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屋外木製構造物の腐朽による強度低下を考える

性能部 構造性能科 野田 康信



 はじめに


 近年,景観への配慮から,木材を屋外で利用する機運が高まっており,構造部材としての活用へと展開しつつあります。一方,木材は屋外環境では腐朽による強度低下が避けられないことから,構造部材として活用する場合には,強度低下を考慮した設計や施工が必要となり,耐用年数が何年であるかをあらかじめ設定しておくことが望まれます。しかし,腐朽による強度低下は設置環境に大きく左右されるため,定量的な評価が困難であり,設計に反映するためには依然として議論が必要な課題です。そこで,耐用年数をより正確に予測するために,腐朽を考慮した構造設計の手法を考察したので紹介します。


 現在の設計における腐朽の考え方


 構造設計の信頼性が問われる昨今において,腐朽による木材の強度低下は非常にデリケートな課題です。

 建築分野では腐らせない環境,すなわち,雨水や湿気を隔離した環境を維持することができるので,腐朽による木材の強度低下は想定外として扱っています。一方,木橋に代表される土木分野では,防腐剤を加圧注入した木材の使用が前提で,さらに塗装や保守管理を徹底することで腐朽が進行しない条件を確保しています。また,森林土木分野でも防腐処理材の使用が推奨されていますが,構造物の機能が腐朽により失われても植生の繁茂等によってその代替が期待できる場合や,短期間の使用を前提とする場合等に限定して,防腐処理をしない木材の使用が認められています1)

 このように,腐朽の考え方は木材の使われ方によって様々です。しかし,腐らない環境を整えたといっても永久構造物になるというものではありません。また,薬剤を注入したからといってもそれが永久に効くとはいえません。したがって,「何年もつのか?」という疑問は常に存在し,メンテナンスをする上でも「どれぐらいの腐朽までなら大丈夫なのか?」ということに対して,判断する基準が求められています。


 いわゆる木材の耐朽性


 一般に,木材の耐用年数といえば,各樹種の心材の耐朽性2)がよく引用されます。これは10本の杭を屋外で暴露し,森林総合研究所の評価基準(表1)にのっとって得られた被害度の平均値が0~5区分の2.5に達したときの経過年数を耐用限界としているもので,カラマツの場合は5年から6.5年と設定されています。

表1 被害度の評価基準



 一般的に地際における腐朽の進行が最も早いと考えられていますので,この耐用年数を構造物の耐用年数として引用しているケ-スがあります。しかし,この耐用年数は強度的な考察を伴ったものではありません。そのため,構造計算を必要とする構造物の耐用年数の根拠とする際には注意が必要です。


 腐朽を考慮した構造計算の概念


 一般に構造計算を伴う木質構造物の多くは許容応力度設計に従った計算がされています。この許容応力度設計は,簡単に言えば,想定する外力に対して構造物を構成するすべての材料の強度が上回っていることをチェックする設計法です。このチェックは部材の曲げ応力が最も重要で,他の応力については省略することが多いのですが,木質構造物の場合は接合部から破壊することが一般的ですので,接合部の耐力についても,別途,外力に対して上回っていることを確認しなくてはなりません。

 さて,これに腐朽による強度低下を考慮すると,腐朽によって低下した部材や接合部(以下,構成要素)の耐力が想定する外力を下回ったとき,構造物が危険であると言えます。そう考えると,構造物によっては構成要素の1つでも極端に腐朽した場合に全崩壊する可能性が考えられます。したがって,構造計算を伴う構造物の場合には,構造物を構成するすべての要素について,腐朽した場合の強度が明らかになっていることが必要になります。

 

 これまでの取り組み


 部材の曲げ強度については,森らがカラマツを用いた土木構造物を対象に強度低下を予測する手法を提案しています4)。これは,既存の土木構造物の経過年数と腐朽の関係,および屋外暴露で腐朽させたカラマツ丸太材における腐朽と断面減少の関係を併せることにより,経過年数と残存強度の関係を推定するものです。この考え方に従って,接合部についても経過年数と強度低下の関係を得ることで汎用的な設計法として確立することが可能となります。しかし,接合部といっても様々な形状が考えられるので,正確に推定するためには,形状ごとの検討が必要となります。


 強制腐朽処理を用いた残存強度の測定


 新しい接合部が考案されるたびに屋外暴露による長期的な調査と実験を伴っていては,現実的な手法とは言えません。そこで,実験室で人為的に腐朽させ(強制腐朽処理),その残存強度を測定する手法を検討しました。

 ここでは,新しく開発されたカラマツ木製防雪柵の接合部を対象とした実験例を紹介します。実際の防雪柵は防腐処理材を使用していますが,実験では防腐処理をしていないモデル試験体を強制腐朽処理し,座金のめり込み試験を行いました(写真1)。強制腐朽処理は腐朽菌としてオオウズラタケを用い,処理期間は5か月および8か月です。試験体数は各10体で,ここでは座金が2mmめり込んだ時の荷重を接合耐力としました。比較のため,設置当初を想定した気乾状態,雨水にさらされた場合を想定した飽水状態についても測定しました。



写真1 座金のめり込み試験の様子3)



 試験結果は図1に示すとおりで,腐朽による強度低下の傾向が得られました。しかし,いずれの状態においてもバラツキが大きいことが分かります。次に,被害度判定(表1)による腐朽被害度と対応する接合耐力を図2に示します。被害度が大きいほど耐力が低下すると言えますが,処理期間別に見ればこちらも腐朽度は大きくばらついています。

図1 処理別の強度とその平均値
図2 被害度と接合耐力の関係(被害度は中間的な状態を設定して11段階評価とした)


 このように,強制腐朽処理期間と実際の経過年数との関係を一概に判断することができないのですが,強制腐朽処理は任意の被害度を比較的短期間でサンプリングすることができる利点があります。したがって,このデータを実際の屋外における被害度と経過年数の関係と照らし合わせることで,強度を根拠とした耐用年数を表現できる設計手法が確立できると考えています。


 おわりに


 構造計算を伴う構造物の耐用年数に,目視による被害度判定によって設定された木材の耐用年数をそのまま引用することは適切とは言えませんが,これ以外に耐用年数を表現できるものはこれまでありませんでした。しかし,今回の防雪柵接合部の例のように,強制腐朽処理を用いることで強度的に耐用年数を説明できる道筋が見えてきました。引き続き様々な設置環境における被害度と経過年数の関係を得るとともに,様々な強制腐朽接合部のデータを蓄積し,最終的には個別の強制腐朽処理を伴わなくとも,実状に近い耐用年数が設定できる設計手法として完成させたいと思います。


 参考資料


1) 北海道水産林務部林務局:土木用木材・木製品設計マニュアル
  http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/rrm/t-manual.htm
2) 松岡昭四郎ほか5名:林業試験場研究報告, No.232,109-153(1970)
3) 日本木材保存協会:木材保存学入門改訂版,1998 ,p80
4) 森 満範:「耐朽性を考慮した木製土木構造物の設計について」林産試だより2004年12月号



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