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林産試だより2007年3月号 森林バイオマスの有効活用-森林資源の活用にかかる研究の将来方向と展開-

 

森林バイオマスの有効活用
-森林資源の活用にかかる研究の将来方向と展開-

北海道大学大学院農学研究院教授 寺沢 実



 本稿は,平成18年12月,林産試験場職員に対してご講演いただいた内容の一部を取りまとめたものです。



 はじめに





写真1 森林資源には色々な可能性がある

 これまでの林業・森林資源利用において,重要なのは「材」でした。製材に回される部分が最も重要だったわけで,樹木は通直で大径木であることが求められました。市場に回って少しでも高く売るには,傷も汚れもない素性のよい材である必要がありました。人工林では,植栽から主伐に至るまで育成に手間と時間を要します。密度調節のために伐られる間伐木もそれなりの市場価値が求められます。しかし,日本の林業の現状では,材価の低迷などで,こうした従来型の林業を組み立てて経営していくことは相当困難なものになっています。息の長い本格林業生産の継続のためには,森林から何らかの方法で毎年収入を確保することを考える必要があります。

 今日は,これまで私が研究してきた森林バイオマスあるいは木質バイオマスの有効活用法の一端を述べるなかで,新しい林業・森林資源利用の可能性について考えていくこととします。


 これまでの林業の考え方,新しい林業の考え方




写真2 より多くの資源の有効活用が
期待されるカラマツ人工林

 繰り返しになりますが,これまでの林業の考え方は,材にだけ価値があって,枝や葉,下床のササは不要である,というものでした。カラマツ(写真2)などは植えて30年もすると価値ある材が採れると教わってきたものですが,現状は30年ではもうからない,もうちょっと伐らずに置いておこう,ということになっています。間伐など撫育(ぶいく)にお金がかかるし,モノになるには数十年も必要なんだと再認識するようになっています。もうからないから,山に人がいなくなってしまった,というのが現状です。

 ではどうするか。新しい林業の考え方を示そうとしたとき,材に一義的な価値を見い出さざるを得ないところですが,樹木が生きているときの生活組織にも着目する必要がありそうです。不要としてきた枝葉にも価値を見い出し,毎年収入があるものに変えていってはどうでしょうか。材から有用成分を抽出するなど,間伐木にも利用上の付加価値を持たせる必要があります。撫育に時間とコストがかかるというマイナス面に対しては,たっぷりと時間があるのだからその分サイドビジネスのチャンスがあるのだ,と発想を転換することです。

 山村に人がいないのであれば森林を都会の人に開放する手だてを考えたらよいと思います。これからの林業というものは様々な業種の人との共同作業が必要となり,都会の人との交流なしには成りたたないと思うのです。山から情報を発信し続けることにより,それを受ける都会人から様々な反応を得ることになります。従来の林業のあり方を少し考え直さなくてはいけないのです。

 農耕地が放棄されているといった問題については,農政,林政学の人に対して次のように提言しています。つまり林業政策,農業政策において平地林の復権を主張しようというものです。日本の森林といえば傾斜地にあるものというイメージがありますが,かつて樹木は平地にあったものであり,それを切り拓いて農地にしてきたのです。たとえ補助金が入ったところでも,本来の利用ができないのならば,必要なときには農地に戻す,という約束のもと林にする,つまり,“農用地備蓄林”ということで林を作らせてもらいたいという主張です。耕作放棄地を農用地として置いておくことがどうしても必要なのでしょうか。林地にすることで土は肥沃となり雑草のタネは消失します。いらなくなったらそれを放置せず有効に利用せよ,と強く主張したいと思います。


 これまでの林産業の考え方,新しい林産業の考え方


 これまでの林産業ですが,板を挽(ひ)くにも合板用に剥(む)くにしても,太くて通直な丸太が必要とされてきました。集成材を作るにしても優良な広葉樹が必要とされました。パーティクルボード,ファイバーボードを研究する際にも,日本の高温多湿な風土に,これらは適さない,と言われたりもしました。家具については重厚さを求めた時代もありましたが,これからはむしろ軽くて白い材がいいのではないかと言われもします。紙パルプについてはクラフト法一本やりです。国産材を使っていたのでは全然もうけられないということで,外国で植林し7年ほど育てたものを伐って日本に持ってくることも普通に行われるようになりました。このようなことが現在の日本の林産業のありようです。

 ここで,森林バイオマスなどの新たな森林資源利用テーマを見てみます。

木質ペレット:石油資源に代わる新しいエネルギー材料として地球環境に優しい木質ペレットが注目されています。樹種や材の形質を選ばず植林により原料の継続的な供給が約束されるので有望な材料と見込まれます。ペレットを普及させるには,効率よく燃やすストーブの開発が必要なことは言うに及ばず,ペレッターという製造機械の開発・改良が必要となり,誰がどのように使うのかといったマーケティング研究なしにはうまくはいかないことになりそうです。

バイオエタノール:木質資源からエタノールを作ることもバイオマス部門で手がけられています。セルロースを加水分解して発酵,蒸留させエタノールを作ることができます。このバイオエタノールをガソリンに添加して自動車燃料としたり,エチレンに変換して石油製品に代わるものを生み出すことができます。木質を原料に使う場合,最終的に残るリグニンの利用をどうするのか,といったことが重要な研究課題となります。エタノール製造の原料として用いるバイオマスは,木質セルロースがよいのかあるいはデンプンがよいのかといった競合も生じているところです。選択を誤ると悔いを残します。

エネルギー:木質資源の熱分解・ガス化でエネルギーや電力を得ることも有効ですが,このための新しい触媒の選択や,水素の利用法が課題となっています。発電についてみると,現行の電力会社の生産する能力以上のものをバイオマスから得ようとするには無理があります。しかし,電力素材を現在の石油,石炭,原子力利用から様々なものに多様化しようという機運の中で,木質バイオマスがその一翼を担う素材であることは確かなところです。

キノコ:キノコ生産に関しては,食育や健康が生活テーマとしてクローズアップされる現状では,品種改良による増収,食味の向上,特定保健用食品としての機能性の解明といったことが,重要課題になってきています。

炭化:炭化に関しては,炭が様々な環境の浄化に使われるほか,木酢液が農業の殺虫などのために使われています。しかし,効用については未解明な部分も多く,機能性の解明といった基礎研究が必要となっています。

オガ屑(くず)の利用:オガ屑については,生理活性成分を抽出した残りのバイオマス廃棄物を資源化することで循環用のマトリックス(母体)として,また,敷きわら代替物として利用し,最後に燃料エネルギーとして使うなど,カスケードに利用していく発想が必要です。

 以上の新しい森林資源利用について,具体例を示しながらその研究上の課題などを考えてみたいと思います。


 次世代の固形燃料として期待させる木質ペレット


 地球温暖化対策としての二酸化炭素の削減が世界的な課題となり,再生産可能な木材を使ったペレット(写真3)燃料を灯油に代えて使用することに道民理解が深まりつつあります。昨今の石油価格の高騰に対する消費不安が木質ペレットに真剣に目を向けさせる要因にもなっています。



写真3 次世代固形燃料として期待される木質ペレット


 木質ペレットを次世代固形燃料と位置づけて,穂別苫小牧森林組合が,国,鵡川町の助成を受け製造工場を整備し,1kg当たり45円と32円の2種類のペレットを作り始めたことが報道されています。平成18年度は10t(トン)32万円,20年度は250t800万円,22年度は375t1_200万円の生産を目標にしています。6人の従業員の賃金や減価償却費等を考えると,まだまだ増産し売り上げを増やさなければなりません。利用者の拡大がどうしても必要になっています。そういう意味では,林産試験場が取り組んでいる,使い勝手の良いストーブの開発やカロリーアップのための研究などが重要です。


 バイオエタノールは木質資源から


 バイオマスから作られるバイオエタノールは,エチレンの合成に利用されたり,ガソリンへ添加して使われます。量的には石油製品にとって代わるとまではいかなくても補間エネルギーとして大いに期待されるものです。

 エタノールを得るためのセルロースの加水分解には,これまで硫酸法を用いてきました。しかし,硫酸を回収処理するには相当な困難を伴います。今は,セルラーゼを使った新しい方法が開発されました。木質材料のリグニンを担子菌で生分解して前処理しておき,それをセルラーゼで加水分解処理する方法です。発酵のための酵母の改良をしなければなりませんが,一連の過程の中で硫酸を使う必要がありません。

 木質バイオマスからのエタノール生成の問題点としては,まずリグニンの利用が挙げられます。紙パルプ業界ではリグニンを燃やしてエネルギーを回収することで経営が成り立っています。加水分解工業においても,発酵や蒸留の際に多くのエネルギーを必要とするので,そのエネルギーにリグニンを使うことができれば経費の節減につながるかもしれません。そして加水分解に硫酸法を採用するにしても,硫酸の回収処理に技術革新が進んでいますし,硫酸の入ったリグニンを燃やしても耐えうる焼却炉も開発されたところです。このようにエタノールづくりにおいて木質バイオマス利用の技術的条件が整えば,デンプンを材料としたエタノールが世界を席捲(せっけん)しているなか,加水分解工業界も木質バイオマスに目を向けてくれるものと思います。


 炭・活性炭・木酢液などの有効利用


 なじみ深い木炭ですが,現在ではレクリエーションを中心に利用が進んでおり,簡易炉や金網,焚きつけのセット販売が好調と言われます。炭化の過程で生成される木酢液は花き園芸,農作業,薬用に使われ,木タールは電磁波シールド材としての新たな利用がされています。

 活性炭は,上水,家庭雑排水,河川・湖沼などの水の浄化に使われるほか,農業用等の土壌改良材としても使われ,さらに家屋の土台部や天井部に敷いて室内空気の浄化に利用されています。また,畜舎空気の浄化など家畜の健康管理のためにも活性炭が利用され始めています。


 炭のガス化・水素ガスの活用


 木質材料のガス化を考える場合,二つに分けて考える必要があります。(1)炭化する際に生成する混合ガスの生成と,(2)高温下での炭や炭化水素と水との反応による水素ガスの生成です。これらは(1)と(2)とを一緒に連続して行う方法(A)と,(1)と(2)とを別々に行う方法(B)とに分けられます。(2)の反応は,活性炭を作るときの状況をイメージして下さい。活性炭の細孔になった部分は,炭が水と反応してガス化して消えたものですが,ここで言うガス化とは,炭を残さず全部をガスに変換することを言います。

 (2)の水素ガス生成のメカニズムを少し詳しく見ますと,熱分解時に生成されるハイドロカーボンと水とが反応することによる水素の発生(A法),炭と水との反応での水素ガスと一酸化炭素の発生,一酸化炭素と水との反応による水素の発生(A,B法)とがあります。

 A法についての研究では,系内を950℃まで熱した状態であれば,触媒なしでも,一酸化炭素やメタンガスなど各種生成ガス全体量に占める水素ガスの組成比を38.8%まで高めることができ,このときの水素生成量は,1kgの木材に対して1.3m3となります。なお,触媒として塩化ニッケルを用いることで水素ガスの組成比を52.0%まで上げることができ,しかも温度を950℃から750℃まで下げることが可能であると報告されています。そのとき水素の生成量は1.3m3から0.25m3へと大きく減少することになりますが,水素組成比52.0%という高い数値を生み出すということに意義を見い出しています。融解酸化塩型の燃料電池には50%以上の水素組成比が必要ですが,塩化ニッケル触媒を使うことによって可能性を提示したわけです。

 燃料電池の開発にはさらなる研究が必要だと思います。B法では,水素ガスを主体としたガスを生成させることが可能です。水素ガスを分離精製し,主材料とする業態をこれから考えていく必要があり,電池の固形燃料化に向けての開発が進んでいます。


 オガ屑利用によるバイオマス廃棄物の資源化と環境循環


 オガ屑を使って,生ごみ,し尿,家畜糞尿(ふんにょう)などを,臭いを出さずに処理し,最終的には資源化して環境循環させる技術についてお話します。すなわち,臭いを発生させずに有機物を水と二酸化炭素に変換して消してしまう,そして残りをコンポスト(堆肥)にしよう,というものです。


 ○バイオトイレで水環境の保全

 オガ屑は多孔質で粒径の変化がそれほど大きくないことから常にふかふかした状態にあります。水分の保持機能も驚くほど高いものです。し尿の90%以上は水分です。し尿をオガ屑に加えて静かに攪拌(かくはん)すると,し尿中の水分はオガ屑中に広がり,もはや液体としての状態では存在せず,し尿中の固形分はオガ屑の粒子表面に付着した状態となり,空気に触れる状況が生まれます。このような状況下の有機物は好気性のバクテリアによって分解され無臭の炭酸ガスになり,嫌気性の腐敗菌は繁殖できずに尿素の分解によるアンモニア(臭いの素)の生成が大幅に抑制されます。し尿の水分は蒸発して消え,微少のミネラル分とフミン質が残ります。


写真4 正和電工社内に設置されているバイオトイレ
発酵槽の撹拌状況(写真:正和電工(株)提供)

 オガ屑を担体として使うバイオトイレ(写真4)は,水の使用を必要としないことが大きな特色です。もともと水っぽいし尿をその何十倍もの水道水で下水処理場に運搬する水洗トイレは,水資源が不足気味な昨今では再考の余地があります。地球規模での水資源の保全を考えるとき,水を使わないトイレ(ドライトイレ)は時代の要請でもあります。また,人間のいろいろな活動場所,地震などの災害現場,人の非難場所など,水洗トイレが使えなくなったところに設置すれば絶大な効果を発揮します。人間活動によって必ず排出されるし尿の処理を,再生産のできる森林資源が担うことになるのです。

 以前は,家畜糞尿が野積みにされ,冬期間凍結していたものが雪解けとともに川に流れ出るようなことも起こっていました。畜産ではこの糞尿のほか,廃鶏,廃卵,家畜解体残渣(ざんさ)などの処理が大きな問題になっています。これらをし尿同様,オガ屑を利用することで臭気の発生なしに処理することができるのです。

 バイオトイレについては,分解槽自体は購入しなければなりませんが,トイレ空間は間伐材など好みの木質材料を使って好きな形に設計できます。つまり安くて丈夫な資材を使ったり解体可能なものを使って部分部分を組み立てるなど,いろいろと工夫できます。また,セカンドハウスの売買などにおいてバイオトイレの設置は,居住性を高め環境保全上のアピール度も高いことから,ビジネスチャンスの広がりも見せています。本州の業者ですが,ログハウスにバイオトイレを付けることで,ログハウス自体の価格をもとの2倍3倍に設定できたケースもあるほどです。

 使用済みのオガ屑をどうするかといえば,生ごみを処理した場合,キノコ栽培用の菌床に利用ができますし,生ごみ,し尿,家畜糞尿の処理物全部が植林用ポット,農業用ボードなどに使えます。農業用ボードではリン,カリ,塩化ナトリウムがいっぱい入ったミネラルボードとなります。また難燃ボード,肥料用ペレット,梱包材ともなります。梱包材にして物資を海外に送り込んだあと,現地で解体のうえ肥料化して現地の農民に貢献することも可能で,様々な広がりが生まれます。


 ○ホタテウロのカドミウムを効率処理

 林産試験場での研究に,コンクリート漁礁にチップや木粉を混ぜ込む,という先行的研究があります。この技術を応用して,漁業関係者が苦慮していたホタテウロのカドミウム処理を行いました。オガ屑を用いた大型の生ごみ処理機内でウロ中の有機物を無臭のうちに消滅処理し,オガ屑の中にカドミウムを蓄積させます。そしてカドミウムを含むオガ屑を固化し漁礁のコンクリートに混ぜ込みます。海中では,漁礁の表面から少々のカドミウムが出ることはあっても,ほとんどはコンクリートに閉じ込められたままです。時間の経過とともにコンクリートが崩れて徐々にカドミウムが溶出します。しかし,カドミウムはもともと海水中に存在したのです。もとの海に徐放させ循環させるとの発想です。海に投入した当初はコンクリート漁礁中に99%のカドミウムがとどまります。漁礁があることでそれに昆布が着き,それを食うウニが増え,小魚が集まり,それを狙う大型魚が増えます。

 このように近海の再生にも森林資源が役に立ち得るわけです。森林を林産業の資源としてのみとらえるのではなく,他の産業との関連で考えればまだまだ色々なビジネスチャンスが生まれるはずです。木質資源を使ったコンクリート漁礁は,漁業者,コンクリート生産者,木材関係者など他分野の仕事の人間が関わり,海の環境改善を図ったものですが,この技術を応用することにより,カドミウム処理問題の解決といった漁業者の利益誘導にとどまらず,生ゴミ処理業,処理機製造業,コンクリート生産業などが連環して活性化し,また,オガ屑の利用によって間伐が促進されるなど,広範囲の経済効果が生まれるでしょう。


 ○油脂と鶏糞を同時処理

 オガ屑を使っての油脂と鶏糞の処理を研究中です。ラード,ヘッド,羊由来の油脂など,肉を処理したときに大量に出る固形油脂というものは,N(窒素)をほとんど含まないC(炭素),H(水素),O(酸素)だけの,炭素の多い有機物です。コンクリート床のオープン施設にあらかじめ鶏糞とオガ屑を1:3の割合で混ぜておいたものを積んでおき,そこに油脂を混合します。そうすると油脂は,水蒸気をあげて消えます。そして臭いも出しません。鶏糞のなかのNを使って,C/N比を10から20くらいに調整してやることでCを消すことができます。これにより97%の油脂を処理することが可能です。一方,鶏糞の処理も困難です。鶏糞はNの多い有機物で,鶏糞だけを処理しようとすると臭気発生の問題があり,技術的に難しい。しかし生ゴミなど他のC源を使って,C/N比を調節することで,オガ屑中で鶏糞の無臭処理が可能となるわけです。


 新たな木質バイオマスの活用法-生活組織の継続利用-


 樹木を材の原料としてのみとらえるのではなく,樹木が生きているうちに樹液,葉,小枝,樹皮などを採取して,これらを利用する方法があります。アロニア,クリ,クルミ,銀杏,松実などの果実の利用,キハダ,エゾウコギ,ハリギリなどの内樹皮の薬用成分の利用なども考えなければなりません。生活組織である葉や小枝や樹液を活用するとなると,対象木は必ずしも大径木である必要はなく,また通直である必要もありません。生きていて,光合成作用を行っていれば,アテ材を形成した曲がった樹木でも良いのです。そのような樹木からも毎年価値を生み出すことができます。

 抗癌(がん),抗ウィルス,抗高血糖など多岐にわたる効能を持つといわれるカバノアナタケ(ロシア名チャーガ)も生きたカンバ類にしか生育しない担子菌で,その菌核は高価な取引商品となっています。日本では天然物はほとんど採り尽くされた感があり,現在では,サハリンやシベリアから入ってきています。当面は輸入物に頼るとしても,やはり安心安全から国産が求められており,液体人工培養やカンバ類にカバノアナタケ菌を人工接種して増殖可能かどうかの基礎研究を進めているところです。

 また,スリランカには,血糖値を低下させるコタラヒムブツというニシキギ科つる性樹木の特産品があります。根に有効成分があると言われており,それこそ根こそぎ採取されたために資源量が減って危機的な状況にあります。そこで根のみでなく葉の含有成分を研究してみると,根に劣らないだけの成分が含まれていることが分かりました。関係者には,生活組織である葉を対象にして有効成分を取り資源を保全することを提言しています。

 樹皮の利用としては,シラカンバ(写真5)のベチュリンやキハダのベルベリンなどが挙げられます。このうちベチュリンは,シラカンバ外樹皮の白い部分に含まれる成分で,将来的に高価なエイズ特効薬として「大化け」する可能性がある注目株です。



写真5 シラカンバは,樹液,樹皮,キシランと様々な利用が考えられる


 材部の利用では,シラカンバの材中から抽出されるキシランは,キシリトールの原料になりますし,松材のグルコマンナンは,マンノースが多くの糖タンパクのベースを作る糖ということで注目度の高いものとなっています。またカラマツでは,材中のタキシホリンは抗酸化物質ということでいろいろな使いみちがあり,ヘミセルロース由来のアラビノガラクタンの利用もあります。そして,これらを抽出した後のオガ屑残渣は,生ごみ,し尿,家畜糞尿の処理のための担体として使えますので,捨てるところはないのです。

 外国産材にしても,フィリピン,マレーシア,インドネシアなどの熱帯材の多くには生理活性成分が含まれるので,これを利用しない手はありません。利用した後のオガ屑はやはり生ゴミ処理に使うことが可能です。


 おわりに-木質バイオマス活用法のまとめ-


 林業だけ,あるいは林産業だけで木質バイオマス利用を継続させようとするのは,現状では相当難しいと言わざるを得ません。今後は,例えば「環境」をキーワードにして,いろいろな業種と共同作業を行う,といった観点から木質バイオマスの利用を図る必要があります。すなわち,林業,農業,畜産業,水産業,食品産業,土建業,加工業,エネルギー産業,観光業などと組んだ場合,いったいどのような環境事業が展開させられるか,といった発想を持つことが大切です。こうした姿勢を保つことが,森林バイオマスの新しい使い方を生み出すことにつながるのだと思います。

 また,輸入材に頼っていた林産業でしたが,国産材を有効活用すべく新しい付加価値を求めていかなければなりません。そして,そのとき念頭に置くべきキーワードの一つは「水環境の保全」であると言えます。水環境の保全は地球レベルで緊急かつ永遠のテーマであって,日本の経済力・技術力をして世界をリードしてゆく姿勢が問われるところです。

 酪農,畜産の盛んな北海道ゆえの課題もあります。北海道に人を呼び込もうというグリーンツーリズムについてですが,悪臭を放つ酪農の現場にはなかなか人は寄り付きません。良い季節,臭いのない良い場所にだけ来てもらうのではなく,北海道に本気で人を呼び込むには,人がいつ来ても困らないような環境を北海道中に作ってやらなければいけません。臭いを出さずに家畜糞尿を資源化処理する循環システム,これを早く確立させる必要があります。森林バイオマス-オガ屑-をうまく利用することで,実現可能です。

 さらには,高齢化社会に向かい,森林バイオマスの利用については,健康,長寿,幸福,感謝,博愛,奉仕,生きがいなど,いろいろなことに思いを巡らすことが大切です。そして感動をもって生活してもらうための用途を考えることが肝心です。

 以上のように,多方面にアンテナを張りつつ新たな木質バイオマス利用を考えていくことにより,種々の分野に着目するべき活用点が見つけられる気がしています。結果として,新たな産業クラスターが出来上がっていくことでしょう。

 林業は息の長い生業です。孫子の代へと引き継ぐ健全林の育成,環境保全への貢献なども重要事項でありますが,主伐に至るまでの間にも,何らかの方策により収益を上げることを真剣に考えないといけません。また,他産業との協調も必要です。これまで述べた事項が林業活性化の一助になることを念じています。




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