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林産試だより2007年7月号 特集「木質バイオエタノール」 バイオエタノールとは

●特集『木質バイオエタノール』

バイオエタノールとは

利用部 再生利用科 山崎 亨史



 はじめに


 温室効果ガスである二酸化炭素CO2 の削減に向け,バイオマスエネルギーが注目されています。その一つとして,最近,バイオエタノールが注目されています。主にガソリンに添加して化石燃料の使用量を減らそうと,日本においても,まずは,体積で3%を加えたE3の普及を進めています。また,次の段階として10%を添加したE10も予定されています1)。なお,海外では既にE25が使われていたり,E85などが検討されていたりします。

 エタノールとは,いわゆるエチルアルコール(CH3CH2OH)のことです。そしてバイオエタノールは生物資源であるバイオマスを発酵させて得るエタノールで,別な言い方をすれば,アルコール度数の高い蒸留酒,焼酎のようなものです。エタノールの 生産方法としては発酵のほかに,合成があります。合成エタノールは,石油由来のエチレン(H2C=CH2)に水を加えて,触媒下で高温,高圧をかけて製造されます。

 合成エタノールの場合,水分をほとんど含んでいませんが,発酵エタノールは蒸留によって濃度を高めても水分が残るので,バイオエタノールとしてガソリンに添加するためには,蒸留後,フィルターなどを通すことで純度を99.5%以上に高める必要があります。

 発酵エタノールは通常,酵母菌がブドウ糖(グルコース:C6H12O6)や果糖(フルクトース)などの6炭糖(炭素元素を6個持つ糖)を栄養として,CO2 とともに代謝されたものです。焼酎などの酒類は発酵エタノールであり,バイオエタノールともいえるでしょう。そこで,バイオエタノールの製造方法や利用方法について,お酒を例にしながらお話します。


 砂糖などの糖を用いる


パン

 前述したように,酵母菌はブドウ糖や果糖をエネルギー(栄養)源として利用し,その際にエタノールとCO2を排出します。また,ブドウ糖1分子と果糖1分子が結合したショ糖,すなわち砂糖も利用できます。実際,パンづくりでは,小麦粉に砂糖を入れたうえでイースト(酵母)菌で発酵させ,酵母は砂糖からエタノールとCO2をつくり出し,このCO2がパンをふくらませています。なお,エタノールはパンを焼く際に蒸発してなくなっています。

ワイン

 糖分を発酵させたお酒の代表がワインです。ワインはぶどうに含まれる糖を発酵させたもので,シャンパンのように発酵時のCO2 をビンに残したスパークリングワインもあります。

 バイオエタノール原料として考えられている糖作物は,砂糖の原料でもある,沖縄などで栽培されているサトウキビと,北海道のビート(てん菜)があげられます。


 でん粉質からのお酒


 でん粉は複数のブドウ糖が結合したもので,人を含め多くの生物の栄養に使われています。人の場合は,唾液中の酵素,アミラーゼにより,でん粉を麦芽糖(マルトース,ブドウ糖2つが結合したもの)に,小腸で分泌されるマルターゼで麦芽糖をブドウ糖へと消化し,体内に取り込まれエネルギーとして利用されます。お酒の場合も,酵母はでん粉を利用できないため,でん粉を糖に変換(糖化)してから発酵に用いられます。でん粉質を使ったお酒で一般的なものに,ビールと日本酒があります。

ビール,日本酒


 ビールの原料は麦ですが,麦を発芽させた麦芽では,でん粉をエネルギーに利用するための酵素がつくられます。この酵素が働き,でん粉が糖化されることにより,酵母が使える糖となり,この糖から酵母はエタノールとCO2をつくり出します。

 一方,日本酒の場合は糖化のために麹(こうじ)を用います。麹は蒸した穀物にコウジカビを繁殖させたものであり,このコウジカビがでん粉をエネルギーに利用するための酵素をつくり出します。この酵素はでん粉を糖に変え,お米を使ったものは甘酒となります。なお,この甘酒にはアルコールは含まれていません。酵母を加えてアルコール発酵させることで,日本酒になります。


 草や木からはどうか?


 草や木などの植物の骨格をなすセルロースは,でん粉と同じブドウ糖が結合したもので,(C6H10O5)nで表されます。しかし,その結合は全く異なります(図1)。そのため,でん粉を分解する酵素では分解できません。



図1 デンプンとセルロースにおける結合の違い


 セルロースを分解する酵素はセルラーゼと呼ばれていますが,このセルラーゼを持つ生物は限られています。草食動物は草を食べ,そのセルロースを栄養に変えていますが,その草食動物であっても,自身がセルラーゼを持っているわけではなく,体内の微生物が草のセルロースを消化しているに過ぎません。

 また,その状態も,結晶化したセルロースの束をリグニンが取り囲んだリグノセルロースとして存在しているため,酵素も直接働きにくくなっています。草食動物が反すうで,何度も草をかみ砕く理由もこのことにあるのでしょう。

 木材は草に比べ,さらに分解されにくくなっています。これは草が短期間で分解され土に返っていくのに対し,木は数年経っても形が保たれていることと通じることです。

 このため,木材からのお酒は聞いたことがないと思います。とはいえ,過去には,製紙会社において,針葉樹を原料としたパルプ化法の一つであるサルファイトパルプ法が用いられていて,廃液に含まれる糖からエタノールを生産しており,日本のアルコール生産量(1956年)の29%を占めていた2)こともあるようです。しかし,石油からの合成アルコールの出現や,パルプ化の主流がクラフトパルプ法に替わったことで,糖を回収することもなくなり,エタノールの生産も現在は行われていません。

 以上のように,木材の成分はエタノールの原料となる糖を持ち合わせています。木材糖化については次の記事で紹介しますが,糖作物やでん粉より利用しにくいのも事実です。しかしながら,エネルギー用としてのエタノールを生産するに当たり,糖やでん粉は人の食料であることから,食料との競合のないリグノセルロースから生産すべきとの声も多く,技術開発が急がれます。

 なお最近は,リグノセルロース資源からのエタノール生産を目指し,グルコースなどの6炭糖だけではなく,ヘミセルロース由来の5炭糖も同時にエタノールに変換することのできる微生物が人工的につくられています。


 自動車燃料としての動向


ガソリンスタンド


 世界初の量産自動車は,開発当初,エタノール仕様のエンジンでした。しかし,燃料価格の面でガソリン仕様に変更され発売されました2)。ガソリンを燃料とするエンジンはエタノールでも動くようになっています。しかし,実際の自動車の燃料に使用する場合はどうでしょうか?

 エタノールは,ゴムなどから水分を奪うことで劣化を促進させる,あるいは,金属を腐食させるなどが考えられます。そのため,既販車はE3までの使用が可能とされています。ただし,最近開発された国産の普通車はE10まで対応しているようです。また,アメリカやブラジルでは,E85までであれば,どのような混合比にも対応できるフレックス燃料車(Flexible Fuel Vehicle)の導入が進んでいます。このように,自動車産業においても,バイオエタノールへの対応が進められています。

 なお,日本では現在,「揮発油等の品質の確保等に関する法律施行規則」によって,エタノールは3%(体積百分率)まで,次で紹介するETBEは7%までしか添加することができません。E10の実現には今後,法の改正を含めた対応も必要となります。


 エタノールの代わりとしてのETBE


 エタノールは,お酒が水割りなどのように飲まれていることでも分かるように,水と良く混ざり合います。これに対し,ガソリンと水は,「水と油」であり,当然,混ざり合いません。一方,精製されて水分をほとんど含んでいないエタノールは,ガソリンに混ざり合いますが,空気中の水蒸気がエタノールと結びつくことで,ガソリンと分離するおそれがあります。また,エタノール添加によって,ガソリンの揮発性が高まるため(共沸現象,混合により沸点が低くなる),大気汚染を懸念する声も上がっています。

 これらの問題の対策として,エタノールをそのまま添加するのではなく,ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)として添加する方法もE3の実現方法の一つとして検討されています。ETBE混合ガソリンは水分が混入した場合でも,ETBEがガソリンと分離することがないため,現在のガソリンの流通システムを変更する必要がありません。

 このETBE(CH3CH2OC(CH3)3)はエタノールとイソブチレン(CH2=C(CH3)2)を原料として合成されます。元々は合成エタノールを用いて合成されていたのですが,バイオエタノールを使用することで,その分はバイオエタノールと同様に,ガソリンに添加することができ,CO2の排出から除外されます。なお,ETBEのE3相当は,7%(体積百分率)添加です。

 日本の石油連盟はETBEの使用を推進しています。2007年4月27日から首都圏で販売を開始されたバイオガソリンは,経済産業省の補助事業として石油連盟が流通実証として販売しているもので,ETBEを配合したものです3)

 なお,このETBEも分離や共沸の問題がないという利点はありますが,毒性に関するデータが不十分であると敬遠している国もあり,日本でも今後,エタノールとETBEのどちらがよいか,議論されることでしょう。


 おわりに


 バイオエタノールは,ガソリンに添加して使用することで,化石燃料の使用量を減らす有効な手段と考えられます。しかし,その原料は食料や飼料と競合することから,海外の情勢で砂糖や輸入飼料の価格が上昇しています。日本はこれらの資源の多くを輸入に頼っており,より低価格が要求されるエネルギー用の原料を確保するのは難しい状況にあります。

 北海道では,とかち財団が中心となり規格外小麦やビート(てん菜)からのエタノールを検討しています。しかし,資源としては木材や,稲わらや豆がらなどの農産廃棄物に含まれるリグノセルロース系の資源が豊富に存在することから,これらを用いたエタノール製造技術の早期確立が期待されます。


 参考資料


1)環境省ホームページ
2)柴田和雄,木谷収編:バイオマス 生産と変換 上巻,学会出版センター(1981)
3)大聖泰弘,三井物産(株)編:図解バイオエタノール最前線,工業調査会(2004)
4)石油連盟ホームページ:http://www.paj.gr.jp/eco/biogasoline/index.html

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