試験研究は今 No.604「見市川遡上系サクラマス導入の試み」(2008年1月8日)

見市川遡上系サクラマス導入の試み

  北海道においてサクラマスは、秋サケと異なり主に冬季から春季に漁獲されるため、サケ科魚類の中でも貴重な魚種として位置付けられています。しかしその漁獲量は年々減少の一途を辿り、昭和55年以前は年間1,000~2,000トンで推移していたものが、平成に入ってからは1,000トンを超えることは無く、平成13年には400トンを切るまでに落ち込みました。そのため独立行政法人水産総合研究センターさけますセンター(旧水産庁さけ・ますふ化場)では遡上系(回帰系)の種苗を、北海道立水産孵化場では池産系の種苗をそれぞれ用いてサクラマス幼稚魚の放流による増殖を行なっています。

  遡上系の種苗とは秋サケと同様に一旦降海した後河川に回帰した親魚から採卵した種苗で、池産系とは河川に回帰した親魚由来の種苗を淡水の池の中で親魚まで育てて採卵した種苗のことです。池産系には遡上系と異なり、安定的な種苗の確保というメリットがありますが、池中での継代を重ねることによる放流魚としての種苗性が問題視されてくるようになりました。そこで池産系サクラマスの種苗生産基地である道立水産孵化場道南支場においても、可能な限り池産系の種苗生産は一代限りとするため、毎年道南支場の横を流れる見市川に回帰したサクラマス親魚を捕獲し、その親魚から採卵した種苗を池産系の親魚候補とするように変わってきています。今回は平成16年から開始した見市川遡上系サクラマスの捕獲、蓄養、採卵結果等について紹介します。

  道南支場はサクラマスの増殖、研究に特化した施設へと変わり、平成16年春からサクラマススモルト幼魚の見市川への放流数はそれまでの数千~数万尾から167,263~221,043千尾へと大きく増加しました(表)。それに伴って回帰する親魚の数も増え、平成17年以降の親魚の捕獲数は203~886尾でした(表)。各年で捕獲努力が必ずしも一定ではないので単純には比較できませんが、スモルト放流尾数に対する翌年の親魚の捕獲尾数(回収率)は0.12~0.51パーセントと計算されます(表)。
    • 表
  ただ、親魚の確保はある程度順調に進んだとしても、次に出てくる問題は親魚の蓄養(給餌せずに飼うこと)と良質卵の確保です。産卵直前に回帰するサケの場合は捕獲から成熟までの蓄養期間が数日から3週間程度ですが、サクラマスの場合は早いものですと産卵の半年も前に遡上する個体もいます。見市川はいわゆる荒れ川ですのでウライ等の維持は難しく、ひき網、投網、たも網での捕獲が主であるため、夏場の渇水期である7月以降が親魚の捕獲時期となるのですが、それでも長い場合は3ヶ月くらいの蓄養が必要となります。平成17年は過去最高の886尾を捕獲しましたが、雌親魚の捕獲から採卵までの歩留り(使用率)は60.9パーセントでした(表、図)。この数字の意味するところは捕獲から採卵までの蓄養期間に約4割がへい死してしまったということです。そこで平成18年からは蓄養池を寒冷紗で覆い、注水方式を越流から池中噴出しへと替えたことにより、雌の使用率は90パーセント前後に改善されました(表、図)。
    • 図
  次に良質卵確保の問題ですが、見市川で捕獲した親魚から採卵した卵のうち目が透けて見えるまで発生した卵の割合(発眼率)は平成16年の91.1パーセントから年を追う毎に下がり続け、平成18年は63.3パーセントでした(表、図)。一般的にサケ、サクラマスの場合発眼率が90パーセントを切るとあまり良い卵とはいえません。発眼率が良いとその後の稚魚までの歩留りも良く、発眼率が悪いとその逆ですので、事業上の効率にも大きく影響します。そこで平成19年は蓄養時から採卵時の親魚の取扱いについて更なる改善策を検討しました。蓄養時の変更点としては稚魚の飼育用水(低水温)の二次使用による換水率の増加、二次使用の結果意図せず起きたことですが蓄養水温の低下の2点で、採卵時の変更点としては、電殺から頭部撲殺、水カビの付着が多い雄の不使用の2点です。その結果、平成19年の発眼率は95.3パーセントと大きく改善されました(表、図)。ただ何の変更が効果あったのかは不明ですので、平成20年はこの辺を明らかにするための試験を検討して行きたいと考えています。
    • 写真
      写真 道南支場排水口に集まったサクラマス親魚(平成17年)
(水産孵化場 道南支場 資源科 青山智哉)

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