●特集『平成17年度 研究成果発表会』
シックハウス症候群の原因の多くは,室内空気中の揮発性有機化合物(VOC)であると言われています。シックハウス対策として平成15年に建築基準法が改正され,新築住宅内のVOC濃度はかなり改善されたと考えられていますが,高気密住宅の多い北海道の住宅では,どの程度の改善がなされているかは定かではありません。また,入居後に搬入される家具類の影響も考えられます。そこで,道内の住宅の空気質の調査および家具から放散するVOCの測定研究を通じて,室内の空気をきれいにするために居住者がどのようなことに気をつける必要があるのかを提案します。
改正建築基準法施行後の北海道内の新築住宅等延べ90棟について,室内空気質(VOC濃度),気密性能,換気量,使用建材の調査・測定を行いました。
厚生労働省の室内濃度指針値を超過した住宅の割合をVOC別にみたところ,トルエン,テトラデカン,ノナナール(継続検討物質)の超過割合が多く見られました。これらは入居前の仕上げに使われた塗料,ワックス,清掃用の溶剤などに含まれている可能性があります。これらは,住宅の内装材の表面に存在していることが多いので,換気によって乾燥・放散を促進することができます。すなわち住まい方の工夫によって短期間で濃度を低減させることが可能であると考えられます。
気密性能を示す相当隙間面積は2cm2/m2以下の住宅がほとんどでした。これは北海道の住宅のほとんどが,省エネルギー基準をクリアしていることを示しています。また,1cm2/m2以下という“超高気密住宅”が7割を占めています。
換気性能に関しては,通常の生活条件では0.5回/hを下回る住宅が多く見られました。このような住宅でもVOC濃度は低い場合が多く,材料の対策が進んでいることがわかります。しかしながら,新しい家具等を購入した場合等,VOC濃度が高くなるおそれのある場合には,積極的な換気を行うことが必要と言えます。
調査した住宅の内装材としては,床:複合フローリング 壁:ビニールクロス 天井:ビニールクロスというパターンが最も多く見られました。その一方,無垢のフローリングや珪藻土などの塗材で仕上げした壁・天井もあり,自然素材を意識した内装仕上げの住宅も増えてきたようです。施工者や施主の室内空気質への関心の高まりが見受けられます。
新築直後のVOC濃度がやや高かった住宅について,換気システムを動かしたまま1か月養生した後に再測定してみました。すると,VOC濃度は大幅に低減して指針値以下となっていました。新築直後でもVOC濃度が低い住宅は多いのですが,念のために入居直後は換気を積極的に行うことをお勧めします。
大型チャンバー法
大形チャンバーによる測定は,実際の室内条件に比べて厳しい条件で行われることから,汚染物質の放散量を過大に評価してしまう可能性があります。ホルムアルデヒドに関しては,建築基準法の内装材料制限の算定根拠となった条件(換気量Q(m3/h)の建材表面積S(m2)に対する割合(Q/S)が0.05)での放散速度を計算式により推定し,家具の評価を行いました。その他のVOCに関しては,計算による推定方法が確立されてないため,大形チャンバーによる測定値を文部科学省「学校環境衛生の基準」と直接比較することとしました。
ホルムアルデヒド放散速度表示(参考)
ホルムアルデヒド放散量の評価では,市販家具のうち旭川家具はF☆☆☆☆,あるいはそれに近い値を示しましたが,輸入品の試験体8のように大きな放散量を示したものがありました。
VOC放散量の評価では,一部の試験体で指針値を超過したものがあったものの,全体的に低い気中濃度を示しました。p-ジクロロベンゼンはすべての試験体において検出されませんでした。
ホルムアルデヒド放散量測定結果
VOC放散量測定結果
上記の研究成果に基づいて,室内空気質を改善するための,建築サイド,ユーザーサイドに分かりやすい資料を作成し,林産試験場ホームページへの掲載や,講習会等での配布を予定しています。
また,家具については,測定・評価の受け入れ体制を整えることによって,旭川家具の低VOC家具としてのブランド化を図ることを検討しています。