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林産試だより2005年11月号 Q&A 先月の技術相談から 木材の表面割れのメカニズム
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Q&A 先月の技術相談から

Q:木材表面に割れが入るメカニズムについて教えて下さい。


A:木材表面に割れが入る主な原因は,表面から始まる水分蒸発に伴って表層が低く内部が高いという材内の含水率の傾斜ができることにより,表面が縮もうとしてもそれを阻止しようとする力が内部に働くからです。


 水分の表面蒸発と内部移動

 水分を十分に含んだ木材を放置すると,おおまかに言って次のような順序で乾燥していきます(以下の記号は図1の横軸に対応)。

a:表層の細胞のすき間などにある移動の容易な水分(自由水)が,表面から一定の速さで蒸発してきます。

b:この状態が進み,材表面の含水率(100×水分の重量/水分を含まない木材の重量)が約28%(繊維飽和点)まで下がると,蒸発する速度は徐々に低下していきます。繊維飽和点を境に自由水が消失して細胞の壁に含まれる水分(結合水)が表面に移動し蒸発して減少していくことから木材の性質が大きく変化します。その一つが収縮の始まりです。

c:表層からの蒸発と内部水分が表面に移動する速さがほぼつり合って乾燥が進みます。

d:さらに乾燥が進むと,表層は含水率が周囲の温度・湿度につり合って乾燥の止まった状態(平衡含水率)になりますが,その後も内部に残っている水分が徐々に表面へ移動しながら表層と同じ含水率になるまでゆっくり乾燥が進んでいきます。

 なお,図1は乾燥の過程を単純化したもので,実際の乾燥による挙動は表面蒸発と内部移動が同時に進行するので材の大きさや乾燥条件によって様々です。

図1 乾燥応力と含水率減少の関係模式図


乾燥応力の発生

 乾燥応力はこのような水分の表面蒸発と内部移動速度の違いにより表層と内部に水分差ができ,このため収縮する時期が材内でズレてしまうことで発生します。すなわち,b以前では収縮しないので応力はほとんど生じませんが,これ以降では表層の含水率が約28%を下回るようになり,まず表層で収縮が始まります。この時,少し内側には含水率28%以上の水分が含まれており,収縮しません。このような状態が進行すると,表層の収縮しようとする力に対抗して内部ではそれと同じ力で押し返そうとします。その結果,表層には引っ張られる力が,逆に内部には圧縮される力が作用することになります。そして,表層に作用する引張力が大きくなり,この力が木材表面の強さを超えた時に割れが発生します。これが表面割れの発生メカニズムです。ここまでは乾燥が始まって比較的早い段階で起こります。その後,表層が平衡含水率に近づき収縮しようとする力が弱まる一方,中心付近の含水率が繊維飽和点以下になり収縮が始まった後には応力が逆転し,表面割れの心配はなくなります(図1)。


 割れやすい心持ち材

 しかし,心持ち正角材は乾燥後にも割れる可能性があります。割れる主な原因となる含水率の傾斜に加え,円周方向(接線方向)の収縮が大きく,半径方向(放射方向)がその約1/2の収縮量であるという木材に共通する特徴のためです。心持ち正角材の場合は四材面すべてが接線方向で中心線が半径方向になる(図2)ため,たとえ水分傾斜が生じないとしても四面の表層には常に引張応力がかかり,割れる危険性が残されます。これは丸太でも同じことで,自然乾燥された丸太で割れていないものは稀と言えるでしょう。ただし,木口から蒸発する速度は非常に速いことから,両木口の近い,つまり材長の短い円盤状の丸太は内部も同時に乾燥するため含水率の傾斜が小さく,その分,割れる確率は低くなります。

図2 心持ち正角材の木口面


 表面割れを防ぐ

 こうした現象を踏まえ,割れを防ぐ方法として普及したのが人工乾燥技術です。この技術では温度と湿度条件を上手に組み合わせることによって割れを防ぎます。考え方の基本は,乾燥初期に低温高湿とすることで含水率の傾斜を小さく保ち,表面に発生する引張応力が大きくならないようにすることです。乾燥中期から後期にかけては徐々に温度を上げ湿度を下げていき,主に乾燥時間の短縮に目標が移ります。こうした条件は,樹種によって乾燥速度や強度などの特性が異なるので,その樹種に応じたものが使われます。

 また,割れやすい心持ち正角材については,高温乾燥技術が有効です。これは乾燥初期に100℃以上の高温でかつ低湿条件を適用するもので,前述の方法とはまるで正反対ですが,こうすることで表層にかかる引張応力を圧縮応力に転じることができることから,割れ抑制効果が得られます。

(技術部 製材乾燥科 中嶌 厚)
 
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