試験研究は今 No.268「日本海沿岸海域のサケ稚魚の生態と環境のモニタリング調査」(1996年6月21日)

日本海沿岸域のサケ稚魚の生態と環境のモニタリング調査

ここは、北海道の北部日本海側にある漁師街の一角です。ごく声よりの雪解けの川水が流や込む波の下で、たった今、川から下ってきたサケの稚魚たちが、群れています。耳をすますと何か話しています。少し、近づいて聞いてみましょう。

サケの太郎「池から川に出るとすぐに海に着いたよ。やっぱり、海水はいいね一。身かひきしまるよ。」
サケの花子「でも、ずいぶん兄弟が少なくなったわね。河口の浅いところでのカモメの襲撃は、さんざんだったわね。」
サケのサブちゃん「俺なんか、あやうく尻尾を摘まれるところだった。やっと、ほっとしたところさ。」
サケの太郎「まだほっとするのは、早いよ。さっき、先に海に降りた先輩に会ったけど、ウグイやホッケという魚が、俺たちをねらっているそうだ。」
サケの花子「わたしも聞いたわ。特に、わたしたちのような、海に出てすぐの稚魚をねらうそうよ。どうすれぱいいの。」
サケの太郎「餌の動物プランクトンをたくさん食べて、早く大きくなって、危険な沿岸域をでることさ。俺たちも7~8cmのサイズになったら、沖合いに出ていけるし、簡単に喰われはしないよ。」
そこへ、ホッケの稚魚のアベックがやってきました。ちょっと見には、サケの稚魚に、大きさといい、形といい、色といい、そっくりです。でも、少し目が大きめなことと、背鰭が長く連なっていること、何より、あぶら鰭がないことで区別ができます。

ホッケのノブヒサ「おいおい、この辺りは俺たちの縄張りだぜ。あっちへ、行った、行った。同じような餌を食べて、でかい顔をするんじゃないぜ。」
サケのヒロシ(彼の親の兄弟は、大半が関西へ流れた)「なにゆうてまんねん。でかい顔はアンタやんか!海は、だれのものでもないわい。いっちょ、いてこましたろか。」
ノブヒサの彼女「まあ、なんて偉そうな顔をして。あっちへ行きましょう。こんな流れ者、相手にしてもしかたないわ。」
サケのヒロシ「おら、おら、おら、ここいらは、わてらのほうが、数が多いんや。わるう思わんでや。先にとったもんの勝ちや。」
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  ここら辺で、稚魚たちの会話を抜け出して、今、留萌支庁の増毛沿岸で行われているサケ稚魚の沿岸生態調査のことをお話ししましょう。平成7年春から5年計画で、増毛沿岸のサケ稚魚の生態と環境のモニタリング調査事業が、スタートしました。調査は、水産艀化場資源管理部と増毛支場、中央水試海洋部、留萌南部地区水産技術普及指導所、増毛漁協、留萌支庁水産課、栽培漁業課内水面係の連合チームで進められています。その試験内容は、次のとおりです。

  サケの稚魚がどのような環境を好み、そのような環境はどのようにしてつくられ、変化していくのか。そして、当然、サケ以外の魚たちも同じ海を利用して生活しています。彼らとサケ稚魚の関係、特に、食う食われるの関係、餌や生活する場所を巡る競争や共存の関係、さらに、餌となる動物プランクトンの種類や数の変動とそれを支える栄養塩の変動、また、沿岸域の生産力と陸水の影響(川からの融雪増水による栄養塩の流入など)を明らかにして、日本海系秋サケの安定した資源を造成するための増殖技術の改善を行うことです。

  平成7年春の調査結果からは、サヨリ2層曳き網(これは、表層小型トロール網の一種です)は、サケ稚魚やホッケの稚魚の採集に威力を発揮すること、稚魚の耳石にALC(アリザリン・コンプレクソン)標識をして放流したこと、沿岸域に降りたサケ稚魚は、すぐ岸近く(沖合い500メートル以内)の浅い水深のところに分布すること、表面水温が13度以上に達すると、稚魚は沿岸域から姿を消すこと、それほど離れていない場所でも稚魚の胃の中身の量と種類は、違っていること、稚魚の餌は、動物プランクトンの他に、イカナゴの仔魚が大変重要なこと、そして、サケ稚魚とホッケの稚魚とが微妙に棲み分けていることなどが、分かりました。

  サケ稚魚の生態チームは、平成8年以降に、サケ稚魚と同じ場所で採集した捕食魚(特にホッケの成魚と未成魚、ウグイなど)の数と捕食の量、その生態に関する調査やサケ稚魚の分布調査に魚群探知機を利用するための予備試験も組み込んでいます。また、サケとホッケ稚魚の飼育試験による行動の観察実験も行います。

  これらのデータと他のプランクトンや環境のチームのデータを組み合わせ分析することによって、日本海の海洋特性に適合したサケの増殖事業を改善したいと考えています。(水産艀化場資源管理部 主任研究員 河村 博)

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