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 ●特集『平成20年 研究成果発表会』

木造住宅の腐朽診断

性能部主任研究員 森 満範

 研究の背景・目的

 住宅構造部材に生物劣化が生じると,新築時に確保した耐震安全性が著しく損なわれます。平成14年に制定された「既存住宅の住宅性能表示制度」では生物劣化に関する検査項目が追加されましたが,生物劣化の検査・診断は目視などの主観的評価に依存する部分が大きく,客観的で信頼性の高い評価手法の開発が求められています。

 本研究では,既存木造住宅の長寿命化・構造安全性の確保を図るために,客観的で信頼性の高い生物劣化診断技術の開発,および生物劣化を受けた既存住宅に残存する構造性能の推定手法の開発に取り組みました。


 研究の内容・成果

1.「分子生物学的手法による木材中の木材腐朽菌の検出・同定技術の確立」

 木材の腐朽は主に担子菌(キノコ,以下木材腐朽菌)によって引き起こされます。腐朽の兆候を目視で判定するのは困難ですが,この木材腐朽菌の有無を検知できれば,腐朽の拡大を未然に防ぐことができます。
 本研究では,分子生物学的手法を用いて木材腐朽菌の遺伝子(DNA)を検出し,種を同定する技術を確立しました(図1)。分離培養や観察などによる従来の検出・同定法に比べて,短時間で精度の高い結果が得られるようになりました。


図1 増幅したDNAの電気泳動像
a~e: 各木材腐朽菌の標準株試料
1, 2: 現場から採取した試料
 各試料を抽出して得られたDNAをゲル(寒天など)にセット(アプライ)して電気泳動を行うと,それぞれ異なった位置でバンド(スポット)が観察されます。これは,分子量の大きさによって各DNAの移動距離が異なるためです。この場合,試料「1」が木材腐朽菌「e」と判定でき,資料「2」にはa~eの木材腐朽菌はいないと判断できます。

2. 「非破壊的手法を用いた,木材の劣化程度の把握と残存強度の推定」

 生物劣化による木材の強度低下を目視で把握することは難しく,居住している住宅に対して破壊を伴うような検査方法も採用できません。そのため,非破壊で信頼性の高い検査手法が求められています。本研究では,衝撃ピン打ち込み(ピロディン)や打撃音といった非破壊的手法によって得られた値と強度の関係を明らかにし(図2),幾つかの腐朽レベルにおける耐力壁の残存耐力の推定方法(計算例)を提示しました(表)。


図2 トドマツにおけるピロディン打ち込み深さと釘せん断耐力との関係
両者の間に比較的高い相関が見られ,ピロディン打ち込み深さ
によって強度の推定が可能であることがわかりました。


表 幾つかの腐朽レベルにおける耐力壁の残存耐力の推定
腐朽レベル 0:健全,1:土台の釘強度が50%,2:土台の釘強度がゼロ,3:壁の下部30cm部分の釘強度がゼロ


今後の展開

 本研究で得られた成果は,(社)日本木材保存協会発行「住宅の腐朽・虫害の診断マニュアル」や林産試WEB等への掲載,技術紹介のためのパンフレット・リーフレット等の作成,講習会等により普及を図るとともに,木造住宅の維持管理方法,メンテナンスに優れた材料開発等の研究へ展開を図ります。

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