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林産試だより2007年2月号 森林環境の保全と木材利用への取り組みの現状~北東アジア・アカデミックフォーラムに参加して~

 

森林環境の保全と木材利用への取り組みの現状
~北東アジア・アカデミックフォーラムに参加して~

企画指導部 普及課 田戸岡 尚樹



 はじめに





写真1 フォーラムの様子

 気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書(以下京都議定書)の発効を受けて二酸化炭素排出量削減が急務となり,森林・木材利用に係る役割が大きく注目されてきています。京都議定書が発効して1年を経たことを契機に,再生可能な材料でありエネルギー源である木材の利用と,森林生態系の保全を考えた森林施業についての取り組み事例をディスカッションすることを目的として,2006年の3月に京都市で標記フォーラムが開催されました(写真1)。そこで発表された各地の森林環境の保全と木材利用への取り組み事例について報告します。


 基調講演


 基調講演の一つ目として,国際モデルフォレスト事務局アジア担当上級企画官のブライアン・バネル氏が「地球環境問題とモデルフォレストの最新情報」と題した講演を行いました。モデルフォレストとは,1992年にブラジルで開かれた地球サミットの中でカナダが提唱した新しい森林管理のかたちであり,流域を単位として行政・住民・NGOなどが協働で行う環境保全活動のことです。その流域に関わる利害関係者が総参加して共通のビジョンを基にパートナーシップを築き,持続可能な森林経営を模索しながらコミュニティが経済的に自立する手助けをするほか,景観の保全や野生生物の保護などの活動をするケースもあるようです。現在19箇国40箇所で活動されており,各モデルフォレスト間でも情報の共有をしているとのことでした。印象としては,モデルフォレストは素材生産よりも自然景観や生態系の保護に重きが置かれており,持続可能な森林経営に向けての活動はあまり見えてきませんでした。ここに,住民参加を森林経営に結びつけることの難しさを感じました。

 二つ目の講演は中国林業科学院教授の姜春前氏による「中国における持続可能な発展に向けた森林経営」と題した発表でした。現在中国では大幅に木材需要が高まっており,持続可能な森林経営に向けての検討が盛んなようです。そのためユーカリなど成長の早い樹種による森林からの生産を積極的に行い,現在1億3000万m3(国内需要の約40%)をまかなっているという話でした。持続可能な森林経営の実証モデル地区として13箇所を設定しており,そのうち6箇所が国から財政的な支援を受けているということです。森林認証制度の活用も積極的に検討しており,生産本位から生態系本位へと木材生産の考え方が変わっているとのことでした。中国では国レベルでの森林戦略を考えているようで,砂漠化の抑制など,国土保全に対する森林の役割といったものも重要視していると感じました。

 また,林産物に関しては,中国では最低限の生産量・価格・品質や初期加工などを,販売会社・加工会社・生産者の三者で契約することで,生産者も価格形成に 関わっており,ここで生産者が不利益をこうむらないように関係協会が様々な助言や指導をしているとのことでした。


 各セッション


 二つの基調講演を受けて,さらに二つのセッションで議論を深めていくかたちでフォーラムは進められました。一つ目のセッションは「自然エネルギー・木材産業~アジアにおける木材利活用の推進方策」として,3名からの話題提供がありました。

 興味深いものとしては,京都府立大の古田裕三氏からの報告で,スギの圧密単板を使用した合板やLVLを開発し,さらに竹平板の利用も検討しているという話がありました。竹は吸収エネルギー量が大きく,これを複合化したLVLはスギのみのものよりも大幅に吸収エネルギー量が増加していました。現在スギLVLのガードレールが実用化間近ということでしたが,竹を複合したLVLは強度のバラツキが小さいというLVLの特長に吸収エネルギー量の大きさが付加され,ガードレール材料として非常に適していると感じられました。竹の利用は北海道では難しいですが,道外での資源量は豊富であり,新しい用途が広がることは今後の生物資源の利用として期待が持てそうです。

 また,京都大学の張敏氏から中国における木材工業の現状についての報告があり,中国では近年,特に2000 年を境に木質材料・家具の分野で急激に生産量が増加しているということでした。これらの企業は中小企業が多いのですが,近年国産の生産設備が大型化し生産能力が向上したことが大きいようです。2004年段階で木質材料の年間生産総量は5_446万m3ということですが,さらに伸びることが予想され,この動向には注目すべきだと思われました。

 続いてコーディネーターを含めたパネルディスカッションが行われました。主な意見として,「木材利用はトータルで見て最も効率よく高機能を付加できる使い方をするべき」,「欧州ではバイオマス利用には丸太は使わず枝条を使っている」という話がありました。

 木質資源は二酸化炭素固定の面からも無駄なく効率的に利用するべきで,そのためには特に間伐材に集材コストに見合うだけの付加価値を付けること,つまりは新しい商品開発が重要になってきます。また,木材の利用に関しては,エネルギーコストを考えたLCA(ライフサイクルアセスメント)の手法も取り入れて総合的に検討することが必要となってきています。いずれも林産試験場では積極的に取り組んでいるところです。

 二つ目のセッションは「森林保全・再生~アジアにおけるモデルフォレストの展開方策~」と題して,2名からの発表がありました。

 緑の地球ネットワーク事務局長の高橋邦雄氏の話題はNPOとして中国で長年行ってきた植林活動についてのもので,現地の環境破壊と貧困の悪循環から,菌根菌を使った育苗技術と住民の意識改革という地道な活動を10年続けて,ようやく植生が回復してきたという報告でした。植生が無くなってしまった土地からの森林再生の難しさを痛感させられ,持続的な森林整備の重要性を思いました。

 続くパネルディスカッションでは環境税の導入についての議論が交わされ,現在37の県で検討されているということでした。


 現地見学会


 2日目は現地見学会として,北山スギ林分の見学と,京都大学構内に試験施工されている新しい建築工法の見学を行いました。



写真2 台杉の林分(京都市北山)

 訪れた北山スギの現場は,市街地から細い山道を1時間ほど行った所で,想像していたよりも近い場所にありました。一つの株から複数の樹幹を萌芽させて独特の細く長い材を仕立てる台杉の林分(写真2)と,非常に密に植栽し通直で無節な材とするため手をかけて作る磨き丸太生産の林分は,今まで頭にあった林業とは大分異なるものでした。

 京都大学構内に移動し,京都大学と民間企業とが共同で開発したj-pod建築モデル施設(写真3_4)を見学しました。j-podは間伐材の板材またはLVLを用い,それらを鋼板で挟み込んで接合することで部材を矩形(くけい)に構成したリブフレームを45cmピッチで並べ,鋼製のコーナーアングルとボルトで結合して作る構造です。耐震性の高さを一番のアピールポイントとしていました。また,単純な構造であるので熟練の技術といったものが不要で施工性が良いということでした。1ユニットは6畳間サイズですが,いくらでもユニットを増設して大きな構造物にできるので住宅にも使用できるようです。高耐震性・間伐材利用・簡易なシステムという点はこれからの住宅建築に求められる仕様であると思いますが,それだけではなく,二面に広い開口部を取れるというのが特に魅力的な点に感じました。また,解体する際にも建築と逆のプロセスで簡単に解体でき,部材の再利用がしやすいのもとても現代的なシステムといえそうです。



左:写真3 j-podユニット実験モデル外観(京都大学構内)
右:写真4 j-pod内部構造

 技術というものは日々進化していくものですが,一方で従来の構法の良さもあります。これらがうまく共存して日本の住宅建築が発展していけば,そして木材需要が高まっていけばと考える次第です。


 おわりに


 以上,今回参加した二日間のフォーラムで議論された,各地での森林環境の保全と木材利用への取り組みの現状について紹介しました。もちろん,土地が違えば環境も状況も違いますし,そのまま同じことがどこでもできるかというとそうではありません。しかし,他の地域での取組から学ぶこと,活かされることも多く,積極的にこういった議論がされる場を設けることが林業林産業の活性化には大事なのだと感じました。



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