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林産試だより2007年11月号 「シリーズ企業訪問」 道東プレカット事業協同組合を訪ねて

 

「シリーズ企業訪問」

道東プレカット事業協同組合を訪ねて

企画指導部 主任研究員 石河 周平



 はじめに


道東プレカット事業協同組合の看板

 私は企業や業界の方々とお会いする機会が多くあります。そこで聞かせていただく,業界紙では知ることのできない生のお話しは私たちの業務の参考になり,またその中からは共同研究や実用機械開発へと発展させることができたものもありました。
 今回,林産試だよりの誌面に,「シリーズ 企業訪問」(不定期掲載)を企画しました。それぞれの地域や立場で頑張っている,企業トップや従業員の方の声をご紹介し,読者の皆さんにも参考になるものを記していきたいと思います。
 シリーズ第1回目として,十勝地域で業績を上げておられる「道東プレカット事業協同組合(士幌町)」(以下,道東プレカットと略す)をご紹介します。


 道東プレカットの概要


石河:渡辺専務理事,よろしくお願いします。まず,設立の経緯,近況についてお聞かせ下さい。また,北海道にはプレカット工場が30数社ありますが,どこのプレカット工場も経営環境が大変厳しいという話を聞いています。道東プレカットではどうでしょうか?



写真 渡辺専務理事

渡辺専務:平成3年に,十勝支庁管内の建築業,木材業,森林組合など約30社が集まりこの組合を設立しました(工場の本格稼働は5年10月)。構成員の多くは建築関係者です。これは,建築業界で課題となっている熟練大工の不足,工期短縮,住宅建設コスト低減などに対応するためです。
 設立まもなくバブルの崩壊があり,経営的には厳しいものがありました。私たちの所では,材料の仕入れ部門を持っていません。大手プレカット工場では,木材商社的に自らが部材調達を行い多段階で利益確保している所もあります。しかし,私たちは賃加工に徹していることから,住宅着工戸数の減少は,即加工賃の過当競争の波にさらされることになるのです。道内の多くのプレカット工場は同じ状況だと思います。
 現在,道東地域には8社のプレカット工場があります。今年4月,道東8社で情報交換のための「道東地区プレカット協議会」を立ち上げることができました。その設立総会の中でも,加工賃の価格低下に歯止めがかからないことが共通問題として浮かび上がっていました。これ以上の低下があれば各社の経営が早晩行き詰まってしまうなど,切実な話も出ています。業界としてどうやって生き残っていくのか,ざっくばらんな情報交換をしていく体制を求め,今回ようやくできたということです。
 そんな中でも,私たちの所では幸いにも順調な経営をすることができています。

石河:今,お話を伺った加工賃の低価格化問題ですが,私が林野庁の補助事業で事前コンサルに入ったあるプレカット工場(協同組合)の加工賃は,設立当初の7割程度まで落ち込んでいると聞いています。この業界の経営環境はぎりぎりの所まできているという感がありますが,その中でも道東プレカットでは生産規模を拡大させ,収益も安定させているということですね。

渡辺専務:過去には十勝支庁管内に3社のプレカット工場がありました。現在では私の所の他1社あるにすぎません。この1社は,過去に経営破綻(はたん)した工場を買い取った経営者が現在稼働させているものですが,経営規模は以前より格段に縮小しています。ですので,管内のプレカット加工棟数の約8割が私たちの所に集中しています。
 そこで,受注増加に応えるべく生産体制の見直しを行いました。現在2直体制で操業し,日勤組が6名,遅番組が3名の体制としています。また,先の規模を縮小した工場から5名が転入し,私たちの所で入力・加工オペレータとして頑張ってくれています。おかげで18年度の加工坪数は約17_000坪(400棟超)となっています。


 図面入手から発送まで


石河:ここからは,道東プレカット立ち上げ当初からの工場長である伊藤工場長と,先の転入者のお一人である秋山課長(設計入力課)に加わっていただきたいと思います。
 まず道東プレカットでの受注から発送までの流れについて教えていただきたいと思います。この年間400棟という規模の図面入力ですが,極めて大変な作業になるのではないでしょうか?。

秋山課長:受注から発送までの流れを図示します(図1)。工務店からの図面入手から納期までの期間は,最短でも2週間必要となります。



図1 受注から発送までの流れ


 まず,工務店から入手した平面図,立面図,伏(ふせ)図,矩計(かなばかり)図などから,5名体制でCADシステムにデータを入力します。データ入力終了後,加工機械への命令言語に自動変換され,機械を動かすことになります。1棟40坪の物件にかかるCAD入力関係の時間は,入力3時間,チェック1時間,打ち合わせ・確認2時間となります。
 この図面入力作業には細心の注意が必要となります。また,建築に関する知識が必須と言えます。入力段階で,少しでも疑問に思ったことや提案できることがあれば,随時工務店との確認を行っていきます。
 現在,1日当たり1.5棟の入力作業が同時並行的に進むので,邸別の進捗(しんちょく)管理も重要な要素になります。
 次に来るのは必要部材の集計作業です。CAD入力終了後,必要な部材リストが出てきますが,手作業集計の部分も多くあります。それを再度図面上で確認し,これをもとに工務店と提携している木材業者に部材発注を行います。最近では図面上で長さが3650mm,あるいは断面が300mmを超えるものは集成材を用いることが暗黙の了解となっています。

伊藤工場長:材料入荷までには約1週間程度かかります。
 入荷した材料を確認します。その時に,加工オペレータは材の形状,寸法などを瞬時に確認し,捻れや曲がりなどの変形が大きな部材については羽柄材加工用部材などのカット材用として仕分けます。1日当たり約40m3の材を加工しますが,この材の搬入や搬出作業も,生産能率を決める重要な作業となっています。


 大工が居るということ


石河:多くのプレカット工場には,大工経験者がいるようですが。

秋山課長:私自身は建築士の資格を持っていますが,図面を見た時に建物の骨組みが頭に浮かぶようにならないとCAD入力も一人前とは言えません。一人前になるには,人にもよりますが3年程度はかかります。
 CAD部門の新人に対しては,建築図面を手に,実際の建て方工事を相当数見学させ,その中で図面と建物のイメージを頭の中で合わせることや,使われる部材の呼称や使われる箇所なども覚えさせています。プレカット加工は,大工と一体にならないと駄目なのです。

石河:非常に興味深いお話ですね。私が事前コンサルに入ったプレカット工場の入力責任者も大工経験者でした。ところで,加工オペレータに大工経験者がいますか?



写真 材面を見ながらの荒削り作業

渡辺専務:私の所には2名の大工経験者がいます。木材を見ることができるということが,プレカット加工において必要な資質になります。
 「樹木が立っていた時のように柱の天地を合わせる」,大工の世界では常識です。これは一家の繁栄を樹木が天に向かって伸びていくように見たてることからくるものです。在来工法は日本文化の一つです。プレカットといえども,文化・伝統に照らした加工が必要となります。そのためには部材を見ただけで,立っていた樹木であった時の元末(もとすえ)を見ることができなければなりません。これにはある程度の経験が必要です。
 また,施主によっては,全体の工費を抑えるために見栄えの良くない材料を使わざるを得ない場合もあります。そんな時,私たちは施主に喜んでもらえるように,人目に付きやすい部分には良材を用いる,あるいは良い面を表に出すように加工機械に材を投入する,あまり目立たない部分にはその他の材を使うようにしています。ですから,加工オペレータは建築図面を見て建物全体が,細部までイメージできる必要があること,そんな理由で大工経験者を採用しています。

石河:これも大工経験者がいるからこそできることなのですね。正直に申し上げて,そこまで材料を見てプレカット加工がされているとは思ってもいませんでした。私は今まで,プレカット工場の顧客は工務店であり施主ではないかのようなイメージを持っていたのです。こちらのように,施主に対してのきめ細やかな配慮がされていることで,工務店からの信頼もきっと厚いのでしょうね。


 製品精度




写真 整理整頓が行き届いた工場内部

石河:さて,先ほど工場を見せていただきました。実に整理整頓がされています。4S(整理,整頓,清潔,躾(しつけ))は工場管理の基本と認識していますが,それが実践継続されていることには頭が下がります。

伊藤工場長:そんな意識も無いのですが,当たり前のことをやっているだけです。また,スペースには限りがあり,順序よく加工オーダーをこなすためには,工場整理はどうしても必要なことですね。

石河:さて,その工場内に持ち込まれる部材ですが,エゾマツ・トドマツ,カラマツの無垢(むく)材や集成材,その他輸入製材,防腐土台など様々な部材が入っています。プレカット加工側から材料供給の木材業側に対して寸法精度などについての要求はありますか?

伊藤工場長:私たちで部材発注リストを作成しますが,それによって持ち込まれる部材は工務店と木材業者との間で決定されたものです。私たちは持ち込まれた材料を使って「最適な加工をする」という立場です。材料に対して文句は言えません。できれば通直なものであることが望ましいわけですから,是非お願いをしたいところです。

石河:前回お邪魔した時に,モルダー加工の前段でハンドプレーナーで柱材の1か所を削っていました。そこでオペレータに理由を聞いてみると,「このままでモルダーにかけても削り残しができるので,ここを削っておけば良面が2面出てくるのです」と回答いただきました。私にはその変形の程度や事前の削りの位置決めなど全く分からなかったのですが,実にその微妙な作業には驚きました。



写真 伊藤工場長

伊藤工場長:私たちの所には大工経験者もいますが,皆ベテランばかりです。冒頭渡辺専務の話にあったように,材料をどこに使うかで必要精度・品質が変わってきます。単なる部材の精度だけでは計れない所に顧客満足度を高めるプレカット屋としてのテクニックがある,「腕の見せ所」があると考えています。
 一般に集成材の寸法精度は極めて高くそして品質も一定で使いやすい材ということになるのですが,加工する側から言うと,刃物研磨の頻度が高くなっても加工賃に上乗せできないこともあり,少々困っています。


 企業は人なり


石河:よく聞く言葉に「企業は人なり・・」があります。企業の顔は個々の従業員が作ることになりますが,経営者として人を育てるということをどのように心がけていますか?

渡辺専務:私たちの工場には合わせて17名の人員がいます。従業員の生活の基盤が安定しなければ士気・意識は高まりません。「自分たちの工場」という意識にならなければいけないと考えています。
 私たちの組合構成員には建築工務店が多いことからも,加工時に様々な配慮をすることは組合員への当然の義務と思っています。私は常日頃「今,あなたが加工している物件を自分の家だと思って加工するようにしなさい」と従業員に言っています。これが従業員隅々まで浸透していることが道東プレカットの誇りであり,従業員が私たちの宝となっています。

石河:私は,各種工場調査をする時には休養室を必ず拝見するようにしています。それは休養室に情報共有の場があること,生産工程上の問題があれば改善に向けた動きがそこで見られるからです。道東プレカットではいかがですか?

伊藤工場長:工場創成期にはそういう動きも必要でしょうが,安定をしている今は必要が無くなりました。むしろ,休憩の場では心からくつろいで貰う必要があると考えています。


 国産材時代とプレカットの今後


石河:さて,いろいろお話しを伺ってきましたが,最後にプレカットの今後について伺いたいと思います。十勝地域は,戸建て住宅における枠組み壁(以下,2×4と略す)工法の比率が道内でも高い地域です。十勝にはトドマツを用いたスタッド材(縦使い材)工場もあります。さて,このような中で在来工法のプレカット工場はどのような位置づけとして生きていくことになるのでしょうか?

渡辺専務:「国産材時代は在来工法と共に」というのが私の考え方です。2×4工法の構造材はほとんどが輸入材です。いくら2×4住宅が建っても,国産材が使われることはないでしょう。
 冒頭,道東プレカット設立の経緯で話したように,建築業界を取り巻く環境(熟練大工の不足,工期短縮,住宅建設コスト低減)は今後ともあまり変わらないと考えます。その意味で仕事が無くなることは無いでしょう。
 地球環境問題が取りざたされている現在,もっと植林をしていかなければならない,そのためには木材をもっと使っていかなければなりません。人工林においても山の手入れがしてあれば,あるいは太くなれば十分建築用材として使えることは分かっています。事実,カラマツなどの乾燥製材が入ってくるようになりました。その後は私たちの出番です。極端にひどい変形など無ければ,十分加工ができます。
 これからも,プレカット屋の誇りを持って地域建築業界へ,また木材を利用することで山作りを進める循環型社会への貢献をしていければと思っています。

石河:私自身,勉強不足であったことを恥じ入りながらも大変参考になったところです。本日は,お忙しいところありがとうございました。

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