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林産試だより2005年2月号 <海外研修報告> デンマークとノルウェーにおける森林資源の利用
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<海外研修報告> デンマークとノルウェーにおける森林資源の利用

利用部 成分利用科 関 一人


 はじめに

 北欧諸国の共通点といえば,先進的な福祉国家のイメージを持つ方が多いと思われますが,再生可能な資源である森林資源を化石資源の代替として積極的に利用しているという,もう一つの共通点はあまり知られていません。
 2004年10月2日から10月23日までの約3週間にわたり,「平成16年度研究職員海外研修,研究ニーズ探索調査事業」により,「北欧における森林資源の先進的利用技術の動向調査」を行う機会に恵まれました。ここでは,デンマークおよびノルウェーにおける森林資源に関する研究動向や企業活動について,訪問先での聞き取りおよび資料に基づいて紹介します。


 デンマークにおける森林研究と森林資源増強計画

 首都コペンハーゲンから北に30kmのところにあるホルショルム(Horsholm)には,デンマーク王立獣医科・農科大学(KVL)森林・景観・計画センターがあります。このセンターではその前身も含めると,100年以上も前から森林管理の研究が行われており,その成果は全ヨーロッパさらにはアフリカなどの発展途上国の緑化にも貢献しています。ここではカラマツ類の育種研究も行われており,ニホンカラマツは過去にヨーロッパ全土で蔓延したカラマツ癌腫病に対して耐性のある種として重宝されているそうです。
 同国の環境およびエネルギー政策では森林を重要な資源として位置付けています。森林に大気や土壌の保全,水資源の確保などの役割を期待するのはもちろんのこと,再生可能なエネルギー源として積極的な利用を図ろうとしています。同国の森林面積は国土の約1割の4,000km2しかありませんが,資源・エネルギー省はこのセンターと協力して,現在の森林資源を100年間で2倍にする計画を打ち立てています。


 デンマークにおける繊維板の研究動向

 ホルショルムに程近いターストルップ(Taastrup)にあるKVLの植物繊維研究所では,草本および木本植物の繊維を原料とした成形物の研究開発を行っています。ここでは中比重繊維板(MDF)の製造において,接着剤を用いない新たな製造技術の開発がなされていました。本技術はフェノール酸化還元酵素を用いて木材繊維中に含まれるリグニンやその他のフェノール成分を重合して,繊維同士を結合させるというものです。したがって,本MDFからVOC放散や廃棄焼却時に有害物質が発生する危険性は極めて低いといえます。この研究所のフェルビー助教授は,ドイツの自動車製造企業との共同研究で,この新たなMDFによる車両用内装材としての利用を検討しています(写真1)。


写真1 フェルビー助教授と自動車内装用の繊維板

 デンマークでは,廃棄物の処理方法をリサイクル,焼却,埋立ての3つに分類し,リサイクル率および焼却率を上げ,埋立てなどの投棄率を将来的に10%以下とするように政府目標を掲げています。木材などに由来する可燃性廃棄物は,熱電併給工場(CHP)を通して電気や地域暖房に利用されています。CHPやバイオガスプラントなどのエネルギー施設は,1973年の石油危機の反省を基に,化石資源に頼らないとする政策のなかで次々と建設されました。現在,同国では北海油田の採掘権を保有していますが,再生産可能な森林資源由来の製品の割合を多くすることに努めています。それにより健全な炭素循環を作り出し,地球温暖化の防止に少しでも貢献しようとしているのです。


 ノルウェーの森とホワイトウッド

 ノルウェー第二の都市ベルゲン(Bergen)では,地元の森林管理事務所のアルンスタイン所長の案内で,ヨーロッパトウヒの人工林を見学させてもらいました。英名ではノルウェースプルースといいますが,欧州全土からロシア西部まで広く分布している針葉樹です。樹齢70年の立木の樹冠は樹高全体の4分の1ほどで下枝もなく,樹幹も見事な均整を呈していました(写真2)。その材は,近年ホワイトウッドの名で日本へ輸出されています。


写真2 アルンスタイン所長とヨーロッパトウヒ

 1970年代に同国の森林や湖沼は,酸性雨の影響で非常に深刻な被害を受けました。とくにヨーロッパトウヒは,酸性雨の影響を受けやすく,一時期は大規模に枯死したようです。その後,欧州各国が硫黄酸化物や窒素酸化物に関する削減の条約や議定書の目標を達成したおかげで,昨今では以前ほどの被害はないとのことでした。

 首都オスロの南に30kmほどのところにあるオズ(As)には,ノルウェー森林研究所があります。ここでの現在の重要な研究テーマの一つとして,ヨーロッパトウヒやヨーロッパアカマツなどの輸出用の建築用材に対して,CCAに替わる無害で効果的な防腐剤を開発することが挙げられています。その背景として,安全な防腐処理がなされた構造材の需要が,最近とくに欧州連合(EU)諸国において増加していることを挙げていました。安全な防腐剤の条件としては,処理木材の焼却または埋立て時に有害成分が揮発して大気中に拡散したり,溶け出して土中に拡散しないことなどが求められますが,この研究所では有機フッ素化合物に注目しているようです。


 ノルウェーにおける木材成分分離工業

 ノルウェーの首都オスロより南に100kmほどのところにサルプスボルグ(Sarpsborg)という人口4万人ほどの町があります。この町に所在するボレガード(Borregaard)社は,現在ではほとんど用いられなくなった亜硫酸パルプ化法を用いて工業用セルロースを生産しています。国産の良質なヨーロッパトウヒが容易に入手できるため,同社ではパルプを紙の原料にはしないで,工業用セルロースとして海外輸出するという企業戦略を取っています。工業用セルロースは衣料用繊維やタバコのフィルターの原料として,副生されるリグニンはコンクリート用分散剤として利用されています。同社における木材の成分分離(図1)では,そのプロセスで得られる生成物はエネルギー利用も含めてすべて利用しているという主張が示されています。


図1 ボレガード社における木材の成分分離の概念図
(同社資料より引用,原文は英語)

 おわりに

 今回はデンマークとノルウェーの訪問先での情報をご紹介しました。これらの国では,1970年代におきた石油危機や酸性雨問題といった深刻な社会問題を経験したのち,直ちに環境やエネルギーに関する政策を転換し,森林資源の増強や復興に努め,その積極的な利用を進めています。その決断と実行力には,見習うべきものがあると感じました。

 
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