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林産試だより2006年8月号 特集『2006 木製サッシフォーラム』 建築の立場から見た木製サッシ

●特集『2006 木製サッシフォーラム』

建築の立場から見た木製サッシ

北海道立北方建築総合研究所 環境科学部 居住環境科長 鈴木 大隆

 北海道の住宅の歴史


 北海道の住宅には,最初は本州の住宅と同じものを持ち込んでいた歴史があります。それは戦前まで続いていました。その後昭和29年に洞爺丸台風が襲い,森林資源に大被害が出ました。木材の地場調達ができなくなり,その代替策として,未利用な地場産資源である火山灰を固めてブロックをつくり,住宅に使うという技術開発が進みました。これがブロック造住宅です。私どもの研究所の前身はブロック指導所であり,新しい寒冷地住宅を造ることを目的に生まれました。  その後,しばらくして木造住宅が住宅金融公庫の融資対象となったことで,ブロック造住宅から木造住宅への転換が起こりました(図1)。それに伴いブロックで培った技術を木材住宅に適用していくことになります。これが防寒住宅,寒地住宅です。



図1 住宅の変遷


 一方で北海道では冬期間の施工期間が限られており,住宅生産という観点からは通年施工できることが求められていました。また,当時オイルショックがあったことから,住宅の省エネ・快適性を同時に向上させていく必要がありました。現在の高気密高断熱住宅が生まれた背景には様々な歴史があったわけです。
 図2は1970年の頃でオイルショックの時代に建てられた住宅の灯油消費量を比較したものです。当時の北海道の木造住宅の断熱材の厚さは,ちょうど50mmから100mmの転換期にありました。一方,本州から導入された木質プレバブ工法は50mmの断熱材を用いていました。この図からわかるのは,50mm断熱の木質プレハブ工法の方が,100mm断熱の木造住宅よりも灯油消費量は少ないということです。要は断熱材を厚くしても,在来木造住宅を工法的に改良しなくては省エネにならないという実態が明確になったわけです。これを機に北海道の木造住宅の断熱化の研究・開発が本格的になったのです。



図2 工法と省エネルギー


 この時期,省エネルギーのほかに深刻な問題だったのが内部結露です。空気は暖められると上に上がりますが,水蒸気を含んだ寒い空気が暖められ小屋裏に侵入すると小屋裏結露が起こります(図3)。これが床下に流れるとナミダタケの発生の原因となります。他にも,横架材,例えば胴差しのところから外へ抜ける時に結露し,構造材を腐朽させる。あるいは冬季の季節風は北から吹きますが,北壁の隙間から住宅に入り暖められ湿った空気が南壁から抜ける際に,南面の壁内で結露が起き,構造材を腐らせる。これらは見えない部分で発生しているので,普段は全く気づかず,図3の写真のように,地震が起きたときに大きな問題となってあらわれることになります。単に,内部結露を防止するのではなく住宅の躯体耐久性をいかに高めるか,その研究開発が現在の北海道の断熱気密技術の基礎を作ったわけです。



図3 石油危機以降の断熱化と内部結露被害の発生


 開口部の進化


 躯体の断熱化に伴い,開口部も大きく変化しました。ブロック造住宅では外側の障子がアルミサッシ,内側が木製建具でしたが,オイルショック以降,アルミサッシ化が進みました。そして1980年代は北海道でペアガラスが普及してきたことによって,窓も外障子と内障子の二重の窓から一重の窓に変わってきました。さらに低放射複層ガラスが一般化され,1990年以降の北方型住宅や1992年に定められた省エネ住宅基準などに反映されたわけです。枠材にPVC(ポリ塩化ビニル)を用いた樹脂サッシが,北海道の住宅では90%以上を占めるようになっています。 一方で,木製サッシはというと,コスト面から普通の家に使われることは少ないのが現状です。もちろん,ご存じのとおり道内には木製サッシを開発している企業はいくつかあり,一部の人たちに木製サッシはしっかりと支持されてきてはいますが。  次に各種開口部の断熱性能を見てみましょう(図4)。枠材の断熱性能が高いため,木製サッシが一番性能が良いわけですが,最近の樹脂サッシもガラスの高断熱化に伴い,大きな違いはなくなってきています。



図4 窓の断熱性能


 開口部の断熱性能が高まることによって,住宅そのものにも変化が起きています。例えば,北海道の一般的な住宅では,120m2の床面積があったとしても冬期間,2階は寒くて活用できず,結局は半分以下の居住面積で生活しているという現実があります(図5)。また,高齢化に伴い,二階へ行くのがおっくうになっている現実もあります。バリアフリーという意味ではマンションの方が優れているという見方もできます。



図5 冬に使える面積


 そうすると,マンションなどでは70m2程度しかなくても,2階がない,基本的には平屋と同じですから,暖かければ空間をフルに活用できるというメリットがあります。はるかに戸建住宅より使い勝手がいい,そんなことが,今の戸建住宅ばなれに拍車をかけているのでは,と感じています。
 話が横道にそれましたが,「寒い」ということが,開口部の断熱性能が上がってくることによって解決され,より多くの空間を利用できるようになってくる,これはとても重要なことです。

 住宅の断熱


 ここで,エネルギー的な観点から住宅の灯油消費量の変化を見てみましょう。延床面積は,約25年間で30%ほど上がっています(図6)。昔は約110m2程度であったのが最近は140 m2近くになっています。本州で延床面積の増加に従い,消費エネルギーも増加傾向にあります(図7)。一方で北海道は横ばいが続いており,冒頭のお話しのように断熱技術の普及が確実にエネルギー増を抑制していることがわかります。ただ,最近はエネルギーが微増傾向にあり,原因は床面積の増加のほか,様々なことが考えられます。



図6 住宅規模の変化




図7 地域別の暖冷房用エネルギー


 図8は横軸に延床面積をとった個々の家の暖房用灯油の消費量です。ご覧のとおりかなりばらつきがあります。図9は旭川市内に建設されたかなり性能の高い断熱住宅の暖房エネルギー消費量です。どれも断熱性能は同じレベルなのですが,エネルギー消費量は±30~50%も違います。この原因として考えられるのは,例えば住まい方や室温の設定,暖房方法,暖房効率などの違い,これらによってこれだけの違いが出ているのが現実です。これからの住宅の省エネ化の目標はこれらのばらつきをなくし,確実な省エネを達成することにあります。



図8 北海道の住宅のべ床面積と暖房用灯油消費の実態



図9 暖房エネルギー消費量調査結果(熱源内訳別)

 一方,今の住宅は地震などで停電するとボイラーなどが止まって暖房ができなくなってしまいます。数年前の北見豪雪で灯油の供給が3日間止まったことがありますが,機械に依存した住宅が,このような災害時の状況の中で本当に我々の生命を守ってくれるのだろうか,ということを考えさせられることがあります。今後の住宅像としては,日常時にどれくらい灯油消費量を減らせるかということも重要ですが,同時にこのような災害時にどの程度我々を守ってくれるのか,ということも重要なのです。災害時に暖房が止まってしまった場合,人体や太陽熱だけでどれだけの室温を保てるのか,ということを示したのが図10です。今以上の断熱化を図れば,11~3月まで暖房なしでも室温が10℃以下にならないという状況を作り出すことができます。



図10 居間の日最低室温の累積相対度数


 図11は住宅の断熱化や換気排熱回収などの各種省エネ手法を導入した場合の暖房エネルギー低減を示したものです。この図の中で,現状より暖房エネルギーを3~5割削減する断熱強化を図れば,前述のような室温を保つことが可能となります。このレベルを今後の目標水準としたいと考えています。



図11 各種仕様と暖房負荷低減


 開口部の断熱


 当然,開口部も一層の断熱強化が必要となりますが,その方向としてはサッシ単体で対応するのではなく,断熱戸を併用するという考え方がいいのではと思っています(図12)。日中は断熱戸を開けて太陽熱を入れ,夜間は断熱戸を閉めて断熱化を図るというものです。実は70年代に様々な実験住宅で断熱戸が試されましたが,失敗に終わったという過去があります。例えば断熱戸の気密が悪くガラス面での結露が大量に発生したことや,熱により戸が変形してしまうという問題が発生しました。



図12 断熱戸の提案


 これらは最近の技術や研究成果を生かせば,必ずしも解決できない問題ではなくなっています。これからの住宅では,外窓用木製サッシばかりでなく,断熱戸を木製で作る,そこに新たなビジネスの可能性があると思っています。


 開口部と日射


 今後の暖房エネルギー削減のためには,冬期の太陽熱を有効に使うことが重要です。いわゆるパッシブソーラーハウスです。これには住宅の躯体自身の断熱性能がしっかりしていることと,熱収支を考慮した開口部の設計が必要です。
 太陽熱のコントロールの仕方は色々あります。パッシブソーラーを考えるときは南面の開口部を大きくするのが一般的ですが,この発想は冬期日射に乏しい北欧で生まれた方法です。しかし,北海道は寒冷地でありながら北欧などに比べて冬期日射に恵まれていますから,もっと気楽なパッシブソーラーの姿があると思っています。
 北海道の住宅地は,すべての住宅に平等に日射が入るように,南北に対して45度振って宅地割している例が多いようです。図13は低放射複層ガラスを用い,住宅配置が45度にふれた場合の開口部の熱収支を示したものです。



図13 太陽熱の有効利用


 札幌や道南では,南面の開口部を大きくすることによってエネルギー消費を減らすことができます。しかし,旭川のような積雪地では冬季の日射量が少ないため,開口部を大きくしても暖房エネルギーは横ばいとなっています。これが意味することは,旭川の場合,開口面積を増やしても無駄と言うことではなく,最近の高断熱な開口部を用いれば,「暖かくするためには窓を減らす」という従来の概念を捨てていい,すなわち,景色がきれいな方向に大きな窓を設ければいいということです。木製サッシも安価な樹脂サッシを相手に勝負するのではなく,「光を透過する大きな壁」という発想で展開していけば,おもしろい可能性が見えてくるのではと思っています。
 また,開口部を考える上で,中間期や夏期の日射対策を考えることが重要です。例えば,天窓(屋根窓)からの日射侵入量はかなり大きく,それは室温を12度も上昇させる効果があります。しかし冬期はいいですが,中間期,夏期はいかがなものか,ということになります。
 屋根窓に限らず,採光面の開口部計画で忘れてならない点は,中間期,夏期の日射遮蔽です。日射遮蔽(しゃへい)の対策は外側で行うのが効果的です(図14)。内側では熱がたまってしまうので遮蔽率は低くなってしまいます。ヨーロッパでは外側ブラインドは一般化されていますが,日本で外側につけるのはなかなか困難です。外側にすだれをつけようと思うとそれを支えるフックなどをつけるために壁に穴を開けなくてはいけないのです。これは建築サイドから見ると,非常にいやなことなのです。一方,もし,サッシ枠にすだれをかけるフックがついていれば,特に木製サッシは枠に穴を開けることは簡単です。そんな配慮がなされた木製サッシは魅力的です。



図14 日射遮蔽と開口部デザイン


 また,代表的な日射遮蔽対策としてひさしがあります。ここでは詳しく述べませんが通常ですと突き出し長さは50cm程度必要です。無落雪屋根やコンパクトな住宅形態が多い北海道においてはひさし・軒をつけるのは難しいことといえます。例えば,厚板鉄板を曲げてひさしを作る(図15)。こうすれば案外簡単にひさしができます。また,ひさしは日射遮蔽ばかりでなく,風を呼び込むことができるという効果もあります(図16)。これは壁に当たった風が,ひさしがあるために上に逃げずに,家の中に入ってくるというものです。最近,エアコンを使う家が多くなってきていますが,わが国の伝統的な建築技術であるひさしには様々な効能があります。それをどう再構築するか,非常に重要な課題です。



図15 ひさし




図16 住宅とひさし


 これからの建築と開口部



 ガラスは透明性と耐久性がある優れた材料ですが,汚れるとごまかしがきかないという欠点もあります。ガラスを用いるには知恵と工夫が必要です。また,サッシ枠まわりでも,納まりがうまくいかないと外壁を汚してしまいます。これらを建築側で防止するのではなく,サッシ枠の形状などで対応していただくと,建築屋はきっと喜ぶのですが・・・。なかなかそういうサッシはお目にかかれません(図17)。



図17 サッシの外側周辺部の傷害


 図18は私どもの研究所ですが,日本の伝統的な住宅に用いられているようなひさしがあります。また,ガラスの清掃は非常に重要な問題で,簡単に清掃できるように工夫しています。



図18 北海道立北方建築総合研究所


 外断熱の建物はデザイン的に優れたものは少ないですが,ファサード(建物の正面の外観)にガラスを使うことで非常にデザイン性が高くなります。
 図19はオランダの事務所建築改修事例ですが,ガラスを上手に使うことでグッドデザインなファサードになっているのがおわかりいただけるかと思います。ガラスをいかに活用していくか,これはおもしろい課題です。ガラスは今までにない建物のデザインを作り出すのです。



図19 ガラスファサードの魅力


 最後に,地域経済と建築という観点からお話をしたいと思います。図20は北海道の住宅を一軒造った場合の経済効果を示しています。工賃はもちろん地元に落ちますが,材料費の7割が道外に流れています。住宅は高性能になりましたが,地域経済効果は低下しているという笑えない現実があります。



図20 北海道の戸建住宅生産と経済効果


 開口部はこれからの建築にとって非常に重要な役割を占めますが,これをいかに地域の材料で作っていくかということが重要です。住む人間だけが喜ぶ住宅でなく,地域にとって喜べる住宅をいかに造っていくか。そういう観点からこれまでの技術を見直し,再構築することが必要不可欠な時期を迎えていると,強く感じています。



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