●特集『産学官連携による開発研究の進め方』

競争的研究資金を活用する開発研究の進め方

企画指導部 企画課 斎藤 直人



 技術開発,製品開発等の開発研究は,どのように進めると良いのでしょうか。


 開発研究のダイヤモンド


 ダイヤモンドは,星くずほどある石ころの中から見つけた原石を,丹精にカットして磨き上げることで初めて美しく輝きます。ダイヤモンドは見つけることも大変ですが,原石はそのままでは単なる鉱物でしかなく,宝石にするためには幾段もの丁寧なステップを踏まなければなりません。

 新技術・新製品もアイデアだけでは,人の目に触れて使われたり,評価されて喜ばれたりすることはありません。原石が高い技術の職人によって精巧に磨き上げられるように,アイデアも多くの人の手を経て,途中で方向転換するなどしながら練り上げられ,画期的な成果となって光が当たることになります。新しいアイデアを輝くダイヤモンドとするため,情報の収集,調査・研究,研究者たちの活発な意見交換,試行錯誤を繰り返すことで,より良い技術・装置・製品が見えてきます。

イラスト1 ダイヤモンド


 すべてをひとりでしようとしても,ダイヤモンドは磨きあがりません。カットは経験豊富で技術の高い職人に任せることです。どのようなカットにするかはマーケットを反映させるデザイナーの意見を聞くことですし,宝石とするためのパッケージや台座も含めたコーディネータも必要になります。仕事は分担して,各々がしっかりこなすことで,より良いものになります。

 開発研究にも同じことが言えます。目標に到達するためには,人,道具,資金,さらに場所,時をうまく使う必要があります。
 完璧な体制・環境でなければ開発研究が進まないというものではありません。連携を強固に,フィールドを活かし,タイミングを見計ることで,不足したものを補うことも可能となります。その環境作りの良い手段が,共同研究です。

 林産試験場は,木材や森林バイオマスにかかる課題を整理し,実用レベルでの解決に向けて,技術の向上,機能性の付与,新製品の開発等に取り組んでいます。一方,企業等の皆様は,エンドユーザーの様々な要望を吸収しうる技術・知識,ネットワーク,ノウハウ等に加えて多数の顧客を抱えています。両者が,互いの特長を活かし,分担しながら技術開発,製品開発を行うのが共同研究です。

 平成18年度,林産試験場は21課題の共同研究に取り組んできました。目的,内容は千差万別です。「誰に,どんな目的で,どんな性能を,いくらで」によってゴールは異なります。また研究の内容が,原理の究明なのか,装置の開発なのか,製造工程のスピード・効率改善なのか・・・,基礎,実用化,事業化のどの段階にあるかで大きく異なります。


 開発研究の段階


 技術開発,製品開発等の進め方を「開発研究の10段階」に分けて考えてみます。キーワードで表現すると以下のようになります。0:ひらめき,1:裏付けづくり,2-3:基礎づくり,4-5:柱づくり,6-8:実用化,9-10:事業化
 (なお,数字に幅があるのは,期間や過程数を考慮したためです)。
 この階段は,普通の階段と違って,上段のないことも多いのです。しかも,上段に上がって転落することも多いので,しっかり踏み固めないと痛手は大きくなります。下の段での見極めが重要な階段です。


表  開発研究の10段階(トマト)


0:「ひらめき」の実現は,すべてが開発研究の対象ではありません。

 イメージを膨らませ,絵コンテ(イメージの下書き)等にするところまでは,研究よりも前の段階と言えます。ニーズを踏まえて,予備調査や予備試験,研究者の経験や勘も合わせて整理します。すべてのひらめきを深く掘り下げることは,ダイヤモンドではないものまで磨くことになります。ダイヤモンドの原石なのかどうかを見極めるべきです。
 この過程を経て,いよいよ究める「開発研究」に移ります。

 なお,ここからはダイヤモンドよりも段階をイメージしやすい「トマトの栽培」で例えます。

1:「裏付け」

 「絵コンテ」に関するデータを収集・作成・解析し,裏付けをつくるのが最初の段階です。ゴールはまだ定かではなく,実現の可能性も千分の一,万分の一以下ですので,時間を効率的に使うことが重要になります。トマトの良い種をしっかり選ぶことです。

種

2-3:「基礎づくり」

 ようやく開く「芽,双葉」の段階です。否定は控えめにして,従来技術と比較したり,適用させたり,課題を整理しながら,アイデアの実現に向けた礎(いしずえ)をつくります。基本特許の獲得も,この段階で行うことになります。なお,この段階の前半は大学が,後半は林産試験場が,それぞれ中心的な役割を担います。

双葉

4-5:「柱づくり」

 本葉を付ける段階です。ターゲットを絞り込み,強固な技術を体系化する段階です。林産試験場が主となり技術特許の獲得や試作品の作成を行う段階ですが,企業の役割も除々に大きくなります。ターゲットとなる分野に,技術や知識を有する企業がそのノウハウを活かして絞り込みます。トマトをしっかり成長させる芯(苗)をつくる段階です。

苗

6-8:「実用化」

 各工程の安定化,スピード化,コスト改善など,市場を見据えて,技術の確立,実用装置の開発等を行うのが6-8段階です。おいしいトマトの花を付ける段階です。  これ以降はリスクが少ないものの,経費は大きくなりがちです。そのため不安定要因によってもたらされるリスクは無視できるものではありません。より良い研究環境をつくるために研究費助成事業等(後述します)をうまく取り込む必要があります。そのため,企業等の方々が主となる段階ですが,技術やノウハウの受け渡し,認識や目的の共通化など林産試験場との連携が重要です。

花

9-10「事業化」

 最終段階は,実生産を想定した技術,製品等のシステム形成です。周辺技術の整備など,事業化を目指した整理,大きな実とする段階です。

実

 トマトは小学生の教材として栽培されるように,比較的育てることの簡単な園芸植物です。しかし,開発研究というトマトは,芽は小さく,本葉がでても害虫,病気,天候などに対して万全を期さなければ,すぐ萎(しお)れたり枯れたりするので,丁寧に育てなければなりません。小さな種は,それぞれの段階に応じた環境(人,道具,資金)を与えることで,大きく花開くことが可能になります。


 研究費助成事業 (補助金・助成金)


 さて,研究資金の確保はどうすればよいのでしょうか。

 日本は技術立国を目ざし,今後50年間にノーベル賞の受賞者30人を生み出す目標を掲げています。すでに2001年から5年間だけでも国内総生産の1%に相当する24兆円の研究開発費を投じています。そして,共同研究を後押しする政府全体の競争的研究資金は約4_700億円もあります。

 研究資金といっても,目的,規模,内容は様々です。知的資産の増大,経済的効果,社会的効果に大きく寄与する「生命科学」「情報通信」「環境」「ナノテクノロジー・材料」の4分野に重点が置かれて配分されており,木材産業も「エネルギー」「製造技術」「社会基盤」「フロンティア」の4分野で対象となっています。ぜひ,これらの研究資金を活用したいものです。

 採択条件は,研究の独創性・新規性,企業の期待(市場性)があり,目的を達成する研究計画・方法が適正であることです。また,イノベーションにつながる,国際競争力を高める,社会ニーズに応えるなどを目的としたものです。

 産学官が協力・連携して,事業主旨に合致する,明確で,わかりやすい開発研究を提案することが重要です。

 ここで,開発研究の段階に応じた助成事業を紹介します。なお,内容や規模は,毎年変更されるので,詳細をホームページ等で確認することが必要です。

段階に応じた研究費助成事業


 役割分担


 開発研究をより良いものにするためには,機関の連携が不可欠です。最近,耳にする言葉に「産学官連携」があります。これは,企業,大学,公設研究機関が各々の専門を活かして分担し研究するものです。すなわち,大学等の基礎研究の成果を活用,応用し,公設研究機関が試験や適用化を繰り返し,企業は実用化・商品化を担うのが一般的です。事業化に近づくほど企業の分担が重要になりますが,補いあって,ときには切磋琢磨(せっさたくま)(競争)する研究体制が,確実な成果をもたらすようです。

 あれもこれも目指す研究は,往々にしてゴールは小さく散在しがちです。そうならないよう,進捗(しんちょく)に応じた体制,環境の充実に向けて競争的研究資金の活用を図ることです。そして,大学,公設研究機関,企業は,バトンの受け渡しをスムーズにし階段を上がるように分担,連携することです。


 今後の研究候補


 次のページからの記事では,林産試験場において既にトマトの双葉となっており,今後,さらに上の段階を目指そうとしている課題を2つ紹介します。




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