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林産試だより2006年11月号 ササからのキシロオリゴ糖の製造法と機能性,その実用化例

●特集『知的財産権 その1』

ササからのキシロオリゴ糖の製造法と機能性,その実用化例

利用部 成分利用科 関 一人


 はじめに





写真1 北海道において広く分布する
クマイザサ(Sasa senanensis Rehd.)

 ササは稈(かん)(中空で節のある茎のこと)が木化するため,樹木と同様に木本植物に属します。北海道におけるササ(写真1)の資源量は約15_000万トン(乾重換算で7_500万トン)と推定され,これは北海道の林木蓄積の約28%にも相当します1)。再生可能な森林バイオマス(生物資源)のひとつであるササは,これまで大規模に利用されたことがなく,むしろ林業にとっては造林や天然更新を妨げる雑草と考えられています。しかし,ササなどのバイオマスを食品,飼料,工業原料として利用することは,食料自給率が低く,しかも化石資源の大半を海外に依存しているわが国にとって,その意義は大きいといえます。
 これまで当場では,ササの有効利用を図る目的で,「水抽出と蒸煮」という簡単な方法でキシロオリゴ糖を効率よく製造する技術を開発し,北海道の特許として登録しています2)。ここでは,その製造法と機能性,さらに実用化例についても紹介します。


 蒸煮処理でササからオリゴ糖をつくる


 植物の組織中の細胞壁は,多糖類であるセルロースやヘミセルロース,ポリフェノール類であるリグニンの3大成分から構成され,いずれも水に不溶の高分子化合物です。ササのヘミセルロースは,キシロースと呼ばれる糖が鎖状に結合したキシラン(図1)が主成分となっています。ササの稈の化学組成は成長段階で異なりますが,成熟した稈ではキシランが24%ほど含まれています3)。また,ササの葉は稈と比較してミネラル,タンパク質,抽出物に富み,キシランの含有量は若干低いようです4)



図1 キシランおよびキシロオリゴ糖の基本構造
(キシラン:n≒200、キシロオリゴ糖:通常n=0~8程度)


 これまでの報告5)によると,植物の細胞壁の3大成分のうちのヘミセルロースは,比較的容易に加水分解などの化学変化を受けやすいことが知られています。そこで,ササのヘミセルロースであるキシランに着目し,その化学的変換利用を試みました。



写真2 圧力容器(500L容)

 ササの葉および稈の混合粗砕物を圧力容器(写真2)に入れ,180~200℃の飽和水蒸気0.98~1.57MPa(10~16kgf/cm2)で数分~30分間ほど蒸煮します。高温高圧の条件下では,ササのヘミセルロース中のアセチル基は遊離して酢酸などの有機酸を発生させます。発生した有機酸は触媒として働いて酸加水分解を促進し,キシランの重合度を低下させると考えられています6)。ササの蒸煮物を水で抽出すると,水溶性となったキシラン由来のオリゴ糖を主成分とする抽出物が試料の乾燥重量に対して10~15%の割合で得られます7)。このオリゴ糖は,キシロースと呼ばれる糖の単位がいくつか結合しているキシロオリゴ糖です(図1)。このような処理は水と熱のほかには化学薬品類を一切使用しなくても短時間で反応が進行するといった利点があり,木質系バイオマスや農業廃棄物のクリーンで効率的な化学変換技術として1970~80年代にさかんに検討されています8_ 9)。  蒸煮によって得られる糖質の回収率を向上させるためには,ササをあらかじめ水で洗浄することが有効です1)。これは,キシランの酸加水分解の進行に悪影響を与える塩基性の塩類が,水によって除去されるためと考えられています。また,試料の含水率をある程度維持することにより,蒸煮による反応熱が効率的に圧力容器中の試料全体に伝わり,キシランの酸加水分解が速やかに進行するものと推定されています7)


 ササのオリゴ糖の化学的性状と腸内有用細菌に対する機能性


 一般にキシロオリゴ糖の市販品は,綿実殻(めんじつから),トウモロコシの芯などに含まれるキシランから得られます。このような原料から抽出されたキシランは加水分解酵素によって重合度を低下します。得られる糖質は単糖(図1の基本構造が1つのもの)および2~5糖程度のキシロオリゴ糖が中心です。キシロースの甘味度はショ糖の約半分程度ですが,2~5糖など重合度が高くなるにつれて甘味度は一般に低下します。これらはおもに加工食品の添加用として利用されており,その機能性として,整腸作用10),血糖値や肝脂質の改善11),カルシウムや鉄などのミネラルの吸収・保有率の促進効果12)などが,これまでに報告されています。
 一方,蒸煮によりササのキシランを直接加水分解して得られる糖質は,単糖および2~10糖程度のキシロオリゴ糖が主要な構成物と考えられています13)。さらに,11~20糖などの存在も推定されており(図2),酵素処理で得られるオリゴ糖と比較して含まれている糖の分子量分布がかなり広範囲であるのが特徴です。また,蒸煮において温度や圧力を高くすると,高重合度の糖は一般に減少する傾向を示します13)



図2 ササから得られるオリゴ糖のイオンクロマトグラフ
(X1:キシロース,X2~X5:キシロース2~5重合物)


 ササのオリゴ糖液を噴霧乾燥機(スプレードライヤー)などを用いて粉末化すると,淡褐色で,メイプルシロップのような芳香を有し,甘味は少なく,かすかに苦味をともなう素材が得られます。この色や味の理由として,含まれる糖は比較的重合度が高いことと,蒸煮によってオリゴ糖とともに溶出したリグニンなどのポリフェノール由来のフェノール性化合物が存在すること,などが考えられます。
 また構成糖としてキシロースの他にグルコース,アラビノース,グルクロン酸などといった糖もかなり含まれており,異種の糖の混合物といえます(表1)。とくにアラビノースには生体内においてショ糖の吸収を抑えるダイエット効果があることも最近報告されており14),キシロオリゴ糖の機能性に加えた効果が期待できそうです。

表1 ササから得られるオリゴ糖の構成糖

 ササから得られるオリゴ糖の機能性を確認するため,腸内細菌を含む培地にササのオリゴ糖を加えて,菌の増殖効果について調べました。試験に用いたビフィズス菌(Bifidobacterium bifidum)は生体内で整腸作用を促す一方,乳飲料などの発酵製造にかかわる有益な細菌として知られています。その結果,ササのオリゴ糖を含んだ培地の菌数は含まない培地よりも10倍ほど多く,ビフィズス菌に対して増殖促進効果を示しており(表2),ササのオリゴ糖を摂取することでも整腸効果が期待できることが分かりました15)。  なおキシロオリゴ糖は,厚生労働省が審査許可する特定保健用食品に利用されている成分のうちの一つとなっています。



表2 ササから得られるオリゴ糖のビフィズス菌増殖におよぼす影響*)


 ササのオリゴ糖の実用化例


 現在,当場では北海道内のササ関連企業と,ササから蒸煮処理でオリゴ糖を製造する特許に関して使用許諾契約を結んでいます。
 当該企業は大雪山国立公園の周辺地域に所在することもあり,豊富で新鮮なササ資源を利用して,おもに食品などを製造販売しています。このような経営形態の中で,当場が開発したササのオリゴ糖を製造し,前述のような機能性を付与する目的で菓子や健康食品などの原料の一部として自社で利用したり,他社に供給しています。
 写真3は,ササのオリゴ糖が添加された飴(あめ)で,“のど飴タイプ”と“バター飴タイプ”の2種類が用意されています。写真4,5は,ササのオリゴ糖を主成分として開発された健康食品で,北海道産のササが原料ということもあり,おもに本州方面での人気が高いということです。



左:写真3 ササのオリゴ糖入りの飴
中央:写真4 ササのオリゴ糖入りの健康食品(エキスタイプ)
右:写真5 ササのオリゴ糖入りの健康食品(カプセルタイプ)


 おわりに


 ササの有効利用を図る目的で,当場では「水抽出と蒸煮」という簡単な方法でササからキシロオリゴ糖を効率よく製造する技術を開発しました。キシロオリゴ糖には整腸作用などをはじめとする保健衛生面での様々な機能性があります。現在,ササから得られるキシロオリゴ糖は,これまで述べてきたように菓子や健康食品分野で利用され,いくつかの商品が開発されています。しかし,やっと利用の途に着いたばかりといっても過言ではありません。そこで,ササの利用に関して少しでもご興味のある方は,ぜひこの機会にササのオリゴ糖の製造技術についても前向きにご検討いただき,さらに新たな商品を開発していただければ幸いです。


 引用文献


1) 豊岡 洪: バイオマス資源としての北海道のササ,Bamboo J. 1, 22-24 (1983).
2) 窪田 実,青山政和,吉田兼之,関 一人:ササ類からキシロオリゴ糖を主成分とする糖液を製造する方法,特許第1990589号 (1995).
3) Seki, K. and Aoyama, M.: Seasonal variation in storage carbohydrate and cell wall components of the culm of bamboo grass, Cellulose Chem. Technol. 29, 561-566 (1995).
4) 津田真由美,斎藤直人,関 一人,青山政和: ササの化学組成,林産試験場報9, 17-20 (1995).
5) Bermann, C. J., Schultz, T. P., and McGinnis, G. D.: Rapid steam hydrolysis / extraction of mixed hardwoods as biomass pretreatment, J. Wood Chem. Technol. 4, 111-128 (1984).
6) Lora, J. H. and Wayman, M.: Delignification of hardwoods by autohydrolysis and extraction, Tappi 61, 47-50 (1978).
7) Aoyama, M., Seki, K., and Saito, N.: Solubilization of bamboo grass xylan by steaming treatment, Holzforschung 49, 193-196 (1995).
8) Dietrichs, H. H., Sinner, M., and Puls, J.: Potential of steaming hardwoods and straw for feed and food production, Holzforschung 32, 193-199 (1978).
9) Puls, J., Poutanen, K., Körner, H. U., and Viikari.: Biotechnical utilization of wood carbohydrates after steaming pretreatment, Appl. Microbiol. Biotechnol. 22, 416-423 (1985).
10) Okazaki, M., Fujikawa, S., and Mastumoto, N.: Effect of xylooligosaccharide on the growth of bifidobacteria, Bifidobacteria Microflora 9, 77-86 (1985).
11) Imaizumi, K., Nakatsu, Y., Sato, M., Sedarnawati, Y., and Sugano, M.: Effects of xylooligosaccharides on blood glucose, serum and liver lipids and cecum short-chain fatty acids in diabetic rats, Agric. Biol. Chem. 55, 199-205 (1991).
12) 豊田佳子,畑中 豊,諏訪芳秀: カルシウム吸収におよぼすキシロオリゴ糖の影響,第47回日本栄養・食糧学会大会講演要旨(東京),109 (1993).
13) Aoyama, M. and Seki, K.: Chemical characterization of solubilized xylan from steamed bamboo grass, Holz Roh- Werkst. 52, 388 (1994).
14) 井上修二,讃井和子,世利謙二: ヒトにおけるショ糖含有食品摂取後の血糖上昇に及ぼすL-アラビノースの作用,日本栄養・食糧学会誌 53, 243-247 (2000).
15) 青山政和,窪田 實,吉田兼之,武士甲一,砂川紘之,岡田廸徳: クマイザサ水溶性キシランの腸内細菌の増殖に及ぼす影響,Bamboo J. 11, 36-40 (1993).


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