試験研究は今 No.674「イカ内臓から安全なエサを製造して魚を育てる」(2010年10月14日)

はじめに

  イカ内臓はアミノ酸や油脂などの栄養成分が多く含まれており、飼料、釣り餌等に優れた有機質資源としての活用が期待されますが、有害重金属であるカドミウム(Cd)が平均34ミリグラム/kg(水産庁ホームページ公表値)含有しています。そのため、エサとして用いるためには、国で定められた法律の指導基準である2.5ミリグラム/kg 以下になるよう原料加工する必要があります。
 
  イカ加工品の生産が盛んな渡島管内では、年間一万トン程度のイカ内臓を中心とした加工残渣が排出されています。現在その処分費用が年々高くなり、イカ加工業者の負担が一層増加しています。一方、魚類養殖施設や種苗生産施設で使われる配合飼料の主要原料である魚粉は、生産量が減少傾向であり、また中国などでの養殖業のめざましい発展により、近年価格が高騰し続けています。そのため経営コストに占める飼料コストの割合が重くのしかかり、養殖施設の経営を圧迫していることから、魚粉に代わるタンパク源の研究に対して、養殖関係機関から強く要望されています。
    • 図1 飼育試験の様子
      図1 飼育試験の様子

      クロソイ

    • 図1 飼育試験の様子
      図1 飼育試験の様子

      マツカワ

  これまで私たちは、農水省高度化事業(H18~20)の予算によって、工業試験場を中心として、釧路水産試験場、東京海洋大学と連携を図りながらイカ内臓からCdを除去して安全性を高めた飼料 タンパク原料(イカ内臓処理ミール、SLM)の製造法を開発し、クロソイやマツカワ稚魚用のエサとしてのSLMの有効性を飼育試験で検討してきました(図1)。今回は紙面の都合上、クロソイやマツカワのエサとしてのSLMの有効性に関する結果を中心に報告します。なお、イカ内臓からCdを除去する技術については月刊養殖2009年2月号に、飼料品質や魚体の体成分評価については平成20年度釧路水試事業報告書にそれぞれ記載されておりますので、興味のある方は是非ご参照ください。

魚粉代替タンパク源としてのSLMの価値

  私たちは、北海道で重要栽培漁業対象種であるクロソイとマツカワ稚魚を試験魚として、SLMのエサとしての有効性を調べました。実験1では、魚粉をクロソイで80パーセント以上、マツカワで60パーセント以上SLMに置換すると成長、総摂餌量、飼料効率(増重量/総摂餌量×100)が著しく低下し(表1)、血液性状(魚の健康状態の一指標)も低下し、それらの置換割合は過剰であると推察されました。また、SLMの置換割合を一層高めるには、SLMの消化性を一層良くして飼料効率を改善することが必要と考えられました。そこで消化性を改善したSLMを使って実験2を行いました。その結果、実験1の時よりも大幅にSLM置換区の飼料効率が向上し、クロソイでは60パーセントまで、マツカワでは40パーセントまでそれぞれ魚粉をSLMで置換しても、対照区(0パーセント置換区)と終了時の体重や血液性状について同等であることが分かりました。これらのことから、エサ中の魚粉に対してSLMは、クロソイで60パーセント、マツカワで40パーセント程度までは置換できると判断しました。

  表1のクロソイの実験Ⅱにおける飼料効率は置換割合によらず90パーセント前後であり、60パーセント置換区が最も低い値でした。しかし、対照区と同等の成長を示しました。その理由は次のように考えています。まず、実験2の総摂餌量をみると、60パーセント置換区は総摂餌量が0パーセントよりも多いため、0パーセント置換区との成長差が認められなくなったことが考えられます。また、海産魚類の成長促進物質であることが近年分かりつつあるタウリンが、60パーセント置換区の方が対照区の飼料より多く(約4倍、詳細データは未掲載)含まれていたことも影響していると考えられます。
    • 表1
      表1 クロソイおよびマツカワの飼育成績(12週間)

SLMの安全性

  SLMはCdが安全レベルまで除去されていますが、安全性が本当に高いことを実証するために、クロソイとマツカワ魚体中のCd含量を調べました。その結果、クロソイについて可食部の筋肉からはほとんど検出されず、60パーセント置換区の肝臓でも、0.3ミリグラム/kg程度と極めて低い数値となりました(表2)。この数値は、クロソイ稚魚にCd未除去SLMで魚粉の10パーセントを置換した飼料を給餌した場合と同程度でした。Cd未除去SLMの場合は、魚体へのCd蓄積のことを考慮して10パーセントまでしか魚粉を置換できませんでしたが(佐藤ら2006年)、今回は60パーセントまで置換しても安全性に問題ないことを確認できました。また、詳細データは紙面の都合上掲載していませんが、マツカワでもクロソイと同様に可食部へのCd蓄積は認められませんでした。
    • 表2

まとめ

  今回の研究で、SLMは魚粉代替タンパク源として大変有効であること、Cd蓄積性について安全であること、魚粉以上の摂餌促進効果が期待できることが分かりました。水産系廃棄物を魚のエサに有効利用することを検討した知見では、魚粉の10~30パーセントを置き換えられることが明らかとなっており、この点からもSLMの魚粉代替タンパク源としての有効性は高いと考えられます。今後は、養殖飼料の魚粉代替原料としての積極的な有効利用が期待されます。そして、養殖現場での活用を通じ、養殖コスト低減に向けて、養殖魚への給餌効率改善効果などを検討する必要があると考えています。

(栽培水産試験場 調査研究部 生物化学 佐藤敦一)

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