No.37 2002.10.31 ISSN 0914-8418


特集 道立農試技術体系化チーム

 地域農業の振興を支援する試験研究の展望

                中央農業試験場副場長 市川信雄

  北海道立農業試験場では,北海道農業・農村振興条例を踏まえた「北海道立農業試験場新研究基本計画(平成10 年3 月策定)」に基づき平成12 年4 月に機構改正を実施しました。

  新研究基本計画の特徴は,「高収益農業の推進」,「クリーン農業の推進」に加え,「地域農業の振興」を3 本柱とし,地域農業の振興に当たっては,支援機能とそのためのプロジェクト研究を強化すべきことを示した点にあります。このため,機構改正は専門技術員を中心とした技術普及部を9 場に新設すると共に,この中に地元の関係機関との連携・協力の下,地域に密着した技術の組み立てとその実証などを行う技術体系化チームを編成しました。本チームは課題毎に専門技術員と研究員の兼務発令者で構成し,終了後,速やかに解散するなど機動性を旨としています。

  技術体系化チーム発足以来,2 年6 か月が経過した現在,活動は順調に進展し,成果を挙げつつあります。当初,新しい体制への認識や経験の不足もあり,運営は多難な時期もありましたが,その後,協力機関の一つである農業改良普及センターの機構改正により普及体制が個別農家対応型から地域営農対応型にシフトしたことやチーム員の尽力および関係機関の理解と協力も進み,その活動は地に着いたものとなりました。その結果,「デルフィニウムの夜冷育苗利用による秋切り栽培」,「集約放牧技術の現地実証と経営評価」,「上川北部地域における野菜栽培導入技術」,「ネグサレセンチュウ被害の実態と対 抗植物の利用技術」などの成果を公表するに至っております。短期間にこれだけの実績を挙げたことは,技術体系化の取り組みに一定の展望が開けたと云えます。

 このチームの試験研究は,既存の開発技術を中心に改良・組み立てを行い,地域の立地条件に適した農業技術の体系化を目指すことを目的としています。現在,この趣旨に沿って全道で27 課題の研究テーマに取り組んでおり,その成果が大いに期待されている所です。しかし,一方では多くの研究テーマを抱え,チームの研究推進力が限界にあるほか,地域ニーズを反映させる課題設定の仕組み作りや既存技術を体系化した成果の公表の仕方など,解決すべき課題もあります。

 このような状態にある技術体系化チームにこれ以上の役割を担わせることは,事実上,困難ですが,将来的には地域で必要な技術や解決すべき問題点などの情報収集に加え,体系化された研究成果の伝達・周知などの役割も担ってほしいものです。

 現状の農業情勢を踏まえると,今後の北海道農業には,より一層の収益性と環境保全を追求する必要があることから,現状より低コスト・高品質・多収で,かつ高度なクリーン農業技術の実践が求められています。体系化チームはこの要望に沿って各分野で開発された技術の体系・総合化の試験を実施するのみならず,体系化された農業技術が地域のスタンダードになり得るような取り組みも進めてほしいと考えています。さらに,技術開発の方向を見極めるために,生産現場のニーズ・情報の収集に加え,活用されていない過去の研究成果を点検し,体系化技術への活用を検討することもチームの大切な任務となります。

  いずれにしても,技術体系化チームは課せられた重責を再認識し,地域の生産者や関係機関との強い連携・協力のもとで地域農業の発展のためにより精力的な活動を展開する事が期待されています。





地域に適した農業技術の導入と実証および体系化
各場の取り組み状況 各農試技術普及部次長


地域農業をパワーアップin 道央
 中央農試 寺元信幸

  石狩・空知・後志・胆振・日高の道央圏5 支庁を担当する中央農試では、地域で展開される多種多様な農業を支援するため、3 つの技術体系化チームが設置されています。
  第1 のチームは、水田地帯における複合経営の安定を図るため、長沼町の大型水田において、米と麦・大豆などの転作畑作物の収量、品質の向上を目指して田畑輪換技術を体系化し、実証しようと取り組んでいます。第2 のチームは、野菜を中心に経営規模が比較的小さい農業が展開されている洞爺村において、有機・減農薬栽培を行うための技術支援を実施しています。第3 のチームは、国内有数の生食用馬鈴しょ産地である羊蹄山麓地域において、畑作物の品質改善、規格の向上を図るため、施肥法の改善や適正な輪作の実証を技術支援しています。


道北圏 活気あふれる農業・農村をめざして
 上川農試 新橋 登

  上川北部地域(テッペンランド)は重粘性土壌が多く、作物の安定生産のためには圃場の透排水性改善が欠かせません。ここでは休閑緑肥や簡易耕耘法を組み入れた畑作物・野菜類の輪作体系実証試験を実施しています。一方、上川中央部では、より高品質な野菜生産振興や稲作経営面積の拡大のため、水稲直播栽培法の導入によって労力分散をはかる必要があります。そこで直播栽培の地域課題の解決や不耕起直播栽培導入試験にも取り組んでいます。さらに、上川町ではアスパラの立茎栽培法や新作型を試みています。高原の清涼な気象や豊富な堆肥を活用し、クリーン「大雪高原野菜」産地作りをめざしています。
  これら技術体系化チームの取り組みにより、活気あふれる道北圏農業の確立が期待されます。


人と環境にやさしい農業で地域を活性化
 道南農試 大村邦男

①JA 、町、普及センターと協議会を設立して「台の上の畑で、養水分が自動的に供給されるらくらくいちご栽培」に取り組んでいます。この養液土耕栽培システムは、潅水の省力化と効率的な施肥管理を可能にします。また、高設栽培は、立ったままで管理・収穫ができるため、農作業の労力負担を軽減します。
②JA 、4H クラブ、普及センターとともに「作物と環境にやさしいトマト栽培法」の普及をめざしています。トマト葉柄の搾汁液を用いた簡易分析で、現場での栄養診断が可能になりました。従来の経験的な勘に頼る肥培管理から、トマトの生育に合わせた管理で、容易に安定生産と品質向上が図られます。また、無駄のない施肥が行われるため、生産効率が高まるとともに、過剰な施肥に伴う環境負荷が軽減されます。


十勝畑作・野菜の安定多収、高品質化にむけて
 十勝農試 三木直倫

  十勝農試技術体系化チームは、畑輪作体系への休閑緑肥導入の意義、経済効果に関する持続的畑作農業確立のための総合的実証試験を実施しています。また、畑作の基 幹作物である秋まき小麦は民間流通に伴い品質の安定化(適正蛋白、高アミロ化)が急務であるとともに、多収をめざした技術組み立てが望まれています。これに関して土地改良、微量要素供給改善、新たな栽植様式の導入、起生期土壌の無機態窒素診断と効果的窒素施肥配分、倒伏危険性予測等を組み込んだ実証試験に取り組んでいます。さらに、従来、ポリエチレンネットを使ったながいも茎葉は野焼きが主体でしたが、生分解性ネットを用いた茎葉の迅速梱包・急速堆肥化による十勝産ながいものクリーンアップをめざした技術組み立て試験を今秋より開始します。


ここはMilk Land 、ヒトとウシとの共働戦線で
 根釧農試 山川政明

  根釧地域はウシに関係するあらゆる部門の人的資源が豊富です。技術体系化チームは、地域の課題解決に向けて、地域の人びととウシが共働する新しい枠組みで展開しています。根釧農試が取り組んでいる技術体系化課題のうち、「乳検情報と周産期モニタリングを利用した乳牛の繁殖性向上」は、別海農協、NOSAI 、根室生産連、道酪検協会などと共に、繁殖障害を回避するために乳検情報と牛の健康状態を組み合わせたモニタリングシステムの作成を目指しています。「家畜ふん尿処理・活用技術の実証による環境保全型酪農経営の確立」では、標茶町、標茶農協などと共に、平成16 年秋の家畜排せつ物法の管理基準適用までに地域におけるふん尿処理計画の策定と適正なふん尿処理技術の導入を支援しています。


オホーツク圏農業の持続的発展を目指して
 北見農試 土屋俊雄

  網走管内の畑作は秋播小麦、てん菜、馬鈴しょの3 作物が中心で短期輪作の割合が高く、また有機物施用量の不足から地力の低下や各種病害の増加など収量および品質 向上の障害となっています。体系化チームでは地域農業の振興をより一層支援するため農業改良普及センターや地域の農業関係者などと連携し、小清水町・美幌町では健全な土づくりと輪作体系を確立するため休閑緑肥の導入、佐呂間町では大豆作の導入による輪作体系の確立と高品質・安定多収の生産技術の実証に係る事業を行っています。また、管内の特産作物である白花豆の大粒化に有効な窒素追肥技術とその機械体系に関する地域要望課題への対応、さらに緊急課題としてタマネギの産地廃棄に係る追跡調査を実施し適切な処理法の確立に向けた調査を行っています。


集約放牧の技術体系化と普及・定着
 天北農試 竹田芳彦

  本道の酪農は飼養頭数の増加に伴い、省力化や飼養方法の転換のため舎飼・フリーストール飼養がひとつの方向となっています。一方、中規模指向が強い天北地域では、地域条件を活かした放牧飼養が夏期間の主要な飼養形態になっていることから、当場は高品質自給飼料生産の推進と収益性・省力化で勝る集約放牧の技術体系化と普及・定着を目指しています。
  集約放牧に係る個別技術の体系化の中で平成11 年には「放牧モデル」を組み立て、技術体系化チームが酪農家でその妥当性を検証し、14 年には「放牧の手引き」を作成しました。1 5 年開始のプロジェクトではこれに基づき放牧経営への移行過程を検証し、同時に実施される技術開発の成果とともに集約放牧技術の普及・定着を加速させる計画で準備中です。


簡易なふん尿施設の開発と肉牛生産基盤の拡大
 畜産試 宮崎 元

  「家畜排せつ法」が施行され、家畜から毎日排せつされるふん尿を適切に処理し、有効活用する事が求められています。そこで、家畜ふん尿を低コストで簡易な施設で貯留することを目的に、シート利用の施設を提案し、生産現場における早期普及を目指した取り組みを実施中です。また十勝のふん尿処理の考え方や利用促進方策についても検討しています。
  一方、北海道の土地資源(副産物)等を生かした肉牛の生産拡大が求められています。そのため、稲作地帯においては稲わら等の地域資源を活用した新規繁殖経営の開始、また十勝においては受精卵移植技術を活用した黒毛和種子牛の発育向上および疾病の低減化による産地形成支援を通じて、黒毛和種生産の量的・質的な取り組みを進めています。


花・野菜生産振興に向けた産地支援
 花・野菜技術センター 兼平 修

  花・野菜部門を取り巻く情勢は、近年厳しくなっています。産地活性化を図るため、普及センターと協力して、現在、3 課題に取り組んでいます。「宿根かすみそう多茎仕立て技術導入」、「メロンつる割病抵抗性台木「どうだい2号」普及」の2 課題については、成果をより現状に即応した技術体系に作る技術導入型として位置づけています。中央農試生産システム部経営科と共同の試験課題「道央水田地帯における複合的施設園芸作物の導入の経営・技術指針」では、トマト、グリーンアスパラガス、こまつなの導入による経営複合化を促進するため、経営・栽培技術指針を策定することを目的とし、現地で問題点を探索しながら解決する問題解決型と位置づけ、試験に取り組んでいます。







 北海道農業試験研究機関創立100 周年記念行事

                中央農業試験場副場長 安藤 紘

  去る9 月6 日、札幌市のホテルニューオータニ札幌において、独立行政法人農業技術研究機構北海道農業研究センターと北海道立農業試験場の共催で「北海道農業試験研究機関創立100 周年記念行事」が挙行されました。

  これは、1901 年(明治34 年)札幌に北海道農事試験場が開設され、本格的に農業の試験研究体制が整備されてから、100 年が経過したことを記念し開催されたもので、当日は、記念式典、記念講演、記念祝賀会が行われ、北海道農業研究センター、道立農業試験場の現職、OB はもとより農林水産省や北海道の関係部課をはじめ市町村、農協、農業団体、試験研究機関、大学等の関係者など約400 名の参列をいただき、盛会裡に終了しました。

  式典では、農業技術研究機構北部地域研究担当滝本理事の開式の辞に続き、農業技術研究機構三輪理事長による式辞、堀北海道知事による挨拶の後、武部農林水産大臣(代読:農林水産技術会議事務局西川研究総務官)、北海道市長会桂会長(代読:林滝川市長)、北海道農業協同組合中央会宮田会長(代読:戸塚常務)の3 名の方から祝辞をいただきました。

  その後、来賓紹介、祝電披露があり、「北海道農業試験研究百年の歩み」の報告に続いて、「農業試験研究機関の新しい姿」として、昨年独立行政法人化された北海道農業研究センターと一昨年大幅に機構改革を行った道立農業試験場の現在の体制と取り組み内容について紹介し、最後に、道立中央農業試験場下野場長から参集への謝意を表する閉式の辞があり、式典を終了しました。記念講演は、「いま北海道農業の進路を問う」-技術研究の役割-と題して、北海道大学名誉教授の七戸長生先生による講演が行われました。

  講演の内容は、大変示唆に富むものでした。特に、現在、農業という生産活動がいかに広く深く人間社会の存続に対して根源的につながっているかという観点が改めて評価されようという時に、古めかしい農学の枠組みにこだわらず、多様な観点、視角から農業の新しい展開の可能性を探り、壮大な試験研究を掘り下げていく姿勢が大切である。研究者は、壮大な広がりを持った中の一環を担っているという連帯意識を持って、専門の枠組みに閉じこもらず、自己規制を加えることなく、伸び伸びと努力していくことが大切であり、このような状況の中、試験研究機関に対する期待も大きく広がってきている。

  また、人間社会に対して農業の営みがどのような機能を果たせるのか、それがいかに重要かを複眼的にみながら研究を進めていくのに本道農業のフイールドが大きな意義を持っている。本道農業は、広く日本全体の農業に対してその向かうべき方向を示唆しうる地点に立っているばかりでなく、アジアの国々に対しても、農業の理想的なあり方を如実に示しうる存在であり、その可能性を豊かに内包している地域である。本道の可能性を実現しうるかどうかは、試験研究機関の活動如何にかかっていることなどが力強く述べられました。

  最後の祝賀会は、滝本理事の挨拶の後、北海道開発局三野次長、木村北海道農業試験場OB 代表、中山道立農業試験場OB 代表から祝辞をいただき、ホクレン農業協同組合連合会奥村副会長の乾杯で開宴され、北海道農業研究センターや道立農業試験場で開発された農畜産物を使用した料理などが提供される中、和やかに交歓が行われ、北海道大学大学院大田原農学研究科長の乾杯で閉会し、当日の全日程を終了しました。

  参列の方々は、一様に、本道農業の発展を支える技術開発と普及のため、今後とも、北海道農業研究センターと道立農業試験場の連携と分担の重要性を指摘し、その研究成果に期待を表明していたのが印象的でありました。


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