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林産試だより2005年4月号 市販WPCの話題と林産試験場の取り組み
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市販WPCの話題と林産試験場の取り組み

利用部 化学加工科 長谷川 祐


 はじめに

 WPCとは,Wood-Plastic(Polymer)-Composit(木材-高分子複合体)の頭文字をとったもので,固まる前の液状の樹脂を木材にしみ込ませて,材内で固まらせた材料のことを言います(図1)。登場してからかれこれ20~30年以上経つ比較的歴史ある材料で,今日では,私たちの案外身近なところでも使われています。さらに最近は床暖房用フローリングや景観材料としての利用など,WPCの特長を活かした新しい用途への展開も行われています。
 今回はこの古くて新しい?材料であるWPCについての最近の話題や,当場での取り組み事例を紹介したいと思います。


図1 WPCの概略図

 WPCの特徴あれこれ

 木材は独特の温かみや強度,調湿能など,とても優れた材料特性を持つ生物由来の材料です。できるだけ手を加えずにその良さを最大限に活かす用途や方法で使うのが本来の姿であることは言うまでもありません。しかしその一方で,木材が持ち合わせていない性能を補ったり,新しい性能を持たせることで,より多くの人に,より広く木材を利用してもらえるようになることも期待できます。こうした考えから,木材に樹脂の持つ特徴を取り入れることをねらってWPCが開発されてきました。

 WPCの性能は,使用する樹種や組み合わせる樹脂の種類や量によって大きく変化するので一概には言えませんが,一般的には以下のような性能が向上します。
1 機械的性質の向上
 樹脂が木材の空げきを充填して固まることにより,曲げ強さや表面の硬さなどが大きく向上します。そのため,無処理の木材では耐えられないような過酷な環境でも使用可能になったり,軽軟で用途が限られていた材を重厚な材と同様に利用できるようになります。
2 耐汚染性の向上
 木材の表面は多孔質であるため,長く使用していると手あかなどの汚れが入り込み美観を損ねます。WPCは空げきが樹脂で充填されているので,汚れなどが材内に入りにくく,メンテナンスが楽になります。同様の効果は塗装によっても得られますが,塗装の場合は塗膜がはがれたり割れたりすると下地(素材)が露出し,そこから汚染が進んでしまう場合があります。この点でもWPCは有利です。
3 寸法安定性の向上
 WPC化により向上が期待される性能として,寸法安定性があります。WPCは,樹脂が充填されている分,寸法変化の要因である水分の材内への拡散が抑えられ,ある程度の寸法安定化効果があります。ただし,寸法安定性を期待する場合は,木材実質部と樹脂を強く結びつかせて,水分を寄せつけないようにする必要があります。そのため,実際にWPCで寸法安定性を図るためには,樹脂の選択や処理条件などの工夫が必要になります。
 これらの特徴以外にも,WPCにすることによって独特の手触りや重厚感,光沢が得られます。


 市販WPCの現況

 多くの特徴を持つWPCですが,樹脂液を材内にしみ込ませるための作業や樹脂自体のコストが加算されますので,木材よりは割高になります。そのためWPC化せず塗装だけにとどめたり他の材料を用いる場合が多く,今のところ主にフローリング材やテーブルの天板,スポーツ用器具などに使われている状況です。
 これらのうち,フローリング材は,特にWPCの特徴を活かせる用途の一つです。一般的なフローリング材は,合板につき板を張って表面に塗装を施したものですが,このつき板をWPC化することで,へこんだり汚れたりしにくく,塗装との一体化により高い光沢や深みがでるといった付加価値の高いフローリングとして提案することができます。また,厚みのある挽き板をWPC化したものは耐久性が大きく向上するとともに熱が伝わりやすくなりますので,体育館や福祉施設等の床暖房用など,人の出入りや車椅子などの行き来が多い場所での需要があります。

 最近のフローリング材は,WPCと硬質のUV塗装を組み合わせた製品が多くなっています。UVとは紫外線(Ultraviolet rays)の意味で,UV塗装とは紫外線で硬化(樹脂化)する塗料を用いた塗装のことを言います。塗料の調合によって,UV塗装ではキズ付きにくい硬い塗膜を造ることができますが,基材自体が軟らかいと材自身がへこんだりして十分な効果を発揮できません。そこで,表面のWPC化によって基材自身を硬くしたうえでUV塗装を施すことで硬い塗膜の効果を引き出すことができ,その分,基材のWPC加工も少なくて済むことになります。


 これからのWPCについて

 WPCに用いる樹脂と,これとなじみのよい塗料を組み合わせて重ね塗りすることで,案内標識やベンチなど屋外製品として用いることが提案されています。これはWPC化された基材と塗料とを一体化させることで,水分や紫外線などの劣化因子の材内への侵入を抑え,高い耐久性を維持することをねらっています。屋外用途には大きな需要が期待されることから,今後はこうした塗装との協力関係がWPCの用途を広げる方向の一つと言えるかもしれません。
 このような組み合わせは,WPCと塗装の両者の特徴を活かしつつ,できるだけコストを抑えるための工夫と言えますが,あまりにWPC部分が少ないと塗料の重ね塗りなのかWPCなのか判断が微妙な場合もあります。
 今回ご紹介した製品例以外にも,木材の接着剤に使用されるような汎用的で低価格の樹脂をWPC用樹脂として利用する試みや,WPC製造工程の簡略化なども取り組まれています。いずれにしても,数えきれないほどたくさん材料があるなかでWPCの用途を広げるためには,木材本来の風合いを活かしつつ機能強化していくことがポイントと言えそうです。

 針葉樹材のWPC化について

 当場では,WPCの基礎的な性質から製造コストを低減する方法まで,WPCの普及に向けて様々な研究を行ってきました。ここでは最近の取り組みの中から,道産針葉樹材のWPC化についてご紹介したいと思います。
 北海道にはカラマツやトドマツ,エゾマツなどの針葉樹が人工造林木として育っています。これらの多くは建築資材や梱包用資材として利用されていますが,より付加価値の高い内装材や家具への利用を提案していくことも大切と考えます。もちろん,内装材や家具材として利用されるには,硬さや強度などの物理的な性質とともに,木目や風合いなどが大きな選択基準となるため,特にカラマツのように木目がはっきりしている材は好みが分かれるところです。それでも針葉樹材をこうした用途に使ってもらえるよう技術を開発し提案していくことが大切と考えますし,そうすることで,針葉樹材の木目や質感が新鮮に感じる時代になるかもしれません。

 針葉樹材を内装や家具材として扱う際に問題となるのが,材が軽軟でキズ付いたりへこんだりしやすい点です。前章でも述べましたが,もともとの材が軟らかいと,硬い塗装を施しても材自身がへこんで十分な効果を発揮できない場合が多いのです。そこで,針葉樹材をWPC化してキズ付きやすさを改善するとともにWPC特有の深みのある質感を与えることで,前述したような硬さが求められる用途への利用が広がると期待できます。


 溶媒置換法による樹脂液含浸

 針葉樹材の多くは,軟らかくて空げきが多いにもかかわらず,樹脂液を材内にしみ込ませることがとても困難です。それは,材内に液体の注入を妨げる組織があるためです。そこで,まず材料に水をしみ込ませて,次いでこの水を樹脂液と置換する方法(溶媒置換法)を開発しました(図2)。この方法を行うと,前述した木材組織の影響をあまり受けずに樹脂液をしみ込ませることができます。今のところ使用できる樹脂液や材の厚み(5mm程度まで)に制限がありますが,耐圧容器などが不要なこと,材色が暗色化しないなどのメリットがあります。

図2 溶媒置換による樹脂液含浸の概略
 この方法によってWPC化したカラマツ単板(厚さ0.8mm)を貼り付けたWPC複合合板を試作し(写真1),その表面の硬さを測定しました(図3)。材内に十分に樹脂液がしみ込んだ結果,とくに軽軟な早材部の表面硬さが処理前に比べて3倍以上と大きく改善しています。この値は,重厚な材で知られるミズナラと比べても高い値です。こうした方法を用いることで針葉樹材のWPCが身近になり,付加価値の高い製品の開発につながっていくことが期待されます。

図3 WPC化による表面硬さの改善

写真1 WPCカラマツによるフローリング材の試作
 
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