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林産試だより2007年11月号 カナダ,アルバータ州の森林と林業

 

カナダ,アルバータ州の森林と林業

アルバータ大学大学院 人類学研究科(社会・文化人類学専攻)博士課程2年
林 直孝



 本稿は、元当場職員で、現在、カナダのアルバータ大学大学院 人類学研究科(社会・文化人類学専攻)博士課程に留学中の林  直孝氏が、平成19年5月、林産試験場職員に向けて講演した内容をまとめたものです。



 平成14年から17年にかけて,私は,カナダ,アルバータ州北部の先住民が取り組む(商業的)森林経営について研究しました。この社会科学的な研究を進めるためには,まずアルバータ州の森林,林業制度に関する知識が不可欠でした。本稿は,その時私が学んだことを基にまとめたものです。


 1.アルバータ州の北方林と林産業




図1 カナダ全土に広がる北方林(緑色の部分)
(Forest Watch Albertaより改変)


 カナダ全森林(4億1700万ha)の77%は北方林(boreal forest)とよばれる森林が占めています。この森林を構成する樹種は,ホワイトスプルース,ブラックスプルース等の針葉樹とアスペン,バルサムポプラ等の広葉樹です。内陸のアルバータ州は,全州土の58%を森林に覆われ(3800万ha),その75%は北方林が占めています(図1)1)

 アルバータ州の森林の特徴として,森林火災の多さ,木の生育期間の短さが挙げられると思います。まずは,森林火災についてみてみましょう。図2は,アルバータ州の林務部にあたる部署(Alberta Sustainable Resource Development 以下SRD)が発表した過去15年間の森林火災面積のデータを基に作成したものです2)。この15年間で約240万haの森林が燃えました。北海道全体の森林面積は約550万haですから,アルバータ州では,いかに高頻度かつ大規模に森林火災がおきているかお分かりかと思います。人為的な火災も多いのですが,注目すべきは,落雷による火災面積の大きさです。ロッキー山脈の東側に広がる平原地帯は,海からの影響が少なく,とても乾燥した気候になりがちです。そのため,一旦火災が起こると,消火活動が追いつかなくなるくらい速く広がってしまう可能性があります。しかも,火災発生頻度は,年によってまちまちですから,予測をつけるのは困難です。ですから,いかに早く正確に火災の動向を突きとめ,消火活動を組織するかが,SRDや林業会社にとって重要です。火災が起きてから次の火災が起きるまでの年数(回帰年)は場所によって変わりますが,いずれにしても火災は,林齢や森林の相観,構造を決定する重要な要素です。



図2 アルバータ州における森林火災(1992~2006年)


 さらにアルバータ州の寒冷な気候は,木の生育期間にも影響を与えます。ロッキー山脈を挟んで西隣の温暖多雨なブリティッシュ・コロンビア州では胸高直径1mをゆうに超える大径木が生育しますが,アルバータ州の北方林の木はそこまで太くなることは稀(まれ)です。そのため,伐採された林木は,木材繊維(ファイバー)としての利用が主なものとなっています。例えば,2005年のアルバータ州の林産物の総輸出額の7割は,パルプ材,木質パネル(合板,中密度ファイバーボード,OSB,ベニヤ等)および新聞紙で占められています1)。 

 パルプの原料には,現在,針葉樹,広葉樹ともに使われています。1980年ごろまでは,アスペンやバルサムポプラの森林は,商業的利用価値はほとんどないと考えられてきました。その後,林産技術の発達により繊維の短い広葉樹もパルプ材として利用できるようになると,アルバータ州北部に広がる広大なアスペン,ポプラ林は,急速にその利用価値が高まりました。


 2.アルバータ州の林業制度


 アルバータ州の林業制度の特徴は,1954年に導入された森林管理協定(Forest Management Agreement 以下FMA)にあります。FMAの下に,林業会社は,ある森林経営区域において州政府から伐採許可を得ます。州政府はその会社に年間許容伐採量(Annual Allowable Cut 以下AAC)を割り当てます。AACが割り当てられると,林業会社は,その量の伐採林木を処理するだけの能力のあるパルプ工場や製材工場を建設しなければなりません。伐採に必要な設備の建設費は会社が負担することになっています。そして大切なのは,会社は,持続的な木材供給を可能にするための森林計画を立てなければなりません。FMAは,20年有効(しかも20年後には更新可能)ですから,林業会社は,長期的な森林計画を立てることができます。この協定が導入される以前は,入札によって林業会社は伐採権を獲得していたのですが,入札制度の下では,なるべく安く施業を済まそうとするので,再造林が徹底されないという欠点がありました。FMAの導入は,立木伐採権を獲得した林業会社に,皆伐後の植林(再造林)を積極的に行うよう動機付けるためのものだったのです。この制度はよく利用されていて,現在,アルバータ州のほとんどの林地(グリーンエリア,後述)は20の森林経営区域に分割され,FMAの下,17の林業会社により経営されています(図33)。そのほとんどは,アメリカ合衆国に基盤を置く大林業会社ですが,一番広い森林経営区域で伐採権を獲得した会社は,日本のアルバータ=パシフィック社(略称アルパック,三菱商事と旧本州製紙の合弁会社)で,その面積はアルバータ州土の約1割にもなります。また,約290万haの森林経営区域でFMAを結んだ大昭和=丸紅インターナショナル社(通称DMI)もあります。AACによって,州政府は,連年滞ることのない木材供給を会社に約束させているわけですから,会社から支払われる立木伐採権料が,州の財源として長期的に確保できます。



図3 FMAの結ばれた20の森林経営区域と17の林業会社 (Alberta SRDより改変)


 こういうことができるのは,アルバータ州政府は州土の87%を管轄しているからです(連邦政府の管轄下にある土地はわずか州土の9%)。つまり,州政府は,どのように州内の天然資源を利用するか,独自に決めることができます。


 3.石油・天然ガス開発とアルバータ州の森林


 アルバータ州の財源を潤しているのは,林業だけではありません。石油・天然ガス産業から入る採掘権料(ロイヤリティー)は,州の歳入(2003~04年)の30%を超えています4)。実は今,アルバータ州経済は空前の石油ブームに乗っています。1947年に州都エドモントン市の南に位置するレデューク市で石油が発見されてから,石油産業は常にアルバータ州の経済を牽引(けんいん)してきました。1988年の冬季オリンピックが開催されたことで有名になったカルガリー市は,壮大なロッキー山脈を背後に控えるその美しさを世界にアピールしましたが,天然ガス産業(石油産業も)がなかったら今日の町の発展はなかったでしょう。アルバータ州は,ロシア,ノルウェーに次いで世界第3位の天然ガスの輸出量(2005年)を誇ります5_ 6)。また,アルバータ州の原油生産量(2003年)は,一日160万バレル(1バレルは159リットル)にも達し,その日産量は,アルジェリアやリビアなどのOPEC諸国と肩を並べるほどです4_ 6)。このおかげでカナダに10ある州のうち,アルバータ州は,唯一負債のない州です。



図4 農地で石油をくみ上げるポンプ(2004年5月撮影)

 こうした石油や天然ガスは,農地(アルバータ州では,土地区分上,ホワイトエリアと呼ばれる)だけでなく,林地(グリーンエリア)からも採掘されます(図4)。林地で天然ガスや石油を採掘するためには,まずブルドーザーなどで森林を切り開き,どこに埋蔵されているか探索しなければなりません。切り開いた道の地面に一定間隔でダイナマイトを埋め込み,爆発させます。そのとき発する音波は地下に進み,物理的性質の違う地層が重なっているところで反射されます。この反射を捕らえることで,石油や天然ガスの埋蔵場所を突きとめるのです。この探索活動のあとには,幅6~8mほどの道が森林の中に縦横無尽に走り回ります7)。一つの森林経営区域のなかで,林業会社と石油・天然ガス会社が仕事をしていることはしばしばありますから,残っている森林資源量を的確に把握するためには,林業会社はどこで石油・天然ガス会社が探索活動を行っているか熟知しておく必要があります。


 4.持続可能な森林経営に向けた連邦・州政府の取り組み


 ところで,森林は木材生産や石油や天然ガス採掘の場となるだけではありません。森林は,一般市民にとってリクリエーションの場であり,水源涵養(かんよう)の場でもあります。近年の温暖化で注目されているように森林は大気中の炭素を吸収し,貯蓄する役目も持っています。森にはグリズリーベアやカリブー(トナカイ)など野生動物も住んでいます。そして,狩猟で生計を立てている多くの先住民(一般にインディアンと呼ばれている人たち)が森に暮らしています。つまり,実に様々な人々が森に関わり,森から恩恵を授かっているわけです。森林経営者は,このことを常に念頭に置き,森林計画を立てなければなりません。アルバータ州に限らずカナダでは,森林経営者は事前に公聴会を開き,森林計画書の草案を地元住人に一般公開することが奨励されています。地元住民は,自分達の森に対する見方,価値観を森林計画に反映するよう要求することができるのです。こういう制度が確立するまでには長い道のりがありました。

 1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連の地球サミットは,世界から178か国を集め,将来の森林,林業に関する問題が合議されました。この会議で重要なのは,「持続可能な森林経営(Sustainable Forest Management 以下SFM)」という概念が現実のものとなるよう,努力することが参加国の間で同意されたことです。人間活動の拡大により,世界的に森林減少は進んでいます。このままのやり方で発展を続けていたら,私たちは,次世代に十分な森林を残せなくなるかもしれません。この「持続可能」には三つの意味があります。一つは健全な森林生態系の維持,二つ目は林業・林産経済の持続,そして三つ目はその森林に依存する地元社会の持続です。この三つは互いに関係し合い,すべてが実現した時,初めてその森林経営は「持続可能」な健全な経営と言えるのです。

 この概念に賛同したカナダ連邦政府も,早速,国内でのSFMの実現を目指して動き出しました。1992年に発表されたカナダの森林5ヵ年計画書にあたる『国家森林戦略』は,カナダ国民からの大規模な意見聴取の成果であり,国民の利益を反映し,生態的,経済的,社会・文化的な森林利用価値がバランスよく発揮されるよう森林を管理していく重要性を謳(うた)っています。同年,国家森林会議において,連邦政府と10州3準州の森林担当大臣,産業界・学識経験者・先住民グループ・NGOの各団体は,『国家森林戦略』で謳われたものが現実のものになるよう,『カナダ森林協定』に調印しました。いわば,国全体がSFMの理念に賛同したわけです8)

 アルバータ州の森林政策は,1992年に転機を迎えました。連邦政府が行ったように,1994年から3年間にわたる州民への大規模な一般聴取を行い,州民が森林に何を望み,どんな森林の未来像を描いているのか調査しました。1998年に発表された『アルバータ州の森林遺産』には,広く,州民に開かれた森づくりを目指そうとする州政府の所信が表明されています9)


 5.NGOによる森林保護の取り組み


 健全な森林経営の実現を目指しているのは,連邦政府,州政府だけではありません。1980年代以降,アルバータ州民の環境保護意識は急速に高まり,環境問題に取り組む様々な非政府組織,いわゆる環境NGOが生まれました。こうした環境NGOは,時に環境に対して配慮の足りない林業会社の経営を批判し,時に環境に優しい森林施業を目指そうとする林業会社と協力してきました。

 ここでSFMの実現を目指す世界規模のNGOとして,森林管理協議会(Forest Stewardship Council 以下FSC)を紹介したいと思います。FSCは,数ある森林認証制度を提唱するNGOのうちの一つです。簡単に言えば森林認証制度とは,環境保全の点からも適切で,地元住民の利益に配慮し,経済的にも継続可能な森林経営をしている林業会社の木材,木材製品にお墨付きを与えるものです。林業会社がFSCから認証を得るには,FSCの定める森林経営に関する10原則に従わないといけません。林業会社が,ある森林経営区域において適切な森林経営をしているか,評価,認定,モニタリングするのは,(FSCとは別の)第三認証機関です。そして,適切な森林経営がなされていると認定された森林経営区域から生産された木材,木材製品には,FSCのロゴマークが貼(は)られることになります。ロゴマーク付きの製品は,FSCへの申請料やその他の経費により,普通の製品よりも小売価格で3~5%ほど高くなります10)。が,多少高くても,消費者は,自分は確かに適切な森林管理をされた森林から出た製品を買っており,環境破壊に関わっていないという満足感を得ることが出来ます。カナダの北方林地帯におけるFSCの認証制度は,2004年から始まりました11)。先ほど紹介したアルパック社も,最近,森林経営区の一部においてFSCを取得しました12)。カリブーなど野生動物や貴重な植物が多数生育することがわかったため,環境に対する配慮が欠かせなくなったからです。

 高まる環境保護運動が,国家の枠にとらわれない森林認証制度という形で,産業界を動かしていることは注目に値します。


 6.結論 アルバータ州の林業・林産業から私が学んだこと


 アルバータ州に限らずカナダの経済は,歴史的に見て資源依存型の経済です。先に挙げた林産物や天然ガス,石油だけではありません。ニッケル,鉛,金,ダイヤモンドなどの鉱物,農産物,魚貝類等もたくさん採れます。そうした資源は盛んに輸出されています。輸出先は主にアメリカ合衆国ですが,日本は二番目のお得意先です(2005年)13)。また,そうした資源開発産業は,多くの場合,外国資本に動かされています。(アルバータ州の林業がアメリカ合衆国や日本を基盤に置く会社によって行われていることは前に述べました。)これだけグローバル化が進む今の時代ですから,モノもカネも人も価値観も国境を越えてどんどん入ってきます。

 私は,エドモントン市に住み,こうした資源依存型の社会を体験し,また先住民族の社会変化を研究していることもあって,地域社会の持続性ということをよく考えさせられます。越境してくるモノ,カネ,人,思想を取り込むことは,地域の存続を図る上で大切なことです。しかし,大事なことは,SFMの三つの「持続」で見たように,健全な地域環境の維持と継続可能な地域経済が,地域の社会・文化の持続性と深く関わっているということです。一昔前は,「Think globally, Act locally」という言葉がもてはやされました。これは,視野は広く,行動は足元から,という意味です。でもこれからは,「Use locally」だと思います。地元で生産し,地元で使い,地元の経済をまわすのです。そうすることで地域社会は発展し,文化は次世代へと継承されていくでしょう。林業,林産業で言えば,地域の適切な育林技術,林産技術を確立し,地域の材が地域で使われる流通の仕組みを作ることが大切です。私は,そうした持続可能な地域社会が,北海道で育まれていくことを期待しています。


 引用文献


1) Natural Resources Canada [NRC]:The State of Canada's Forests 2005-2006_ NRC, Ottawa, ON (2006).
2) Alberta Sustainable Resource Development [SRD]:Home page.(参照2007-06-30)
3) Alberta SRD:Home page.(参照 2007-04-26)
4) Alberta Energy:Home page.(参照 2005-07-09)
5) Alberta Energy and Utilities Board:Home page.(参照 2007-08-21)
6) BP:BP Statistical Review of World Energy June 2006_ Beacon Press, London, U.K. (2006).
7) Schneider, R.R.:Alternative Futures:Alberta’s Boreal Forest at the Crossroads, Federation of Alberta Naturalists and Alberta Centre for Boreal Research: Edmonton, AB (2002).
8) Canadian Council of Forest Ministers [CCFM]:National Forest Strategy 1998-2003_ CCFM, Ottawa, ON (1998).
9) Alberta Environmental Protection [AEP]:Alberta Forest Legacy, AEP, Edmonton, AB (1998).
10) Mater, C.M.:Understanding Forest Certification:Answers to Key Questions, Pinchot Institute for Conservation, Washington D.C. (1999).
11) Forest Stewardship Council [FSC] Canada:National Boreal Forest Management Standard, FSC Canada, Toronto, ON (2004).
12) Alberta Pacific:Home Page. <http://www.alpac.ca> (参照2007- 05-02)
13) Canada. Dept. of Foreign Affairs and International Trade [FAIT]:Opening Doors to the World, FAIT, Ottawa, ON (2006).

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