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林産試だより2005年9月号 木を暮らしに活かす講演会「子供達とかつて子供だった人への贈りもの」
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木を暮らしに活かす講演会

「子供達とかつて子供だった人への贈りもの」
KEM工房主宰 煙山 泰子


 今日は,タイトルにもありますように,子供達とかつて子供だった人への贈りもの,ということで,これまで私がやってきた木の仕事についてご紹介したいと思います。
 皆さんもかつて子供だった頃がおありでしょうし,その頃の心に残る風景などをお持ちだと思います。心に残る風景とか遠い記憶というものは,大人になってある時に気付いてみると,とても深く心と体に印象を残しているものだと思います。今の子供達が何十年か経った後に,美しい北海道の自然が心に残る風景になっていてほしいなあというように,最近は思っています。

写真1 講演会の様子

 木との出会い

 私は札幌で生まれました。手稲山の麓に星置の滝という所がありまして,その滝のそばの手稲鉱山という所で育ちました。私は子供の頃,絵を描いたり,折り紙を折ったり,工作をしたりするのが好きでした。ずっと,絵が得意だよねとか,工作すると上手だよねとか,周りからも言われたので,自分でもそういうことが向いているのかなあと思って,大学も,教育大学の美術の先生になる課程に進みました。

 いろんな材料を授業で経験する中で,3年生の時に木と出会いました。小さいウサギを5匹くらい組み合わせて,1匹の大きなウサギになるというパズルをデザインしたときのことです。早速木工室の先生にぜひ作らせてくださいとお願いしたら,私はきれいな木がもらえると思ったのですが,そこで渡されたのは,すごく汚い,私にすればどぶ板のような古い材料だったんですね。まずカンナかけなさい,と言われて生まれて初めてカンナを手渡されて,使い方を教えられて,その板にカンナをかけ始めたんですね。最初は,うまくいかなくて大変でしたが,だんだんコツを覚えていくと,スルスルっとしたカンナの削りかすが出て,だんだん,汚いなあ,たいしたことがない板だなあと思っていたのが,実はその中からすごくきれいな木目が出てきて,木のとてもいい香りがして,削り終えたときは,ああ木って素敵だなあ,木が好きかなあ,木と相性が良いかもしれない,と感じたんですね。そして自分でデザインしたうさぎのパズルを作ったときには,本当に,物を作ってうれしいなあ,楽しいなあという気持ちがいっぱいでした。それが私と木の出会い。そこからずっとこの歳になるまで同じような気持ちで,うれしいなあ,楽しいなあと思いながら作り続けてきました。


 「うれしい」と言われて

 私自身がうれしいと思ったことはもう一つあります。それまでずっと絵を描いてきましたが,母や父に見せたときや,コンクールで賞をもらったりしたときにも,いつも周りの人には,「よかったね」と言われました。それが大学に入って,例えば木のまな板を作ったり調味料入れを作って母にあげると,今までよかったねというのが,「うれしい」って言うんですね。その日から我が家の食卓には私が作った調味料入れが使われたりして,私の作ったもので親もすごく喜んでくれるのがとってもうれしかった。私の作る木のものを,同級生も友達もみんな,ああいいね,私にも作ってと言うんですね。そして私が作ってあげるとやっぱりすごく喜ぶんです。自分の作ったものが,人にこんなに喜んでもらえる。子供達も木のオモチャを使って楽しいと言ってくれるんですね。だから自分の作ったもので,人に楽しいとかうれしいとかいう気持ちを持ってもらえることが,これもまた素敵だなあというように思って,それが今でも続いています。


 KEM工房を始める

 卒業後は学校の先生にはならずに,自分の作ったものをとおして子供達とかかわっていこうと,KEM(けむりやまのニックネーム)の工房を自分ひとりで始めました。それが23歳の時です。KEM工房の基本テーマは「子供達とかつて子供だった人への贈りもの」で,ずっと木と子供にこだわって活動してきました。


 あばれ木馬

 これは私の卒業制作の「あばれ木馬」です(写真2)。小さい頃に牧場の馬をよく見る機会があったので,馬が好きなんです。ですから,大学に入って木でものを作るようになったときに,自分の好きな馬を形にして木馬を何台も作りました。このあばれ木馬は,子供だと2人,大人でも乗れるような大きな木馬なんです。普通の木馬は足の部分にロッキングチェアみたいな曲がった木が付いていますが,これは台座に金物で馬の本体をつり下げるような形になっています。乗ってゆらしてみると,本当のあばれ馬のようにガッタン,ガッタンと激しく動いてとても面白い木馬です。これは幼稚園とかショッピングセンターの待合室とか,たくさん子供が集まる場所に置いてほしいと思って作りました。


写真2 あばれ木馬

 ベジタブル・じゃがいも

 私は自分が好きなもの,感動したもの,楽しいなあと思うものを,人へ贈りものをするような気持ちで作りたいと思っています。
 たとえば,じゃがいもは,家の周りの畑で秋になって掘り起こされて,ホコホコと,ゴロゴロとなっている風景がとても良いなあ,じゃがいもって好きだなあと思ったものですから,木で作ってみました(写真3)。手に持ったときに,この中から音がしたら素敵かなあと思って,金属の玉を中に入れました。振るとゴロゴロ,ゴロゴロという音がします。


写真3 じゃがいも

 ベジタブルシリーズ


写真4 ベジタブルシリーズ

 北海道はじゃがいものほかにも野菜がたくさんありますから,ニンジン,カブ,インゲンマメ,マッシュルームなどを作ってみました(写真4左)。そしてそれぞれの野菜の中に,ちょっとずつ仕掛けを作りました(写真4右)。例えばニンジンはパズル,カブは葉っぱをねじっていくと実と葉っぱがはずれます。また,インゲンマメはゴムが入っていて,マメを出して遊べます。そしてマッシュルームはかさの部分をはずすと,中にちょっとした空間があって秘密の宝物入れのようになっています。

 工房を始めて3年目に,これを他の人も喜んでくれるのか知りたかったので,日本デザインコミッティがやっている,全国規模のデザインフォーラムというコンクールに出したんですね。そうしたらなんと,千何百点くらい応募した中で,私のような名もないものが一等賞をもらうことになりました。東京の偉い審査員の先生達が,たいそうこのベジタブルを気に入ってくださいました。東京の人達でも,こういうものをいいね,面白いね,楽しいねと言ってくださるということで,それならこのままKEM工房を自分は続けて行こう,とこのとき思いました。

 森の鳥たちからの贈りもの(木のタマゴ)

 自分の好きなものを作っていくということで勇気を得て作ったのが,このタマゴです(写真5)。これは全然音もしませんし,何ということがないものですが,タマゴの形って,とても素敵なんですね。じつは,タマゴを何十個も買って,一個ずつ形を比べてみましたが,けっこうタマゴ形ってそれぞれ違っているんですね。先がとんがっていたり,2段になっていたり,ちょっといびつな形だったり。タマゴの形は,自然にできたものですけれど,中には生命が宿っているもので,とても美しいんですね。目をつぶって,ボール状の木とこのタマゴ形を触ってみると,ずいぶん違うんですよ。タマゴ形っていうのは,不思議に人の心が落ち着くというか安らぐものです。タマゴのように命が宿っている,生き物の形を木で作ると,本当に材料と形が合うんだなあということを感じています。

写真5 タマゴ

 KEM初期の遊具

 これが私の結婚して間もない頃の初期の遊具です(写真6)。ちょうどこの頃,自分が子供を産んだものですから,子供のもの,特に小さい子のおもちゃを一生懸命作るようになりました。タマコロファミリーというポーズが変わる人形(写真6左上)やガラガラ(写真6左下,右下),クルミ・コロコロという,木の枠の中にクルミの実が入っていて転がすと音がするものです(写真6右上)。

 それまで作ってきた木のものは,自分の手で手作りしていました。でも自分の作る量は限られていますし,ましてや子供を産んでからは,世話も大変ですし,先のことを考えても限界を感じました。自分はもともと一個一個違う物を作りたいタイプの人ですから,デザインの形ができたものは,どこかに作ってもらった方が,値段も安くできるしモノもきちんとできると思ったので,製品を作ってくれる木工所を探すようになりました。


写真6 KEM初期の遊具

 木のつべつの木・KEMシリーズ

 北海道は,その頃道産子産業といって,たくさんある良い素材を自分たちの町で加工して,付加価値を高めて北海道のブランドとして売っていこう,という気運があったんですね。
 そんな時,網走管内の津別町と協同で,木のオモチャや生活用品のブランド「木のつべつの木・KEM」というブランドを立ち上げました(写真7)。そして私が望んでいたとおり,自分のデザインしたものを津別町木材工芸所協同組合が作って,販売もしてくれるという体制が整いました。その活動は20年ちょっとになりますが,今でもずっと続いています。


写真7 木のつべつの木・KEMシリーズ

 子供とのコミュニケーションおもちゃ


写真8 イナイイナイ・バア

 これは10年くらい前に作ったイナイイナイ・バアとイヤイヤという乳児用のおもちゃです(写真8,9)。こんなおもちゃで大人が子供と遊んでほしいなあ,と思ってデザインしました。子供とのコミュニケーションおもちゃのようなものです。

 イナイイナイ・バアは,ただ棒のところを上下して,イナイイナイ・バア,とやっていただくためのものです。ちょっと最初は勇気がいりますが,子供が笑ったり喜んでくれたりすると,子供と心が通じたという喜びが味わえます。
 イヤイヤは,日本の昔からあるデンデン太鼓の仕組みで,棒のところを持って回転させるようにすると,バタバタ,ボンボンっていう木の音がします。子供達がよく駄々をこねて,体をくねらせて,いやだ,いやだっていう表情が可愛いなあと思ったものですから,これを作りました。


写真9 イヤイヤ

 きんぎょ(触れて楽しむシリーズ)

 これは最近自分が気に入っている,きんぎょです(写真10)。
 展示会などで,見るだけにして触らないでくださいというのがありますけれど,木のものは,やっぱり手で触って感触を楽しんで,木の良さというのを体で味わってほしいと思います。そして時間を経て,その木のものと自分が作り出す関係というのは,お互いに響きあうっていうんですか,とても良いものになっていくと思っていますので,このきんぎょを作りました。
 年輩になると手で握る握力も弱まってくると思うんですが,こうやってきんぎょを握っていただくと,すごく力が入りますし,とんがっているところを押していただくとツボ押し効果もあります。いつもいつも握っているうちに,だんだん色つやも良いものになります。これは,0歳の赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまで,誰にでも触ってもらえる木のおもちゃとしてデザインしました。私はこれからは,この部分にちょっと頑張りたいと,思っています。


写真10 きんぎょ

 あかるい とまとたち,たくましい じゃがいもたち

 そうしているうちに,だんだん空間をデザインする仕事を頼まれるようになりました。これは,札幌市内の小学校の玄関ホールに作ったレリーフです(写真11)。直径3mのけっこう大きなものです。ここの学校の目標が,明るく,たくましく,ということだったので,「あかるいとまとたち」と,もう一個は,「たくましいじゃがいもたち」を作りました(写真12)。とまとやじゃがいもの子供達が,毎朝毎晩ここの学校の子供達に,朝はおはようとか,帰るときにさようならとか言って,いつも子供達を見守ってくれるような感じで作りました。


写真11 あかるいとまとたち

写真12 たくましいじゃがいもたち

 生命の樹

 これは,岩見沢農業高校寄宿舎のレリーフです。農業をやっている高校生ですから,ぜひ生命のつながりみたいなものを意識してほしいと思って,「生命の樹」というレリーフを作りました(写真13)。
 なるべく多くの表情の木に,実際に手で触ってほしいと 思ったので,いろんな種類の木を寄木にして,ちょっと凸凹があったり,オイル仕上げといって表面に膜を作らない仕上げで,木の触感を感じてもらえるようにしています。

写真13 生命の樹

 種シリーズ

 植物は,大きい木でも何でもそうですけれど,元々は一粒の種なんですね。その種が水分やお日様の力,それと長い時間をかけて,大きく成長していきます。だから,種に含まれている可能性みたいなものってすごいなあと感動したんですね。それで今度は種をモチーフにして,種シリーズ(写真14)というのを作るようになりました。これは使うための道具ではなく,すごいなあと思った種を,素直に表現したものです。自分なりにその材料を見ているうちに,その種の形のイメージがだんだんわいてきて,自然と種の形が決まっていくという,どちらかというと私の中では作品的なものです。種もたくさん作ったのですが,自分のところに置いておくだけではなくて,何とか子供達にも触らせてあげたいと思うようになりました。


写真14 種シリーズ

 図書館に種と赤いタマゴを

 それで,私が今までレリーフでやってきたような公共の場所にこの種を付けることで,そこに来る人達にいつも触ってもらえるようにできないかなあと思っている時,石狩市に石狩市民図書館が建てられることになりました。私はずっと子供とか木とかやってきたので,そこの子供の本のコーナーなどをデザインする機会に恵まれました。

 これが,テーブルの上に私の作った種を載せた,幼児の絵本のコーナーです(写真15)。このときは家具のソファーやテーブル,本箱,天井についている照明器具,壁の種の絵など,トータルでやらせてもらったので,自分の種と全部つながりがあるような建物になっています。テーブルに種が付いていますから,子供達は本を読んだりする合い間に,種を手で触ったりしながら楽しんでくれています。
 これは「赤いタマゴのお話室」で,タマゴからイメージがふくらむように,ということでタマゴ形にデザインしました(写真16)。タマゴの中に入ってみたらどんなんだろうと思ったものですから,内側もタマゴ形の空間になっています。そして,花のスツールを作りました。子供達が遊んできれいに並んでなくても,野原に花が咲き乱れているようなイメージで良いのでないかと思いました。


写真15 石狩市民図書館(幼児コーナー)


写真16 石狩市民図書館(赤いタマゴのお話室)

 木育への想い

 木育については,昨年度北海道と一般公募の道民,いろんな分野の人達が20人ほど集まって取り組みがはじまりました。じつは食べ物の方では,食育という食で育てるという動きが数年前からあって,一生懸命食べるということに着目して取り組みが,すすめられています。
 北海道には美しい自然や森林があって,森林からはたくさんの木材が生産されるのですが,その北海道の木材が、うまく使ってもらえていないんですね。外国からの材料も入っていますし,本当は身近に材料があるのに,なかなかうまく日常のみなさんの生活の中で使われないというのが現状です。それを,もっともっと使ってほしい,そういう想いを木育に込めています。
 北海道の森林や木材が,子供達そして子供だけではなくてすべての人の心を育む。そしてその森や木と私達がどのようにつき合っていったらいいだろうかということを考えていく。そういう木育を広めていこう,というふうに取り組み始めました。

 昨年の夏から,この木育プロジェクトチームの中では,木育って具体的には「木とふれあい,木に学び,木と生きる」ことだよね,とみんなで考えました。そして,私自身は23歳のときから今までいつも木を材料として使ってきましたけれども,私にとって,木とふれあう,木に学ぶ,木と生きるっていうことは,どういうことなんだろうと深く考えておりました。


北海道大学のポプラ並木の再生

 そのとき,昨年の9月8日に台風18号がきて,北海道大学(以下,北大)のポプラ並木の50何本のうち相当の数が風で倒れてしまいました(写真17)。そのポプラ並木を見たときに,私は木がかわいそうだ,この木をなんとかしてあげたい,何かできないかなあと思ったんですね。
 北大としては,2本の木を移植して生き返らせる取り組みをすることに決まりました。でもそのためには,2千万円近いお金がかかるということでした。それを発表したら,全国から寄付したいという声がどんどんあがり,それを受けて北大では,一口千円の支援金を募って再生することになりました。また北大は,寄付してくれた方に倒れたポプラを材料として作った記念品を差し上げることにしました。そこで私は,今まで木にずっとお世話になってやってきましたから,その記念品のデザインをボランティアで申し出ました。


写真17 台風で倒れたポプラ

 傷ついたポプラの葉

 私自身も,並木の所に行って倒れたポプラを見ました。これは倒れたポプラに付いていた葉っぱなんですね(写真18)。風で倒れたものですから,葉っぱも穴が空いたり,部分的にちぎれたりしている状態でした。この傷ついたポプラの葉っぱがとても痛々しかったんですけれども,葉っぱの形がきれいだなあと思いました。それでポプラの葉のマスコットを作ることを思いついて提案し,何回か試作を重ねて,デザインが決まりました。
 そして今年の3月に,ポプラの再生支援のお礼として,全国から支援いただいた5千人くらいの方に,このように挨拶状を付けて無事に送ることができました(写真19)。

写真18 強風で傷ついたポプラの葉

写真19 再生支援の挨拶状と記念品のマスコット


 林産試験場の協力も得て

 いざ5千個も作るとなると大変なんですね。私が一人で作れませんから。倒れたポプラの木を製品にするためには,まず丸太を製材して人工乾燥をしなければなりません。でもポプラは普段木材としてあまり使っていないのでみんな経験もないし,どこにやってもらったらいいのか考えていました。そんな時ある方から,ここ旭川の林産試験場をすすめられて,こちらで製材と乾燥をしていただきました。そして,網走管内の業者さん4か所にお願いをして,製品を作っていただきました。

 ポプラは西洋では箱ヤナギ

 ポプラというのは,昔マッチの軸に使われていたことがありますが,材料としてはほとんど利用されてきませんでした。今回使ってみると,すごく軽くてしなやかですね。別名が西洋ハコヤナギといい,昔多分ダンボールがまだなかった頃,ヨーロッパの方ではこれで箱を作っていたらしいのですが,そういう箱には大変適した材料だと思っています。有名なルイヴィトンというメーカーがありますが,そこの高級なトランクの芯材には,今でもポプラの材料が使われているそうです。このように,ポプラの仕事をとおして私自身もポプラの木のいろんなことを学びましたし,いろんな人とのつながりもできて,とても良かったと思っています。


 木に育てられる

 このような,木育の活動を通して何が木で育てられているのかなあ,と考えたときに,実は育てられているのは自分自身なんだ,木と付き合うなかで私自身が一番木からいろいろ学ばされて,今の自分っていうのは,いつも木に育まれてきた結果なんだなあと思いました。そして,これから先もずっとこれまでのように,木といっしょに自分の人生を生きたい。自分自身も,それから皆さんにもお伝えしながら木育をやって行きたいなあ,というふうに考えております。

(文責:企画指導部 普及課 三浦 真由己)
 
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