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林産試だより2005年3月号 特集「自然災害と木材」海岸流木の利用
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海岸流木の利用

企画指導部 普及課 斎藤 直人


 

 はじめに

 河川や海岸で見られる流木は,活用したい木質バイオマス資源の一つです(写真1)。
 台風,大雨などの水害で発生した流木は,海上や海岸に漂流,漂着すると,漁業に被害を与え,堤防,水門などの機能を低下させるおそれがあります。その放置は景観を損なうほか,環境,安全上からも速やかに適正な処理をすることが求められています。

写真1 河川の流木

 一般的に流木は,国,道,市町村などの管理者やボランティアによって処理されます。道内のダムでも,多いところで毎年1千m3程度の流木がすくい上げられています。貯水池の上流にネット(網場:あば)を張って流木の侵入をくい止め,定期的に回収しています。
 流木は漂流中に傷むことによる強度的な問題から,建築用部材としては敬遠されます。大径で損傷の少ないものから順に,製紙用・ボード用チップ,敷料・堆肥,燃料として使用されます。一部,アート,園芸材料にも使われています。
 一方,海岸に漂着した流木も,道内各地で処理されています(写真2)。しかし,海岸流木には漂流中に海水が染み込んでいるので,塩分が高く,緑化資材などに使用するときには塩害の心配があります。確かに変色も見られ(写真3),海藻やゴミなど有機質が付着し,腐敗して異臭を放つものもあります。そこで,ここでは,海水の浸透性,塩害を考慮した海岸流木の利用方法についてお話しします。


写真2 海岸に漂着した流木

写真3 海水で変色した木材

 海水の特徴と塩分濃度

 海水は塩化ナトリウム,塩化マグネシウムなどの塩類を3.87%(灰分3.25%に相当)程度含んでおり,弱アルカリ性(pH8.0)を示します。木材成分にはアルカリ性下で着色するものも多いため,海水にさらされると黄変が見られるわけです。
 一般的には海水の濃度は塩素量‰(パーミル)で表しますが,塩分の変化を簡易な手法で判断するため,ここでは流木の灰分(600℃で加熱した残さ)で示します。加熱によって有機物は分解し,海岸流木に染み込んだ海水中の塩類が灰分として残るので,木材中の灰分の増加が海水の侵入を意味します。例えばトドマツは十分に海水が浸透して飽和すると,自重のほぼ2倍の海水を含みます。このような木材を乾燥すると塩分が濃縮し,灰分として8%にも達します。海水にさらされたことのないトドマツの灰分は0.5%程度ですから,8%ともなると塩分は極めて高く,塩害も起こると思われます。

 海岸に漂着した流木

 海岸に打ち上げられたナナカマドを長さ5cm幅で切り分け,灰分を調べました(写真4)。末口44×42mm,元口70×68mmの7年生輪のある流木で,輪切りの内側(髄から1cm幅)と外側(樹皮を除く1cm幅)でそれぞれ灰分を求めました。外側,内側ともに,末口から遠いほど灰分は減少し(図1),また,割れが見られる部位(25~30cm)で灰分が高くなりました。海水と接触する部分から塩分は繊維方向(樹木が伸長する方向)に浸透し,辺材から心材に向かうような外周部からの浸入は少ないことが明らかです。長期間の漂流,割れや腐れという激しい損傷を受けなければ,急激に海水が浸透する可能性は少ないようです。

写真4 海岸に漂着したナナカマド
図1 海岸に漂着したナナカマドの灰分

 海水の浸透性

 流木には,水上を漂流するものと水没するものが見られます。この違いは,含水率に基づくようで,含水率の高い流木は水没します。例えば,林内,中州,川岸などに一時止まって乾燥した後に押し流されたものと,立木が一気に押し流されたものでは,前者は浮き,後者は沈むようです。一旦,乾燥したものは水と馴染みにくく,細胞内に生じた空気層は浮き輪のように働くため,水没しないまま漂流し,海水の浸透性も低くなります。一方,立木が急激な増水によりそのまま押し流された場合,含水率が高いことで水との馴染みも良く,海水との接触も必然的に増え,塩分の侵入が起こるようです。
 実際に林地から採取したばかりのトドマツ(含水率120%)とそれを一部乾燥したもの(同50%)を,海水に3日間浸してみました。なお,ここでは材の切口を木口と表現します。やはり乾燥材は水没することなく,材が露出している部位(木口)のみに塩分の増加が見られました(図2)。また樹皮についても,外周部からの浸透とともに,木口からも海水が浸入していましたので,利用の際には塩分に注意が必要なことがわかりました。
図2 風乾材の海水の浸透性(含水率50%)

 一方,含水率の高いトドマツは速やかに水没し,3日間の浸せきでも木口から3-4㎝程度まで,塩分の増加が見られました(図3)。海水は樹皮,材の外側から順に浸透するものの,主に切断部や損傷部から繊維(伸長)方向に侵入することが明らかでした。そして,含水率の高いものは,海水の浸透性も高く,用途によっては塩分の影響が懸念されます。生材は早急に引き上げて,海水の浸透を極力抑えることが望まれます。
図3 生材に対する海水の浸透性(含水率120%)

 海岸流木の利用

 流木の利用方法として,緑化資材や土壌改良材は有効な手段です。その資材としての適性を把握するため,緑化における塩分濃度の影響を調べました。すなわち,所定濃度の海水を含む木材粉砕物50%からなる培土に,芝用の種子(ケンタッキーブルーグラス)をまき,その発芽と生育状況を観察しました。その結果,塩分濃度2.81%で浸せきした粉砕物を含む培土は,芝にとって生育環境は厳しいことが明らかでした(写真5)。確かに,塩害に強い植物を栽培することも選択肢の一つですし,緑化の際に黒土,肥料とも混合され,全体として塩分濃度は低下するとも思われますが,海水を除去する脱塩処理を施し,より良質な資材を提供することが,結果的に用途を広げるものと思われます。

写真5 植物の発芽・生長試験
左より黒土,塩濃度0.25,0.4,0.53,0.76,2.81%

 なお,塩分0.76%以下(灰分2%に相当)では,その影響は小さいものでした。さらに,実際に海岸流木を一括粉砕したものの灰分を求めたところ0.7%でした。このことからすると,深刻な塩害は考え難いことがわかります。むしろ,粉砕物には砂など異物の混入も多く見られることから,砂をなるべく払い落とすことが,海岸流木の活用における第一歩のようです。

 まとめ

 流木は発生量,発生時期は予測できないものの,膨大な森林バイオマス資源であり,自然環境の維持や緑豊かな水辺の形成には,処理と活用が不可欠です。これまでお話ししたように,大中径木での海水の浸透性はそう高くはないことから,流木の径,損傷度,腐朽度,漂流期間などを考慮することで,河川流木と同じような利用が可能と言えます。しかし,脱塩処理を施した良質な資材の提供がより望ましいことから,今後も適正な用途開発を探っていきたいと思います。
 
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