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木を暮らしに活かす講演会「北の木と語る」
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木を暮らしに活かす講演会「北の木と語る」

西川 栄明


はじめに

 ご紹介いただいた西川栄明です。私は神戸生まれですが,東京で勤めたあと7年前に北海道の弟子屈町に移り住みました。これまで何冊か本を出していますが,最近は木に関する本を手がけることが多くなりました。

 もともと山が好きで,ヒマラヤの遠征に行った経験もありますが,山の中を歩きまわることから木には親近感を持っていました。 3年前に北海道新聞社から出した『北の木仕事20人の工房』という本では,木工作家さんを取材するために道内を回りましたが,それぞれ好きな材の樹種が違うことに大変興味を持ちました。その好奇心から取材を進め,出来上がったのが『北の木仕事-』の続編ともいえる『北の木と語る』です。この中では代表的な道産材12種類をピックアップして,森の話,製品の話,どのような経路でみなさんの手に届くのかということを紹介しています。

 今日はこの話を中心に講演を進めますが,その前に北海道の森林状況を簡単にお話しします。北海道の森林面積は,北海道の総面積の約70%を占め,四国の約3倍の広さにもなります。森林蓄積量を見ると,針葉樹が広葉樹を若干上回っています。針葉樹のなかでもトドマツは全体の25%を占めています。広葉樹はカバ類,ナラ類をはじめとしていろいろな樹種があります。素材の生産量は,全国の約2割で,トドマツ材,エゾマツ材は100%道産材で,カラマツ材は77%です。輸入材の依存率は全国平均が約8割ですが,北海道の場合は約6割です。


北の木と語る

 私としては,北海道の木がどのような森で育ち,どのように製材されて,どのような製品になってどのように使う人の手に届くかという観点で,広く取材した経験に基づき,12種の道産材について名前の由来なども交えて話を進めていきます。
(※ここでは,講演の中から3樹種について抜粋して紹介させていただきます。)


【ナラ】

 これは留辺蘂町温根湯の王子製紙の社有林です(写真1)。ミズナラの純林で,ちょうど朝日が昇るときに写真を撮りました。純林といってもナラは50%ぐらいで,イタヤカエデなども生えています。ナラはヨーロッパではキングオブフォレストと言われていますが,道産材での代表格でもあります。これはミズナラの幼木ですが,基本的にはこのような葉っぱの形をしています(写真2)。ミズナラとかカシワというのは大きな葉っぱで周りがギザギザしています。


写真1 ミズナラの純林

写真2 ミズナラの幼木

 材として非常に人気が高く,テーブルなどの家具に使われていますが,硬くて強くて木目が美しいという特徴があります。以前,北海道のミズナラはたくさん輸出されていました。1970年代までは北海道のミズナラ材がヨーロッパでよく使われていて,海外で加工されて家具になって日本に入ってくることも多かったようです。旭川家具工業協同組合理事長のインテリアセンター長原会長は,昔ドイツで家具製造の修行をしていた時に,ヨーロッパ各地の家具工場に北海道のミズナラが山積みされている姿を見て,日本に帰って世界に売れる家具を作ろうと決めたそうです。

 家具以外にもミズナラがウイスキーの樽に使われていた例を紹介します(写真3)。今はウイスキーの樽はアメリカのホワイトオークが使われていますが,今でもミズナラ材の古い樽も使っているそうです。ニッカの創業者竹鶴政孝は,水がいい,港が近いという理由に加えて,ミズナラが採れるから余市を選んだと言われています。


写真3 ウイスキーの樽

 ナラの語源は,古語で「ならなら」という「なよらか」「なよよか」の表現のようにナラの若葉や枝がしなやかなことからナラになったという説があります。また,ナラには平らという意味があり,葉の広く平らな様子からナラになったとの説もあります。


【イタヤカエデ】

 イタヤカエデは材として今,ものすごく人気が出てきています(写真4)。東川町の北の住まい設計社はイタヤカエデの家具作りで有名です。今,インテリアブームと言われてますが,インテリアデザイナーに人気のある材で,非常におしゃれで若い人にも人気があります。イタヤカエデに限らず,メープル・カエデ系というのは,今の時代にあっている木というように感じます。光沢があって,非常に美しい輝きがあります(写真5)。


写真4 イタヤカエデ

写真5 イタヤカエデのテーブル
 イタヤカエデは非常に硬い材で,昔はボーリングのピンやスキーの板に使われたり,また,ピアノのコマの部分にも用いられています。イタヤカエデは本当に硬いので,非常にいろいろな部分に使われています。以前,イタヤカエデでできたクサビを使ってエゾマツの経木を作っている工場を見学したことがあります。労せずカンカンと割っていました。
 イタヤカエデのイタヤは,板の屋根のように,びっしりと葉が覆いかぶさることから名前がついたのではないかと推察しています。

【エゾマツ】

 一般的にエゾマツといえば,クロエゾマツですが,アカエゾマツの方はピアノの材として非常に優秀な材です。
 丸瀬布町の北見木材では,ヤマハのグランドピアノの響板をアカエゾマツで作っています。製材・乾燥した材は,木目や色を合わせて貼り合わせています。これを響板の形にカットして静岡のヤマハの工場に出荷しています(写真6)。鍵盤にも北海道のアカエゾマツを使っています。ピアノには北海道のアカエゾマツ,イタヤカエデ,マカバが使われており,これら3種類の木は,非常に重要な役目を担っています。ピアノの材というのは,道産材だけではなく適材適所に50種類くらい使われています。このことからピアノというのは,本当に木の楽器だということを感じます。もちろん,弦楽器ですので弦も張られていますが,木がものすごく重要な役目をしているんだと感じました。

 これは,クロエゾマツが使われている例で,オケクラフトのお碗です(写真7)。置戸町では,1970年代の後半くらいから,町の活性化を図る目的でオケクラフトの生産という活動が始まりました。大分県の湯布院町にお住まいの時松辰夫さんは,当初から現在まで定期的に置戸町に来られて,研修生の指導に当たっておられます。
 置戸町立秋田小学校では,給食食器にオケクラフトが使われています。私の小さい頃は金属製のお碗でしたが,なんとも贅沢なことですが,この子達はこれが普通だと思っているそうです。置戸町ではこういうふうにして地元の木を地元で使っているようです。


写真6 ピアノに使われるアカエゾマツ

写真7 オケクラフトの作品

 エゾマツは経木としても使われてきました。弁当箱などの容器は最近プラスチック製が増えていますが,少々値が張っても木製の容器を使いたいという方もいます。例えば,東京の老舗の弁当屋さん,小田原の蒲鉾屋さん,京都の老舗の和菓子屋さんなど。北海道では柳月さんが,最近,一部高級菓子で使っているそうです。やはり高級感が感じられるからだそうです。未だに需要はあるということですね。


おわりに

 旭川林業会館では年に12回銘木市が開かれます(写真8)。主に広葉樹が多いのですが,伐採が冬に多いことから,特に冬の銘木市には木材が土場にズラッと並びます。木口には番号,樹種,材積が書かれた札が付けられています。このときは3,543本でしたが,その内容が「明細書」という冊子になっています。バイヤーさんはこれを見て紙に金額を書いて入札しますが,これが非常に小気味よいテンポで行われます。参加するのは約80社で,半分くらいが本州方面から来ているので,このようにして北海道の広葉樹が全国に流通するわけです。北海道の旭川の銘木市というのは,業者さんからも「いい材が出る」ということで一目置かれています。特に12月頃には,「富良野の東大演習林のいいマカバが出る」というので,かなり人気があるようです。


写真8 旭川の銘木市

 森に入ったり,製材会社に行ったり,家具工場に行ったりして,あと,東京の方のインテリアショップさんなんかとお話をして,道産材には高いブランド力があることを感じています。信州の木工作家さんでも,信州の木ではなく道産材を使いたい,という人がいます。東京のインテリアショップでは,単にミズナラ材と書くのでなくて,わざわざ北海道産のミズナラ材と書いています。今,旭川の家具業界は非常に厳しい状況にあると聞いています。しかし,素材を生かしたデザイン性に優れた家具など,やりようによっては将来的にまだまだ伸びていく可能性があるのではないか,というように思います。
 それと自然環境の問題と林業の活性化という問題があります。環境と林業の両立,森林資源の補てんと活用ということが大切です。森は,そのまま放って置いては良い木が育ちません。しかし,林業従事者の7割位が50才以上といった高齢化や,後継者がいないという問題があります。北海道としては第一次産業がベースですから,林業の活性化を考えなくてはならないと思います。
 最近,高橋北海道知事が地産地消ということを提唱していますが,林業で言う地材地消は,輸入材なども含めて木材の利用を底上げすることで発展していけばよいと思います。

 以上ざっとお話ししましたが,北海道の材は良いものであるし,良い材を将来にわたって使うには森の保全も大切です。このような観点から皆様にも森や木のことをもっと考えて欲しいなと思います。


質疑応答

(司会)北海道の木材や林業の明るい先もみえるようなお話,ありがとうございました。北海道の主要な木材についても一通りお話しいただいたのですが,この機会に西川さんに質問がありましたらどうぞ。

(質問)世界的に見て北海道のデザインや加工技術のレベルはどうなんでしょうか?
(西川さん)業者によってもバラツキがあります。例えば製材についてですが,ただ木を挽けばいいと言うわけではなく,お客様のニーズにあった挽き方をしなくてはならないんですね。以前は素材の良さに甘えていた部分も多少はあったのではないかということを言う方もいらっしゃいます。
 デザインに関してですが,私の著書『北の木仕事20人の工房』で取り上げたのはすべて北海道の作家なんですが,本州,特に東京でものすごく売れているんですね。北海道の作家に対して非常に注目が集まっています。特に旭川周辺に実力を持った若い木工作家が増えています。「暮らしの中の木の椅子展」でも今年の入賞者の約1割が北海道の作家で占められていて,そのうちの約半分が旭川周辺の作家や北海道東海大学の学生です。
 メーカーでもインテリアセンター,匠工芸,北の住まい設計社等が全国ブランドとして人気があります。お客のニーズに応えた新しいデザインと技術力をアピールしていけばこれからも伸びていくのではないかと思います。

(司会)本日はありがとうございました。
(文責:林産試験場 八鍬明弘)


※この記事は,2004年7月24日,道立林産試験場で行われた講演会の要旨です。

西川 栄明(たかあき):1955年生まれ。アウトドアライター。
  近著に『手づくりの木の道具 木のおもちゃ』 (岩波アクティブ新書)。

写真:本田 匡 
 『北の木と語る』(北海道新聞社刊)に掲載した写真より使用させていただきました。

 
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