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林産試だより2007年1月号  赤レンガ庁舎で木材を考える~木育公開講座「人と木のつながり」~

 

赤レンガ庁舎で木材を考える

~木育公開講座「人と木のつながり」~

利用部 材質科 佐藤 真由美


 はじめに




写真1 北海道庁旧本庁舎,通称「赤レンガ」
見たところは,木材の気配もない

 去る9月3日,10日の日曜日2日間にわたり,北海道旧本庁舎(写真1),通称「赤レンガ」を会場として,木育公開講座が開催されました。「木育」とは,北海道が提唱している「木とふれあい,木に学び,木と生きる」取り組みです(北海道木育サイト)。「育」という字が入っているので,子供の教育というイメージが先行しますが,「子供を始めとするすべての人が,人と木や森との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育むこと」を目指すものです。このため,参加者は,札幌市とその周辺から来られた一般市民26名で,元林業関係者という年配のかたや,環境関連ボランティア,学校の教師,大学生と,年齢も職業もさまざまでした。第一日目のテーマが「人と森のつながり」で,北海道の先住民族アイヌの人々が生活の中で利用した樹木のお話でしたので,一週間後の第二日目はテーマを「人と木のつながり」として,木材としての森林資源の利用を話題の中心としました。



 木材の種類と特徴




写真2 各種木材を手に取り比較
虫眼鏡も動員

 講座は,参加者の皆さんに,木材にはいろいろな種類があることを知っていただくことから始めました。樹木の種類により,その木材の使われかたも異なります。日本人が木材を最も大量に使う用途は,紙パルプや薪炭材を除けば住宅建築材です。柱や梁には,真っすぐに伸びる傾向の強い針葉樹の木材が便利です。針葉樹は地球上に数十万種といわれる樹木のなかでは少数派で数百種しか現存しません。北海道に普通に自生している樹木の中でも,針葉樹は十種に満たないのに対して,広葉樹は利用価値の高い樹種だけでも,数十種挙げることができます。種類数が限られる針葉樹は,木材の重さや強さも樹種によらず程々の範囲に収まり,かなり均質であることから,一定の性能の製品を大量に供給する必要がある住宅部材に適しているといえます。

 一方,広葉樹は種類が多い分,その木材の性質も様々です。また,マカバやヤチダモなど,比較的真っすぐな幹になる樹種もありますが,脇芽が伸びて幹が曲がったり,枝が太くなりやすい樹種も多く,工業的に利用する上では,均質な材を得にくい難点があります。しかし,針葉樹よりも重くて強いものや,逆にとても軽く柔らかいものがあり,材の色や模様(木理,杢(もく))も様々であることを利用して,強度が必要な机や椅子の脚や,階段の手すり,装飾的な価値が評価されるタンスなどの表面材や部屋の内装材として,適材適所に使い分けがされています。

 参加者の皆さんには,針葉樹材と広葉樹材の違いや,代表的な広葉樹材の外見の特徴などを,虫眼鏡も使って,実際に見ていただきました(写真2)。これで,ご自宅のテーブルや階段の手すりの樹種くらいは言い当てられるようになったのではないかと思います。愛用のテーブルを通して,山で育っている樹木の姿を思い浮かべていただけたら,森林,樹木が「お友達」と感じられるのではないでしょうか。



 「赤レンガ」に使われている北海道産木材


 木材の見分け方をマスターしたところで,いよいよ,重要文化財「北海道庁旧本庁舎」に使われている木材の探訪に出発しました。とはいえ,この建物は,通称「赤レンガ」と呼ばれるだけあって,建物の構造上重要な部分には木材は使われていません。木材を見ることができるのは,ドア枠とドア,窓枠,階段とその手すり(写真3),室内の腰板と床板といった建具材,内装材と家具調度類しかありません。しかし,これが実は優れものなのです。この建物はレンガも石も木材もすべて北海道産資材にこだわって造られました。特に,現在資料室として公開されている,当時の長官室の建具(写真4),内装は,絹のような光沢を持つ,複雑な「玉杢(たまもく)」のヤチダモ材で作られています。ヤチダモは杢が出やすい樹種ですが,これだけの模様がしかも広範囲に出る丸太はそうそう見られません。いわゆる「銘木」として扱われる木材であり,この建物の中で最も格の高い長官室の内装を,この材で統一したことには,北海道産木材の価値をアピールしようという当時の意気込みが感じられました。



左:写真3 庁舎の階段手すりに使われている木材は,強度性能に優れた北海道産ヤチダモ
右:写真4 旧長官室のドアは,ヤチダモの玉杢



 庁舎前庭の樹木を観察


 庁舎前庭に出て,実際にそれらの樹木を訪ねてみました(写真5)。赤レンガの正面左側には,立派なアカエゾマツ,右側にヤチダモが数本植えられています。カモが憩う池の周りには,まだ大木にはなっていませんが,ヤチダモ,ハリギリといった,木材として重要な広葉樹や,花や紅葉として愛でられるうえに木材としても使われるエゾヤマザクラ,カエデ類が茂っています。池から離れて更に奥へ進むと,ミズナラ,ナナカマド,シナノキなど,皆さんに虫眼鏡で木材を見ていただいた樹種が次々に姿を現しました。



写真5 前庭に植えられている木々の中で,木材として使われている樹種を訪ね歩く



 参加者同士で意見交換


 再び庁舎内に戻り,最後に一つ,突発的に試みたことがありました。それは,一方的に「お話を聞いた」「とりあえず触れてみた」で終わるのでなく,今回聞いたこと,触れたものについての,参加者同士での意見交換でした。カリキュラムとしては挙げていなかったので,切り出してみると,やはり沈黙が流れてしまいました。「感想でも日頃思っていることでも,思いついたことを言ってみてください」と促し,まず出たのは「野幌森林公園で『保育』と称して蔓(つる)切りをしてる人がいたが,自然のままにすべきではないのか?」という,男性からのご意見でした。一口に森林と言っても,原始林,天然林,二次林,人工林,いろいろな形があり,内容も異なります。豊かな自然環境の維持という考え方からは,少なくとも原始林,天然林に過度に人の手を加えることは避けるべきでしょう。しかし,人工林からの木材を有効活用していくことは,太陽と水と土がそろえば,大気中の二酸化炭素を固定して新たな木材を生産してくれる森林を維持することにつながる,循環,持続の一つの型でもあります。このようなことは,いろいろな立場からの多くの人が対話,議論を重ねて方向を模索するべきであり,林業・林産業や環境問題等に直接携わる関係者だけではなく,一般道民の立場で少しずつでも日々話題にして考えていただけたらいいな,というのが筆者の試みの主旨でした。全員とはいきませんでしたが,最初の男性の発言へのリアクションを含め,複数のかたに意見を述べていただき,筆者の思いつきでの行動も何とか格好を付けることができました。せっかく関心をもって講座に参加された皆さんには,ただ自分一人の知識として温存するのでなく,積極的に周囲の人々に話しかけていただき,将来の「人と木のつながり」について,対話と行動を広げていただければ,本講座が活かされていくものと考えています。



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