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人工海藻礁-森と海の新しい接点の研究の始まり-
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人工海藻礁 
―森と海の新しい接点の研究の始まり―
堀江 秀夫*

人工海藻礁の設置風景

始まりは水槽の濾(ろ)過材料
 木材を使った海藻礁(岩礁やコンクリートブロックなどの海藻が付着する基質)に関わる研究の発端は,木炭による海水浄化材の開発でした。木炭には小さな穴が無数にありますのでここに海中の微生物がうまく住みついてくれれば,この微生物が海水魚用の飼育水槽で使われている循環濾過材の機能を果たすと考えました。
 微生物が住みつく面積を増やすには,砕いて粉炭にした方がいいのですが,粉炭は水に浮かんでしまい沈まないので,重りとなるセメントで固めてペレット状にしなければなりませんでした。

人工海藻礁研究への転換
 このとき,水槽よりも実際の海に適用してはどうか
→日本海沿岸で問題となっている「磯焼け」対策にならないだろうか
→粉炭ではなく木チップとセメントを混ぜて海中に沈めればどうだろう。木材だけでは海虫(フナクイムシやキクイムシ)に食害されてすぐボロボロになってしまうが,セメントと混ぜることで徐々に木チップが海中で食害されて海中生物の住みやすい環境を作りださないだろうか
→木造住宅解体材を粉砕した木チップを使えば木材のリサイクルにも貢献できるのではないか
→そうだ,木チップをセメントで成型した人工礁を作って海中に設置すれば生物がそこで効率よく活動できるバイオリアクター(生物反応漕)になるのではないか,
などと仲間で雑談するうちに木質・セメント成型体海藻礁の概要が固まっていき,林産物(木材)の研究が主体の林産試験場が海産物(コンブ)に関わる研究を始めることになったのでした。

失敗から始まりました
 では試してみようと,無手勝流で予備試験体を試作し,平成4年秋の留萌支庁増毛海水浴場に設置したのが第一歩でした。ところが翌年,試験体は時化(しけ)に流されて見あたらず,海での実験の大変さを痛感したのでした。この失敗から,専門家に相談すること,文献調査をしっかり行うこと,という研究の常道に従うことにしました。それでも慣れない海での研究であったため試行錯誤を繰り返し,平成10年の実証試験にこぎ着けたのでした。

磯焼け対策のための海藻礁とは
 磯焼けは,現在,北海道の日本海沿岸部で発生し大きな問題となっています。磯焼けとは,主として外洋に面した岩礁地帯でコンブなどの有用海藻がほとんどなくなって無節サンゴモ(石灰質で白っぽい海藻)で覆われた岩盤のみが残り,そのためにコンブやコンブをエサとするアワビなどの生産が激減する現象を指します。その発生原因として,冬季から春季にかけて海水の温度が上がり,コンブが群生しにくい環境へと変化していったことや,温暖化でキタムラサキウニの活動が活発になって生えかけたコンブが食べ尽くされてしまうことなどが指摘されています。
 この磯焼け対策の一つとして海藻が着生しやすい基質(自然石やコンクリートブロックなど)を人工的に設置することが行われています。しかし,設置後数年間はコンブが良く生えるのですが,次第に無節サンゴモが増えてきて,コンブの数が減っていくことがあります。
 一方,昔から流氷の接岸により岩礁表面の雑海藻が削られて駆除されることでコンブ群落が回復することが実証されており,基質表面の清掃によってもコンブ漁場が回復することが分かっています。
 さらに,基質表面に凹凸を付けると,凹部分に着生した海藻はウニ・アワビなどの植食動物に食べられにくいことが報告されており,基質の表面形状は凹凸があることが望まれます。
 このため,基質の表面に凹凸を持ち,かつ基質表面が自然に清掃または更新するように設計された人工の海藻礁を作ることができれば理想の海藻礁になると考えました。

木質人工海藻礁
木質・セメント成型体には海藻礁に適した特徴をもたせることができる
 木チップとセメントを原料として混合・成型した木質・セメント成型体は,理想の海藻礁にぴったりの二つの特徴を備えることができます。この特徴を実証することを研究の目的としました。
基質表面の凹凸について
 木チップをセメントで固めた成型体海藻礁は,木チップの大きさや形状,配合量を変えることにより海藻礁表面の凹凸を望んだ粗さに変化させることができます。
 このことは,表面の凹部に着生したコンブの幼体をウニ等の食害から守ることができるだけでなく,コンブの遊走子が着生しやすい表面形状を作り出せる可能性を示しています。
表面層の自然崩壊・更新について
 海中の木材はフナクイムシやキクイムシなどの海虫により食べられてしまいますが,木材を小片にして無機質のセメントで覆うことにより,食べられてしまう量や速さを制限することができます。つまり,セメント配合量や木チップの形状をうまく調整することにより,数年をかけて海藻礁表面の木チップが食べられて空洞となるとともにセメント部分が波などの海水の動きで崩れ,自然に海藻礁の表面更新が行われるといった効果が期待できると考えました。
 なお,小さな木チップを原料とするため,もし成型体が崩壊したとしても海域には木チップのみが浮遊するのみで漁船や魚網を傷めることはなく,木チップは海虫や微生物により自然に分解され,セメントは砂となって海洋汚染の心配もありません。

木質人工海藻礁の断面

研究の経過
 平成5年,道立中央水産試験場,北海道東海大学工学部海洋開発工学科,北海道大学忍路臨海実験所,小樽市漁業協同組合・忍路漁業区の方々の指導と協力を得ながら,3体の海藻礁試験体を小樽市忍路湾に設置したのが本格的な研究の始まりでした。この忍路湾での研究は,(財)日本住宅・木材技術センターからの受託事業,(財)札幌市下水道資源公社からの受託研究および共同研究として行いました。
 その成果をもとに,平成10年に小型の木質・セメント成型体海藻礁試験体12体を忍路湾に設置しました。さらに平成11年に,道立中央水産試験場,檜山支庁水産課,檜山支庁檜山南部地区水産技術普及指導所,上ノ国町水産商工観光課,ひやま漁業協同組合,上ノ国町漁業生産組合,檜山建設協会水産部会の方々の指導と協力を得ながら,実大の木質・セメント成型体海藻礁試験体3体を日本海磯焼け地帯の檜山支庁上ノ国町原歌地先に設置しました。
 海藻礁としての耐久性も含めた評価を行うためには10年程度の観察期間が必要ですが,平成15年度に中間報告をとりまとめています1,2)

檜山支庁上ノ国町原歌地先での観察風景
これまでの観察結果
 設置期間3年間の忍路湾内と2年間の上ノ国町沿岸での木質・セメント成型体海藻礁の海藻着生量調査結果から,木質・セメント成型体は表面に凹凸があるという特徴のためコンクリートブロックの海藻礁と比較してコンブやワカメなどの大型有用海藻の着生に効果がありました。
 一方,木チップはあまり海虫に食べられていませんでしたので,木質・セメント成型体藻礁のもう一つの特徴である表面の自然崩壊・更新を確認することはできませんでした。なお,今回使った木チップより大きな物を使って海虫が食べやすくすれば,自然崩壊・更新を早めることができると考えています。

参考資料
1)堀江秀夫ほか5名:木質・セメント成型体の海藻礁としての効果(第1報)-忍路湾に設置した小型試験体の現存量調査結果-,林産試験場報,17(3),1-7(2003)
2)堀江秀夫,竹花邦夫:木質・セメント成型体の海藻礁としての効果(第2報)-上ノ国町沿岸に設置した実大試験体の現存量調査結果-,林産試験場報,17(3),8-16(2003)
*前 利用部 再生利用科(現 高岡短期大学)
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