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卵形アラカルト

技術部 機械科 橋本 裕之



 1.はじめに


 卵形は自動車や携帯電話,スピーカー,パソコン用マウスなどの身近なデザインとして取り入れられています。木工クラフト品においても卵形にデザインされた置物やおもちゃがあり,卵形は普段の生活の中でよく目にするようになってきました。

 林産試験場においても近年,卵形の描き方についての問い合わせが多数寄せられるようになっており,関心の高さが伺えます。そこで卵形について調査してみましたのでここに紹介します。


 2.卵形の定義


 一般的に卵形とは楕(だ)円に近い形であり両端の丸味が異なる形を指しますが,厳密な定義はありません。生物が産み落とした卵の形が卵形ということでもあります。代表的な形はニワトリやウズラの卵ですが一つ一つわずかに形が異なります。


 3.三円法




図1 三円法による描き方


 図1に定規とコンパスだけで描くことができる江戸時代から伝わる伝統の描き方1)を示します。まず,X-Y平面において,(1)原点Oを中心にOAを半径とする円を描きます(第1円と呼ぶ)。(2)線分ABを半径とする円弧を,点Bを中心に点Aから線分BCの延長上にある点Eまで描きます(第2円弧と呼ぶ)。(3)線分CEを半径とする円弧を点Cを中心に点Fまで描きます(第3円弧と呼ぶ)。これで上半分が描けます。同様の描画をX軸に対称に行うと全体を描くことができます。

 形を修正したい場合は,第2円弧を描く際の点Bを移動させることで可能です。例えば,点Bを通り線分CDに平行な線上の点B’に移動させた場合,(1)原点Oを通る線分A’B’を半径とし点B’を中心として円弧A’E’を描きます。(2)点Cを中心とし半径CE’の円弧をF’まで描きます。図2が本方法で描いた卵形です。点BをX軸に平行な直線上を右に移動させるか左に移動させるかで形の変わり方が異なります。例えば点B’のように点Bより左側に移動させると長い形になりますし,点B’’のように右側に移動させると短くなります。もしくは,点Bを線分ABの延長上に移動させても形を変化させることができます。



図2 三円法における作図例


 この作図方法の長所は,コンパスと定規だけで作図できるところにあります。しかし,サイズは第1円だけで決まり,形状は点Bの位置だけで決まるので,自由なデザインを行えない短所があります。


 4.カッシーニの卵形


 次は,フランスの天文学者カッシーニ(Cassini)が考案した数式を紹介します。カッシーニは太陽と地球の距離を測定したことで有名ですが,何と言っても土星のリングに隙間があることを発見したことで有名です。また,「カッシーニ」はNASA(アメリカ航空宇宙局)から打ち上げられた土星探査機の名前の由来にもなっています。式1は,カッシーニが天文学の研究中に考案した方程式で,現在では卵形に応用されています。この方程式は,2つの焦点(C,0),(-C,0)からの距離の積が一定値Aとなる曲線として求められました。

   (X2+Y2)2-2C2(X2-Y2)=A4-C4            式12)

 定数A,Cを変化させることで卵形を変形させることができます。図3に作図例を示します。作図方法は式1を満足するXとYの値を求めるコンピュータプログラムを作成し,数値計算により行いました。



図3 カッシーニの卵形の例3)


 この方程式を用いる場合には,定数A,Cと形状との関係を感覚的につかむことが困難なため,試行錯誤を経ながら形状を決める必要があります。

 5.NURBSによる作図


 NURBSとはNon-Uniform Rational B-Splineの略で非一様有理Bスプラインといいます。これは多数の点の並びに対して曲線を滑らかに当てはめるときに使う数学的方法で,CG(Computer Graphics)やCAD(Computer Aided Design)など形のデザインの分野で用いられています。NURBSを用いると3個以上の点によって卵形を決めることができます。図4には3点の場合と4点の場合の卵形を示しています。形を定義するための点の数が多いほど微妙な変形ができます。また,この方法は点の位置をずらすだけで形を変化させることができるので,変形させたいイメージと点の操作とが一致しており,使いやすい方法です。



図4 NURBSによる作図例
3D-CADソフト「Rhinoceros」(Robert McNeel & Associates社製)にて作成



 6.木の卵




写真1 木の卵



 写真1は木製の卵形の一例です。形状は3次元CADを用いNURBSによる方法でデザインしました。加工は当場開発の「チップソーを用いたCNC木工旋盤」とCAM(Computer Aided Manufacturing)ソフトを用いました。




 7.おわりに


 以上,卵形の描き方をいくつか紹介しましたが,他にも方法が考えられます。例えば,楕円体に光を当てた時にできる陰を用いる方法や,実際に卵の輪郭を用いる方法などがあります。自分独自の方法を編み出すのも面白そうです。


 参考文献


 1)小代為重,“類聚(るいじゅう)幾何画法 2巻”,1886
 2)小倉金之介,矢野健太郎 “基礎数学ハンドブック”森北出版,1970



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