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林産試だより2006年7月号 特集『木材と二酸化炭素』 森林の炭素固定能を改良する試み

●特集『木材と二酸化炭素』

森林の炭素固定能を改良する試み

利用部 材質科 藤本 高明

 はじめに


 地球温暖化問題に対する関心が高まる中,森林による二酸化炭素の吸収・貯蓄に関する研究は近年盛んに行われ,またその内容も多岐にわたっています。このような背景の中で,国や地方自治体の研究機関において,森林の持つ炭素固定能力を育種,すなわち品種改良によって向上させようとする試みが行われています。例えば独立行政法人林木育種センターでは,平成11年から「CO2固定推進育種事業化プロジェクト」を立ち上げ,スギを対象として炭素固定能の高い品種の開発を進めています。
 それでは具体的にどのようにして炭素固定能を向上させるのでしょうか。炭素固定能を評価するためには,まず個々の立木に固定された炭素蓄積量を調べる必要があります。炭素蓄積量は,基本的には以下のようなを用いて算出されます。

炭素蓄積量=(幹材積)×(拡大係数)×(材の密度)×(材の炭素含有率) ・・・・・(式1)

 ここで,拡大係数とは,幹の重量に対する立木全体のバイオマスの重量の比を表します。これまでの調査結果から,この値は針葉樹では1.7,広葉樹では1.8として計算されることが多いようです。また,材の炭素含有率は,樹種の別なく0.5と考えられています。したがって,炭素蓄積量を向上させるためには,主に成長量(幹材積)と材の密度を高めることが目標となります。
 林木を対象とした長年の育種研究の結果から,成長量や諸材質を遺伝的に改良できる可能性が示唆されています。しかし,炭素固定能に焦点を絞った育種研究は緒に就いたばかりであり,不明な点が多々あります。
 当場では,15~17年の3年間,道立林業試験場と共同で,主にグイマツ雑種F1を対象として炭素固定能の高い家系や親木を明らかにする研究を行ってきました。本稿では,その結果の一部をご紹介します。


 なぜグイマツ雑種F1



 グイマツ雑種F1とは,母樹をグイマツ,花粉親をカラマツとした交雑種のことで,その特徴としてまず挙げられることは野ネズミや気象害などの諸被害に対する抵抗性が高いことです。このことは造林後に成林する確率が高いことを意味します。さらに,グイマツ雑種F1は,カラマツ並みに優れた成長量を示す一方で,材の密度はカラマツや,トドマツ,アカエゾマツなどよりも高いことが明らかになっています。前述のとおり炭素固定能は成長量と材の密度に影響されることから,道内の主要造林木の中ではグイマツ雑種F1が最も改良の効果が高いと期待できます。


 調査内容



 調査対象林分は,昭和49年に道内3箇所(訓子府町,新冠町,美唄市)に造成された試験林としました。各試験林には,グイマツとカラマツを交配した人工交配家系が植栽されています。表1に,交配の組み合わせを示します。


表1 グイマツ雑種F1交配家系組み合わせ

 成長量に関して胸高直径と樹高の毎木調査を林齢31年生時に行いました。今回の調査では,炭素蓄積量を林分単位で評価することとしましたので,毎木調査の結果から各家系の林分材積を算出しました。
 材の密度の測定はX線デンシトメトリ法にしたがって行いました。この方法は,厚さ数mmの薄い木材片にX線を照射し,得られたX線フィルムの濃淡から密度の値を得ます。ただし,この方法は一般に乾燥材を対象に行いますので,生材状態の体積に対する全乾状態の重量の割合を示す容積密度数に換算して材の密度としました。以上の調査結果に基づいて,各家系の林分炭素蓄積量を式1に準拠して算出しました。


 調査結果



 林齢31年生時における各家系の林分炭素蓄積量を図1に示します。図の横軸は,上段が花粉親であるカラマツのクローン名で,下段の色が異なる凡例は母樹であるグイマツのクローン名を表しています。縦軸の林分炭素蓄積量は,3箇所の林分を総合して平均化した値を示しています。なお,比較として,成長や樹幹形態などが優れたものを選んで改良された育種カラマツの値も示しました。


図1  家系別の林分炭素蓄積量(林齢31年生)


 この図からまず分かることは,十勝35というカラマツクローンは,どのグイマツクローンとかけ合わせても高い炭素蓄積量を示すということです。また,母樹であるグイマツクローンについてみると,中標津5というクローンに対するかけ合わせは,他のグイマツクローンと比べて炭素蓄積量が高いという傾向も認められます。これらの結果は,ある特定の花粉親ないしは母樹を選ぶことによってグイマツ雑種F1の炭素蓄積量を向上させることができることを示しています。  具体的な数値に着目してみますと,炭素蓄積量の最も高い家系は,中標津5と十勝35をかけ合わせたもので,106.1ton-C/haと算出されました。この値は,育種カラマツよりも約30%高いことが分かります。また両親木の平均値は,中標津5が90.7ton-C/ha,十勝35が93.2ton-C/haであり,いずれも育種カラマツよりも十数%高いと推定されました。以上のように,炭素蓄積量の高い家系や親木を選ぶことによってかなりの改良効果が期待できると考えられます。

 おわりに



 以上の調査結果から,炭素固定能の高いグイマツ雑種F1の家系や親木が明らかになりました。次の展開としては,炭素固定能の優れたものをどのようにして増殖,普及していくかということになります。これについては,最近道立林業試験場で開発された単一クローン母樹採種園という新しい種子生産方式とさし木増殖法を組み合わせた種苗生産システムが活用できると考えられます。
 地球温暖化防止対策の中で,森林の持つ炭素固定・貯蔵機能に対する期待はきわめて大きいものとなっています。しかし,本特集号の前出の稿でもふれられているように,その森林の機能を最大限に発揮させるためには,そこから収穫される木材をできる限り長期間利用することが重要となります。言い換えると,木材利用の促進が重要な鍵となるわけですが,木材が利用されるためには,各用途に対して必要な性能を有していなければならないことは言うまでもありません。これに関連して,当場では,炭素固定能の改良と並行して材の利用上重要となるねじれや強度などの材質形質の改良についても取り組んでいます。リサイクル技術なども含め,木材利用促進に向けた研究も,地球温暖化防止対策の中で今後ますます重要になると考えられます。


 参考資料



1)天野正博:森林・木材部門における地球温暖化軽減への貢献方策,木材工業55,497-499(2000).
2)藤澤義武:木材による炭素の貯蔵能力を高めるための林木育種,森林科学No.33,37-43(2001).
3)来田和人:グイマツ雑種F1のブランドさし木苗による新たな用材生産戦略,山林No.1454,30-38(2005).
4)小林紀之:地球温暖化防止と森林・木材の役割,林経協月報No.445,2-12(1998).
5)黒丸亮,来田和人:グイマツ雑種F1幼苗からのさし木増殖法,北海道立林業試験場研究報告40号,41-63(2003).
6)松本光朗:日本の森林による炭素蓄積量と炭素吸収量,森林科学No.33,30-36(2001).
7)斎藤昌宏:地球温暖化防止に関する森林・林業・林産業の取り組み,北海道の林木育種42(1),1-3(1999).


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