No.26 1996.7.31

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

水稲の無代かき等省力移植栽培技術

水稲の無代かき等省力移植栽培技術の写真  稲作経営の安定化のためには、規模拡大や複合経営の導入が必要とされています。しかし、現行の作業体系では春先の労働競合が大きく、規模拡大などは困難な状況となっています。このため、耕起、代かきなどを省略した省力移植栽培技術の早急な確立が求められています。
 代かきを省略する無代かき移植栽培は、移植機の種類によって、浅耕無代かき移植と表層砕土同時移植に区分されます。浅耕無代かき移植は、深さ8cm程度に耕起、砕土し、入水した後、成苗ポット苗を移植する方式です。また、表層砕土同時移植は、耕起、入水した後、表層を砕土しながら中苗マット苗を移植する方式です。このような無代かき移植栽培は、漏水田を除き、大部分の土壌で適用可能と思われます。
 耕起、代かきを省略する不耕起移植栽培は、入水し、10日前後湛水した後、中苗マット苗を移植する方式です。移植精度は圃場の均平、稲わら状態および土壌の硬さなどに左右され、また雑草も多発するため、普及に適する土壌はかなり限定されます。
 春季労働の省力化は、耕起-代かき-移植の現行作業体系に対して、無代かき移植は12%程度、不耕起移植は18%程度が可能となります。規模拡大の可能性は、無代かき移植で比較的大きいことが確認されています。また、土壌の理化学性についても、透水性や地耐力が向上し、土壌還元が抑制される等の効果が認められています。
 このようなことから、無代かき移植栽培は、規模拡大と土壌の理化学性改善が期待され、適土壌の幅も広いため、普及性は大きいものと思われます。しかし、不耕起移植栽培の場合は、適土壌条件の拡大や雑草対策などさらに改善を要する課題が残されています。

(中央農試)


研究の展望

道立農試における経営研究について

~まず国内競争に生き残る戦略を構築する~

  1. 最近の農業情勢
     既に昭和60年代の前半から徐々に開始されていた農産物市場開放は、平成6年ガット合意調印を契機に、急速に深化しつつあります。
     わが国の農政もガット合意を踏まえて、従来までの農業保護政策をかなぐり捨て、市場原理の強化(競争強化)策を打ち出してきました。その一連の流れの政策が、新政策、新食糧法、そして新農業基本法(現在検討中)であるといえます。これらの政策は「外国農産物と競争しても生き残れる農業経営」ということで、農業経営基盤強化法にみられるように、経営体質が強化された少数精鋭経営の生き残り戦略のみに焦点を当てた選別政策になる危険性をはらんでいるといえます。
     北海道農業は都府県農業よりも農家1戸あたりの面積が大きいというものの、大消費地からは遠隔地であること、気象条件が厳しいこと、あるいは泥炭地などの特殊土壌が多いことなどにより、むしろ農業としては条件不利地なのです。それ故、農産物市場開放の深化は農産物価格の低下を招き、北海道農業を窮迫化に導いています。北海道農村における近年の離農多発、農村人口の減少と高齢化は、その間の事情を物語っています。
     しかし、農水省や米国ワールドウオッチ研究所の21世紀食糧需給予測では、食糧不足で一致しています。地球環境の破壊、そして人口爆発の深化による世界的な食糧危機が、ひたひたと迫りつつあるからです。それ故、将来必ず北海道農業が頼られる時代がやってくるとみています。私たち農業試験場の研究者は、このような非常事態に備えて、将来の食糧確保対策に一歩踏み込むことも、社会的使命の一つであると考えています。

  2. 経営研究の性格
     経営研究部門の役割は、技術の受け皿となる農家の経済行動を研究することです。したがって、技術そのものを研究することはありません。その意味で技術開発のために設立された農業試験場の中でも、特異な存在であるといえましょう。
     経営研究固有の課題を端的に表現しますと、農業を取り巻く環境条件の変化が農家行動にどのような影響を与えるのか、あるいは、農家及び農家集団の量的・質的変化が地域経済にどのような影響を与えるのかを解明することにあります。
     次に技術研究部門とのかかわりですが、農家が必要としている技術を技術研究部門に伝えるとともに、そこが開発した技術を一緒になって、農家が実際に使える技術に仕上げ、その新しい技術とこれまでの技術を比較対照して農家経営の立場から有利かどうかを判定します。そのことによって農家は、技術導入に際して情報不足によるリスク負担をしなくて済むし、試験場としても試行錯誤によるお金と時間のロスを除くことができます。結局、技術研究の入口と出口の両面で経営研究部門が関与することになります。

  3. 経営研究のパラダイム転換
     わが国農政は、既に述べたように農家保護政策から、経営環境の悪化に対応できる経営体質強化政策に転換しつつあります。しかし、経営環境が悪化すると都府県農家の大半は兼業に逃げ込めますが、北海道の農村の大半は兼業の機会に恵まれていないので、簡単に逃げ込むことができません。ケアンズグループ(食糧輸出国)とまともに価格で対決するのであれば、大半の農家は生き残ることが困難なので、農村の窮迫化による過疎化が進行し、札幌一極集中は避けられません。
     そこで経営研究も、目先の儲けを追求する考え方から、時代の要請に応えて従来までのパラダイムを大きく転換して、腰を据えたスケールの大きな研究に取り組みたいと考えています。例えば、都市文明の発展は農耕による環境破壊の歴史であることを踏まえて、環境保護問題や食糧危機問題に切り込んで、中小規模農家や兼業農家が生き残るための突破口を切り拓きたいと考えています。最近の異常低温、熱波、洪水、あるいは大干ばつ等の気象変動は、多少の技術革新ではとうてい克服できる性格のものではないからです。
     また、個別経営の一様な自立を誘導する研究よりも、多様な生き方を認めた多様な経営の在り方を追求する研究も必要と考えます。特にお金に代えられない農村独自の生活スタイルを重視した研究が必要になってくるでしょう。さらに、地域住民の立場に立って、地域として自立できるような農村社会や地域経済のあり方を経営研究の立場から追求することも大切な課題になってきています。もちろん、そのための技術開発方向の解明と開発技術の経営経済的評価も依然としてその重要性を失っていません。その時の技術開発目標は、低エントロピーでエネルギー効率が高い技術になることも予想されます。

  4. 道立農試の経営研究体制
     そのようなわけで、今後の道立農試の経営研究部門の基本的立場は、農家の立場に立脚し、以下の重点研究課題に中央農試経営部、十勝農試経営科、根釧農試経営科の3場4科体制で取り組んでいきたいと思います。
     さらに、今後は経営研究部門が設置されていない道立農畜試とも積極的にプロジェクト研究に取り組み、地域対応である特定地域農業振興問題に取り組んでいきたいと考えています。
     なお、当面する部門としての最重点課題は、北海道が花卉・野菜の主産地として、まず国内競争に生き残るための戦略を構築する流通経済研究の課題が該当します。

    〈重点研究課題〉
    • 持続的農業の農法確立と担い手育成方策
    • 担い手に即した開発技術の経営経済的評価
    • 担い手のための地域支援システムのあり方
    • 新流通チャンネルの開発による農業生産の安定化
    • 条件不利地における地域経済活性化
    • 農業の多面的機能に対する社会経済評価とデカップリング

      (中央農試 経営部長)


ハーグレス

"Internet"中央農試のホームページ

92日開設に向けて準備進行中

 この6月、中央農試にInternet用のサーバーが導入され、北海道農試との間に専用線が引かれたことにより、道立農試のネットワークがInternetに繋がりました。
 今までパソコン通信 ACEnetで公開してきた道立農試の持っている農業技術情報は、より速く、かつACEnetでは送れなかった詳細な画像や図表の情報によって、生産現場だけでなく、広く世界に向けて情報発信できるようになります。
 ホームページは、HTML(Hypertext Makeup Language)言語で書かれています。この言語で書いた文章は、タグと呼ばれる簡単な記号の付いたテキスト形式の文書なので、特別な知識がなくても簡単に好みの画面に編集でき、画像や音声も挿入できます。
 情報課が中心となって、職員有志による手作りのホームページなので、凝ったデザインや本格的な検索機能はまだありませんが、この秋公開を目指してコツコツと作業を進めていますので御期待ください。

(企画情報室情報課)


ハイテクNow

PCR法による牛胚の性判別

PCR用サンプル採取の様子  牛では生まれた子牛が雄か雌かによって経済価値が大きく異なります。例えば、乳牛では搾乳用の後継牛、肉牛では肥育用雄牛というように、目的に応じて雌雄を産み分けることができれば、コスト低減などの経営合理化や、育種改良速度の飛躍的なスピードアップに大きく貢献すると期待されています。
 新得畜試では平成3年より牛胚(受精卵)の性判別に取り組んでおり、胚の一部をサンプルとするPCR法が利用できることを明らかにしました。
 PCR(polymerase chain reaction)法とは、目的とするDNA断片のみを数時間で数十万倍に増やすことができる技術です。牛胚の性判別では、胚(大きさは直径0.10.2mm、細胞数は100150個)から10細胞くらいを採取して細胞を破壊しDNAを抽出します。これに試薬を加えて専用の装置で雄特異的なDNAの増幅反応を行い、アガロースゲル電気泳動により増えたDNAを検出して雌雄を判定します。
 現在この方法の普及を目指して、判定済み胚の移植実証試験を野外で実施しています。

(新得畜試 生物工学科)


研究の成果

畑土壌の微生物活性を診断する

αグルコシターゼ活性区分のグラフ  小さなスプーン一杯の土にも、1億以上もの生きた微生物が含まれます。単なる砂と粘土の混合物から、作物を育む豊かな”土”を作るのは、これらの微生物の働きであると言って過言ではありません。
 微生物は、有機物を分解して作物に栄養素を供給したり、腐植や団粒を生成します。その他の面でも微生物の活動は、土壌の生産力と密接に結びついていますが、これまで、微生物活性を具体的に評価する方法はありませんでした。
 研究段階では、微生物活性を測定するために多くの方法が用いられてきました。それらの方法を、いろいろな角度から比較した結果、微生物活性の診断法として土壌酵素活性の一種であるα-グルコシダーゼ活性が、最も適切な方法であると結論しました。また、十勝地方の火山性畑土壌で、α-グルコシダーゼ活性の標準的な値を550750としました。この方法によって、初めて農家圃場の微生物活性を診断することが可能になりました。

(十勝農試土壌肥料科)



↑前のページへ戻る
農業技術情報の広場へ戻る