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林産試だより2005年7月号 『木育(もくいく)』と林産試験場の関わり
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『木育(もくいく)』と林産試験場の関わり
利用部 材質科 根井 三貴


 はじめに

 木育という言葉をご存知でしょうか。これは,現在先行して取り組まれている食育と併せて,北海道が発信していこうとする新たな概念です。北海道における食育は,食べることの意味や安全性についての知識を深め,心身を養い,地域の食文化を育むというように定義されています。一方木育は,木材利用を通じて木材・森林への理解を促し,人との関わりを主体的に考えられる心を育むことと定義しています。
 この木育は,協働型政策検討システム推進事業という,道民と行政が連携・協力して政策作りをするための取組の中で検討されてきたものです。この事業は,テーマに関心のある企業,団体,行政の職員を募り,検討プロジェクトを発足させ,報告書をとりまとめ,具体的な活動につなげていくものです。平成16年度のテーマは「子どもの頃から木を使うことによって森林と環境を考える『木育』のススメ」でした。私は公募道職員としてこのプロジェクトに参加してきましたので,その概要と今後林産試験場がどう関わっていくかについて考えていることを報告します。


 木育の背景と必要性

 木育を進めようとする背景の一つには,林業・林産業に携わる人々の「木のことを正しく知ってもらいたい,使ってもらいたい」という思いがあります。
 森林は,水源かん養,土砂流出防止,生物多様性の維持,保健休養機能など,様々な公益的機能を持つことが認識されてきており,この問題に対する人々の関心も高まっています。一方,木材生産という役割への期待は低下しています。この理由として,「森を守るためには木を伐ってはいけない」「木を使うことは悪いこと」といった意識や動きが,道民の生活の中に少なからずあるように思われます。なぜ,このような状況が生じているのでしょうか。
 それは,道民の木材利用に対する知識や,森林・環境の現状認識が不十分であることが一因と考えられます。木材の特徴として,人の手で再生できる資源である,温暖化ガスであるCO2を増加させない,加工に必要なエネルギーが少ないなどがあげられます。このようなことから,生産・加工時にエネルギーを多く消費する他材料を使うより,木材資源を循環させて使うことこそ,環境に負荷をかけないことになります。

 また,北海道は豊富な森林資源を持っていますが,適切な管理をされずに放置されている森林が増えています。森林に本来の公益的機能を発揮させるためには,木材が利用され,林業・林産業が健全に成り立たなければなりません。しかし,安い輸入材との競争で林業は厳しい状況にあります。さらに,木材は工業製品に代替され消費量が減少しており,このことが林産業を圧迫しています。
 このような森林・木材を巡る現状は,道民に十分に伝わっているとは言えず,木材の消費行動にもつながっていきません。森林や木材を巡る情報を,私たち一人一人が正しく認識し,道産材の消費活動につなげることが重要だと思われます。
 このような背景を受けて,木材に触れる機会を増やし,正しい知識や技術を学べるような取組を提案,実施していくのが木育だと考えます。木育の目指すものは,豊かな森づくりであるとともに,人や木材の関わりを通した豊かな心づくり,社会づくりと言えるでしょう。


 具体的な取組の提案

 プロジェクトでは,気軽に木に触れ,木に包まれることで,木の良さを感じる「木とふれあう」プロセス,木や森林について関心を深め,知識や技を身につける「木に学ぶ」プロセス,家庭や地域,社会の中で木育が実施・継続させるようにしていくための「木と生きる」プロセスという3つの段階に分けた取組の提案をしています。
 「木とふれあう」プロセスでは,ライフスタイルに合った木製品の開発,学校・公共施設の木製化,木遊び施設の整備・ネットワーク化をあげています。 「木に学ぶ」プロセスでは,木材や森林を用いた学習プログラムの開発,木材の効能の科学的検証などを提案しています。
 「木と生きる」プロセスでは,木育の概念の普及啓発,木材に関わる地域の取組を推奨する制度づくりなどが考えられています。
 これらは報告書としてまとめられており,17年度以降に関係部局によって具体化を検討していくことになります。


 木育と林産試験場の関わり

 当場は技術の開発などを通じて林産業を支援することを役割としており,これまで木材に関わる様々な技術と経験を積み重ねてきています。これらの研究成果が活かされるためには,技術が適切に外部へと届けられなければなりません。近年,研究成果の発信や活用は強く求められるようになってきており,これに応える私たちの普及事業の重要性はさらに増していくと思われます。
 木育はこの普及事業に深く関わる内容であり,積極的に参画していく必要があると考えています。特に,当場では木造建築物や遊具,各種木製品を設計,開発している経緯があり,施策に役立てられるノウハウがあるほか,技術指導や,木のグランドフェアの実施,木と暮らしの情報館の運営など,すでに木育の概念に通じる事業を行ってきており,これらの事業を木育という北海道全体の動きにつなげていくことができるでしょう。

 例えば,当場では木製品の展示や子どもを対象とした体験イベントを行っています(写真1)。その際には,参加者に「楽しかった」と感じてもらうことだけで終わらせるのではなく,イベントを通じてどのような効果が得られたのか,学ぶ意欲を引き出すにはどのような工夫をしていけばいいかを考えていく必要があります。このようなイベントで得られたノウハウを蓄積し,木材関係者で共有していけば,道民へ木材利用の理解を促す効果的な働きかけをしていけるものと思います。

 また,私たちが研究を進めるうえで,木育は新たな方向性を示してくれるものでもあります。それは例えば,教育分野での製品開発とそれらを普及させる取組の提案といった,ハード・ソフト両面からの技術提供を行うことなどです。一例として,材質科では民間企業と共同で,旭川市内の伐倒木から広葉樹材鑑を作成し,市内の小学校に配布したことがあります(写真2)。このような場合には,材鑑から何がわかるのか,どのような木材の知識を習得できるかについて検討し,学習プログラムとして提案するなどの展開を考えていくこともできると思われます。

写真1 ふゆトピア・フェア(2005年2月)木の手作り体験コーナー 写真2 旭川の広葉樹材鑑「森からのおくりもの」
 木育の活かされる分野は,林産業はもちろん,教育やまちおこしなど広い分野に及ぶものと期待しています。この活動を,行政,企業,団体などが協力して行い,北海道全体に根付かせていくためには,まず木育という概念を広め,施策を具体化していくことが求められます。私たちも,林産行政と連携を図り,具体的な方策を検討,実施していくことで,人々の心づくり,社会づくりに貢献していきたいと思います。
 
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