No.29 1997.8.15

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

道立農業試験場における品質研究

店頭のじゃがいも 農業試験場の品質研究は、北海道産の農産物、生命を守る農産物をいかに供給、販売するか品質評価の面から支援することを出発点にしています。輸入農産物が増加しているなかで、農産物の化学的成分を分かりやすく表示して、消費者が食材を選ぶときの基準を提供し、品質保証への理解を深めることで、新しい消費需要を掘り起こしていかなければなりません。
 農産物は品質変化の少ない穀実類から急激に内部成分を消費する野菜、葉菜まで様々な生き物です。その特性を広く伝えるとともに、食品としての多様な機能を明らかにし、農業生産物に付加価値をつけるための品質研究が試験場の仕事になります。
農業試験場の研究は、生産者側の立場からなされてきましたが、これからは生産者と実需者、消費者との仲立ちをしていく必要があります。そのため、消費者の要求を明らかにし農業生産の場に伝えて、求められている農産物の生産を応援していきます。
 最近では、多くの人たちが食品の安全性や健康に与える影響に強い関心を持っています。これに応えられる簡易で正確な情報の表示が生産者に求められており、そのための技術開発が必要になっています。
 一方、実需者(農産物を原料とする食品加工・外食産業)の立場を応援するのも原料品質に係わる研究分野の仕事です。実需者が考える原料は一定の条件を満たしていれば良いわけで、産地は問いません。こだわらないかぎり、道産品、国産品である必要もありません。安い輸入食品との競争に直面している加工業界は安価な原料を求めています。それだけに、価格だけでは判断できない品質の問題をとりあげ、実需者との情報交換と道産農産物が持っている特性のアピールは欠かせないものになってきました。
 生活者のニーズに応えられるような質が良く付加価値の高い農産物の生産が一層重要になっているとき、試験場の品質研究はそこに焦点をあてて追求していきたいと考えています。

(中央農試 農産化学部)


研究の展望

農産物の品質研究の成果と今後の方向

 農業試験場では農産物の新たな評価方法の開発に取り組んでいます。以下は最近 の品質研究の成果から二・三の例をとりあげ、今後の方向について考えてみるこ とにします。

1. 非破壊評価法による小豆の品質特性値の表示

全粒分析用回転ドローワ装置 近赤外線分析装置  北海道で生産される小豆は、品質が優れ高級なあんや和菓子の原料に用いられています。輸入ものに対抗し道内産小豆の消費拡大を図るために、品質の優れた特性値について迅速に測定ができ、簡易に表示できる方法について検討してきました。まず、近赤外分光法による小豆の加工適性を評価する方法を検討しました。写真の装置は、煮たりつぶしたりしない非破壊的な状態で全粒分析ができるものです。また、煮熟増加比は小豆の煮え易さの指標となる特性値ですが、小豆全粒の近赤外吸収スペクトルを解析することで測定できることが示されました。
 一方、小豆の種皮色はできたあんの色や見栄えに影響するものです。この種皮色を簡易に表示する方法について検討しました。従来の色の表示法からでは実際の色調のイメージが描きづらく、表示された数値の差がどれほどの色調の違いとなるか把握することが困難でした。そこで、明度および彩度を座標軸とした2次元の色調空間を用いて、A1(明るい)からE5(暗い)までの種皮色区分を作成しました。この種皮色の区分化によって、種皮色の違いを簡単に表示できます。農協などが農産物を受け入れする段階やその後に製品として調整し流通する過程で、この表示方法が小豆の品種や生産年次あるいは栽培地によって異なる種皮色の差をより明確に把握する上で有効であるとの結果を得ました。将来的には、小豆の加工適性を全粒分析によって非破壊的に評価できる簡便な装置の実用化や、種皮色区分を基にしたカラーチャートの作成によって、農業生産現場でも簡易か つ迅速に品質特性の評価のできることが期待できます。

2. 画像解析による米飯の白さとつやの評価法

図1 黒い米・白い米  ご飯のおいしさは、ご飯の粘り・硬さ・舌ざわりなどの物性および味や香り等の味覚的要素に加え、ご飯の白さやつやなどの視覚的要素から判断されています。そのため、ご飯の食味官能検査にはこれらの項目が検査されます。しかし、人間の五感によって判断される項目の正確なデータを得るには、困難な問題が常につきまとっています。今回、ご飯の白さやつやといった視覚的な項目について、画像解析技術を応用しその客観的評価法を開発しようとしました。図1のAとBは炊飯した米の表面の写真ですが、Aは黒っぽくつやに乏しいご飯であるのに対して、Bは白くつやの多いご飯です。白さは画像全体の明るさと関係があるのではないかと予想し、平均輝度の測定をおこないました。A、B2つの画像の輝度分布を図2に示しましたが、Aに比較してBの平均輝度は高く、ご飯全体の白さの違いが説明できると期待できました。一方、人の眼につやと映る部位は、ご飯の表面の強く輝く部分で、周辺の部位に比較して輝度が高いことが明らかになりました。そのため、一定以上の高輝度の部位(輝度値180以上)を抽出して、その面積を計測することによってつやの量が定量できるものと推察しました。人による官能検査と画像解析の結果を比較したところ、図3に示したように密接な関係が認められました。このことから、これら画像解析を用いることにより米の食味の視覚的要素が数値化できる可能性が示唆されました。

3.食品のテクスチャーの機器測定

テクスチャー測定器  テクスチャーは食物の品質を評価する上で極めて重要な要素です。食物のテクスチャーは人間の感覚で評価されるものですが、個人による評価では普遍性がなく、科学的に客観性を持った評価法が必要です。食感を数値化するのに適した測定機器の開発、測定法の技術、測定後の解釈等の進捗は著しいものがあります。
 しかし、テクスチャー測定は人間の咀嚼をシミュレートした測定法ではありますが、測定機器によっては人間の感覚とはやや異なった結果を導き出す可能性があります。さらにテクスチャー測定といえども、試料のサンプリングなど測定にとり掛かるまでの手順、測定部位、測定物体の形状、測定回数などは、実験者がそれぞれ決めなければなりません。そのため、テクスチャー測定方法の標準化が待たれるところです。

4. この他の成果

 米では、貯蔵中や流通段階で品質が落ちずに良食味を維持するための技術開発しました。新しい食味評価法について試験中ですが、さらに蛋白質の内容、組成と食味の関係、アレルゲン性の関係について検討中です。また、お米も外食産業で消費される割合は3割近くありますので、北海道産米も業務用米飯として新しい用途を拡大するために、冷凍食品に合った特性値について研究中です。小麦は収穫期前に低温、高湿度条件におかれると粘りの少ないいわゆる低アミロ小麦になります。この低アミロ小麦の特性を明らかにし、低アミロ小麦の簡易迅速検定法を開発し、さらに、小麦の低アミロ耐性の要因解析をすることで、その発生予測技術の開発と穂発芽耐性を持つ小麦の育種を応援しています。豆については、北海道産雑豆類の製餡や煮豆への加工適性明らかにし、貯蔵における変化を追跡中です。ばれいしょでん粉の品質特性を明らかにし、水煮ばれいしょの硬さ評価のため測定技術を示しました。一方、新たな用途であるカット・ピール向けばれいしょの加工適性の検討を行いました。クリーン農業の一環として有機栽培等農産物(ばれいしょ、トマト、ほうれんそう)の品質調査を行い問題点を指摘しました。さらにキャベツ、ほうれんそうなどについて流通における変化も含め検討中です。野菜については道産野菜の品質実態を調査しています。メロンの硬さを打音で判定して食べ頃を表示できないかとか、ごぼうについて、貯蔵と食物繊維、オリゴ糖類の消長の関係について検討しています。

5. 今後の品質評価について

 農産物の品質評価は、成分表示が簡易、迅速、正確であるばかりでなく、評価項目が農産物の特性を分かりやすく表していること、表示された成分が確実に保証されることが求められるでしょう。それに応えるためには、実用的な品質測定法を開発することと、道内産農産物の品質の実態を把握し、農産物の収穫後生理の解明や輸送貯蔵環境の標準化をはかっていくことです。近赤外分光法など非破壊的分析方法はリアルタイムで答が得られ、多数のサンプルを測定するのに適しています。現在は、米、小麦、小豆などで使用していますが、野菜などでも作物毎に成分測定法を確立していくこと。また、その非破壊的分析が可能な特徴を生かして、生産現場でできる果実類、果実的野菜の糖分、酸度測定であるとか、選果作業に利用されるような測定技術を他の研究部門と共同で開発していく必要があります。また、簡易かつ迅速で誰でもできる品質判定法として、破壊的方法ですが、数分で答が出せる試験紙の比色判定を小型反射式測定器など利用し、現場で利用できる標準化された技術にしていくことも挙げられます。おいしさの評価については、さらに科学的根拠に基づき客観性を持った評価法の開発を進め、あらたに農産物の機能性の評価にも取り組んでいきます。

(農産化学部)


研究の成果

サテライトRNAを利用した弱毒ウイルスの作出

-メロンモザイク病について-

ポリアクリルアミドゲル電気泳動  キュウリモザイクウイルス(CMV)はメロンモザイク病の主要な病原であります。本ウイルスは多くのアブラムシ類によって伝搬されますが、殺虫剤の散布だけではウイルス病を防ぐことができません。
 植物がある種のウイルスに感染していると、同じウイルスの他の系統には感染しない(これを干渉作用という)現象があります。そこで弱毒化したCMVをあらかじめメロンに接種しておくことにより、その後の強毒CMVの感染を防ぐ方法が研究されています。CMVは通常分子量の異なる4つのRNAから構成されていますが、なかには5番目のサテライトRNAを含むものもあります。このサテライトRNAは、感染後植物体内のCMVの増殖を抑え、病徴を軽くする働きをします。そこで野外のCMVに感染した多数の植物からサテライトRNAを探索し、メロンから分離したサテライトRNAを持たないCMVに付加して弱毒ウイルスを作出しました。この弱毒ウイルスはメロン葉のモザイク病徴を軽減させたうえ、他の主要作物にも全く病徴を現しませんでした。しかしながら、メロンの果実に対しては時々軽いモザイク病徴を現すことがあります。
 メロンは定植から収穫までの生育期間が長いため、強毒CMVからの感染を防ぐに持続期間の長い安定した弱毒ウイルスの作出が今後望まれます。    

(中央農試 病理科)



平成9年度組織改正に伴う


中央農試企画情報室及び農業改良課の事務分担

 6月の道庁人事異動で、本庁農業改良課の参事、主幹、主査の職に試験場から研究職3名が配置されました。これら研究職の役割は、研究者としての専門的な知識と経験を生かして、中長期の研究計画や整備計画の企画立案に係わる調査研究や本庁農政部などの関係課ならびに関係機関との連携を図り,情報収集にあたるものです。
 これに伴い、企画情報室は企画課と調整課が合併して企画調整課となり、情報課との二課体制に縮小されました。主な業務は、各場の研究部長が掌握する研究課題の立案や実施に係わる連絡調整と中央農試場長の権限のもとで行う道立農試の意志決定や総合連絡調整に係わる事務局のほか、対外的な窓口業務と研究情報の管理です。
 これらの組織改正は、農業に対する社会的なニーズの変化や内外の農業環境の変化に農業試験場が適切に対応していく必要性が生じてきていることによります。
 新体制となり、なにかと不慣れで行き届かない面があろうかと思いますが、ご指導、ご協力のほどよろしくお願いします。

(企画調整課)



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