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林産試だより2006年10月号 木質系バイオマスのサーマルリサイクルに関する提言

●特集『ペレットの普及に向けて』

木質系バイオマスのサーマルリサイクルに関する提言

利用部 物性利用科 山田 敦


 1.はじめに

 現在,バイオマスエネルギーが注目されている理由は三つのEにあると言われています。  一つめのEはEnvironment(環境)です。京都議定書の発効により,日本においても2012年を目途に1990年を基準として6%の二酸化炭素(CO2)削減を行うこととなりました。木質ペレット燃料などのバイオマスは,光合成によりCO2 を固定して再生産されるため,燃やしても大気中のCO2を増やさない,カーボンニュートラルなエネルギーと言われています。
 二つめのEはEconomy(経済)です。イラク戦争以来原油価格は高騰を続けています。石油等の化石燃料は海外に依存しているため,国際情勢等の影響を大きく受けます。現在の高騰は投機的な要因によるものと考えられます。しかし,中国等の高度経済成長により,近い将来,原油の需給バランスが崩れ,現在以上の価格高騰となることも予想されています。
 三つ目のEはEnergy(エネルギー)です。石油などの化石燃料は有限で,将来的にはなくなってしまう資源です。それに対してバイオマスは再生可能なエネルギーであり,国内において膨大な量の確保が期待できます。また,風力や太陽光発電に比べて気象等の影響を受けにくいので,計画的に使用することができます。
 北海道は,土地面積の71%が森林に覆われ,また,全国の森林面積のうち22%を占めるなど,日本を代表する豊かな森林を擁する地域です。一方,寒冷地であるため冬季暖房用として化石燃料を大量に消費しています。一家庭当たりの灯油使用量は全国平均の2.8倍と言われています。
 豊かな森林資源から産出される木質系バイオマスを冬季暖房等の熱源として適切にサーマルリサイクル(熱としての再利用)する取り組みは,北海道の恵まれた自然環境を継承するためにも必要不可欠です。

 

 2.バイオマスエネルギーを利用するために

 木質系バイオマスの適切なサーマルリサイクルのためには,以下の3点に留意してシステムを構築しなければなりません。

 1) カスケード(段階)型の利用

 カスケードは英語で小滝を表す言葉です。小さな滝が連なる様子に例え,段階的に利用することを表します。二酸化炭素を放出させずに,長期間炭素を固定するためには,一つの役目が終わっても,マテリアルリサイクル(材料としての再利用)により次の用途に使い,サーマルリサイクルする時期を可能な限り遅らせることが望まれます。(図1)。



図1 木質系バイオマスのカスケード型の利用


 2) オンサイト(地域隣接)型のシステム

 バイオマスは化石燃料に比べて単位重量当たりの発熱量が低く嵩(かさ)高いため,輸送コストが大きくなります。そのためにできるだけ生産地の近くで効率的に利用する地域分散型のエネルギー利用システムを構築し,地産地消を目指す必要があります。


 3) 他のエネルギーとのハイブリット(混成)

 木質系バイオマスの量は膨大です。しかし,実際には搬出コストがかかるため利用できる量は限られています。また,パルプ等の用途もありますので,バイオマスだけでは北海道で消費する熱エネルギーを賄うことはできません。
 そのため,石油や電気・ガス等の既存エネルギーはもとより,風力・太陽光等の新エネルギーと併せて使うことが必要です。

 たとえば,オール電化住宅とバイオマスの組み合わせ
 オール電化の蓄熱式暖房は,きめ細やかな温度調節ができない。寒い朝や冷え込む夜にバイオマスを活用した輻射型暖房(ペレットストーブ等)を用いることにより,蓄熱量を低く設定することが可能となり,消費電力を抑えることができる。

 3.木質系バイオマスの利用方法

 北海道では「北海道森林づくり基本計画」において,平成13年度現在20万m3の森林バイオマスエネルギー利用量を平成24年度には40万m3とする指標値を示しています。その目標達成のために四つの利用方法を提示します。


 1) 重油代替としての木材チップの利用

 現在,北海道内においては70工場で自社が排出する工場端材等を木屑焚き(きくずだき)ボイラーの燃料として,工場暖房・人工乾燥を行っています。燃料価格をみれば製紙用チップ等の質の良いチップでも,重油よりも安価です。しかし,バイオマスボイラー本体の価格は重油ボイラーに比べて高く(2~5倍),省力化が難しいなどの問題があります。
 今後,より安価で自動運転が可能なバイオマスボイラーが供給されることにより,木材関連工場にとどまらず,温泉施設などの民生需要も期待できます。そのためにも,現在,廃棄物として処分されている燃焼灰などの副産物の有効利用法を開発し,より使いやすい環境を整備する必要があります。


 2) 灯油代替としてのペレット燃料の利用

 現在,道内には四つの木質ペレット燃料生産施設が存在します。木質ペレット燃料は粒が小さく均一で,きめ細やかな温度調節や自動運転が可能であるため,家庭用暖房等に向いています。
 今後。製造ラインの合理化等によるコストダウンや,流通体制の整備,さらには安価な国産燃焼機の開発が行われることにより,需要拡大が期待されます。


 3) ガソリン代替としてのバイオエタノール等の利用

 木質バイオマスの主成分であるセルロースはデンプンと同じくブドウ糖からできています。そのため,硫酸などで分解することにより,アルコール(バイオエタノール)発酵の原料として用いることが可能です。
 ブラジルなどでは,サトウキビを原料としたバイオエタノールをガソリンと混合し自動車燃料として使用しています。
 最近では,木質系バイオマスを熱分解したガスから液体燃料を合成したり,直接液化して燃料として利用する研究が行われています。


 4) 木質系バイオマスによる発電



写真1 林産試験場で試作したガス化発電装置

 北欧諸国では木質系バイオマスを利用したバイオマス発電が盛んに行われています。その背景には炭素税の導入による燃料価格の相対的な低減や,送電線が国有であることから買電価格が高いなどの国情の違いがあります。しかし,北海道内においても地域・利用法(規模)を限定すれば実現の可能性はあります。
 木質系バイオマスによる発電方法としては大型施設に用いられる蒸気タービン方式のほかに,比較的小型の施設に向いていると言われるガス化エンジン方式(写真1),スターリングエンジン方式があります。
 小型の発電施設は,大型発電施設に比べてスケールメリットが低いため,実現するためには発電するとともに廃熱も有効利用するコジェネレーション(熱電併給)システムを開発する必要があります。


 4.今後の展開



写真2 足寄町役場新庁舎のペレットボイラー

 平成14年度,北海道では十勝管内足寄町をモデルとして「木質バイオマス資源利用モデル調査」を行っています。足寄町ではこれをもとに平成17年度にペレット生産施設を整備したほか,新庁舎にペレットボイラー(写真2)を導入するなどの先駆的な取り組みを行っています。
 これらの事例をもとに,今後,木質系バイオマスのサーマルリサイクルシステムを構築するための展開方向として,山村地域と都市部に分けて以下のとおり提案します。


 1) 山村地域

 山村地域は,間伐材や林地残材あるいは製材工場からの工場廃材など,比較的クリーンな木質系バイオマス(森林バイオマス)が豊富に存在します。しかし,人口(熱需要)が分散しています。
 このような地域では,輸送や貯蔵に係るコストを低減するために,森林バイオマスをペレット燃料やオガライト(写真3)などに加工して,管内各戸に暖房用燃料として供給することが良いと考えます。
 また,流通システム等の条件が整えば,比較的近い都市部に供給することも可能となります。
 写真4はフィンランドの山村地域におけるバイオマス発電施設です。ピート,グリーンチップ(林地残材),おが粉などを燃料として17MWの発電を行っています。排熱(48MW)についてはパイプラインを介して各戸に供給しています。売電価格は時間単位で変動し,価格が高いときには,余剰な熱は捨てて発電のみを行っているとのことです。



左:写真3 オガライト工場(稚内市)    右:写真4 バイオマス発電施設とグリーンチップ


 しかし,現在の日本の状況を考慮すると,山村地域に大規模なバイオマス発電施設が立地される可能性は低いと思われます。
 当面は地域内の公共施設(体育館,病院,公民館等)や製材工場に,前述のペレット等を燃料とするガス化やスターリングエンジンによる小型のコジェネレーションシステム(100kW以下クラス)を導入するのが現実的であると考えます。


 2) 都市部



写真5 札幌市熱供給公社のバイオマス混焼試験


 都市部においては,大量の熱需要が集中して期待できます。しかし,建築解体材等の汚れたバイオマスや剪定枝条(せんていしじょう)等の廃棄物系のものが主体となります。
 汚れたバイオマスは,森林バイオマスに比べて低価格ですが,燃やすと有害なガスを発生したり,灰に重金属等が混入する可能性があります。
 そのため,排ガス処理や灰処理に規制がない家庭用の燃料としては好ましくありません。十分な排気ガス対策等を行うことが可能な,大規模な都市暖房や蒸気タービン方式の発電の燃料として用いて,環境に対する負荷をできるだけ小さくすることが望ましいと考えます。
 写真5は,地域熱供給を行っている札幌市熱供給公社における剪定枝条等と石炭との混焼実験の取り組みです。


 まとめ

 平成15~17年度にかけて行った「木質系バイオマスのサーマルリサイクルに関する研究」をもとに,三つの背景,三つの留意点,四つの活用方法,二つの展開方向を提示してきました。
 既に北海道においても燃料ペレット工場をはじめとして,各地で木質系バイオマスのエネルギー利用の取り組みが始まっています。
 さらに,林産試験場では平成18年度より,今後大量発生が予想される木質系バイオマス燃焼灰を肥料等として活用するために,九州大学北海道演習林,北海道立工業試験場と共同で研究に取り組んでおり、木質系バイオマス利用の推進を支援していきます(図2)。



図2 「木質系バイオマス燃焼灰の有効利用に関する研究」が目標とする林地還元システム


 参考資料

1)北海道立林産試験場:「CCA処理木材分別の手引き」,2006年3月6日改訂
2)山田 敦:ペレット燃料に関するQ&A,林産試だより2006年1月号
3)上島信彦:北海道のバイオマスの概要と展開,林産試だより2005年1月号
4)山田 敦:ペレット燃料ふたたび,林産試だより2005年1月号
5)由田茂一:木材のサーマルリサイクル-バイオマスエネルギー利用方法-,林産試だより2005年1月号
6)山田 敦:木質バイオマスエネルギー利用の現状と今後の可能性,林産試だより2004年1月号
7)(株)富士総合研究所:「木質バイオマス資源利用モデル調査」,平成14年11月


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