No.33 1998.12.21

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより



早春の小麦畑(4月下旬)北海道の小麦作付け面積と収量の推移
コンバインによる小麦の収穫風景道産小麦を使ったいろいろな商品

北海道の小麦


 小麦はそのユニークな特性から多くの食品に加工され、われわれの食卓を豊かにしてくれています。小麦粉は水や他の原料と混ぜられて生地となり、それを延ばして切るとうどんや素麺のようなめん類に、発酵させて焼くとパンに姿を変えます。その他にもケーキ、クッキー、和菓子に、家庭で使う数々の小麦粉製品に、さらには粒のまま醤油の原料にも使われています。
 北海道は国内産小麦の約6割を生産しており、国内で最も大きな小麦の産地となっています。北海道の小麦作は水田の転換作物としても作付けされていますが、主として畑地で栽培されており、病害虫や雑草の発生を抑えたり、地力維持のための輪作においてなくてはならない作物です。国内産小麦の生産量は近年では1989年産をピークに減少してきており、自給率は7%台まで低下しています。
 日本は足りない分をアメリカ、カナダ、オーストラリアの三国から輸入していますが、これらの主要な小麦生産国では輸出先の要望に合わせて多様な小麦を輸出しており、国内産小麦は価格の面でも品質の面でも、常にこれらの外国産小麦と比較されてきました。今後行われるWTO交渉では輸入障壁の更なる削減、農産物の価格支持政策の変更が求められるものと予想されます。国内産小麦では優位に立っている道産小麦も、将来にわたって生き残るためには多くの課題を抱えていおり、高品質かつ多収で安定的に生産が可能な小麦に対する要望はますます大きくなってきています。
 道立農業試験場では、これらの要望にあった品種の開発や栽培法・施肥管理技術、病害虫防除法の改良・開発に取り組んでいます。これからは、国内産農産物が安全性の面で注目されているように、クリーン農業に対する期待もいっそう大きくなると思われます。従ってこれらの要望や期待に応えることが、魅力ある道産小麦を育てることにつながっていくものと確信しています。

(北海道立北見農業試験場)


研究の展望

需要拡大のための
魅力ある北海道産小麦の開発

 民間流通(生産者と実需者の直接取引)への移行により、小麦の検査制度や価格決定の仕組みが品質を重視したものに変更されます。作れば売れる時代が終わり、いかに魅力的な小麦を作れるかに今後の北海道の小麦作の維持、発展がかかっています。

1.北海道における小麦の品種開発


 北海道の小麦は、明治以降に導入されたアメリカ品種やそれらから育成された品種が基礎となっています。昭和29年に育成された秋まき小麦の「北栄」は、従来の品種より短強稈で多肥・密植による栽培が可能となり、その後、「ムカコムギ(S44年育成)」、「ホロシリコムギ(S49)」が育成され、道産小麦の収量は飛躍的に向上しました。また、春まき小麦でも短強稈多収の「ハルユタカ(S60)」が育成されています。北海道の平均反収は、昭和30年代には 200kg/10aを越え、昭和50年代には 300kg/10aを、昭和60年以降は年によっては 400kg/10aを越えるようになりました。昭和50年代になって国の麦作振興や水田転作により、小麦の作付け面積が急激に増加したこともあり、道産小麦の品質が問題となってきました。当時の小麦の品質はパンにもめんにも優れたものではありませんでした。北見農試では昭和54年から秋まき小麦の育種目標を製パン用から製めん用に変更し、育成系統の中から製めん性に優れた「チホクコムギ」を見いだしました。「チホクコムギ」の育成により、道産小麦は国内産小麦では最も品質が良いと評価されるようになりました。「チホクコムギ」は製めん性が優れ、多収の品種ではありましたが耐病性、耐穂発芽性に弱点があり、また、外国産小麦と比較すると品質も劣りました。その後、チホクコムギの品質を更に改良した「タイセツコムギ(H2)」、収量や農業特性を改良した「ホクシン(H6)」を、また、春まき小麦ではハルユタカの品質、耐穂発芽性を改良した「春のあけぼの(H5)」を育成しました。しかし、小麦の価格の低下や数年後に予定されている民間流通の移行に対処するためには、今以上に多収・高品質でかつ収量・品質が安定している品種が強く求められています。

2.高品質化のための品種開発

(1)めん用良粉色小麦の開発
 めん用小麦は小麦粉の色が非常に重要とされます。小麦粉の色が直接、うどん等のめんの色に影響するためです。小麦は製粉されるため種皮や粒の色々な性質が粉の色に影響を及ぼします。また、気象条件や穂発芽の被害、粒の蛋白含量等も粉の色に影響を与えます。北見農試では粉となる胚乳部分の色の改良により、「タイセツコムギ」のようにASW(オーストラリア産めん用銘柄)に近い粉色のものを育成しています。現在は機器分析により少量で粉色が検定できる方法を確立し、効率的に選抜が行えるようになりました。


粉色の色差(△E2)とめん色の関係
粉色の色差(△E2)とめん色の関係


(2)製パン性向上のための蛋白の改良
 カナダ、アメリカから輸入される小麦は、食パン等日本で食べられるパンには最も適したものです。北海道の春まき小麦は蛋白が高く、国内産では製パン性が最も優れていますが穂発芽の被害を受けやすく、収量・品質の安定性が劣ることが問題となっています。


電気泳導によるHMWグルテニンサブユニットの検定
電気泳導によるHMWグルテニンサブユニットの検定


製パン性については蛋白含有量の他に特定の蛋白質とパン体積等の関連が研究されており、特に高分子グルテニンの影響が大きいとされています。北見農試で育成した「春のあけぼの」は日本で初めてこれらの改良を行った品種です。

3.安定多収のための品種開発

 品質がいかに優れていても、収量が不安定では高品質の小麦とはいえません。また、小麦の収益性が低下しており多収性もまた大事な形質です。収量の安定性では、雨による穂発芽の被害と各種雪腐病の被害が問題となります。また、近年では登熟期の気象条件が不良の年が多く、赤かび病の被害も多くなってきています。


(1)穂発芽抵抗性品種の育成
 北見農試では、昭和50年代から人工降雨処理による穂発芽性の検定、選抜を行ってきました。この方法は圃場から取ってきた穂を恒温室で雨濡れさせ、人工的に穂発芽させることにより抵抗性の強弱を調べるものです。現在では圃場で選抜した全ての系統・個体について穂発芽検定を行っています。このような方法で、今までに既存の品種よりも1~2ランク強い系統を育成しています。平成7年から始まった新しい課題では、小麦の中で最も穂発芽に強い国内外の春まき小麦の抵抗性を秋まき小麦に導入する試験を行っています。穂発芽被害を避けるには、収穫期に雨にあたらないように熟期を早くすることも一つの方法です。「ホクシン」は「チホクコムギ」より熟期が4日程度早く、過去3か年においては穂発芽の被害をかなり少なくしたと考えられています。


人工降雨処理による穂発芽抵抗性小麦の選抜
人工降雨処理による穂発芽抵抗性小麦の選抜


(2)雪腐病抵抗性品種の育成
 現在最も作付けされている「ホクシン」は各種雪腐病に強く、種子消毒や雪腐病防除を的確に行っていれば「チホクコムギ」より被害がかなり軽減できます。しかし、雪の多い道央、道北部では、根雪前の天候により雪腐病が防除できないことも多く、更に強い抵抗性の品種が必要です。現在、実施している北海道グリーンバイオ研究所、上川農試との共同研究において雪腐病抵抗性極強の遺伝資源を用いて、半数体育種法により短期間で既存の品種よりも雪腐病に強い系統の開発を行っています。育成中の材料はまだ改良が必要ですが、更に交配、選抜を繰り返すことにより、雪腐病の無防除栽培の可能性も見いだせるのではないかと考えています。

秋まき小麦の生産力試験(北見農試)
秋まき小麦の生産力試験(北見農試)


(3)赤かび病抵抗性品種の育成
 赤かび病は出穂後、降雨・曇天が多く、気温が低い時に発生が多くなります。赤かび病は赤かび病菌が小麦粒に付着し、品質を落とすのも問題ですが、発病がひどい場合はくず粒、細粒が多くなり、収量を大きく減少させます。赤かび病の抵抗性の遺伝資源は非常に限られており、残念ながら赤かび病菌に対し完全に抵抗性を持つものはありません。赤かび病の発生は気象条件に大きく左右されるため検定が難しいのですが、北見農試病虫科の研究により、

赤かび病に罹病した小麦の穂の検定
赤かび病に罹病した小麦の穂の検定


赤かび菌の接種、遮光ハウス内での灌水等を組み合わせた検定法を開発しました。また、来年より国内外の研究機関と協力しながら抵抗性に関する試験を行う予定です。


4.需要の拡大を目指して


 小麦は製粉されパンやめん等に加工されるため、実需側にとっては品質が最も重要ですし、生産量が安定し、一定量を毎年きちんと確保することも大事です。小麦の品質は品種以外にも栽培の仕方によっても変動します。小麦では蛋白含量が品質に影響を与えるため、用途に合わせた、きめ細かい対応が必要です。遅まきや不必要な窒素施肥は品質を落とすばかりでなく、熟期を遅らせ、穂発芽に合う危険性が高まります。民間流通に移行してからでなく、移行する前から適正な栽培法により「ホクシン」を始めとする品種の評価を高めていくことが、今後の道産小麦に非常に重要です。生産者の方々を始め、関係する機関が連携して道産小麦の評価を高めることにより、需要の拡大と価格の安定が図ることができます。

5.最後に

 今回は小麦育種の中の一部分の課題を取り上げたにすぎません。収量や品質に関わる形質は数多くありますし、他にも重要な病害があります。育種で最も難しいのは沢山の有用な形質・遺伝子を一つの小麦に集積することです。新品種という答えを出すには、多くの分野の知識や技術と数々の試験を必要とします。道立農試では関係する試験場あるいは関係機関と協力して、より多収安定で品質の良い品種の開発、収量品質安定のための栽培法の開発を行い、魅力ある道産小麦作りをバックアップしていきたいと考えています。


(北海道立北見農業試験場)

小麦の品質検定室
小麦の品質検定室(北見農試)



研究の成果

イネドロオイムシの簡便な防除要否判定法


 クリーン農業時代の病害虫防除は「発生対応型防除」、つまり発生状況に応じた防除を行うことが基本です。イネドロオイムシは、食害されたイネの様子が大変目立ち、薬剤の防除効果が比較的高いこともあって、過剰に防除されやすい害虫ですが、既に要防除水準が設定されており、実害もわずかなので、「発生対応型防除」で対処すべき典型的な害虫です。
 ただ、それでも防除要否の判定の仕方が判らないとか、判定調査に手間がかかるという声がありますので、中央農試・上川農試と病害虫防除所では、生産者自らが実施できる簡便な防除要否判定法を作り、「北の虫見番」というマニュアルにしました。
 イネドロオイムシの防除要否は、6~7月に産卵される卵塊の数によって判断します。「虫見番」では、いつ(時期)、どこで(場所)、どんな調査をするかが示されています。年変動する調査適期は、気温を使った早見表と孵化状況から判断します。調査場所は、イネの生育や環境の異なる水田から選びます。調査場所を決めたら、専用の調査用紙を使って、5~10株で要否を判定します。この方法は、逐次抽出調査法を利用したもので、従来の方法よりごく少ない株数で判定できます。
 この「北の虫見番」は病害虫防除所が用意しています。防除作業より楽で、しかも結果として防除不要と判断される場合が多いので、ぜひお試し下さい。

(中央農業試験場 稲作部)
これが卵塊だ多発株
これが卵塊だ!
多発株
こうなったら防除する!



hagres

政策評価の実施について

 道は、平成10年度から道政改革の一環として、道の施策を政策的な視点から点検・評価する政策評価(「政策のアセスメント」)を開始しました。
 これは、道における効率的な政策展開の必要性や情報の共有化・公開や財政健全化の推進に対応していくためのものです。
 本年度は、道が実施しているすべての施策を対象とした統一的で、より客観的な政策評価システムの構築に向けた「試行」が、政策評価システムの導入に向けた条件整備、政策情報の共有化、施策の優先度の設定、徹底した事務事業の見直しなどの視点に立って実施されています。
 政策評価においては、事業担当部局が事業ごとに目的の達成度や事業の必要性、改善・見直し等の方向性などについての評価(一次評価)と事業の優先度の判定を行い、評価担当部局が第三者の意見などを踏まえて2次評価(1次評価結果の点検・評価)を行いました。 道立農業試験場の試験研究予算についても、予算事業を単位とした評価が行われ、この結果は、11年度の予算編成などにも反映されることになっています。
 また、道立農試としては、「新研究基本計画(10年3月)」に基づき継続課題についての「研究のアセスメント」を実施していくこととしており、この政策評価との関係を整理していくこととしています。
 いずれにしても、道政改革の実施方針に基づく財政健全化推進方策や職員数適正化計画などと併せ、今回の政策評価の実施により、道立農試におけるより効率的な試験研究の推進や研究体制の確立が強く求められています。
(企画情報室)



Leter HAGRES一覧へ戻る
農業技術情報広場へ戻る