試験研究は今 No.696「道内にも入ってきたワカサギ用の新しい孵化器」(2011年09月02日)

人工孵化の歴史と方法

シュロ盆
図1 シュロ盆 

(縦24センチメートル、横39センチメートル)

現在、ワカサギは全国各地の湖沼、河川、ダム湖等に生息していますが、本来は汽水域に生息する魚です。淡水域でも繁殖が可能であることがわかり、1909年(明治42年)に茨城県涸沼から福島県松川浦へ初めて移殖されて以降、各地で移殖放流されました。

人工孵化には、シュロを張った孵化盆(図1)(以後、シュロ盆と呼びます)に受精卵を付着させ、増殖用の池や湖面等に浮かべて孵化した仔魚を放流する、という方法が広くとられてきました(図2)。この方法は、設置やその後の管理が簡便で、長い間使用されてきました。しかし、ミズカビの発生が広がりやすく、多くの卵が死亡することがある上、どのくらい孵化したのか確認もできません。ミズカビ防止のためには池全体を消毒しなければならず、多くの費用と労力がかかります。また湖面等で管理している場合には消毒もできません。

その後、集約的な管理方法として、卵の付着性をなくしてから円筒形の容器に収容する方法が考案されました。昭和60年頃から東海大学の工藤名誉教授が新たな収容容器の研究を開始し、芦之湖漁業協同組合とともに開発を進め、実用化にこぎつけました。平成14年より株式会社マツイでは「付着沈性卵用孵化装置」として取り扱うようになり、今では全国20ヶ所以上で使われているそうです。この装置は現場の人たちから「ビン式孵化器」と呼ばれることが多く、以後、そのように記します。
    • シュロ盆を池に浮かべている様子
      図2 シュロ盆を池に浮かべている様子

ビン式孵化器導入にあたっての留意点

 ビン式孵化器では、筒の下から注水し、上部から排水します。卵はこの中で、緩やかに対流しています。そのため、飼育に適した水を安定的に注水しなければなりません。また、非常に高密度で卵が収容されているため、停電等で注水が止まってしまうと全ての卵が死亡してしまう危険性があります。さらに、水温の高い場所や濁りなどが多い水ではミズカビが発生しやすくなります。このような注意点はありますが、それ以上に良い点があります。高密度で収容するため、設置面積が少なくてすむ上、注水量も少なくてすみます。さらに、筒が透明なため、いつでも状態を観察することができます。また、1日おきに消毒を行うことで高い生残率を得ることができます。

北海道への導入

平成21年に朱鞠内湖淡水漁業協同組合が導入したのが道内で初めてです。初めはシュロ盆を使っていました。その後、池の底に砂利を敷き、その上へ卵をまく方法も試してみましたが、水カビが広く発生しました。さらにアルテミア水槽を改良した孵化槽も試してみましたが、水の循環が悪く、生残率を向上させることができませんでした。そんな時、同漁協の職員が釣りの雑誌に掲載されていたものを読んでビン式孵化器を知り、芦之湖漁業協同組合へ視察に行き、検討の末、導入しました。朱鞠内湖では飼育水温が低く、孵化まで1ヶ月半ほどかかりますが、消毒を行うことで70〜80パーセントの発眼率が得られているとのことです。 

網走湖への導入

全国各地へのワカサギ卵の出荷数が全国一である網走湖を有する西網走漁業協同組合では、現在使っている施設の老朽化が進んでいることから、平成23年にビン式孵化器を試験的に導入しました(図3)。それまでは、砂利を敷いた池に受精卵をまいていたため、どのくらいの仔魚が放流されていたのか把握できませんでした。今年の孵化間近の生残率を調査したところ、約75パーセントと良好なものでした。さらに、ビン式孵化器では注水の確認を行う漁業者が卵の状態も確認でき、孵化事業への意欲を高める効果も出ています(図3、4)
    • ピン式孵化器
    • ピン式孵化器
 図3 網走湖に導入されたピン式孵化器
左:収容直後 右:孵化近く

ビン式孵化器の今後

生残率調査用に採取した 孵化間近の卵
図4 生残率調査用に採取した 孵化間近の卵
網走湖へ導入されたものは筒が太く、多くの卵が収容できる改良型です。増殖事業を行う場所により、少ない数で細かく採卵していく場所や、多くの卵を一度に収容する場所などさまざまですが、ビン式孵化器は採卵方法や収容卵数にあわせて設置することができます。 

また、本来ワカサギ用に開発されたものですが、アユでも使用されているそうです。沈性卵であれば粘性があってもそれを除去すれば使用することができ、今後、他魚種への使用も広がっていくでしょう。
(さけます・内水面水産試験場 道東内水面グループ  眞野修一)

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