本文へ移動
林産試だより2007年7月号 特集「木質バイオエタノール」 木材からエネルギーを取り出す

●特集『木質バイオエタノール』

木材からエネルギーを取り出す

利用部 再生利用科 山崎 亨史



 はじめに


地球温暖化


 1997年に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3,京都会議)では,温室効果ガスの排出削減が議論され,そのときに採択された京都議定書が,2005年に発効となりました。この温室効果ガスの中で,最も発生量の多いのが二酸化炭素(CO2)です。このCO2の増加は,主に化石燃料をエネルギーとして利用していることに原因があり,化石燃料の使用量を減らすことが求められています。

 化石燃料に代わるエネルギー源として,バイオマス,中でも木材に対する期待が高まりつつあります。そこで,木材からエネルギーを取り出す方法についてご紹介します。


 バイオマスとしての木材


 化石燃料の使用量を減らすために,太陽光や風力などの再生可能エネルギーが注目されており,その一つにバイオマスも含まれます。バイオマスとは生物由来の資源で,石油などの化石資源を除く有機物のことです。バイオマスも燃料などとして利用する際に,CO2を発生しますが,発生したCO2は再び植物の働きで有機物に変換されることから,成長量と使用量のバランスが取れていれば,大気中のCO2を増加させることになりません。この考え方をカーボン(炭素)ニュートラル(中立)と呼んでいます。

 このバイオマスの中で,その資源背景(賦存(ふぞん)量)から最も注目されているのが木材です。木材は古くから薪炭としてエネルギーに利用され,その主役を担っていました。しかし,時代の変遷とともにエネルギーの主役は木材から,石炭,石油へと移ってきました。これは,20世紀の大量生産,大量消費が求められた時代背景において,コストが優先されるようになり,手間のかかる木材は敬遠されるようになったのでしょう。しかしながら,木材がエネルギー資源であるという事実は今も昔も変わりありません。


 木材は何からできているか


 表1に平均的な木材の元素組成を示します。重量割合において最も多く含まれるのが炭素で,木材の重さのほぼ半分を占めています。すなわち,木材は重さの半分を炭素として固定しているといえます。ですから,CO2の削減のためにエネルギーとして利用することも重要ですが,それ以前に木材をふんだんに,長い間,木材製品として使うということも,炭素の固定,CO2の削減の意味で重要なことです。


 元素の割合で見ると,木材は炭素(C),水素(H),酸素(O)の3種類の元素が99%以上を占めています。これらの割合は,C:H:O=1.5:2.1:1.01)として表すことができます。

 一方,これらの元素がどのような成分として存在しているかですが,木材は,草本類を含めた高等植物同様,植物体の骨格をなすセルロース,ヘミセルロース,リグニン(3大主要成分)で構成されています。木材におけるこれらの成分の含有量は,セルロースが約50%,ヘミセルロースが20~30%,リグニンは30~20%,そのほかに抽出成分や無機成分などが0.5~5%程度となっています。

 セルロースはグルコース(ブドウ糖)が直線状に長く連なった多糖類です。ヘミセルロースも多糖類ですが,グルコースやマンノースなどの6炭糖(ヘキソース,炭素6原子を持つ)とキシロースやアラビーノースなどの5炭糖(ペントース,炭素5原子を持つ)が複数結合したもので,直線状ではなく,枝分かれしています。

 一方リグニンは,フェノール類であるフェニルプロパン骨格をもつ構成単位が複雑に結合した立体的な構造をしています。リグニンの構成単位は針葉樹,広葉樹,草本植物で異なっています。

 これらの成分で構成されている細胞壁の構造は,鉄筋コンクリートに例えられ,セルロースは鉄筋,リグニンはコンクリート,ヘミセルロースは鉄筋をとめる針金に当たります。鉄筋にあたるセルロースは,結晶化して束(ミクロフィブリル)となり,その周りをコンクリートにあたるリグニンが固め,ヘミセルロースは両者のつなぎ役のような働きをしています。このような構造を持ったものをリグノセルロース系材料とかリグノセルロース系バイオマスと呼び,その代表が木材です。


 直接,燃やす


林

 木材の一番単純なエネルギー利用は,直接燃焼させることです。古くから薪(まき)として使われてきました。木材のように灰分が少なく有機物が多いものは灰分の多いものと比べ,比較的高い水分でも自燃(そのものだけで燃やすことができる)させることができ,自燃限界の水分は70%程度2)です(含水率で表すと233%)。一方,樹木を伐採したばかりの生材の水分も,高いものでもほとんどが70%以下3)となっており,水分が多いと着火させるのは困難で,熱もほとんど発生しませんが,燃やすことは可能と思われます。さらに,他の水分の多いバイオマスと異なり,放置しても腐らずに乾燥が進むので,燃料として利用できるようになります。

 最近では,薪よりも扱いやすい木質ペレットやブリケットなどが普及しつつあります4)。産業用では,木屑(くず)炊きボイラーやペレットボイラーなどがあります。これらの中には,熱源として利用するだけではなく,蒸気タービンによる発電を組み込んだコジェネレーション(CHP)を行っているところもあります。

 ここで,木材がどれぐらいエネルギーを発生するかを考えてみます。木材が燃焼により発生するエネルギーは酸化熱で,CO2とH2Oを発生します。木材はCとHに加え,もともとOを持っています。そのOもCO2やH2Oとなるため,その分を差し引いた残りがエネルギーを発生すると考えることができます。それは,含まれるOがすべてH2Oに変換されたと仮定すると,ほぼCがCO2になる分です。ただし実際には,含まれる化合物の形態によって発生するエネルギー量は多少異なります。

 バイオマスの発熱量の推定は,HHV=C0×45.71 -2.70(MJ/kg)の計算式から求めることができます5)。ここで,HHVは高位発熱量,C0は炭素含有率を表しています。なお高位発熱量とは,総発熱量とも呼ばれ,発生した燃焼ガスに含まれる水(水蒸気)の潜熱(気化熱)も含めた値です。この式による推定値は,汚泥を固体化したバイオソリッドなどを除き実測値とほぼ一致すると紹介されています2)。なお,実際の木材は18.4~22.6MJ/kg2,6,7)(1kgあたり4_390~5_390kcal発熱する)の範囲にあります。


 熱分解による利用


 熱分解は,得るものの対象が,炭,ガス,液体によってそれぞれ炭化,ガス化,液化と呼ばれています。熱分解の方法としては,直接木材を燃焼させながら,空気(酸素)の量を減らすことで不完全燃焼を引き起こす直接法と,空気を遮断し,外から熱を加える間接法があります。一般的な炭焼きは前者です。間接法には,電熱式や燃焼熱利用のほか,マイクロ波で対象の内部から熱を発生させ,熱分解を起こさせる方法もあります。

 熱分解でガス化を目的とする場合,ガス化剤と呼ばれる気体が用いられます。ガス化剤には,空気(N2+O2),酸素,水蒸気,二酸化炭素などがあります。

 またこの他に,水熱熱分解があります。水熱状態とは,水に熱と圧力を加え,高温・高圧にすることで液体と気体の区別がつかなくなる状態,臨界点(373℃,22.1MPa:1cm2に226kgの圧力がかかった状態)を超える超臨界や,その一歩手前で反応性に富む亜臨界のことです。熱と圧力が加えられることにより,熱分解反応を水の中で起こすことができます。目的とする対象によって水熱液化,水熱ガス化と呼ばれます。

 ガス化によって得られるガスは,ガス化剤や温度などの条件によって割合は異なりますが,CO,CH4,H2の燃焼性ガスと,CO2,H2Oが混ざったものになります。逆に,液体燃料など化学合成を目的とするならば,用途から求められるガス成分構成となる条件でのガス化により合成ガス(化学原料となるガス)を得て,液体燃料などの合成に用いることになります。なお,合成ガスからの液体燃料や熱分解液化については,次の記事の「バイオマスからの液体燃料について」をご覧ください。


 製紙工業におけるエネルギー


 最後に,日本の製紙工業におけるバイオマス利用状況を紹介します。

 現在,日本の製紙工業では,木材を紙の原料となるパルプにする際,薬品を用いる化学パルプの一つであるクラフトパルプ法を用いることが主流となっています。このクラフトパルプ法では,チップと薬液を釜につめて蒸解することで,リグニンを蒸解液に溶出させて除去(脱リグニン)し,セルロースを主体とした繊維としてのパルプを得ています。パルプ化を終えた蒸解液には,リグニンやヘミセルロースが薬液に溶けた状態にあり,黒液と呼ばれています。この黒液は,薬品の回収のために,固形分50~80%程度まで濃縮された後,専用のボイラーで燃焼されます。このとき,含まれている有機物が,黒液を燃やすことになります。薬品の回収が目的ですが,同時に,発生した熱は,蒸気や電力に変換され利用されています。

 製紙産業では,エネルギー消費量の約31%を黒液の燃焼によってまかなっています8)。そして,日本におけるバイオマスの利用実態で見ると,実際に利用されている全てのバイオマスエネルギーにおいて,黒液は,原油換算による割合で48%(一部廃木材を含む,2002年度実績)程度あり9),バイオマスの中では最も利用が進んでいます。

 また,最近は黒液の利用のほかに,化石燃料に代えて,廃木材などを燃やすボイラーの導入も進められています。


 参考資料


1)右田伸彦ほか編:木材化学 上巻,共立出版(1968)
2)日本エネルギー学会編:バイオマスハンドブック,オーム社(2002)
3)宮島寛:木材を知る本(北方林業叢書第61集),北方林業会 (1992)
4)山田敦:木質系バイオマスのサーマルリサイクルに関する提言,林産試だより,2006年10月号
5)D.L. Klass:Biomass for Renewable Energy, Fuels and Chemicals,Academic Press(1998)
6)林業試験場編:木材工業ハンドブック 新版,丸善出版,p899 (1973)
7)J. G. Haygreen and J. L. Bowyer:Forest Products and Wood Science,3rd ed.,Iowa State University Press(1996)
8)日本製紙連合会ホームページ:https://www.jpa.gr.jp/
9)平成17年総合資源エネルギー調査会需給部会(2005)

前のページへ|次のページへ