本文へ移動
林産試だより2007年10月号 家具の低VOC化のために

 

家具の低VOC化のために

性能部 石井 誠



 はじめに


 一時話題となったシックハウス症候群(SHS)の主な原因として,揮発性有機化合物(VOC)があります。この放散源としては,建物自体のほか,その中で使われる家具,什器(じゅうき)類,衣類,書籍類や化粧品など様々なものが考えられます。室内のVOCに関しては,「建築基準法」や「学校環境衛生の基準」の改正などの法整備によって,室内空気質が改善されていることから(図1)1),問題意識は低くなってきています。しかし,SHSがなくなったわけではなく,発症する患者は相変わらず多いものと思われます。



図1 厚生労働省の指針値を超過した新築住宅の割合


 そういった状況の中で,特に住宅の内装材と家具はホルムアルデヒドの放散源として以前から指摘されており,シックハウスで体調を崩した場合,最初に調査する対象として考えられています。



図2 室内環境配慮マーク
(全国家具工業連合会)

 住宅の内装材については,一部にVOCやホルムアルデヒドを高濃度で放散するものがありますが,最近では全般に低い濃度になっています。また,VOCの発生源の多くは塗料の溶剤と考えられますが,これらは施工後1か月程度で十分低濃度になることが報告されています2)

 家具については,VOCに関する規制がありません。そのため,(社)全国家具工業連合会では独自基準として室内環境配慮マーク(図2)を設定しています。しかし,このマークは使用している材料のホルムアルデヒド放散性能を示しているものであり,実際に家具からどの程度のVOCが放散しているかを示すものではありません。

 従って,低VOC家具を普及するためには,まず家具のVOC放散性の評価を行う必要があります。そこで,ここでは林産試験場で開発した評価手法と評価基準,およびそれを用いて旭川家具の評価を行った結果を紹介します。


 家具のVOC放散性の評価方法


・測定用大形チャンバーを作製
 家具から放散するVOCを測定するために,写真1のような幅1.4m,高さ1.9m,奥行1m,容積2.66 m3の大形チャンバーを作製しました。このチャンバーは,図3のように換気をした状態で排気された空気を分析することで,家具から放散するVOC濃度を測定することができます。



左:写真1 大形チャンバーの外観     右:図3 測定の概要


・VOC放散量を評価する基準の作成
 ホルムアルデヒドの評価には放散速度と呼ばれる数値を用います。評価の基準は,ホルムアルデヒド放散建築材料の区分(表1)に基づいて,最もホルムアルデヒドを放散しないレベルであるF☆☆☆☆相当の放散速度(5μg/m2h以下)のものを低放散家具としました。

表1 ホルムアルデヒド放散建築材料の区分


 また,ホルムアルデヒド以外のVOCについては,「学校環境衛生の基準」で室内濃度の規制値が設定されているトルエン,キシレン,パラジクロロベンゼン,エチルベンゼン,スチレンを対象物質とし,換気回数が0.5回/時の条件でのチャンバー内濃度が規制値を下回っているかで評価を行いました。これらの物質の概要を表2に示します。

表2 学校環境衛生の基準で規制されているVOCとその規制値


 自主基準を使って家具を評価する


・評価した家具
 今回設定した評価手法を用いて,表3のような家具14本を対象にVOC放散性試験を行いました。これらの家具は,旭川家具工業協同組合の組合員企業の市販家具,ホームセンターで販売されている輸入家具および林産試験場で試作した学童用机・椅子です。

表3 試験を行った家具の概要


・評価した結果
<ホルムアルデヒド>
 ホルムアルデヒドの推定放散速度と評価結果を表4に示します。

表4 ホルムアルデヒドの推定放散速度と評価結果


 本研究で測定した家具のうち,表面積の欠測により評価を行わなかった1体を除いた13体のうち,低放散家具と判定されたものは7体でした。ホルムアルデヒドが検出されなかった試験体番号13のチェストは,大部分が無垢の広葉樹材で製作された家具で,塗装は蜜蝋(みつろう)・亜麻仁油等からなる自然系塗料を用いたものでした。

 一方,最大の放散速度を示した試験体番号8のワゴンは輸入品で,棚板がMDF(等級不明),その他が南洋材無垢材,塗装はアミノアルキッド樹脂でした。

 これ以外で放散速度が基準値を超過した試験体のうち,試験体番号4のチェストではF☆☆☆以下の材料が使用されていましたが,その他は,木質材料・接着剤・塗料のすべてがF☆☆☆☆の材料で構成されていました。今回の測定では,F☆☆☆☆の材料だけで構成された家具であっても基準値以下とならない原因までは明らかにすることはできませんでしたが,今後試験を重ねることによって,解明されるものと思われます。

<VOC>
 VOCのチャンバー内濃度を測定した結果を表5に示します。

表5 VOCの測定結果(単位:μg/m3)


 規制値を上回るチャンバー内濃度は,試験体番号3におけるトルエンでのみ観測されました。この試験体は合成皮革の座面をもつわん曲集成材のいすです。トルエンの発生部位は不明ですが,座面の合成皮革または座面内部のクッション材に使用されている接着剤から放散している可能性が考えられました。また,クッション材に使用されている場合には,内部からゆっくりトルエンが放散するため,長期間にわたって高濃度で推移する可能性があります。

・改善策の提案
<ホルムアルデヒド>
 家具の閉鎖された収納部(引き出し等)内部の閉鎖空間では空気が滞留し,F☆☆☆☆の材料を使った家具であっても木質材料から放散したホルムアルデヒドによってその濃度が上昇するおそれがあります。

 家具の上部と下部に換気口を設け,温度差によって空気の流れを作り家具内部に高濃度のホルムアルデヒドが滞留しないような対策も考えられますが,実際には吸着剤の使用が現実的です。同様に,ポリエチレンシートなどで家具を密封して梱包する場合は,シート内のホルムアルデヒド濃度が飽和濃度まで上昇する可能性がありますが,吸着剤を家具とともに封入するなどの対策によりホルムアルデヒド濃度を低減することができます。

 また,自然系塗料と呼ばれるものの中には,原材料としてホルムアルデヒドやアセトアルデヒドが用いられていないにもかかわらず,固化過程においてそれらを生成・放散するものがあり,塗装後しばらくは換気の十分な状態での養生が必要です。

<VOC>
 溶剤に使用されているVOCは,表面から蒸散する放散形態であることから時間の経過とともに急激に減衰します。そのため,最も単純で効果的なVOC低減方法は,塗装後に乾燥時間を長くとり,梱包までに溶剤の大部分を蒸散させることです。また,単純に乾燥時間を長くすることは,場所や時間が必要になり,コスト的に不利になることから,送風・加温(ベイクアウト)などの方法により蒸散を促進することも考えられます。


 おわりに


 現在,国内で低VOC家具をセールスポイントとしてPRしている家具メーカーが数多くありますが,裏付けされたデータを持っているわけではなく,使用している材料が低VOC材料であるだけで評価されてます。しかし今回の試験結果が示すとおり,ホルムアルデヒドについては,F☆☆☆☆の材料を使用していたとしても,家具全体がF☆☆☆☆の基準をクリアするとは言い切れません。

 家具生産が低迷している今日,旭川などの家具産地では,独自性を明確にしないと輸入製品にそのシェアを奪われることが容易に考えられます。そのため,デザイン性などで独自性を打ち出す動きがありますが,さらに進めて基本的な家具性能で産地の独自性を表すことも考える必要があるのではないでしょうか。

 例えば,ユーザーが家具を選ぶ場合,旭川家具であれば低VOC家具は当然であり,それを前提にしてデザインや用途で製品を選ぶ仕組みを整えることによって,消費者が簡単に低VOC家具を選ぶことができるようになります。これは,全国に先駆けた取り組みですが,そのためには,家具産地のメーカー全体が足並みをそろえる必要があり,今がその体制作りのための細部の検討を図る時機ではないでしょうか。


 引用文献


1)(財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター:「平成17年度室内空気に関する実態調査 報告書」,2006
2)北海道立林産試験場:「北海道における住宅等の室内空気質の調査と改善方法の検討」,平成17年度重点領域特別研究報告書,2006

次のページへ