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林産試だより2005年3月号 特集「自然災害と木材」地震と木造住宅
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地震と木造住宅

性能部 構造性能科 戸田 正彦


 はじめに

 2004年の10月下旬,新潟で地震が発生しました。最大震度7,地震動の最大加速度は1000ガルを超え,10年前の兵庫県南部地震の800ガルを上回る非常に大きなものでした。また北海道でも,昨年から道東で震度5クラスの地震が続き,日本が地震多発国であることをあらためて実感する出来事でした。
 地震による被害で最初に思い浮かぶのは,住宅の倒壊でしょう。ここでは,地震によって住宅にどのような力が加わって,どのような場合に倒壊してしまうのかについて,お話をします。

 地震によって建物にどんな力が加わるのか

 住宅に限らず,あらゆる建築物は建築基準法に則って建てられなければなりません。
 建築基準法には,構造耐力上の安全性を確保する原則が定められています。つまり,建物に力が加わったときに壊れたり大きく変形することのないよう,一定の仕様に従う,あるいは構造計算を行い安全を確かめることが必要です。
 建物に加わる力は,大きく分けると二種類あります。ひとつは下向き(鉛直方向)の力です。これは建物自体の重量や,人や荷物,屋根に積もった雪の重量などによって発生します。
 もうひとつは横向き(水平方向)の力で,これは風,そして地震によって発生します。同じ大きさの地震でも,建物全体の重量が大きいほど,地震によって発生する力,すなわち地震力は大きくなります。なお,地震によって上下方向の力も発生しますが,その大きさは横方向に比べると小さいので,通常は地震力といえば水平方向の力を指します。

 地震で倒れないためには

 一般的な木造住宅が,地震力を受けても倒れないためにはどうすればいいのでしょうか?

(1)基礎

 まずは,建物が基礎にしっかりと固定されている必要があります。固定されていないと,建物が横に滑ったり転がってしまいます。一般的には,コンクリート製の基礎に,土台をアンカーボルトで緊結する方法がとられています。

(2)壁

 次に必要なのは「壁」です。壁には,外と中を隔てて風や音,熱の動きを防ぐという役割もありますが,ここでは,力に抵抗するという役割に着目します。
 図1(A)は,単純に柱と土台・梁とを組み合わせた長方形の壁組です。この壁に水平方向の力が加わると,簡単に変形してしまい,そのままでは倒れてしまいます。
 例えば(B)のように柱と柱の間に斜めに筋かいを取り付けることによって,この筋かいがつっかい棒となり変形を抑え,地震力に抵抗します。また筋かいの代わりに(C)のように合板やOSBなどの面材料を釘で止め付けることによっても同様の効果が得られます。この水平方向の力に抵抗する性能を備えた壁を「耐力壁」と呼びます。どのくらいの力に耐えられるかは,筋かいの太さや面材の種類によって変わり,「壁倍率」*1 という数値で表されます。さらに(D)のように壁を2つ並べると2倍の力に耐えることができます。
 それぞれの壁の長さと壁倍率を掛け合わせたものを「壁量」といい,建物の各階で方向ごとに合計した壁量が十分であれば,地震力に耐えることができます。
 ただし,気をつけなければいけない点があります。兵庫県南部大地震ではたくさんの木造住宅が倒壊してしまいましたが,その原因として図2(A)のように柱や筋かいが土台から引き抜けてしまったことが挙げられます。柱が土台から引き抜けようとする力は,耐力壁の強さに比例します。したがって強い壁を使うには,それに見合うように(B)のように金物を使って柱と土台をしっかりと固定する必要があります。
*1)壁倍率: 地震力や風圧力を耐力壁がどのくらい負担できるかを示すもので,壁の水平長さ1m 当たり1.96kN を負担できるものを倍率1 と定めている。
図1 水平力に抵抗する耐力壁
図2 柱と土台の接合

(3)バランス

 もう一つ考慮しなければならないことがバランスです。図3(A)に示すように,日当たりの良い南側には窓を大きく取る設計が多く見られます。しかし窓などの開口部を含む壁は水平力にほとんど抵抗できず,耐力壁とはみなされません。したがって,仮にすべての壁の壁倍率が同じ場合,水平力を受けると点線のように南側が大きく変形し,建物全体がねじれてしまいます。このように全体として必要な壁量が足りていても,配置のバランスが悪いと本来の性能が発揮できません。できるだけ(B)のようにバランスよく配置することが重要です。この耐力壁の配置のバランスは偏心率という数値で評価されており,建築基準法で制限値が定められています。
図3 耐力壁の配置のバランス

 建築基準法と耐震基準

 建築基準法はこれまで幾度か改正されていますが,実は地震災害と密接な関係があります。主な地震と建築基準法の移り変わりとを併せて表1に示します。
表1 主な地震と建築基準法

 このように大きな地震被害の反省に立ち,耐震基準の見直しなどの大きな法改正は行われてきました。その中で最も重要なものは1981年の改正です。この改正では壁量や壁倍率に関する部分が大幅に強化されています。一般にこの基準は「新耐震基準」と呼ばれており,兵庫県南部大地震でこの改正以後に建築された建物は倒壊した例が非常に少なかったことから,その妥当性が明らかになりました。
 現在の耐震基準は建築物に2つの耐震性能を要求しています。ひとつは,数十年に一度発生する震度5程度の大きな地震に対して損傷が生じないこと,もうひとつは,数百年に一度発生する震度6以上の非常に大きな地震に対して倒壊しないことです。
 このように2つの性能を定めている理由は,工学的な判断だけではなく経済的な判断も考慮しているからです。数百年に一度しか発生しないような非常に大きな地震に対しても全く損傷を受けないほど頑丈に建物を設計することは,技術的には可能ですが,建物の寿命やデザイン,建築コストを総合的に考えると,あまり得策とは言えません。

 構法による差はあるのか

 木造住宅には,在来(軸組)構法や枠組壁工法(ツーバイフォー構法),木質プレハブ構法など,いくつかの構法があります。
 阪神淡路大震災では,倒壊した住宅の多くは在来構法で建てられていました。そのため,在来構法は他の構法に比べて弱いのではないかという風評が立ちました。しかしそれは間違いです。
 大雑把に言うと,倒壊した住宅は古い住宅です。「古い」とは,「新耐震基準が定められる前に建てられた」という意味です。先に挙げた枠組壁工法や木質プレハブ構法は,実はこの基準が制定された後に導入された構法です。したがって「古い」住宅のほとんどが在来構法で建てられているのは当然のことと言えます。それらの多くは残念ながら今の基準に照らし合わせると壁量や接合部の強度が不足していたため,少なからず倒壊に至ったものと思われます。
 しかし新耐震基準以後の在来構法は,ほかの構法と同様に十分に耐震性能をもっています。すなわち,新耐震基準に則って建てられたものは構法にかかわらず基本的には安全と言えるでしょう。この基準以前に建てられた建物も,すべてが危険というわけではありませんが,耐震診断を行い必要があれば適切な補強や補修を行うことが望ましいでしょう。

 おわりに

 地震による被害は建物の倒壊だけでなく,家具の転倒やブロック塀の倒壊,道路の損壊,火災などさまざまです。ですから,地震が来ても倒れない丈夫な住宅を建てるだけでは,地震対策として十分とは言えないのかも知れません。しかし,阪神淡路大震災で犠牲になった方の多くは建物の倒壊などが原因であったことも事実です。
 地震による被害を防ぐには,新築にしろ補修改修にしろ,何よりもまず「建築基準法」を遵守することが最優先です。これによって工法によらず木造住宅の耐震性能が確保されるのです。
 今後も大きな地震が発生するとは思いますが,木造住宅の倒壊による犠牲者が1人でも少なくなるよう願ってやみません。
 
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