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林産試だより2006年7月号 特集『木材と二酸化炭素』 環境へのやさしさはどのくらい?- LCA(ライフサイクルアセスメント)とは-

●特集『木材と二酸化炭素』

環境へのやさしさはどのくらい?
- LCA(ライフサイクルアセスメント)とは-

企画指導部 経営科 古俣(こまた) 寛隆

 はじめに


 急速な工業化をもたらした産業革命以降,人は化石資源の大量消費により,二酸化炭素をはじめとする様々な環境負荷物質を排出しながら生活をしてきました。地球の資源量と,排出物に対する許容量が十分に大きければ,このような生活を続けていくことが可能ですが,現実には世界経済の発展,世界人口の増加などに伴い,地球規模の環境悪化が深刻化しており,現在,資源と環境に対する意識が世界的に高まっています。


 LCAとは



 LCA (Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント) とは,原材料の採取から製造,使用,最終的な廃棄処分に至るすべての過程 (ライフサイクル) を通して,製品やサービスが環境に与える負荷の大きさを定量的に評価する手法です。例えば,ある製品の改良において,使用段階の消費エネルギーを減らすなどの環境負荷削減策を行っても,製品の製造段階で逆に消費エネルギーが増え,結果的に,改良前よりもトータルの環境負荷量が増加してしまう,ということも考えられます(図1)。そのため,環境負荷の評価は製品のライフサイクルを通して行う必要があり,LCAは欠かせない手法の一つとなっています。




図 1 環境負荷のイメージ



 LCAによる評価の考え方



 環境への負荷の考え方としては,例えば,エネルギーの消費量と二酸化炭素の排出量をひとつの目安にすると分かりやすいと思います。化石燃料は燃えるとき温室効果ガスである二酸化炭素を出し,それは地球温暖化に影響を与えます。電力も元をたどれば発電所において,その多くが石油,石炭,天然ガスなどの化石燃料を燃やして生み出されるものなので,それらエネルギーの消費を調べて,二酸化炭素の排出に置き換えれば,環境負荷のひとつのものさしとして考えることができます。
 一例として,「自動車の与える環境負荷」について,二酸化炭素をものさしとして考えてみます。エネルギーの消費量としては,運転時に消費されるガソリンはもちろん,自動車を構成するすべての部品についても調べなくてはなりません。その部品のひとつひとつについて,その部品はどんな素材からできていて,その素材の製造過程ではどのくらいのエネルギーが消費されているのか,また,その素材はどんな資源からできていて,その資源の採掘過程ではどのくらいのエネルギーが消費されているのか,ということを輸送やメンテナンスも含めて自動車が廃棄される最終段階まで調べます。最後にエネルギー消費量を二酸化炭素量に換算すれば環境負荷が求められます。評価例1)図2に示します。



図2 自動車を例とした段階別排出量寄与率1)


 ここでは二酸化炭素を例に説明しましたが,環境に影響を与える因子としては二酸化炭素以外にも様々な物質が挙げられています。そのため,目的に応じてそれぞれのものさしを使う必要があります。

 LCAの歴史



 1969年にコカ・コーラ社の委託によりアメリカのミッドウェスト研究所が始めた,使い捨て容器とリターナブル瓶のライフサイクルを通した環境負荷の比較評価がLCAの原型になったとされています。主に欧米で発展したLCAが日本で注目されるようになったのは1990年代に入ってからのようですが,その後,国,大学,国公立研究機関,産業界などの取り組みによりLCA研究は急速に発展しました。また,2004年には日本LCA学会が設立され,様々な分野の研究者を交えた,産学官の意見交換が盛んに行われています。


 LCAの枠組み



 LCAは国際規格ISO 14040シリーズとして定められています。また,JISにおいてもJIS Q 14040シリーズとして規格化されています。LCAの枠組みは以下の4つの段階で構成されています。

(1) 目的及び調査範囲の設定 (ISO 14041)

 LCAで得られる結果は,この段階での条件設定によって大きく左右されますので,極めて重要な段階です。LCAでは対象範囲を明確にしないと調査の対象が際限なく広がり,調査のための時間や費用が膨大になってしまいます。また,どの環境負荷物質 (二酸化炭素,フロン,重金属類など)を対象にするか,どの環境影響領域 (地球温暖化,オゾン層破壊,有害物質排出など) を評価するかなどを決定するといったことも重要です。LCAの目的に合うレベルで適切に調査の精度,内容を決め,調査結果の信頼性を高める上でも仮定や前提条件を明確にすることが必要です。


(2) ライフサイクルインベントリ分析 (ISO 14041)

 第1段階で定義された調査範囲に従って,そこに投入されるエネルギーや資源,製造される製品や副産物,排出物等の入出力データを収集し,環境負荷物質の排出量を算出して明細書 (Inventory:インベントリ) を作成します。


(3) ライフサイクル影響評価 (ISO 14042)

 インベントリ分析で算出した各環境負荷物質の排出量を地球温暖化やオゾン層破壊などの環境影響領域と関連付けて,潜在的な製品の環境影響度を評価します。


(4) ライフサイクル解釈 (ISO 14043)

 インベントリ分析あるいは環境影響評価の結果から,どこに最大の環境負荷や環境影響があるかを見つけ出し,改善策などの提言を行います。また,LCAに利用したデータの精度や信頼性などについて検証し,必要に応じて再調査を行うことも検討します。


 以上の4つの段階が2006年4月現在,ISO 14040シリーズにある枠組みですが,18年度中に,主に文章の読みやすさの向上を目的として,新たにISO 14040,14044の2つに再編される予定です。



 木材とLCA



 プラスチック,金属などの素材,飲料容器や包装容器,電気機械,自動車,建築などの分野では比較的早くからLCAの導入が進められ,その分析結果は自社の環境改善や環境PRに積極的に利用されてきました。一方,木材業界は上記の業界と比較してLCAの取り組みが遅れていますが,国や大学などで,事例調査などのいくつかの研究が行われています。最近では一部の団体や企業においても木質製品のLCAの取り組みが行われており,木材業界にも徐々にLCAが広がりつつあります。


 林産試験場の取り組み



 京都議定書の発効により,地球温暖化対策が本格的に検討され,森林・林業部門が温暖化対策に果たしうる役割に関心が集まっています。そのような中で,北海道においては,適切な森林整備と林業・木材産業の活性化の観点から,道産木材の利用促進が重要な課題となっています。木材は一般に「環境に優しい」材料とみなされており,それがセールスポイントの一つにもなっています。しかし,実際にどの程度「環境に優しい」のか,という定量的な数値は分かりにくいのが現状です。
 そこで林産試験場でもLCAの手法を用いた道産木材の環境優位性の検証に取り組み始めました。現在,主に二酸化炭素に焦点をあて,付加価値が高く,炭素ストックとしても注目される建築用材を対象に,木材の伐採から運搬,部材加工を経て,住宅が建築されるまでの環境負荷に関する調査研究を行っており,得られた研究結果を道産木材利用推進のために広く活用していきたいと考えています。


 参考資料



1) 山戸昌子:自動車のLCA,“LCAの実務”,社団法人産業環境管理協会,59 (2005).



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