先進的あるいは柔軟な発想から研究に取り組もうとするものです。この事業の具体的な考え方は、
 1)本格的な研究に入る前のアイデア、新しい手法、仮設や理論の組み立てのための予備的研究、2)実用的研究開発での行き詰まりを打開するため、視点を変えてのアプローチやスタートに戻ってのアイデアが必要な場合などのフィードバック的研究、3)異常気象・災害などの突発的な現象による農作物の被害解析と対策などの緊急対応的研究、の3つに分類されます。このように、研究員の自由な発想を最大限に重視し、研究の活性化を図ることを目的としたものです。1課題50万円前後の予算で毎年10課題程度が実施されています。

(中央農業試験場企画情報室企画課)


ハイテクNow

レーザー回析式粒度分布測定装置

~粒子の大きさを光の目で迅速に測定~

レーザー回折粒度分布測定装置  アン(餡)粒子の大きさは、食感のなめらかさとともに、食味に大きく関与しています。粒の大きい小豆はアン粒子も大きいと言う関係があることもわかってきました。また、馬鈴しょデンプンの粒径や粒度分布と品種や栽培条件との関連も明らかになりつつあります。
 これらの分析データの多くは、レーザ回折式粒度分布測定装置によるものです。従来の湿式篩いを用い乾燥・秤量を行っていた場合には、測定結果がでるまでに2日間もかかりました。本装置では測定開始後約3分で結果をプリントアウトすることができます。また、MS-DOS上のデータファイルとしても保存可能です。
 測定の原理はレーザ光線が粒子にあたった際に起きる回折現象が粒子の大きさに関係することを利用しています。本装置では、分析試科の懸濁液を超音波とスターラーで分散・撹拌しながら、ポンプで循環しフローセルで測定します。測定範囲は1)0.1~45μm2)1~150μm、3)5~500μmの3レンジで、目的により切り替えて使用します。結果は任意に設定した粒子径(最大16点)を基準に、体積(面積、長さ、個数)粒度分布として出力できます。

(中央農業試験場農産化学部品質評価科)


研究の成果

春播小麦におけるムギキモグリバエの
被害実態と防除対策

ムギキモグリバエの蛹 主要畑作地帯における春播小麦は、秋播小麦とともに輪作体系上欠くことのできない作物です。近年、春播小麦は製パン業者などの要望から作付の拡大が望まれてきましたが、収量の地域間差が大きく、上川北部と中央部の一部では著しい低収となっていました(上川北部・中央部約120kg/10a:網走約350kg/10a)。そこで、上川農試では平成元年から栽培法、病害虫などについて検討した結果、低収の主因がムギキモグリバエの発生、加害によって遅れ穂、茎心枯れなどが発生するためであり、播種時期が早いほど本種による被害茎率が低くなることなどが明らかになりました。
 上川管内における防除時期はムギキモグリバエの産卵初期~中期(5月下旬~6月中旬)で、2~3回の散布(PAP、MEP乳剤:登録有り)で効果が認められ、「ハルユタカ」の収量を350~400kg/10aにすることが可能となりました。現在、多発する要因についての研究を継続実施しています。

(上川農業試験場研究部病虫科、畑作科)




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