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林産試だより2005年6月号 Q&A 先月の技術相談から 製材から二酸化炭素は放出されますか?
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Q&A 先月の技術相談から

Q:工場の土場に積んである製材からは,二酸化炭素が放出されているのですか?(製材業)


A:近ごろ「二酸化炭素の放出」という言葉がよく聞かれるのは,それが現在最もホットな環境問題である「地球温暖化」の主原因のひとつと考えられるからです。この観点から,ご質問に対するお答えとして結論から言いますと,ゼロとは言えませんが,製材が「積んである」だけなら,地球温暖化に拍車をかけるほどの二酸化炭素は放出しません。

 そもそも,二酸化炭素の放出とは何でしょうか?
 二酸化炭素(CO2)は,炭素原子(C)に酸素原子(O)が2つ結合した単純な分子で,常温常圧では気体(ガス)であり,現在,大気中には濃度370ppm(0.037%),質量で7500億トン程度存在しています。大気中の二酸化炭素濃度は200年ほど前まで,少なくとも数千年間はほとんど変わらず280ppmでしたが,1800年代以降,急激に増えています。理屈の上では,地下も含む地球全体の炭素原子の量はほとんど変化しません。大量の二酸化炭素が急激に大気中に放出される自然現象である火山活動や大規模な山林火災がここ200年間に著しく増えた事実もありません。この状況で大気中の二酸化炭素濃度が急増した理由として,産業革命以降,地下に眠っていた石炭・石油等の化石燃料を人間が地上に持ち出して燃やしたのが大きな原因と言われています。

 化石燃料の主な成分は,たくさんの炭素原子と水素原子(H)がいろいろな形で結合した化合物群で,これらに酸素(O2)を供給して燃やすと二酸化炭素と水(H2O)に分解するとともに熱エネルギーが発生します。単純化すれば,二酸化炭素は,炭水化物が分解すると発生するといえます。すると,木材から二酸化炭素は発生するでしょうか?木材の主成分であるセルロースやリグニンなども炭素と水素を含む化合物なので,それらが分解されると発生しますが,分解されなければ二酸化炭素は発生しないことになります。

 では,木材が分解するのはどういう状況でしょうか?木材は,乾燥した状態では大変安定していて,博物館には数千年前の木製品がほとんど変化せずに陳列されています。パルプ製造などの意図的な化学処理によるものを除けば,木材が変化するのは,

・ 熱により分解する(燃えたり炭になるなど)
・ シロアリや腐朽菌が木材をエサとして分解する
・ 化学物質や光により成分の一部が変質する
・ 物理的な外力が加わって変形あるいは破壊する

などの場合ですが,変質,変形,破壊だけなら,木材を構成する炭水化物自体の分解ではないので,二酸化炭素の放出もありません。燃やせば分解となり二酸化炭素が発生しますが,炭となる場合は多くの炭素は固体として残ります。腐朽菌や昆虫等が木材を分解する際にも二酸化炭素は出ます。また,原木や未乾燥材では,わずかながら生き残っている樹木の細胞が細々と代謝をし,死んでいく過程で,ごく微量の二酸化炭素が発生することもあります。しかし,腐朽や樹木細胞の代謝は,地球上のあらゆる場所で日夜続いている自然の営みと変わりはありません。森林の中では,枯枝や枯死木が微生物や昆虫等により分解され,ゆっくりと二酸化炭素と水に戻されます。その二酸化炭素は,再び,光合成を行う植物により太陽のエネルギーを取り込んで木材などを構成する炭水化物として固定されていきます。

 「カーボン・ニュートラル」という言葉が最近使われています。現在,地上・大気中・海水中で,上記のような二酸化炭素と炭水化物を行き来する循環の中にある炭素原子の総量は一定で,この循環の一部である木材などの生物資源が分解して二酸化炭素を放出しても,循環が順調である限り,大気中の二酸化炭素濃度のバランスを崩さないという考え方です。一方,地下に蓄えられている化石燃料はこの循環の中に入っていないので,化石燃料を燃やして放出される二酸化炭素は循環の中に新たに加わることになり,大気中の二酸化炭素量も増えるというわけです。

 以上により,土場や倉庫に積まれた製材からの二酸化炭素放出を懸念する必要はありません。腐ったり燃えたりしないように管理されれば,製材自身は炭素原子をしっかり抱え込んでいます。一方,ボイラーなどで化石燃料を燃やすと「カーボン・プラス」になり,電力の使用も火力発電では化石燃料を燃やしますから,効率が良く,エネルギー消費の少ない生産・管理に工夫を凝らして頂ければよろしいかと思います。

(利用部 材質科 佐藤 真由美)
 
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