は じ め に

  この成績書は、「突発および新発生病害虫診断試験」により調査した結果を取りまとめたもので、主たる目的は、正しい診断により的確な対策の根拠を示すことにあります。結果として、診断内容の偏り、診断が難かしいものや、対応技術がないもの、地域実情から対応困難な場合、さまざまなものが現れますが、それらは北海道農業とそれに関わる技術者の変化の兆候を示すものと理解されます。各地から見ると、近年の病害虫の発生の傾向や、他地域での類似病害虫の発生を読み取ることもできましょう。あわせて、地域における病害虫の発生実態、あるいは関心度合いなどをかいま見ることができます。また、この診断を通じて、農試研究員が農業生産現場で起きている具体的課題を理解する一助になるものと考えています。

 診断結果を概観してみると、いくつかの特徴が見えます。

1)野菜・花類など、地域で不慣れな作物が多い:新たな地域での栽培ですから、不慣れな栽培者が生育の異常を見るのは当然でしょう。ただし、この中には、苗や種子を他府県の栽培者から持ち込むことで、新たな病害虫が発生する事例もあります。府県の病害虫の動向にも注意を払うとともに、移入苗などでは導入後しばらくは監視すべきでしょう。判別の難しいウイルス病などの早期診断技術の開発の必要もあります。

2)土壌伝染性病害虫の診断例が多い:土壌病害では作物の外観では分かりにくいものが多いのですが、圃場内分布、品種、種苗の由来、苗床資材の由来など、多くの状況証拠を調べておくと判定の参考になります。土壌病害虫は連作・過作により顕在化することが多いため、栽培体系のあり方にも注意が必要です。

3)原因不明、あるいは病害虫が原因ではない:原因不明となる理由は二つあります。ひとつは、持ち込みのサンプルや情報が不充分で病害虫の特定には至らない場合、もう一つは、栽培環境に対する配慮が不充分で異常が起きたもの、と思われます。前者は、適切な状態のサンプルを多めに持ち込み、状況証拠となりそうな情報を調べておくこと、後者は作物にとって適切な栽培法とその環境を勉強しておくことでしょう。

 診断依頼書に栽培法や種苗の由来などを詳しく記入できるようになっているのは、診断にとって重要な手がかりを知るためです。適切なサンプルとあわせると、的確な診断ができる確率が高まりますので、丁寧な記載をお願いします。

 多発病害虫の、当面の傾向と対策、および長期的展望に立った対策を、関係機関の皆様とともに考える上で、早期に察知できるこのようなシステムを今後ともご支援下さるようお願いいたします。

   平成21年6月

        北海道立中央農業試験場
    生産環境部長 中尾弘志