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林産試だより2006年6月号 中小企業の開発現場から林産試験場に期待すること

                    

中小企業の開発現場から林産試験場に期待すること

NPO北海道住宅の会 専務理事 山本 宏



 本稿は,平成18年3月,林産試験場職員を前にご講演いただいた内容についてまとめたものです。



 はじめに

 今日は懐かしい皆様の前で話をする機会を与えていただきありがとうございます。

 私は平成10年に林産試験場を退職し,以降,本州の木材加工企業の現場で製品開発の手伝いをしてきました。民間企業の開発現場でさまざまな課題に直面した時,「そばに林産試験場があったらすぐに相談したり,試作もできるのになあ」と,いつも林産試験場の持つ技術力,開発力の深さと大きさを実感しています。

 林産試験場時代の経験が今の仕事に大いに役立っています。企業の現場に居て,様々な問題に直面した時,細かいところはわからなくても林産試験場ではこの種の問題を誰が,いつ頃,どうやって解決したかとか,全国の大学や試験場ではこの分野は誰が詳しいだろうかと思い出して,貴重な情報を頂くことでなんとか乗り切っています。

 そのような中小企業の現場の体験から林産試験場に期待していることをお話してみたいと思います。




 中小企業の開発現場と研究機関

 中小企業の多くは研究開発能力(人材,設備,資金,時間etc.)に乏しいのが現状ですから林産試験場のような国・公設研究機関や大学の研究成果は非常に貴重です。

 私が手伝いをしている会社の内,社員数12~13人のベンチャー型会社の場合,営業,管理,製造部門で約10人で,開発部門にはせいぜい2~3人,その多くは大学卒業後1~2年の若者です。道内の木材企業ではどうでしょうか。

 一方,木材会社としては大手といえる150人規模の会社では開発部門を設けて約10人も配置している場合も見られます。この会社は研究開発を梃子(てこ)にして発展するという基本方針があり,木材系,林学系,工学系の大卒者を配置しています。しかし彼らは開発や製造に関する実体験が少なく,卒業後すぐに開発部門に入った人たちが大半です。技術力,判断力を身につけている経験豊富な人材は稼げる部門,つまり製造あるいは営業部門で活躍しているようです。

 どちらの会社も若い開発技術者たちは皆優秀で,研究機関のレポートをインターネットで熱心に検索し,よく読んでいるようです。ただし彼らは,研究レポートは理解できても,それをもとに新商品を開発したり,自社の生産ラインに応用することには経験不足なのです。木材工業に限らず,よく言われる「大学におけるものづくり教育の不備」といわれる現象なのかもしれません。

 大学卒や大学院卒をそろえた企業でもそうですから,一般の中小企業では,専任者の不在あるいは経験不足から皆さんの研究成果を十分に活用しにくい実態もあるということも知ってほしいと思います。




 企業と研究機関のキャッチボールを

 それなら活用される研究成果とはどういうものかと質問があろうと思います。私は「研究はレポートを書いたら終わり,ではない。そこから始まるのだ」と強く言いたいのです。

 企業では皆さんの研究レポートを手本に着手はしてみたものの,結果は自社の商品コンセプトには合わない,自社ラインには適応できない,期待したものができない等ということで尻切れトンボになる例が多いようです。当然のことですが研究機関では生産現場で想定されるさまざまな条件を網羅して研究することはできません。しかも企業の研究設備や材料などは必ずしも十分ではない場合が多く,皆さんの研究成果がストレートに企業での製品開発に結びつきにくいのは当然です。本来,開発研究はそこから始まるはずですが,経験不足な若者たちや,経験はあっても他の仕事を掛け持ちしているベテランたちでは,次に展開して行くことはあまり得意ではないと思います。

 そこで,企業の技術者が相談に来た時には,企業では上手くいかなかった結果をどう判断して次の展開につなげればよいのか,ということを教えてあげてほしいのです。

 具体的な解決策ももちろんですが,企業の技術的判断力の向上を手助けすること,試行錯誤する中で方向性を見い出す力を付けさせること,できれば製品完成まで研究を指導して頂き企業の若い技術開発担当者に成功体験させることなどを,産業支援機関である林産試験場の皆さんにお願いしたいのです。

 研究機関と企業が技術的な課題でキャッチボールを繰り返すこと,それも一回ではなく何度も繰り返すことができると必ず目に見える成果につながり,企業と研究機関の双方にとって大きな収穫になると思います。林産試験場の皆さんにはキャッチボールを億劫(おっくう)がらないでほしいとお願いしたいのです。ただキャッチボールを繰り返す意欲を持った企業があまり多くないのも残念ですが。

 相談に来る企業の中には,自ら抱えている技術的課題を整理したり,何を解決して欲しいのか上手く説明することに慣れていない人たちも多くいると思います。そのような企業にこそ専門家の皆さんたちがよく話を聞いて内容を整理し,相手の知りたい技術課題を引き出してやる努力が必要です。例えその課題が研究者にとって,かなり以前に研究が終了したことであっても,また他の人が研究したことであっても,相手が研究に慣れていない人であればなおのこと,よく話を聞いてその企業の実情に合った回答を考えてほしいのです。

 以前によく経験したことですが相談に行くと,口には出さないが「そんな課題は過去に解決済みだ,もっと勉強してから相談に来い」という態度で対応する専門家,あるいはレポートのコピーを渡して,これに書いてあるといった態度の専門家などがいましたが,税金でまかなわれている公設の産業支援機関としてはあるまじき対応だと思います。相談内容のレベルが高かろうが低かろうが,きっちりとした技術的な答えを出して支援することが研究機関の務めだと思います。「読めば分かる」では「企業支援のための研究をしていない,何もやっていない」に等しいと思っています。

 多くのテーマを抱えて研究しておられる皆さんには,「そんな個々の企業にきめ細かく対応していたら体がいくつあっても足らない」という意見もあるでしょうが,私のささやかな経験では少数の成功体験は,類似した成功体験を最初ほど苦労せず容易に誘発することが多いのです。まずは成功例を作ってみることです。




 新製品開発と技術改良の両輪で進む研究機関

 企業の現場に居て気付いたことは,マスコミでは新技術や新製品の開発こそが研究機関の成果と過大に評価するように思えることです。しかし研究機関の開発した新技術を中小企業が取り込み,自社製品の開発に結びつけ,それを商品化にこぎつけるのは,大変多くの時間と労力が必要で,中小企業が大半の木材工業では成功した例は余り多くはありません。

 林産試験場でもこれまで多くの新製品が開発されてきました。その中には日本の大学や研究機関では例を見ないような画期的な新技術もありましたが,なかなか企業化・商品化に結びつかないのが実情です。

 むしろ多くの企業の現場では,画期的な新製品・新技術よりも,従来技術の改良や製造上のトラブルの解消技術が求められる場合が多いと思います。

 また,現在は技術の普及が進み,木材加工の大半はコンピューター制御のシステム化された装置で,材料を投入すれば誰がやっても一応の形に加工されて出てくるようになりました。反面,基本的な技術に対する理解と経験の蓄積は十分なのだろうかと不安になる場合があります。

 例えばフィンガージョイントは,現在ではあらゆる木材加工の分野で使われているといっても過言ではないほど普及した技術ですが,企業の現場では樹種や用途に応じた適正な接着剤の塗布量や嵌合(かんごう)圧力などは全て装置を納入した機械メーカーの設定条件にまかせきりの状態が多いのではないでしょうか。

 しかし使ったことのない新しい樹種や,高い使用応力が加わるような用途では,フィンガージョイントされた部材の接合強度が低く,使用上で問題になるような場合もあると聞いています。

 研究機関では現在,フィンガージョイントを研究している人はいないでしょう。企業の現場ではどこに相談すれば良いのでしょう。

 このような例は切削や乾燥など過去に開発され,至る所でごく普通に使われている技術の中にも,たくさんあると思います。

 地球温暖化対策や持続可能な森林資源の活用という観点から,熱帯の早成樹種人工林材を積極的に利用しようという機運が木材利用産業界に生まれています。国際的な非合法伐採の抑制や森林資源の持続性の保持などの理由で,国産材はもちろん,世界各地の人工林材の製品化が検討されています。アマゾンで大面積に造林されたユーカリ類も盛んに用途開発されています。未知の樹種が使われ,乾燥,フィンガージョイント,接着など基本的な工程で問題が発生するかもしれないのです。このような技術を過去の研究として置き去ることなく,将来を見通して,技術の改良にも努めてもらいたいと思います。研究や技術に幅や奥行き,応用力を持たせることにより,予想もしなかった問題に対応できることになるものと考えています。産業支援研究機関の役割としては,新技術・新製品の開発と同時に,地味ではあるが既存技術の改良と普及,底上げを欠くべからざる柱として努力してほしいと思います。




 新製品・新技術の開発は製造技術,製造装置の開発と表裏一体で

 企業現場にいて,新製品・新技術についてこれまでの木材研究のあり方について感じたことを,お話したいと思います。

 圧密化木材の製品開発をしていた時の経験です。圧密化木材はホットプレスにスギなどの板材を投入し,150℃以上で木材を熱と水分で軟化させてから所定の厚さまで圧縮し,圧力を加えたままで冷却して製品化するのが標準的な製造法です。

 作業工程時間を短縮するため,ホットプレスに水を注入して冷却しますが,150℃以上に加熱したプレスを短時間で約20℃まで冷却し,次の工程では再び加熱・冷却を繰り返すため,浪費される熱エネルギーは膨大なものになります。また短時間で加熱・冷却を繰り返すため,少量の実験なら問題なくても,装置の熱疲労を考えると,生産現場でのプレスの使い方としては異常ともいえるほど過酷な方法ですし,コストアップの原因にもなっています。

 しかし,圧密化に関する研究報告には圧密化のメカニズムや,圧密化木材の物性などのデータは豊富ですが,これを生産するホットプレスなど装置の開発,省エネルギー技術に関する情報は非常に少ないのが実情です。

 したがって圧密化木材の商品化に着手したベンチャー企業では,装置は実験装置を大型化するだけしか方策は無く,製品開発と同時に装置の改良・開発を手がけなければならず資金力,技術能力の面で大変な苦労をしています。圧密化技術はスギなどの国産人工林材の利用には有効な技術だと思いますが,まだまだ解決すべき課題が山積みしています。

 このような例は他にも多いのではないでしょうか。木材・林産研究機関だからやむをえない面があるでしょうが,新技術・新製品に不可欠な装置,生産システムに関する研究が非常に手薄なのです。当然のことですが機械産業界は,新製品がある程度のポピュレーションになるまでは自ら装置開発はしないでしょう。

 皆さんの貴重な研究の成果である新製品・新技術を商品化しようとする企業は製品開発と共に,装置の開発・改良を血の出るような思いで努力している場合もあるということを知ってほしいのです。それでもうまく行かないで,貴重な新技術・新製品が企業化する前に消えてしまうことの方が多いのです。

 林産試験場には,これまで新製品開発と同時に装置開発を行うという世界に誇るべき伝統がありますが,それでも,その開発された装置が実際の生産ラインで十分効果を発揮するためには,さらに多額の費用を費やして2・3回の改良・改造を必要とする場合がほとんどなのです。

 木材学・林産学は,博物学ではなく産業支援技術学(こんな言葉があるかどうかは知りませんが)なのですから,このことは,これからますます発展して行く木材学・林産学を担う皆さんたちで考えてほしい問題です。もちろん木材学・林産学を長い間勉強してきた皆さんたちが,今から改めて機械や装置学を本格的に習得するのは無駄が多すぎるでしょう。他の分野の専門家の力を積極的に借りて,横断的な研究手法を考えてほしいのです。

 繰り返しますが新技術・新製品は,生産技術,製造装置の開発が伴ってこそ実現できるもので,それが伴わない新技術,新製品は絵に描いた餅にすぎないといっても過言ではないと思うのです。製造技術や製造装置を意識して研究開発をしているか,ということが重要と思います。




 これからの林産試験場に期待すること

 林産試験場でも世代交代が進み新しい人たちが多くなりました。昔を懐かしむわけではないのですが,輝かしい歴史と特徴を知ってもらいたいと思います。皆さんの林産試験場は,昭和25年,北海道の豊かな森林資源を背景に,新しい技術を新たな組織で生み出そうと誕生したのです。研究開発と生産現場とのギャップを埋めることをテーマに,実大規模で実際に生産しながら技術改良する中間工業試験によって,研究成果を林産業の現場に反映させることを目指したのです。

 昭和27年には研究成果の普及部門を作りました。その頃はもちろん,現在でも独立した普及部門を持つ研究機関は,大きな研究所や大学にもほとんどありません。林産試験場は当時から世界に類のない研究機関として評価されていました。

 研究と現場をつなぐ努力は,世界的評価を受けていました。時代は移り変わりましたが,当時の精神は今も受け継がれているものと思っています。

 昭和50年代後半から60年代にかけて行われたのが,ドア,窓,壁などの性能評価に関する研究とそれをベースにした木製住宅部品の開発でした。

 それまで,日本の木材研究は材質,加工や乾燥,製品も製材,合板,ボード類の開発が中心でした。

 寒冷地に最適な材料である木材を積極的に利用した住宅部品を開発するため,窓やドア,壁などの性能として求められるものは何かといったことから始めて,木材と居住性にも着目したのです。

 当時は,居住性能の評価や2次加工製品開発は建築研究所や工業試験場の範疇(はんちゅう)だという意識が強く,木材研究機関がなぜ居住性能評価をするのかとも言われましたが,それまでの木材研究の範疇にとどまっていては木材の用途拡大は不可能だと,当時の場長や研究リーダーたちの強い指導があり実現したのです。 このような歴史の中で居住性能の評価のための試験機器類ももちろんですが,実大製品を実生産に近い規模で試作できる機器・装置と加工技術者がいる,企業の開発現場から見れば夢のような研究機関になったのです。

 現在の北海道の寒地木造住宅に関する技術は全国一のレベルにあり,他府県に売れる道民の貴重な財産です。しかし寒地木造住宅に適した木造住宅部品を道内で開発・生産供給している話は少数の例を除いてあまり聞きません。

 高断熱,高気密,高耐久・耐震性住宅に適した木材製品・部品をもっと開発して産業界に提案して下さい。行政的な縦割りや縄張りを研究機関の皆さんはあまり気にすることなく,必要なものを開発して道民に提供することが使命だと思っています。

 現在は道の財政事情も厳しいと聞いていますので,施設の更新や拡充がなかなか思い通りに行かないことも理解できますが,先見力を磨いて,林産試験場の特徴を生かした研究手法を生み出してほしいと思います。

 林産試験場は,トドマツ,カラマツ人工林材の様々な有用な研究を行ってきました。先日発行された「カラマツ活用ハンドブック」を頂いて感激しました。ここ数十年の日本の木材加工技術のほとんどがカラマツやトドマツの人工林材の利用開発を通して林産試験場で開発し,完成させたことが分かります。

 北海道には幸いにして重硬な樹種としてカラマツが,軽軟で使いやすい樹種としてエゾマツ・トドマツが持続可能な人工林材として豊富に蓄積されています。木材を使う立場からすれば,重硬な樹種と比較的軽軟な樹種の両方が必要です。本州各県ではスギは豊富にあるのに重硬な材がないために,ほとんど輸入材に頼らざるを得ないのです。貴重な道産人工林材を道内の木材産業により,加工度を高めて道外に移出,輸出することが必要で,そのために林産試験場の皆さんの出番が待たれていると思っています。最近の世界の木材需給状況を伝え聞くと輸入材が次第に日本には入りにくくなってくるような心配もされています。国産人工林材の再登場と,それを使いこなすために地道な木材加工技術が再び必要になる日が来ると思います。さらに上記のハンドブックに取り上げたのは小径のカラマツやトドマツが主体だったのですが,現在では中径材が主体になっています。中径材ならではの技術課題もあるでしょう。「カラマツ,トドマツ中・大径材の活用ハンドブック」の発行を期待しています。




 林産試験場の技術力,開発力をアピールすること

 かつて本州の木材業界でも,林産試験場がよく知られていました。しかし,今の30代,40代の人たちは,林産試験場のことをほとんど知りません。林産試験場の技術力,開発力,試作能力などは,本来,中小企業からは喉から手が出るほど欲しいもののはずです。林産試験場がすぐそばにあったら,どんなに地域の企業は助かるだろう,どんなにメリットになるだろうと思います。林産試験場の持つ技術力,開発力を,機会あるごとに売り込む必要があります。北海道の予算で開発したものを他府県に提供する云々の後ろ向き議論はあるかもしれませんが,全国に普及されることで,またそこから新たな課題が見つかり,それに取り組むことで北海道の開発力,技術力,製品性能がさらに向上するものと思います。

 また,林産試験場は,研究設備とそれを使って製作する技能が整っているところが,最大の特徴と言えます。そうだからこそ研究も進み,技術普及にも力が入れられます。大学や他の研究機関では真似のできないところです。研究過程や成果を正確に形として表現できる技能がなければ,決して生きた研究とはならないのです。自らの環境や使命に自信がないと,とかく大学の真似をする傾向が強いと思いますが,林産試験場だけしかできない研究のあり方があるはずです。職員の皆さんはこの恵まれた環境を十分に活用して産業支援機関の役割を果たしてください。かつてバブル期に各地で見られたように大きな箱物に素晴らしい設備を入れても,それを動かす技能がなくて宝の持ち腐れになった例がたくさんあります。林産試験場の大きな特徴を大切にしてもらいたいものです。



 過去の研究蓄積を利用し磨くこと

 林産試験場の機能,知識,技術力,開発力,成果は,道民だけのものではなく,国民の財産ともいえます。ジリ貧になっては,日本にとって大きな損失です。過去の技術蓄積をどんどん利用して,開発力を磨いてほしいと思います。民間からの相談に対して,過去のレポートをそのまま渡し,「これで分かる」というのでは図書館のコピー機と変わりません。過去の研究・技術の蓄積をそしゃくし,磨いて使えるものにして提供してもらいたいのです。普段からそういう意識をもって取り組んでこそ林産試験場は本当の意味での技術と知識の宝庫になるのだと思います。

 アカシアやユーカリもそうですが,今後も新しい材料が入ってきます。過去の蓄積を使って,新しい材料に立ち向かわなければなりません。時間とお金は,そうそう掛けられません。過去の蓄積を磨き直しておいてください。そうすることで,林産試験場はさらに飛躍できると思います。

 中小企業に身を置いて日頃感じている,林産試験場に対する思い,希望をいろいろ述べさせていただきました。



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