No.28 1997.3.28

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

北海道黒毛和牛の改良

全きょうだい検定で選抜された候補種雄牛  北海道では高品質牛肉の生産に適した黒毛和種へと転換が図られています。しかし、これまで繁殖素牛を府県からの導入に依存してきたこと、優良種雄牛を保有していなかったこと、肥育素牛の生産・販売が主体であったことなどから、産肉性に関する情報が少なく、黒毛和種の体系だった改良が遅れています。このため、雌牛の産肉性に関する遺伝的能力(育種価)の把握と優良種雄牛の作出を中心に道内黒毛和種の改良を精力的に進めています。
 育種価は、枝肉成績や血統情報からアニマルモデルという分析手法を使って、血縁関係にある種雄牛と繁殖雌牛の遺伝的能力そのものを推定するものです。これまで利用されてきた血統や体型から能力を判断するのに比べて、より科学的な指標となります。また、数値化されているので能力の比較が容易で個体毎の長所・短所が一目でわかります。育種価評価の取り組みは平成6年から開始され、現在までに種雄牛686頭と雌牛8423頭が判明しました。このうち供用中の雌牛は3891頭で、2歳以上雌牛に対する判明率は11%となっています。今後は枝肉成績の収集システムを改善して、当面は50%を目標にしています。繁殖雌牛のうち脂肪交雑の育種価をみると、評価基準で-0.8~1.8の範囲に分布しており、+1.3を越える優れた能力を持つ雌牛も存在することがわかりました。また、生年別に区分した雌牛の育種価の推移から、脂肪交雑などの能力が確実に向上していることもわかりました。これらの計算結果は原則として公表し、生産者にフィードバックされます。
 優良種雄牛の作出は、府県から導入した優良雌牛と優良精液から受精卵を作成し、生まれた雄子牛について直接検定、全きょうだい検定および産肉能力後代検定を実施して選抜を進めています。平成5年から毎年6セット・132個の受精卵を移植し、最終的には1~2頭の種雄牛を作出する計画です。現在、全きょうだい検定結果から2頭が初めて選抜され、後代検定の段階に進んでいます。平成11年には北海道で作出した最初の基幹種雄牛となるものと期待されています。

(新得畜試 肉牛育種科)


研究の展望

クリーン農業の技術開発の現状と今後の方向

  1. クリーン農業とは
     農業・農村のもつ環境保全機能の見直しや環境保全と資源問題のあり方が問われるなかで、環境への負荷を抑制した安全・良質な農産物を生産するクリーン農業技術開発のプロジェクト研究の取り組みを開始してから早くも6年が経過しました。1996年からはこれまでの研究成果を踏まえて、新たに課題を再編したパート2の研究がスタートしています。
     このクリーン農業の基本的な考え方は、農薬と化学肥料を全く使用しない有機農業をめざしているのではなく、本道のクリーンな自然生態系と調和した持続可能な農業への生産技術の見直しと再構築を基本に据えています。いわば、農業の生産技術を持続可能で安全・良質な農産物生産の方向へボトムアップすることで、国際化時代に対応した競争力のある北海道農業の確立を目標としています。
     この目標を達成するのため試験研究では(パート1)、次の4つの柱を設定して試験研究を開始しました。1.環境保全の機能と活用、2.減農薬技術と減除草剤技術、3.減化学肥料技術と品質評価技術、4.クリーン農業の経済的評価です。

  2. クリーン農業の研究成果
     クリーン農業パート1の試験研究では、当面の技術確立として農薬と化学肥料の3割削減の技術目標を据え、クリーン栽培を実践している農家の実態解析及び減農薬技術と減化学肥料技術の試験結果による研究成果を示してきました。
     減農薬栽培の技術としては、1.作物に対する病害虫の発生量と収量との関係を明らかにして被害解析を行い、要防除水準を確定、2.薬剤に代わる各種の防除手段の効果的な組み合わせ(フィルム等の物理的防除、天敵等を活用した生物的防除、対抗植物等の耕種的防除)、抵抗性品種の利用による病害虫の抑制、3.高度で簡易な病害虫発生予測確立の成果があります。
     また、減化学肥料技術では、1.有機物の無機化特性や土壌からの窒素供給量の予測技術、2.肥料の利用効率が高い施肥法の改善、3.土壌診断・作物栄養診断の成果があげられます。
     これらの研究成果は、クリーン農業技術資料(1994年、95年、96年)として水稲、畑作、露地野菜、施設野菜、草地の作物別に、逐次追録可能なファイル形式で作成しています。ファイルは「クリーン農業技術情報シリーズ」に掲載し栽培技術体系の確立を目指しています。
     また、クリーン農業技術の一部技術は各地域の農家ほ場を対象とした実証試験を行い、クリーン農業技術の実用化と早期普及を目指した取り組みを進めています。この技術には、水稲、畑作、野菜の減農薬栽培(発生予察・発生予測技術、対抗植物の利用などの6技術)及び減化学肥料栽培(土壌診断の活用、窒素供給量の予測、内部品質向上などの4技術)があります。
     具体的な実証試験は農業改良普及センターが担っていますが、農試の研究サイドでもクリーン農業技術の担当として設計と成績の検討に加わっています。この実証試験では、慣行技術と比較対照した技術効果の検証となりますが、それのみでなく、クリーン農業技術が慣行技術と代替し、地域の栽培技術体系として組み込む可能性や定着条件についての検討も必要と考えます。
     クリーン農業の研究課題の設定は、地域の研究ニーズを背景としながらも、現状の問題点にとどまらず、本道農業のあるべき姿を念頭に自然生態系と調和した技術開発の視点を据えています。このためにも、研究成果が地域農業の実用化技術として如何に活用されるかの評価は重要であり、研究現場と生産現場との提携は、クリーン農業の技術確立にとって極めて意義があります。

  3. クリーン農業パート2の課題
     クリーン農業の技術開発については、パート1を終え、パートⅡの課題をスタートさせています。しかし、クリーン農業の推進を支える試験研究は端緒についたばかりであり、まだ多くの解決を要する課題が残されています。
     1996年からのパート2では、次の研究の柱を設定し研究課題を構成しています。自然生態系と調和したクリーン農業は、北海道においてその可能性と将来性が期待される農業の方向です。技術開発と実用化はクリーン農業の目標を実現する手段として、今後も新たな研究領域への取り組みや研究の深化が期待されます。

    1. 環境保全機能の活用と負荷抑制技術の確立
          農耕地におけるガス発生実態と抑制技術
          硝酸態窒素の環境負荷の実態解明と軽減技術
       農耕地からの養分流出など周辺環境への影響は少しずつ明らかになっています。これらの因果関係の把握による環境容量の定量的な把握は、環境保全に調和した農業技術を組み立てる基礎となります。

    2. 環境に優しいクリーン農業栽培技術の実用化
          減農薬・減化学肥料の技術開発と体系化
          支援技術(農薬少量散布、除草技術)
          クリーン農業技術の経営経済的評価
       パート1では農薬と化学肥料の3割削減を当面の技術目標として技術確立を検討しました。クリーン農業技術の実用化には、減農薬・減化学肥料栽培の体系化への検討とともに支援技術や経済的評価を加えることで、より確かな技術へ組み立てることが可能になります。

    3. クリーン農産物の品質評価と流通技術の確立
          農産物の内部品質評価技術と簡易分析法
          クリーン農産物の品質向上栽培技術
          農産物の高品質流通・保鮮技術
       農産物の内部品質向上と品質評価技術の確立に対する期待は高まっています。クリーン栽培で生産した農産物の内部品質向上と品質情報の提供など品質評価技術の確立は、国際化時代における道産農産物の競争力強化に結びつきます。

    4. 生態系を活用した技術開発(代替技術)
          生物的・耕種的防除技術(天敵・ソフト農薬)
          土壌微生物の活性化技術
       農薬に依存しない代替技術は、天敵の活用や生理活性物質の利活用技術(共栄・忌避作物の探索)があり、土壌生態系では、土壌微生物の活性評価や土壌の中小動物の影響など生態系活用技術があげられます。これらの課題は基礎的技術の検討を必要としますが、農薬・化学肥料をより削減する技術開発としてその可能性が期待されています。


    (経営部主任研究員 山本 毅)



道立農業試験場フォトライブラリ

CDフォトライブラリ  道立農試で実施されている試験研究では、記録手段として数多くの写真が撮影されています。しかし、これらの写真は管理が不十分なために担当者の転勤や退職に伴って散逸することが多く、必要なときに再利用できないことも少なくありません。
 そこで、これら道立農試の研究財産とも言える貴重な写真を必要に応じて効率的に検索し、再利用できるよう、今年度から「道立農業試験場フォトライブラリ」として収集・保管することを始めました。
 この「フォトライブラリ」は、収集した写真やフィルムをフィルムスキャナなどの画像入力機器によってJPEG型式の画像ファイルへと変換し、簡単な説明文のHTMLファイルを添えてCD-ROMに記録したものです。
 このCD-ROMに記録された写真は、インターネットホームページの閲覧ソフト(WWWブラウザ)を使って、パソコンの種類を問わず、ディスプレイで見ることができます。
 平成9年1月に完成した第一号の「新発生病害虫1992~1995」には60点の写真が収録されており、既に全道の普及センター等で利用されています。また第二号の「肉眼観察によるスイカの栄養障害診断法」には写真43点を収録し、平成9年3月にできあがりました。
 閲覧をご希望の方は道立中央農試企画情報室情報課までご連絡下さい。

連絡先 01238(9)2001 内線387

(情報課)


ハイテクNow

近赤外分光法によるトマトの内部品質の測定

近赤外分光法によるトマト糖度の測定結果  トマトは食味が重視される果実的野菜です。糖度5%以上、糖酸比12以上が高品質トマトの指標値です。市販品の調査事例では、糖度は4.8~7.3%の範囲にありました。生産者が優れた品質のトマトを選別して市場に供給することにより、消費者の信頼を得て市場競争力を高めることができます。
 近赤外分光法は、近赤外線(可視光線より若干波長が長い光)を物質に照射して、内部成分の含量を測定する方法です。本法を用いれば果実を破壊しないでかつ迅速に内部成分を分析できるので、高品質農産物を選別する手段として利用が期待されます。そこで、近赤外分光法によるトマトの糖度、酸度の測定を試みました。
 今回使用した近赤外分光分析装置は反射型の機種であるため、果実表面から15mm程度しか近赤外線は到達しませんでした。トマトでは糖度、酸度の果実内部での不均一性や果皮の厚さが測定精度に影響することが分かりました。これら測定上の問題点は、果実の熟度、大きさ、品種をそろえることで解決できました。化学的測定法に対する測定誤差は、糖度で±0.4%、酸度で±0.1%でした。なお、トマトの糖度は通常5~6%であるため相対誤差は7%であり、測定精度は実用上問題がありませんでしたが、酸度は0.6%程度であるため相対誤差は17%と大きく、精度の向上が必要です。測定精度を向上させるには、透過型機種での検討や、照射する近赤外線エネルギ-の増加など、ハ-ド面の改良が必要と考えられます。

(道南農試 土壌肥料科)


研究の成果

春まき小麦の初冬まき栽培

―播種期、播種量と施肥法について―

初冬まき栽培と春まき栽培 「春まき小麦」は、その名のとおり春先の融雪後に種をまく小麦です。生育期間の短いことから多収を期待できないため、作付面積は秋まき小麦に比べて多くありません。この春まき小麦の多収をねらって、融雪直後から生育がスタートできるよう根雪直前に種をまくいわゆる「初冬まき」栽培を行った記録が、昭和10年代にもありますが、当時はうまくいきませんでした。
 しかし、昭和60年代になって再び試みられ、土壌凍結地帯や根雪前に出芽した場合には越冬が不安定になるものの、うまく越冬した場合には、春まき栽培に比べて成熟が早まり多収になることが実証されました。
 中央農試と上川農試では、春まき小麦の初冬まき栽培をより安定した技術として確立するために試験を行いました。その結果、1 播種期は平年の根雪始め前20~25日より早くしないこと。この日数は初冬まき栽培で出芽するまでの積算気温が平均約120℃であり、これを過去の気象経過に当てはめて計算したものです。2 播種量は、条まきした場合に春まき栽培の標準量かそれより3割(340~400粒/10a)程度増せば十分であること。3 肥料は、基肥は不要ですが、融雪直後に春まき栽培の標準量かそれよりやや多めを施用し、止葉期(6月上旬頃)に窒素6kg/10a(硫安なら約30kg/10a)を追肥すること。これらによって、春まき栽培よりも4割程度多収となり、かつ高蛋白が確保できることを明らかにしました。
 現在、残された問題点の解決に向けて試験を継続しています。

(中央農試 畑作第二科)



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