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林産試だより2005年9月号 知的財産権等の紹介「ササの葉の“切り細工”の乾燥防止技術」
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●知的財産権等の紹介

ササの葉の“切り細工”の乾燥防止技術
利用部 成分利用科 関 一人


 はじめに

 ササの葉は,日本料理の盛り付けの際に仕切りや装飾として欠かせないものとなっています。とくに元禄時代の江戸前すしが起源とされる“笹切り”技術から生み出される料理の仕切り用の「せきしょ」(写真1)などのササの葉の切り細工は,料理を華やかに演出してくれます。しかし,美しく細工されたササの葉も乾燥により形や色が宴席中に台無しになってしまうことがあります。ここでは,食品衛生上安全な薬液を用いることにより,乾燥によるササの葉の収縮や色の変化を防止する技術1, 2)について紹介します。


写真1 ササの葉から作られた「せきしょ」

 開発の経緯

 仕出し弁当などの料理には,おもにプラスチック製の仕切りや飾り付けが使用されています。しかし,慶事などの宴席や料亭においては,天然のササの葉の切り細工を添えることにより,料理の高級感を演出するといった心遣いが見られます。

 ササの葉をそのまま切り細工として使用すると,短時間のうちに水分が蒸発し,枯れ葉のように収縮して変形や変色を起こしてしまいます(写真2)。宴席では,盛りつけから配膳,祝宴,片づけまでは4~5時間にもなるため,せっかく飾り付けた切り細工も,宴たけなわには貧相になってしまいます。そこで,形状や色彩の安定した高級感のある天然のササの葉の切り細工を作るため,新たな乾燥防止方法を検討しました。


写真2 ササの葉の乾燥
(上:乾燥前,下:乾燥後)


 乾燥によるササの葉の変形は,葉の組織の水分が減少し,収縮するために起こると考えられます。また鮮やかな緑色が乾燥にともない急激に白っぽくなるのは,葉の内部の緑色色素に富む組織や周囲の組織が湿潤性を失い,曇りガラスのような状態になるためと推察されます。したがって,水の代わりに揮発性の低い薬剤をササの葉の組織中に入れて膨潤させることによって,乾燥による変形や変色を防止する方法を考えました。
 薬剤には,食品添加が認められており,水と親和性が高く,揮発しにくいという理由で,グリセリンを使用しました。しかし,高濃度の薬剤はなかなか速やかに葉に入りませんでした。たとえ部分的に入っても,葉脈などの入りにくい部分との膨潤状態の違いにより“ちぢみ”が生じてしまいました。
 一方,木材の乾燥や割れ防止に関する薬剤の効率的な含浸方法には,2液を順次用いる二段階の処理方法3)があります。この方法は薬剤の木材への浸透ムラを解消するという利点があるため,これを参考にササの葉の乾燥防止方法を検討しました。


 乾燥防止方法と使用に際して

 湿潤状態のササの葉の切り細工を,一次処理としてグリセリン濃度30%以下の水溶液に室温下で12時間以上浸せきします。つづく二次処理では,グリセリン濃度50%以上の水溶液に12時間以上浸せきします。この過程で葉中の水分は薬剤と均一に置換され,ササの葉の切り細工は全体にわたり膨潤します。また,二次処理では高濃度の水溶液ほど,処理時間を短縮することが可能です。

 以上のように乾燥防止処理されたササの葉の切り細工の製品例として,前述の「せきしょ」のほかに,縁起物の鶴形や亀形の「飾り笹」(写真3),料理に敷く「敷き笹」(写真4)などがあります。これらは,部分的に細く複雑な形状の箇所もあり,非常に乾燥しやすいにもかかわらず,1週間放置しても乾燥による変形や変色は見られません。

 乾燥防止処理を施されたササの葉の切り細工の使用に際しては,表面に付着している過剰の薬液を速やかに洗い流し,料理の味を損ねないように注意する必要があります。


写真3 飾り笹

写真4 敷き笹

 おわりに

 低濃度と高濃度のグリセリン水溶液を用いて二段階で処理することにより,安全性や形状・色彩の持続性が高いササの葉の切り細工を作成することができました。もちろん,この切り細工は,使用後に可燃ゴミまたは生ゴミとして廃棄が可能です。

 昨今,タケやササはその抗菌効果などが期待され,日本古来の天然素材として見直されてきており,紙,集成材,衣料繊維などとして市場に登場するようになっています。これを機会に,日本料理や和菓子などの飾り付けや包装材料に,乾燥防止処理をしたササの葉の切り細工の広い利用が期待されます。

 なお,今回掲載した乾燥防止処理の施されたササの葉の切り細工製品は新潟県村上市 ㈱丸大 大滝商店からご提供いただきました。ここに記して感謝申し上げます。


 参考資料

1)斎藤直人,長谷川祐,関一人,米田憲司,内哲嗣郎:植物葉の鮮度保持処理方法,特許第3534051号  (2004).
2)斎藤直人:森林資源ササの活用,林産試だより, 1月号,10-12(2002).
3)長谷川祐,藤本英人:木材への薬剤の含浸方法,特許第3026208号 (2000).
 
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