試験研究は今 No.699「サケ稚魚の長距離輸送」(2011年11月04日)

はじめに

 北海道では毎年約10億尾のサケ稚魚が放流されていますが、このうち、道北の留萌管内における放流尾数は約4,000万尾となっております。これまで約半数に当たる2,000万尾を道立水産孵化場道北支場(現さけます・内水面水産試験場道北支場)で稚魚生産し、管内の2次飼育池あるいは海中飼育施設へそれぞれ供給してきました。しかし、サケ増殖事業の民間移管に伴い、道北支場での稚魚生産が中止され、平成22年に真狩村(後志管内)に新設された羊蹄ふ化飼育場において稚魚生産する体制に変更となりました。羊蹄ふ化飼育場で生産されたサケ稚魚(0.7~0.8グラム)を留萌管内の各施設へ輸送する体制となっていますが、最も南に位置する増毛町でも約220キロメートル、最北の遠別町に至っては約320キロメートルと長距離であり、また、輸送尾数も2,240万尾と極めて大量であることから全道的にみてもかつてない試みと言えます。そこで長距離輸送にあたり懸念される輸送タンク内の水質悪化に焦点を絞り、輸送中の水温、DO(溶存酸素量)、pH(水素イオン濃度)、アンモニア態窒素を経時的に調べました。

調査方法

北海道地図
調査は遠別飼育場(遠別町)、初山別飼育場(初山別村)、信砂・暑寒別飼育場(増毛町)の4箇所への輸送時にそれぞれ実施しました(表1)。輸送した稚魚の平均体重は0.7~0.9グラム、収容密度(輸送重量/タンク容量×100)は6.0~7.2パーセントでした。なお、今回の試験では餌止め日数を1日としました。出発時(0時間)、輸送30分後、2.5時間後、5時間後、到着時にそれぞれ水温、DO、pH、電気伝導度を測定し、タンク内の水を採水しました。試水は冷凍保存したのち、後日、アンモニア態窒素(NH4-N)を水質分析しました。
 表 輸送概要
    • 表

結果および考察

輸送中の水温は5~7度の範囲に、DOは概ね8.5 ミリグラム/リットル以上に維持されました。一方、pHは4回の輸送共に2時間後には6.0まで低下しました。ここで出発時のpHは、暑寒別、信砂では飼育池の注水部、初山別、遠別では稚魚の収容直後の値を示しています。飼育池注水部のpHは6.8~6.9ですが、稚魚を収容した直後には6.5~6.6へ低下しました。水質悪化の指標として測定したアンモニア態窒素の値を縦軸に経過時間を横軸にプロットすると時間が経過するとともに値が増加する傾向がみられました。収容密度10パーセントの条件下で輸送した際の調査結果によると2時間後のNH4-N濃度は2 ミリグラム/リットルと報告されています(清水, 1985)。今回の試験でもほぼこれに近い値が得られましたが、さらに時間が経過した7時間後には6.38 ミリグラム/リットルまで増加しました。この値はサケ稚魚にとって問題となる値なのでしょうか?ここで、アンモニアは水中においてNH3(非解離性アンモニア)あるいはNH4+(アンモニウムイオン)という形で存在していますが、このうちNH3が魚類への毒性が強いと言われています。

NH3とNH4+の割合は水温とpHの値で大きく変わり、NH4-N濃度と水温・pHの値からNH3を求めることができます。その値は最大で0.0009ミリグラム/リットルでした。ニジマスを9~12か月飼育した際の最高安全濃度は0.0125ミリグラム/リットルとされていることから今回の値は特に問題となる値ではないと判断されました。NH3の値は水温が高いほど、pHが高いほどその割合が高くなり、酸素濃度が低いほど毒性が増すと報告されています。今回の試験では水温が5~7度、pHが6と低く、加えて酸素量も8.5ミリグラム/リットル以上であったことがNH3の値に良い影響を与えたと考えられます。今後、さらに安全な輸送とするため、餌止め日数を2~3日に増やすなどの対策も検討し、輸送データを蓄積していく予定となっています。

    • 折れ線グラフ
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    • 輸送中の水温・DO・pH・アンモニア態窒素濃度および非解離性アンモニアの経時的推移
(さけます・内水面水産試験場 道北支場 藤原 真)

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