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研究ニーズの多様化に応えて



 世界では木材需給がひっぱく状態,原木の争奪戦が行われています。北海道の林産業にも「道産材だけでやりくりする時代」がせまっていると言えそうです。限られた北海道の森林・木材資源,付加価値をなん重にも付けて利用するところに林産業振興のカギがありそうです。林産試験場の使命はこれまで以上に大きなものになります。どうぞ,お役立てください。


試験研究のコーディネーターを目指して

企画指導部長 飛岡佳典

 平成20年度の機構改革により,この4月から企画指導部に新たに研究支援係が設置され,普及課は2係から3係になりました。これまで技能員が担ってきた業務が民間に委託され,高度な技術・知識をもつ11名の技師が,研究部の要請に応じて林産試験場の試験研究業務の支援や依頼試験に携わることになりました。
 平成の林産技術者集団の誕生ですが,気持ちも新たに外部からの依頼試験や企業への技術指導にも積極的に対応することとしています。

 試験研究を進める上で,これまで拠り所(よりどころ)としてきた道費の試験研究予算が年々削減され,積極的に競争的外部資金を獲得しなければならない状況が続いています。このことは,外部機関に対し研究目的や成果等を分かりやすく説明し,研究課題ごとに迅速かつ的確に研究業務を遂行することが条件となります。企業等との共同研究についても,常に費用対効果を意識する中で,研究そのものの必要性や成果の活用を議論し,道民理解の得られる試験研究を進めなければなりません。
 限られた予算で,最大の効果・成果を発揮する試験機関であることを信条に,全国一の規模を誇る木材関連の試験研究機関にふさわしい試験研究を行うためには,研究部門と行政・民間企業等との双方向の情報交換により研究ニーズをつかむ必要があると思います。

 企画指導部に配置されている「経営科」と「デザイン科」の研究2科は,林産試験場が取り組む試験研究課題の中で流通・コスト・意匠性等について試験研究の立ち上げから成果に至るまでを関連づけ,より汎用性のある技術や製品開発に結びつけています。

 経営科は木材産業の経営改善を図るため,企業が抱える生産工程での技術的課題や市場性などを分析し指導に当たるとともに,低コスト化や効率的な生産システムの設計書を示し,企業との信頼関係を高めていくことが求められています。
 さらに新設の研究支援係の持つ技術・機動力を駆使すれば,より現実的な対応が可能となります。

 また,地球温暖化防止など環境問題が大きく取り上げられる昨今,資源が充実してきたカラマツ・トドマツ人工林材に付加価値をつけ,最後まで大切に使うことが環境への配慮につながることを道民に知ってもらうことが大切です。こうしたことから,環境負荷の少ない林業経営や木材加工技術の検討の一つとして,LCA(ライフサイクルアセスメント)の手法を用いて環境負荷を数値で評価する方法を引き続き検討していく考えでいます。

 デザイン科は木材の持つ素材の美しさや加工性を活かし,北海道の気候風土・消費者ニーズにかなったインテリア・エクステリア製品のデザイン,技術開発を進めています。道民が満足する成果を得るためには様々な検討・調整が必要であり,幾たびか試作を重ね意匠や機能性等を改善する場面では,研究支援係の力の発揮するところだと思います。

 こうした企画指導部の研究業務を機織(はたおり)に例えるならば,研究各部が実施する調査・試験研究などの縦糸に対し,横糸としての市場性やコストの検討・評価,デザイン化など連携・調整・コーディネート的業務を横断的に効率よく行い,見事な織物(研究成果)に仕上げることだと思います。
 そのためにも経営科の理念やデザイン科の発想をフレキシブルで即効性のあるものとし,場内各部と連携・協調体制を整えながら効果的な試験研究に取り組み,道内の木材産業の振興に寄与していきたいと考えております。

 ちなみに当場の研究成果を発信しているホームページには,年間8万件を超えるアクセス件数があり,文字どおり林産試験場の顔として機能しています。このことは,林産試験場がどのようなスタンス・体制で試験研究に当たっているのか,多数の企業等が研究動向を注視している事実に他なりません。

 常に存在感があり信頼に足る試験研究機関を目指した試験研究を展開するためには,林産試験場の進むべき方向・方針に即した柱に基づき,研究課題を大胆に取捨選択する勇気が必要です。そして,早い時期から明確な経営意識と研究目的を持ち,平成22年度にスタートする独立行政法人化に臨まなければならないと思います。



北海道の中小企業の研究・開発部門として

性能部長 石井 誠

 どんな部?

 性能部には5つの研究科があり,主として住宅に使用される建材の性能評価や性能向上,また住環境の改善方法の検討や心理評価などの研究をしています。
(各科の詳細は,林産試験場ホームページ 組織紹介をご覧下さい。)


 何をしている部?

○木質建材の利点を生かして,高齢化社会に対応した様式の提案や省エネルギー化
○新たな分野で木製品を使用するための技術開発
○学校や住宅内の室内空気質を改善し,快適で健康的な住環境空間を創出する提案
○形として見えませんが快適感や満足感,作業性などに影響を与えると思われる建材の心理的評価
○地震に備えて十分高い耐力を有する木構造の開発
○防耐火性能を付与することで,木構造や木製外装材を使うことができる地域を拡大する試み
など幅広い研究を行っています。


 中小企業に頼られる性能部として!

 北海道の木材関連企業は中小企業が多く,独自に研究開発を行う部署を持っている会社はほとんどありません。しかし,新たな製品開発をしないと生き残っていけないということもあり,企業が持っているアイデアを商品化することが必要です。そこで,性能部ではこれらの企業と一緒に,またこれらの企業に代わって新たな製品開発を行っています。

 そのために,比較的取扱いが簡易な性能試験装置の活用や結果が短期間でわかる評価方法の開発などを行い,簡単でスピーディにかつ十分な性能付与をする研究・開発を行っています。新たな製品開発を行う際には,お気軽にご相談下さい。

       
左:実大試験による性能評価(落とし込み壁のせん断試験) 中央:繰り返し試験による性能向上(小型耐火炉を用いた木質材の防耐火性能試験) 右:性能評価の迅速化(防腐性能試験)


     
左:新素材の開発(光触媒の空気浄化性能の評価)  右:新しい住様式の提案(木製サンルームの開発)



環境低負荷技術を目指して

利用部長 菊地伸一


 木質バイオマスの利用

 来月(平成20年7月)の7日から9日にかけて,地球環境・気候変動を主題とする北海道洞爺湖サミットが開催されます。そこでは,温室効果ガスの排出量削減など森林バイオマスの利用と密接に関わる話題が取り上げられることでしょう。バイオマスの利用は日本の重要な国家目標であり,北海道においても3月に見直された「森林づくり基本計画」の柱の一つともなっています。

 これまで利用部では,「森林バイオマス」,「リサイクル」,「新機能付与」をキーワードとした研究を進めており,この数年は特に下記の3テーマを重点的に取り組んできました。

○良質な木材生産に向けた材質向上に関する研究
○木質バイオマスの有効利用に向けた物理的・化学的 処理技術の開発
○木質バイオマスの熱利用・エネルギー利用に関する研究

 例えば,平成19年度にはタイトルにバイオマスを冠した5件の研究課題に取り組み,平成20年度には木材の化学的な処理によって保水性や通気性に優れた育苗培土に変換する技術の開発や,現在8市町村で稼働する木質ペレット生産施設に関連する研究を始めます。

 また,木質バイオマスには製材工場等の残材,林地の残材等があります。このうち,工場残材は95%がすでに何らかのかたちで利用されており,今後の利用可能ポテンシャルは高くありません。
 これに対し,山林の樹木を伐採して丸太を収穫したときに残される枝条など林地残材の利用率は数%にとどまり,潜在的な利用可能量は330万トンと推定されているものの,それを実現するには収集・運搬の技術改良やシステムの整備に取り組まねばなりません。

 さて,直近の研究内容は以上のようなものですが,視線を10年,いえ20年先に向けてみましょう。そこには,現在とは大きく異なる産業社会が見えてきます。


 バイオリファイナリーとは

 『バイオリファイナリー』。初めて目にする方が多いでしょう。リファイナリー(refinery)とは石油などの精製所や精製装置を意味する言葉で,石油燃料や石油化学工業の原料を得るオイルリファイナリー(oil refinery)などと使われます。

 バイオリファイナリーとは,石油の代わりにバイオマスを出発原料として燃料油や合成化学物質に変換する仕組みのことです。
 バイオリファイナリーを初めて提唱した米国では,2020年までに有機材料原料,液体燃料のそれぞれ10%をバイオマス由来の製造品に代替することが計画されています。このような技術開発が進められている背景には,言うまでもなく地球温暖化対策としての化石燃料の削減要請があります。

 バイオリファイナリーの身近な例としてはバイオエタノールがあります。バイオエタノールはブラジルと米国での生産が盛んで,2005年時点でそれぞれ1,670万kL,1,500万kL生産されています。しかし,エタノールのような燃料の生産はバイオリファイナリーが意味するところの一部にしかすぎません。

 現行の石油化学工業(オイルリファイナリー)は,原油からガソリンや灯油などの燃料を分離し,次いでナフサを合成化学工業の基幹物質であるエチレンに変換しています。
 これに対し,バイオリファイナリーでは,樹木から保水性に富むアラビノガラクタンや機能性素材としての可能性を持つ糖脂質などを抽出し,次いで抽出後の木材を化学合成のスタートとなる基幹物質に変換します。また,木材を加熱することによっても基幹物質に変換することができます。

 これらバイオリファイナリーのベースとなるいくつかの要素技術を林産試験場は持っていますが,道内外の組織と連携しつつ,さらに発展・体系化させることが必要だと考えています。


 おわりに

 世界的な二酸化炭素の排出権取引が始まっています。今や,二酸化炭素を発生させることは大きなコストを伴う時代に入っています。逆に言えば,二酸化炭素を削減することで価値が得られる,俗に言えば儲かる時代なのです。

 そんな社会の中で,木材の広義の化学変換技術に取り組むことが利用部のミッションだと考えています。



住宅建築における道産木材の利用拡大を目指して

技術部長 金森勝義

 はじめに

 平成18年度の道産木材供給率(道内の木材総供給量に占める道産木材の割合)は約17年振りに50%台を回復しました。しかし,木材の総需要量は減少傾向で推移し,道産木材の利用量もさほど伸びていません。このため,道水産林務部では地域で生産された木材・木製品を同じ地域で有効に利用する「地材地消」を推進しています。

 北海道洞爺湖サミットでは環境を最大のテーマにしていますが,国土交通省では環境に関連した住宅づくりとして「200年住宅新法(長期優良住宅の普及の促進に関する法律案)」の年内施行を検討しています。
 これからの日本の住宅は「つくっては壊す」量の確保から,「いいものをつくって,きちんと手入れをし,長く大切に使う」質の向上を目指すことで,新築・改築時の産業廃棄物の削減や建築時におけるCO2排出の抑制にも大きく寄与することが求められています。

 技術部では,道産木材をもっと有効利用していただくための試験研究を行っていくことが,健全な森林を育成し,そこから生産される木材の跡地を再度植林していく循環利用の確立につながると考えています。

 そこで本文では,技術部がどのような理由で,住宅建築に道産木材の利用拡大を目指しているのか,その背景について簡単に説明します。


 製材用材(製材に用いる丸太)の8割が建築用

 わが国では製材用材の8割が建築用であり,その9割は柱,はり,筋かいなどを軸組とする在来工法住宅に使われています。
 そして,平成18年に閣議決定された「森林・林業基本計画」では,国産木材のシェア拡大のための指標に,在来工法住宅における国産木材の使用割合を用いることとし,平成17年度の約3割を10年後には約6割にすることを目標としています。
 北海道ではカラマツが梱包材,仕組材及びパレット材などの輸送資材として大量に出荷されていることから,製材用材に占める建築用の割合は5割弱と思われます。


 構造材にもっと道産木材を

 林野庁では,平成17年度における全国の在来工法住宅の木材利用量(丸太換算)を2,300万m3と試算しています。
 全体に占める製材,集成材及び合板の材料別内訳と,各材料における国産木材と外国産木材の割合をに示します。材料別内訳では大まかに製材70%,集成材20%,合板10%となっています。また,総計に占める国産木材の割合は約3割にすぎません。
 戦後植林してきた人工林資源は北海道でも成熟し続けていることから,今後供給量の増大が予想される中・大径材を柱,土台,はりなどの構造材として利用するための技術開発は当面の重要な課題となっています。


材料別木材使用量及び国産・外国産木材の割合
注)「木材をめぐる現状(H19.7林野庁)」の35頁に掲載されている表の中の数値を用いて作図し,一部加筆したものです。

 おわりに

 技術部では,品質や性能の確かな構造材の安定供給を目指した製材や乾燥などに関する加工技術の開発・改良とともに,集成材,合板及びボード類などに関する試験研究にも積極的に取り組んでいきます。



きのこ研究の目指す方向

きのこ部長 栗原節夫


 きのこ生産を取りまく状況

 平成18年の北海道におけるきのこ生産額は93億円と,このところ10年ほど前の約100億円に到達しない状況が続いています。施設規模の拡大および生産性の向上により,生産量が増加したものの,需要や販売額は伸び悩んでいます。
 また,最近では原油価格の高騰や原材料費の上昇により,生産者の経営を取り巻く状況は厳しさを増しています。

 一方,食に対する信頼性の観点から,安全・安心なきのこの供給が強く求められており,国産・道産きのこの生産・販売に有利な状況が生まれています。
 また,医療費の負担軽減やメタボリックシンドロームの改善・予防等に目が向けられる中,きのこの健康機能が注目されています。
 さらには,白色腐朽菌(きのこ)のもつリグニンの選択的分解等の木質成分変換機能が,安全・無害に有用素材を作出する技術の開発につながるものとして環境・エネルギー分野で注目されています。

 このような現状を踏まえて,以下の研究を発展させていきたいと考えています。


 きのこの機能性に着目する

 栽培および加工技術の改良と成分育種により,食味を向上させ,健康機能を高めたきのこを作出する。これにより,製品の付加価値が向上し需要を喚起できるものと期待されます。

きのこを原料とした機能性食品と化粧品

 新しい作目および品種を開発する

 既存の品目とは明らかに異なり,おいしく製品価値の高い菌根菌等の新作目に着目し,栽培技術および新品種の開発に取り組みます。これにより,需要の開拓と市場の活性化が期待されます。

新作目の一例

 きのこの生物機能を利用する

 きのこが持っている木質成分の変換機能を活用し,有用成分を生産するバイオプロセス開発に取り組みます。これにより,機能性食品の分野のほか,環境保全分野へも貢献ができるものと期待されます。


 おわりに

 今後も,生産現場の切実な課題を克服すべく,生産性の向上および生産コストの低減を目指した,継続した取り組みが必要であると考えています。

 一方で,きのこは生鮮食品としてのみならず加工および機能性食品として,価値が高まりつつあります。きのこ部では,製品の付加価値向上を目指した取り組みを行うために,食品関連の企業や研究機関と連携強化を更に図っていきます。

 また,上記に加えて,近い将来を見据え,他機関と連携しながら,環境に優しい生物機能を生かした物質変換技術の開発を進めたいと考えています。

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