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家畜の飼育に使われる木材 |
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利用部 再生利用科 山崎 亨史 |
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家畜を飼育する際には敷料(家畜の敷きわら,寝わら)が使われます。敷料というとわらのイメージが強いと思いますが,現在は,わら(麦稈(ばっかん)など)や籾殻(もみがら),牧草に加え,木質系敷料(おが粉(鋸屑(のこくず))やバーク(樹皮))などが家畜の種類や地域の実情に合わせて使用されています1,2)。最近は,木質系敷料の良さが理解されてきて利用が増えています(写真1)。 敷料は使用後,糞尿とともに堆肥として農地に還元することが推奨されます。木質系敷料を使った場合,堆肥に木粉は残りますが,堆肥として腐熟(十分に発酵して土に戻せる状態)しています。 平成11年に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」が制定され,16年11月に完全施行されたところで,農家は敷料の確保を含め糞尿処理に頭を痛めていることと察します。 今回は木質系敷料とその堆肥化を理解していただけるよう,種類や性質を紹介します。 |
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写真1 牛舎で使用されている敷料(左:通路に敷かれたカラマツおが粉,右:カールマットの戻し利用)
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図1で紹介したように敷料に要求される条件は多様です。これらには相反するものもあり,すべてを満たすことは難しいと考えます。そのため農家によっては,その特徴を把握し,異なる敷料を合わせて使う,使い分ける,優先させる性能にあったものを使用するなどの工夫をしています。 敷料に要求される性能の中で最も重視されるのが水分に関わる性能と言えるでしょう。例えば,水分を吸収する能力が低ければ,糞尿がいつまでも吸収されず,家畜にとってはべたべたとした気持ち悪い状態になり,衛生的にも良くありません。木質系敷料は水分を吸着しやすいため,保水性能が高く,形状が崩れにくいため透き間が多く,保持できなかった水分は素早く流れて表面に溜まらないなどの点で優れています。写真2はカラマツおが粉とその最大保水状態の実体顕微鏡写真です。写真右では水が浮いている状態に見えますが,この状態でも水が流れ出すことはありません。ただし,このような状態では家畜に付きますし,高く積み上げることはできず,また,搾ると水が出てきます。 |
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写真2 カラマツの乾燥おが粉(左)と最大保水状態(右) | ||
木質系敷料の原材料敷料には一部の南洋材を除いて,樹種に関係なく利用できますが,広葉樹は比較的価格が高いため,針葉樹が用いられることが多くなっています。木質系敷料の原材料と製品の関係を図2に示します。 おが粉とはもともと大鋸屑と呼ばれ,鋸屑と同じ意味ですが,ここでは製材の副産物を「鋸屑」,製品として製造されるものを「おが粉」として区別します。 製品としての敷料生産を考える場合,丸太からと,製材時の背板や端材からの2通りが考えられます。 丸太としてはカラマツ,トドマツ,道南ではスギなどの樹種のパルプ用材が使われます。水分の少ないものが要求されるため,丸太を1年以上放置し,乾燥させてから使っているところもあります。丸太から製造する場合,樹皮がついたままで粉砕されることもあり,その際おが粉にバークが混じることになります。 背板や端材は製材工場で柱や板などをとった後の残りで,チップにされることが多いのですが,これを購入して,おが粉を製造しているところもあります。また,専用機械,おが粉製造機(おが粉マシン)を導入しておが粉にしている工場もあります。 チッパーダストはチップを製造するときにできる細かい削り屑で,おが粉や鋸屑とは形が異なります。 これらの木質系敷料は製造方法で形や大きさ等が異なりますので保水性,吸水性などの水分に関する性能が異なります。 |
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木質系敷料の種類木質系敷料といっても,原料や使用する機械を含めた製造方法などにより様々です。大きく分けると,工場副産物,製品,廃棄物系の3つになります。①工場副産物 ②製品 ③廃棄物系 |
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実際の敷料実際に流通している敷料は,生産者(販売者)によって形状や性質が異なります。これは,製材工場であれば使用する製材機械が工場ごとに違う上に,おが粉マシンの有無,山棒チップ(細い原木を樹皮ごとチップにしたもの)を生産しているかなどに加え,製品を別々に集めるかまとめて集めるかなどの考え方が違うこと,おが粉専用工場であれば使用する原料やおが粉マシンの構造が異なることが原因です。さらに,原料にする原木の太さ,種類,伐採時期,加工までの保管期間などが時期によって変わることなどが原因で,時期によっても性能は変化するようです。 堆肥化と水分調製 堆肥化とは,微生物が糞尿を分解するのに伴う高温過程を経て腐熟させ,取り扱い性・貯蔵性を向上させるとともに,土壌還元しやすく,環境に悪影響を与えない形態にすることです1,2)。また,堆肥を施用する意義は,植物に必要な栄養を与えるとともに,土壌の物理性を改善して団粒構造とすることで,微細な空隙をつくり,通気性や透水性を良くすることです4)。 適正な水分量は65~70%程度です。したがって,敷料として限界まで使用したもの(水分85%程度)には水分調整材を加える必要があります。水分調整材にはおが粉など,敷料と同質のものを用います1,2)。 そして,菌が活動できる温度帯にする必要があります。適正な堆肥化の過程では,温度は60℃以上まで上昇します。60℃を数日間保つことで大腸菌などの病原菌や雑草の種子は死滅します1,4)。熱が奪われないよう,周囲の温度は低すぎないことが望まれます。 堆肥化しても木材自体は分解されにくく,短期間ではおが粉が分解されずに残っています。これを敷料として使うのが戻し敷料(堆肥敷料)です。適正な堆肥化により病原菌は死滅するため,敷料として再利用する場合でも衛生上の問題はありません。ただし戻し敷料の場合,発酵時のままでは水分が多いため,乾燥させるか,新しい敷料と混ぜて使う必要があります。 おわりに木質系敷料の長所は今回紹介した水分に対する性能以外に,安楽性や悪臭低下などもありますが,ここではふれませんでした。木質系敷料の理解が深まり,需要拡大によって間伐材の有効利用が進めば幸いです。 参考資料1)(財)畜産環境整備機構:家畜ふん尿処理・利用の手引き(1998).2)北海道立農業・畜産試験場家畜糞尿プロジェクト研究チーム:家畜糞尿処理・利用の手引き1999 北海道農業改良普及協会. 3)東智則:林産試だより,3月号(2000). 4)藤原俊六郎:堆肥のつくり方・使い方-原理から実際まで,農山漁村文化協会(2003). 5)北海道立林産試験場:林産試験場報17(4)(2003). |
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