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林産試だより2007年7月号 水産系廃棄物を利用した木材の耐朽性向上技術の開発

 

水産系廃棄物を利用した木材の耐朽性向上技術の開発

性能部 耐朽性能科 杉山 智昭



 はじめに


 北海道は昆布やニシン等を運ぶ北前船の活躍した江戸時代から現在にいたるまで,上質な海産物の一大供給地として知られています。また,道内の水産加工業は豊かな資源を背景に地域経済を支える重要な産業の一つとして時代とともに発達してきました。

 しかし近年,不法投棄の厳罰化や処分場の逼迫(ひっぱく)等により産業廃棄物の処理費用が増大したため,水産加工製品の製造過程で生じる残さの取り扱いが大きな問題となってきています。

 なかでも代表的な北海道の味覚であるカニについては,その製品加工にともない大量のカニ殻が残さとして発生します(写真1)。



写真1 水産加工により発生する大量のカニ殻


 現在,カニ殻は肥料として,あるいは凝集剤,健康食品,化粧品等の素材として利用されています。その一方で未利用のまま廃棄処分されている例も多いため,廃棄物削減,バイオマス有効利用の観点から,カニ殻の新規用途開発,需要拡大が強く望まれています。

 カニ殻にはカルシウムやタンパク質,色素とともにキチンと呼ばれるセルロースと類似した構造をもつ高分子多糖類が多く含まれています。キチン自体は反応性に乏しいのですが,キチンを化学的に変換(脱アセチル化)したキトサン(図1)には金属吸着能,創傷治癒促進効果など様々な化学的,生物学的機能が確認されています。また,一部の菌類に対する抗菌性も報告されているため,その有効活用に期待がかかっています。ここではカニ殻由来のキトサンを用いた処理により,木材に耐朽性を付与する試 みについて紹介します。



図1 セルロース,キチン,キトサンの化学構造



 カニ殻より作製したキトサン溶液の防腐性能


 今回の試験ではベニズワイガニの殻より製造したキトサンを薄い酢酸に溶かし,濃度調整したものを木材処理溶液として用意しました(写真2)。



写真2 カニ殻より製造したキトサン溶液


 次にスギの辺材(20×20×10mm)に調製したキトサン溶液を注入して,キトサン処理木材を作製し,日本工業規格(JIS K 1571-2004)に準じた防腐性能試験を褐色腐朽菌のオオウズラタケを用いて実施しました。

 規格に従って一定期間,木材腐朽菌にさらした後にキトサン処理木材の質量を測定したところ,キトサンによって処理されていない木材(無処理材)の質量が腐朽によって大きく減少していたのに対して(平均質量減少率:45%),キトサン処理木材については質量減少がほとんど認められませんでした(平均質量減少率:0%)。

 JIS規格では薬剤で処理を行った試験体の平均質量減少率が3%以下の場合,その薬剤に防腐性能があると判断されます。この基準に照らし合わせると今回カニ殻から作られたキトサン溶液には木材腐朽菌(オオウズラタケ)に対する十分な防腐性能があるものと考えられます。

 さらに防腐性能試験後のキトサン処理木材と無処理木材について表面劣化状態の観察を行った結果,キトサン処理木材には顕著な腐朽による欠点(褐変,収縮,崩壊)は認められませんでした。それに対し,無処理木材については大きな欠点の発生が認められ(写真3),少し力を加えると容易に崩壊してしまいました。



写真3 防腐性能試験体の表面観察


 以上の結果をふまえますと,水産加工過程の残さとして発生するカニ殻が宝の山に見えてはこないでしょうか。いつの時代においても,木材保存剤に対しては,「より効果があり」,「より安全で」,「より環境に対する負荷が少なく」,「より低コスト」なものが社会的に望まれています。自然界に大量に存在する天然物由来の多糖類であるキトサンは将来的にこれらの要求をすべて満たすことのできる素材の一つなのかも知れません。


 おわりに


カニとしんちゃん


 カニ以外にも様々な生物によって地球上で合成されるキチン質は年間で1000 億トンとも推定され,植物が作り出すセルロースに匹敵する豊富かつ貴重な資源と言われています。

 近年,鉱物資源や化石燃料への過大な依存から脱却し,環境調和型・循環型社会への移行を目指す上でバイオマス資源の利用拡大が叫ばれています。しかし,キチン・キトサンについてはいまだ限られた用途でしか実際の利用が進んでいません。このような状況を打開し,北海道の水産資源および森林資源の有効利用を推進するためにも,林産試験場と道内企業との共同研究で進めている本検討が一つの糸口になればと願っています。


 参考資料


1) 古川 郁夫:木材工業,44,675-680(1989).
2) M. Morimoto et al.:Trends in Glycoscience and Glycotechnology, 14(78),205-222 (2002).



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